ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~ 作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン
「……そういう事だったのね。中将はすべてを知っていて、その上で……」
今なら、ドゥーリットルがマニュアルやテクノロジーにこだわっていた理由に納得がいく。誰よりも人間を理解していながら、先を見据えて非人間的に徹する――彼女は一体、どんな気持ちで司令室に立っていたのか。
並大抵の覚悟で出来る事ではないだろう。
「“ウィッチとしてではなく、『人類』としてネウロイに勝利してください”――、か」
作戦終了後、ドゥーリットルが全員に向けて言った言葉……その一言にはきっと、彼女の全てが込められている。ジェニファー・ドゥーリットルという人間の想いと、その人生の全てが……。
しばらく、二人とも無言だった。ややあって、ミーナがぽつりと呟く。
「長い道のりになるわね……少なくとも数年、いや数十年かかるかもしれない」
「たった数年か数十年だろ? そんなの、人の人生に比べれりゃ短いもんだ」
長い、長い戦争になる。
だが、決して長く苦しい撤退戦から逃げる事は許されない。人類の英知を結集し、苦い実戦から学んだ経験を余すことなく全て後世に伝える。
それこそが――
(この戦いを生き延びた、私たちの使命であるはず……)
心の中で、ミーナはぽつりと呟く。
強く、強く。
誰に強制されるでもなく、そう思うのだ。
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1か月後、連合軍総司令部は「無限の正義」作戦の失敗を公式に認めた。失敗の原因は機材トラブルとリべリオン軍上層部の過度な作戦介入とされ、指揮系統の見直しが図られた。
連合軍司令官ジェニファー・ドゥーリットル中将は全ての責任を取る形で解任され、後任の司令官にはアドルフィーネ・ガランド少将が着任する事になる。
同時にリべリオンが極秘開発していた、『インディペンデント』の真実も白日の下に晒された。爆発の際に大量の“瘴気”を撒き散らすという副作用が知れ渡り、騙されていたと知った欧州諸国は激怒。リべリオン政府は釈明を求められることとなった。
しかし大統領命令で投下指令を出していた事実を認めるわけにはいかない。リべリオンは芝居をうち、人身御供が用意された。
その生贄の名は、ジェニファー・ドゥーリットル。
失敗に終わった『無限の正義(インフィニット・ジャスティス)』作戦の責任者。人類史上最強の戦力を有していながら、無様に敗北した無能な司令官……正にうってつけの人物だった。
――新型爆弾の投下は、功を焦ったドゥーリットル中将の独断によるもの。リべリオン政府は一切関与していない。
それが政府の望んだシナリオだった。
自身に課せられた最後の任務を、ドゥーリットルは最後まで完璧に遂行した。全世界に向けて公開された裁判で、彼女は無能な愚将を演じきってみせた。
リべリオン政府の潔白は証明され、人類が分裂するという危機は避けられる。
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そして作戦の評価とは別に、もう一つの結論が出た。再発足した連合軍総司令部で開かれた指揮官会議の席で、連合軍最高司令官・アイゼンハワー元帥は次のような声明を読み上げた。
「我々は二度とこのような悲劇を繰り返さないために、瘴気を伴う大量破壊兵器の使用と研究・開発を強く制限する」
その意味するところは明白であった。ネウロイ技術を使った兵器は禁じられなければならない。
「されど、同時にこのような大損害を防ぐべく、現行の組織・運用体制を見直すべきである。」
この決定により、ウィッチ偏重の現行システムの見直しが図られた。ないがしろにされがちだった教育は充実していき、各国が連携できるよう情報共有ネットワークが構築される。
『無限の正義』作戦は最後の最後で失敗したが、その苦い経験は人類が自らを見直す契機となった。そして図らずも新しく生まれ変わった連合軍の形は、ドゥーリットルが提唱したシステムと酷似していた。
それから半年後、第8航空軍は再びカールスラントの空へと戻ってきた。しかし、今度はバラバラの軍隊ではない。かつてドゥーリットルが育てた、次世代のウィッチたちが護衛する―――本当の意味での『連合軍』だった。
失われたものは大きいけど、同時に得たものもある、みたいな。
あんまりハッピーとは言えないエンドですが、今作はこれで完結とさせていただきます。
最後に、ここまで読んでくださった読者の皆様に感謝いたします。
つたないストーリーと文章でしたが、こうして最後まで走り切ることができたのは、ひとえに読者の皆様に応援していただいたおかげです。
本当にありがとうございました。