ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.32:消えたドリームチーム

 

 ――洋上・空母ホーネットにて。

 

 

 次第に見えなくなっていく水平線を眺めながら、ミーナとシャーリーは甲板に佇んでいた。沈みゆく夕日を見ながら、今回の一件に思いを馳せる。

 

「あの……ひとつ聞いてもいいかしら?」

 

 最初に口火を切ったのはミーナの方からだった。

 

「何だい?」

 

「その、シャーリーさんはドゥーリットル中将と……」

 

 ミーナの問いに、シャーリーは「昔の、そして今も友達だよ」と答えた。

 

 

 

 ――撤退完了後、ドゥーリットルはすぐにリべリオンに召喚された。作戦失敗の責任を取るため、軍法会議に向かうのだという。「新型爆弾」事件の責任を彼女に擦り付けようという上層部の思惑もあるらしい。

 

 

 

 憲兵に連行されるドゥーリットルを、シャーリーは必死に引き留めようとした。

 

 

 だが、ドゥーリットルは法を破る事を望まなかった。

 

 

「今回の件はすべて、司令官である私が最終的に許可を出しています。ですから、失敗の責任は私がとらなければなりません」

 

「いいのか……それで?」

 

「そりゃあ、行きたくはないですけど。誰かが責任とらなきゃ、世間は納得しません」

 

 あっけらかんと言うドゥーリットルだが、少なくとも解任と予備役編入は免れないはず。場合によっては不名誉除隊すらあり得る。彼女は遠くない内に、築き上げてきた輝かしいキャリアの全てを失うのだ。

 

 あるいは、いつか『インディペンデント』の真実が知れ渡った時、人身御供とするつもりなのだろう。国家の代わりに全ての責任を被り、戦争犯罪人として処罰されるかもしれない。

 

 

「そんな心配そうな顔しないでください。大丈夫ですよ、優秀な弁護士を雇うつもりなので」

 

 

 結局、シャーリーの努力もむなしく、ドゥーリットルはリべリオン行きの飛行機に乗せられた。去り際、少しだけ淋しそうに微笑んでいたのが忘れられない。

 

 

 

 

「昔のジェニーは、もっと柔らかい感じだったんだ。そう……今のミーナに似てるかも」

 

 

 遠い過去を懐かしむように、シャーリーは宙を見つめる。

 

「士官学校次席のエリートのくせに、赴任早々“軍隊は家族だ”とか恥ずかしいセリフを真顔で言ってきて……いつも現場の事を気にかけててくれる、皆に慕われるタイプのリーダーだった」

 

 意外だった。トップダウン型のリーダーの典型のような、今のドゥーリットルからは想像もつかない。

 

「持論が“マニュアルより経験”でさ、よく新兵と一緒に訓練したり、整備兵なんかとも飯食ってたりしたなぁ……」

 

 

 だからこそ、なのだろう。あそこまで彼女が現場を熟知していたのは。

 

 

 それだけに、やはり腑に落ちない。

 

 

 あの時のドゥーリットルの指揮は文句のつけようがない。即断即決、独断専行を重視するカールスラントの指揮官にも劣らない、臨機応変で機敏な対応だった。それほどの実力があるのなら、初歩的なマニュアルや教条的なドクトリンなど必要ないはず。

 

 

「……そういえば、まだ約束の話をしてなかったな」

 

 

 

 ――あいつさ、一度それで部隊を潰しちゃっているんだ

 

 

 シャーリーが語った意味深長な台詞。それに込められた意味を、彼女はぽつぽつと語り始めた。 

 

 

「そう、あれはあたしが一時的に、別の部隊に転属してる時期だった」

 

 

 遠い記憶を思い返しているようなシャーリーの声には、どこか寂しげな響きがある。

 

「あの時のリべリオンのウィッチはまだ実験部隊のような扱いでさ、いろいろな実権任務や新兵器の試験運用といった任務が多かったんだ。ジェニーは士官学校を次席で卒業したから、上司も期待していろんな任務を与えている感じだった」

 

 窓の外に目を向けたシャーリーの表情が、僅かに歪む。

 

「ジェニーはよく言ってたよ、“士官学校で学んだ知識を生かせるのが楽しくてしょうがない”って」

 

 私はともかく、とシャーリーは続ける。

 

 他のウィッチたちもみんな責任感と熱意のある、意識の高いウィッチだったらしい。

 

 猛訓練にも嫌な顔一つせず、無茶な出撃シフトを組んでも皆で励まし合って乗り越える。

 空いた時間には自習をして、覚えたテクニックはすぐに試して、どんなに大変な命令でも引き受けていた。

 

「負担は二の次、苦労は三の次、とりあえず成果が第一ってね。そうやって、どんどん任務を拡大していった結果――」

 

 ぎりっとシャーリーが歯を噛む音がした。

 

 

「あたし達は、期待以上の大戦果をあげた」

 

 

 見返りに待っていたのは、ベテランのウィッチですら驚くほどの大金星。一人で何十ものネウロイを撃墜し、作戦は常にパーフェクト。

 

 

「何十ものネウロイを迎撃してたよ、ジェニーの部隊は。ウィッチに頼めば大抵のことは何とかなる、そんな噂も陸軍内部で広がっていたし。参謀部も“ウィッチ隊が担当するなら”って評価されて……余計に断り辛くなってたのかも」

 

 だが、その裏では別の症状が進行していた。誰にも気づかれる事なく、それは静かにドゥーリットルの部隊を蝕んでいった……。

 

「ジェニーは優秀だったし、育て方も上手かったから部下もぐんぐん成長して最高のチームだったと思う。だから、みんなジェニー達に“甘え”ていくようになった」

 

 優秀な人ほど仕事が増えていく……もちろん人には向き不向きもあるし得意不得意もあるから、仕事の出来る人間に多くの仕事を割り振った方が効率は良くなる。

 

「山ほどの任務をこなして、3交代で24時間フル稼働で働き続けて。それから……」

 

 シャーリーが桜色の唇を噛む。

 

 

 

「――破綻したんだ」

 

            




 優秀な人間に頼り過ぎると、その人がいなくなると残された人が何もできなくなるという、職場や部活あるある。

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