ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.31:たった一人の軍隊

 

 戦力集中と機動的運用……それこそが戦場における用兵の神髄である、と昔のドゥーリットルは信じていた。

 

 今、封印していたのその技術が正確無比に復活している。

 

 ネウロイの反応より速く、ドゥーリットルは矢継ぎ早に指示を出して先手を打っていく。機動力をいかして戦力を集中し、強烈な一撃を与えたのちに素早く離脱する。

 

 もちろん離脱していくウィッチたちに、速度の素早いネウロイが食らいつくこともあった。人類にならって、ネウロイもまた適材適所とばかりに豊富な種類を用意していた。

 

 だが、運用においては未だ素人である。

 

 高速ネウロイの一団は猪突し、他のネウロイから切り離された。ドゥーリットルがそうなるように誘導したのである。味方と離れて孤立したネウロイをミーナ達歴戦の指揮官が見逃すはずもなく、ネウロイは一斉射撃を受けてオレンジ色の火玉となって四散した。

 

 

 同時に高速ネウロイの突進によって空いた穴には、ただちにドゥーリットルが別のオラーシャ軍部隊を突入させていた。

 

 オラーシャの部隊は練度を補うために必ず三人一組で敵に襲い掛かり、短時間のうちに数体のネウロイを撃破した。巣が対策をとって増援を送った時には、既に離脱していた。

 

「なんだか、楽に倒せ過ぎて逆に怖くなってくるわね……」

 

 そしてそれ以上にミーナやラルたち指揮官クラスを戦慄させたのは、ここまでの指揮が出来るにもかかわらずドゥーリットルが今までそれを「邪道」とみなして過信しなかった事だ。

 

 本来であれば寡兵が大軍を打ち破ることは、邪道が正道を押しのける事である。501JFWや502JFWの超人的な活躍があまりに象徴的であっただけに、本来「窮鼠猫を噛む」であったものが美化され、賞賛されている。

 

 

 しかしドゥーリットルは緻密だがあくまで正統派の用兵家であり、非常識な奇策を弄して勝利をすることを良しとしない慎重さがあった。

 

 

 ――もっとも、ひとつひとつの指示を見ればどれも教科書通りの定石である。しかしその組み合わせて運用に関しては、洗練のレベルがまったく違った。

 

 

 全体の不利は、おどろくべき「戦力集中と機動的運用」の徹底によって完全に覆されていた。ドゥーリットルはネウロイに反撃のチャンスを与えず、逆転の勝機を次々にもぎ取っていく。

 

 まるでチェスの試合のように、彼女は持てる兵力を要所要所に必要なタイミングで投入していく。

 

 ただ、チェスと違ってネウロイには思考したり、反撃態勢をとる時間が与えられなかった。ドゥーリットルの仕掛けた動きに対応するだけで精一杯であり、ネウロイが本来もつ大出力のレーザーも大幅に威力を減衰させていた。

 

 

「――501JFW、出番です……! 坂本少佐!」

 

 満を持して、ドゥーリットルは最強の攻撃力を誇る坂本少佐と501JFWをぶつけた。

 

「本当に、いいように使ってくれる!」

 

 圧倒的な戦果を挙げる反面、ドゥーリットルの指揮下で戦うのは想像以上に大変だった。なまじコンディション管理がしっかりしているものだから、ひたすら戦い続ける事になる。

 

 それでも、こんなにも戦闘がやりやすいと感じたのは―――初めてだったかもしれなかった。群がるネウロイを倒していくのが、普段の幾倍も楽なのだ。

 

 いてほしい、と思った場所に必ず味方が現れる。とっさのフォローは、まるではじめからそうなると解っていたかのようだ。

 

 並みの指揮官なら部隊をとっくに使い潰しているような連戦を何度も続けているのに、自分でもどこにこんな体力と気力が残っていたのかと驚くほど体が動く。

 

(これは………!)

 

 脳内麻薬、あるいはランナーズ・ハイなどとして知られる現象だ。一定以上動き続けていると、徐々に脳から興奮作用をもたらす物質が分泌されていく。そのため次第に苦しさやつらさを感じなくなり、気分が高まっていく。

 

 ドゥーリットルは、戦術上の必要に応じて部隊を動かすだけでなく、個々の兵士の身体的負荷までを作戦の中に組みこんでいるのだ。

 

(そんな事ができる指揮官がいるのか……!)

 

 坂本美緒はその手腕を素直に称賛するとともに、背筋が凍るような戦慄をも覚えた。あそこまで完璧に兵士をコントロールしてしまえるのなら、もはや“彼女一人で十分”なのではないか、と。

 

 すべてをドゥーリットルに任せ、何も思考せずに言う事を聞いていればいい。否、多少の独断専行や命令違反ならば、ドゥーリットルがすぐにフォローしてくれる。

 

 ゆえに誰もが自由に行動できる。自由に動いていてすら、ドゥーリットルが全てを調整してくれるのだ。

 

(まずいな……これは)

 

 知らず知らずの内に、誰もが全てをドゥーリットル一人に委ねてしまっている。作戦や指揮だけでなく、自分のコンディション管理すらもだ。

 

 

 ――だが、それでも。

 

 

 勝っているのだ。勝てているのだ。

 

 

 それが大問題であると気づいた頃には、最後のネウロイのコアが502JFWによって破壊されていた。

 

 

 

 ―――そして。

 

 

 ドゥーリットルのいる司令室に、待望の報告が届けられる。

 

『――全部隊、撤退を完了いたしました! ネウロイの追撃はありません!』

 

 おお、と周囲からどよめきが漏れる。

 

 全滅は免れた。多くの資材を失ったが、経験とノウハウを積んだ兵士は何にも代えがたい。それらを無事に回収できれば、いつの日かまた反撃のチャンスを得られるだろう。 

       




 人をダメにするソファ……ならぬ指揮官ドゥーリットルさん

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