ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.24:24時間空爆

                

                               

 ――作戦計画は周到に練り上げられていた。

 

 

 1000機を超える爆撃機と、ほぼ同数の護衛戦闘機がたったひとつの目標を90分で集中爆撃するのだ。その記念すべき第一波は、1300機の重爆撃機と900機の戦闘機からなる大編隊。

 

 単に物量戦だとか圧倒的な兵力というだけでなかく、そこにはいかにも合理主義のリベリオンらしい冷徹な「作戦」がいくつも込められている。

 

 戦術的に重要な点は2つ。

 

 ひとつは飽和攻撃の基本的な考えで、短時間にこれだけの機数が単一目標に集中すれば、物理的にネウロイが迎撃できる数を超えてダメージが増大するということ。

 

 2つ目はやはりネウロイの迎撃の限界を超えた爆撃を行えば、それだけ味方の喪失も抑えられるということ。

 

 

 そして軍政――特に人事の面からも、大規模編隊による爆撃にはメリットがあった。

 

 

「リベリオン兵の大半は、戦時になって徴兵された素人です。そうなれば当然、命中率も低下しますし、航法ミスで目標に到達できない機体もあるでしょう」

 

 ドゥーリットルは笑顔の仮面を被って居並ぶ将官たちにそう力説する。

 

「ですが、1500tを超える爆弾を投下され、激しく炎上する目標に『薪』をくべるのは素人でも可能です。ましてや、2000機もの大編隊を見逃す者はいないでしょう」

 

 これがドゥーリットルの持論であり、まさに「素人の軍隊」であるリベリオン軍の強みと弱みを知り尽くした彼女ならではの最善策であった。

 

 

 ゆえに爆撃目標はたったのひとつ。飛行経路は航空群ごとに割り振られていたが、往復ともに一経路という単純なものであった。

 

 

 飛行序列も同様に各爆撃機が縦に連なるだけの単純なもので、先行する爆撃航空群を目視できる距離内で追随することになっている。

 

 

 

 もうひとつの工夫は、作戦においても縦割りトップダウン方式を徹底することだった。

 

 機長の独自裁量権を縮小することで、現場の判断ミスによるヒューマンエラーを可能な限り最小化する。クルーは決められた時間内に出撃し、定められたコースに沿って目標に向かい、予定通りの時間帯の中で爆弾を投下する。

 

 『24時間爆撃』と名付けられたこれを夜間に2回、昼間に3回行うことで、ネウロイの巣を徹底的に叩き潰すのだ。

 

 これは軍事的効果のみならず、国民への宣伝効果をも考慮した結果だ。

 

 国民が喜びそうな派手な作戦内容に、分かりやすいスローガン――民主主義国家リべリオンの軍隊では、スポンサーである国民に配慮することもまた、軍事的整合性と同じくらい重要なのである。

 

 

「では皆さん、約束通り欧州にあるネウロイの“巣”を全部燃やしに行きましょう」

 

 

 まさに人類の持つ空軍の総力を挙げた、前代未聞の爆撃計画である。それを聞いたパイロットおよび護衛のウィッチたちの表情は、十人十色だった。

 

 リべリオンやブリタニア、扶桑にヒスパニアといった「自国が戦場にならない」ウィッチたちの表情はおおむね明るい。

 どうせ今の欧州は無人なのだから、積極的に新型爆弾を投下して早急に戦争を終わらせるべき、との意見すら聞かれるほどだ。

 

 

 そして彼女たち以上に『インディペンデント』爆弾の投下を支持しているのは、皮肉なことにベルギカやガリアといったネウロイから解放されたばかりの国だった。

 せっかく解放した国土を二度と失いたくない……その気持ちは「手段を問わず早期終結を最優先すべき」という強硬論に傾けさせていた。

 

 長年前線でネウロイと戦ってきたロマーニャやヴェネツィアといった国もまた、早く国民をネウロイの脅威から解放してやりたい、という気持ちから推進派へと転じた。

 

 

 ――もちろん、不満が全く無かったわけではない。

 

 

 カールスラントやオストマルク、オラーシャといった「自国が戦場になる」ウィッチたちは微妙な表情だ。

 

 なにせ新型爆弾の威力は尋常ではない。投下された地域は数キロに渡って焼き尽くされ、巨大な荒れ地とクレーターが出来上がるのだ。自国が解放されるのは嬉しいが、故郷を自らの手で破壊するという行為にはやはり抵抗がある。

 

 

(とはいえ、他に代案がある訳でも無い……戦争が続けばもっと多くの犠牲が出るかもしれない)

 

 

 カールスラントの指揮官として会議に参加したミーナは、内心複雑な思いを抱きつつも新型爆弾のメリットを認めない訳にはいかなかった。

 

 

(あの爆弾は1発でウィッチ10人……いや、生産性の考えれば20人に相当するわね。ウィッチと違って訓練もいらないし、個人差もない。工業製品は人間と違って、常にスペック通りの性能を発揮できる)

 

 

 戦場からヒロイズムを取り除き、数字と技術に置き換える……ドゥーリットルの「コンバット・ボックス」にも通じるそれは、まさにリべリオンの合理精神そのものだ。

 

 

 それに何より、リべリオンは常に結果を出し続けてきた。実力と実績が伴っており、それは大きな説得力を持つ。

 

 最初こそドゥーリットルの無感情なやり方――ウィッチや兵士を機械の部品のように扱い、型にはまったマニュアル通りの動きを強制する――に反発していたウィッチも、確実に結果を出していく彼女を徐々にだが受け入れるようになっている。

 

 それはドゥーリットルの個人的な人格を信用したというより、彼女が叩き出した結果に対する信頼であった。

 

 

 ――もしかしたら。

 

 

 ――この指揮官なら、戦争を終わらせてくれるかもしれない。

 

 

 その期待に抗う事は誰にも出来なかった。多くの犠牲者を出した第一次ネウロイ大戦、そして39年に始まった第二次ネウロイ大戦……いつ終わるともしれぬ長い戦争に、誰もが疲れているのだ。

 

 それを終わらせてくれるなら悪魔にでも縋りたい、常に死地にいる軍人なら皆が持っている感情だ。

 

 

「我々が、この戦争を終わらせるんです」

 

 

 闘志を滾らせる者、蒼ざめる者、愕然とする者……そんな彼らの表情を見つめ、ドゥーリットルは気を引き締めるように訓示を行う。

 

「この作戦には、連合軍が欧州に保有するほぼ全ての航空機が参加します。それをベルリンの“巣”ただひとつに集中投入し、一撃で勝負を決めます」

 

 たしかにこれだけの戦力であれば、いかにネウロイの巣といえども大打撃を受けることは必至だった。うまくいけば、絨毯爆撃だけで殲滅できるかもしれない。

 

(大博打ね……だけど中途半端な戦力の逐次投入もまた、各個撃破を招く、か……)

 

 複雑な思いを抱きつつ、ミーナはドゥーリットルを見つめる。彼女の作戦は大胆だが、方針が間違っているとも思えない。

 

 幸いにも今のところ、作戦は順調である。ミーナたちは予備戦力として、待機が命じられている。そんな彼女には出来る事はと言えば、このまま何事も起こらなければ、と祈る事だけだった。

 

       





 この世界では原爆落とされてもいないし、どうせ自国は無傷な扶桑は大量破壊兵器推進派です。
 開戦1年目ぐらいならまだ余裕があるので人道的観点から反対もあるかもですが、5、6年も戦い続けてれば厭戦気分が蔓延して「さっさと終わらせたい」となるのが自然かなぁと(あくまで作者の考えです)。

 後はまだ“瘴気”の副作用をリべリオン側が隠ぺいしてる点も、推進派を増やす要因になっています。

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