ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~ 作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン
しばらく進んだ先にある港では、ミーナの考えを裏付けるように大量の巨大な鉄箱が地平を埋め尽くさんばかりに荷揚げされていた。埠頭に停泊するリベリオンのリバティ・シップからも、同じ形の鉄箱が次々に吐き出されている。
「ミーナ、あれは?」
エーリカが首をかしげる。当時の欧州では輸送の際、物を木箱に入れるのが普通であった。
「リべリオンでは『コンテナ』って言うらしいわね。リべリオン軍は最近、輸送品をあの鉄で出来た箱に変更したそうよ」
鋼鉄製コンテナのメリットは明白だ。規格化されたリ鋼鉄コンテナは、欧州で主流の木箱に比べると頑丈で積み下ろし時間も短い。
(流石はリべリオン、物量には自信があるという事かしら)
豊富な物量だけではなく、それを支える兵站システムもまた洗練されている。リべリオンは底なしの資源と生産力を持つだけでなく、それをどう使えば最大限に生かせるかも知っているようだ。
**
「――中佐。司令官が、事前打ち合わせ会議への出席をお望みになっています」
連合軍司令部から連絡があったのは、案内された待機所で昼食を済ませた後だった。佐官以上の者は集合せよ、との命令を受けてミーナは周りと別れた。
そのままリムジンに乗せられ、無数の格納庫を抜けて軍団司令部へ向かう。何重ものセキュリティチェックを潜り抜けると、目的地である連合軍ポーツマス司令部が目に入った。
「こちらです」
連絡将校に促され、高級ホテルを接収した司令部へと足を踏み入れるミーナ。早速、披露宴会場として使われるはずの大ホールを改造した、臨時作戦室へと通される。
「失礼します」
入室すると、まず中央に置かれた巨大な長テーブルが目に入った。軍用の簡素な合板ではなく、樫の木で作られた豪奢なものだ。
どうやら部屋の主は仕事一辺倒というより、趣味にも手を抜かないタイプのようだ。カーテンや椅子などもまた、実用性と見栄えの両方を兼ね備えた高級品。隅にはコーヒーミルとサイフォンが置かれ、各自が好きなようにコーヒーを飲むことができる。軍の作戦会議室というより、ちょっとしたサロンのような雰囲気だ。
(これだけの物資を運ぶのに、どれだけの労力がかかっているのかしら。調度品だけで輸送小隊が3つは必要そうに見えるけど……)
舌を巻くミーナ。なにせ金の使いっぷりが一桁も二桁も違う。前線ではたとえ軍団司令部とはいえ、無い無い尽くしは珍しくない。しかし此処では文字通り“何でも”そろっている。
早い話、コーヒー・バーにある豆は南アマゾネス直輸入品だし、カップも陶磁器で作られた逸品だ。先ほど案内してくれた士官の話によれば、食事も3回すべて高級レストラン並みだとか。
(ブリタニアにリベリオン、カールスラント、ガリア、ヴェネツィアにベルギカ王国からヘルウェティアまで……欧州の主要国が勢ぞろいってとこかしら)
規模な統合作戦だとは聞いていたが、単に物理的な規模が大きいだけでは無いらしい。世界の主要国を一度に集める、という事はそれだけで政治的に大きな意味を持つ。ましてや多国籍の軍による共同作戦ともなれば、様々な思惑が絡んでいる事だろう。
部屋の入口には、エイラの母国スオムスのウィッチ達がこじんまりと座っていた。優秀なウィッチを輩出したスオムスだが、その他の大国に押されて隅に追いやられている辺りに、小国の悲哀が漂う。
その隣にいるのが、ガリアとベルギカ王国のウィッチ達。両国ともにネウロイから解放されたばかりで、ペリーヌとリネットらが復興活動を続けている最中だ。
ミーナの祖国である帝政カールスラントからも、多数のウィッチ達が派遣されていた。見知った顔は無いかと探していると、すぐに仏頂面の容姿端麗なウィッチの姿が目に入る。
「――久しぶりね、ハンナ」
「ミーナか」
ハンナと呼ばれた少女は椅子にもたれたまま、横目でミーナを確認した。
ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉――帝政カールスラントが誇る撃墜王の一人で、アフリカ戦線を支えるエースパイロット。プライドが高く命令無視も多いが、超人的な射撃能力を持ち、「アフリカの星」として世界中にファンを持つ。
マルセイユはコーヒーを一口すすると、
「ロマーニャ以来か。501JFWは解散したと聞いていたけど?」
「ええ。今はベルギカ王国のサン・トロンに駐留させてもらってるわ。トゥルーデとエーリカも一緒よ」
2人の名前を聞いた瞬間、マルセイユの眉がピクリと動く。バルクホルンはかつての上司で犬猿の仲、エーリカは同期でライバル(マルセイユが一方的に、だが)だ。
「2人とも佐官じゃないから、先に宿舎の方に向かってるけれど……そういえば、貴女は?」
たしかマルセイユの階級は大尉だったはず。昇進したという話は聞いていない。首を傾げるミーナに、マルセイユは肩をすくめて返事をする。
「代理だよ。佐官クラスは出せないから頼む、ってロンメル将軍に泣きつかれて」
「ああ……そういうこと」
ただでさえ戦力が不足気味のアフリカで、これ以上人材を引き抜かれると流石に厳しいのだろう。特に指揮官クラスは貴重な上、下手に引き抜くと指揮系統が混乱してしまう。
また、「魔力のピークが10代」というウィッチ固有の事情もある。
幹部候補生としての士官教育を施せば、それだけウィッチとして実戦投入可能な時間が減ってしまう。そのせいで余裕のない欧州出身のウィッチは大半が最低限の教育しか受けておらず、現場はともかく指揮官クラスについては絶対数が不足していた。
「その点、ウチの隊長は扶桑でしっかりと士官教育を叩き込まれているからな。それで“実戦経験”のある元ウィッチともなれば、ロンメル将軍が手放すわけないさ」
マルセイユは上司である加東圭子を持ち上げつつ、さりげなく「実戦経験」の部分を強調した。訝しむミーナに、マルセイユは顎で反対側のテーブルを示す。そこにはリベリオンとブリタニア、そしてファラウェイランドのウィッチ達がいた。
コンテナが普及したのは割と遅く、WW2のアメリカが船で輸送する際に大規模に採用されたのが普及のきっかけ。発明自体は前からあったらしいんですが、何でも「港湾労働者の荷揚げ作業を奪う」という理由で港湾組合が大反対してたとか。