ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.14:ワンサイド・ゲーム

地震のような揺れと地鳴りが生じるごとに、天井から埃が舞い落ちる。

 

「うぅ……」

 

 リネットは不安そうに天井を見上げている。リベリオン兵たちに救助されてから、塹壕に掘られたトーチカに籠っていた。

 

「嬢ちゃん、大丈夫か」

 

 声をかけてくれたのは、リネットたちを運んできた部隊の隊長だった。両手にコーヒーの入ったマグカップを持ち、片方をリーネに差し出してくる。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「気にすんな。これも仕事の内だ」

 

 怯えるように表情を窺うリーネを気遣ったのか、部隊長は強面を崩して笑顔を浮かべている。

 

「あの、私たち今、魔力が……」

 

「ああ、話は聞いてる。ネウロイの奇襲を受けて、今はどっちも魔力切れなんだってな」

 

 ネウロイに対抗する唯一の手段を失ったというのに、隊長の声は落ち着き払っていた。しかも無理に平静さを保とうとしているのではなく、本気で大丈夫だと信じているようだった。

 

「ネウロイに対抗できるのはウィッチだけ――それがここ数年の常識だった」

 

 隊長は誰にともなくそう呟くと、ポケットから取り出したタバコに火を付けた。口と鼻先から煙を燻らせると、狭いトーチカ内が白く霞んでゆく。言葉を失うリネットに向けて、隊長は悪戯っぽく瞳を輝かせた。

 

「だったら、それまで誰がネウロイと戦っていたんだろうな」

 

 

 **

 

 

 見てみな、と促されてリネットは覗き穴から外を見やる。視線の先では、砲塔に大砲ではなく機銃を備えた戦車――M19対空自走砲の大隊が射撃を行っていた。彼方の砲声にかぶさるように、ボフォース40mm機関砲の轟音が耳をつんざく。

 

「あれだけじゃないぞ。ライセンス生産されたカールスラントやブリタニアの対空戦車だってある」

 

 隊長の言葉の通り、よくよく周りを見れば東西のありとあらゆる対空戦闘車両が揃っている。

 

 クルセーダー巡航戦車を改造したブリタニアの対空戦車「スカイレイカー」、M3ハーフトラックの車体後部に対空砲塔を取り付けたリベリオンのM15対空自走砲、オラーシャのZSU-37――中でも戦果を挙げているのは、カールスラントの対空戦闘車両だ。

 

 他にもメーベルワーゲン(37mm機関砲装備)、ヴィルベルヴィント(4連装20mm機関砲装備)、オストヴィント(37mm機関砲装備)、クーゲルブリッツ(20mm機関砲8門)などがブラストを噴いて炸裂弾を撃ち出すさまは壮観であった。

 

 

(すごい――!)

 

 

 リネットはその光景を前にして、眼が泳ぐような感覚を強いられた。

 

 まるで夜が昼になったかのように、地上から無数の閃光が放たれる。曳光弾が空を埋め尽くし、砲弾が爆竹のようにけたたましい音を立てながら連続して炸裂する。

 

 これらは新型の火器管制装置が付けられており、あらかじめ機銃手と機銃の位置の違いによる視差や対気速度や重力による弾道の流れを調整しておけば、後は敵を照準機のレティクルの中に捉えるだけで、それまで非常に高い練度を必要とした見越し射撃を誰でも行なえるようになった。

 

 

「すごい――砲兵がネウロイを……」

 

 戦場の遥か後方では、砲兵隊が濃密な火力支援を行っていた。轟音が耳をつんざき、大地を揺るがす。

 

 

「あれが噂のVT信管……」

 

 リベリオンの秘密兵器――近接信管。これは砲弾が目標物に命中しなくとも、一定の近傍範囲内に達すれば起爆させられる信管をいう。

 

 最大の長所は、目標に直撃しなくてもその近くで爆発することにより、砲弾を炸裂させ目標物に対しダメージを与えることができる点にある。目標検知方式は電波式以外に光学式、音響式、磁気検知式が開発され、魚雷等の信管にも応用されている。

 

 大口径の大砲は命中すればネウロイに対しても威力を発揮するが、難点として空を飛ぶネウロイに対して直接照準でしか狙いを定められず、射程が短くなってしまう事だった。

 

 だが、VT信管を使えばその問題は解決する。

 

 リベリオン軍は敵の予想侵入経路上に「箱型空間」を定め、敵の侵入と同時にそれぞれ定められた範囲と高度に弾幕を打ち上げた。一個高射砲中隊につき6門の高射砲が配置され、それぞれの射程間に隙間が生じないように配置されていた。

 

 

「遠くから一方的にネウロイを……!」

 

 情報と指揮管制システムを重視していたのは、リべリオンは海軍だけでなく陸軍もまた同様であった。

 

 

 連絡用無線セットに、長距離航法装置、ラジオコンパス、 電波高度計、原始的なマーカービーコン受信機から計器着陸誘導装置、VHF無線装置に味方識別装置、周波数計など何でもござれだ。

 

 歩兵の要請を受けて近接航空支援を行う陸軍航空隊にも、信号送受信機に航法/爆撃レーダー・捜索レーダー、独立した各装置の電源などが搭載され、将兵には図面付きの詳細なマニュアルが配ることでこうした電子機器を駆使できるように配慮されていた。




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