ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.13:USS.ホーネット

「あー、ついに来ちゃいましたか」

 

 

 部下からの報告を聞いて、ドゥーリットルは短く呟いた。強まった上昇気流の影響で、空母がいつもより大きく揺れる。

 

「――報告します! 折からの天候不順に加えてダウンバーストの影響により、B地区では最大で20分間ウィッチの支援なしでネウロイと戦うことになるとの事です!」

 

「では、全部隊に警報を。弾数制限解除、地上部隊最終防護射撃の準備を急がせてください」

 

 

 

「予想通り、というわけか……」

 

 副司令官を務めるアドルフィーネ・ガランド少将の言葉に、ドゥーリットルは静かにうなずく。

 

「人類をネウロイから守れるのはウィッチだけ――その言葉は真実です。だけど、それに甘えてたらウィッチがいない時、私たちは自分の身すら守れない事になってしまいます」

 

 ドゥーリットルの言葉に被せるように、オペレーターが張りつめた声で報告する。

 

 

「――艦載機、全機スクランブル完了! 現在、パスファインダーの指示に従って急降下爆撃に移行中!」

 

「――地上の防空部隊、全ての展開を終えました。これより弾幕射撃を開始します!」

 

 

 報告を補完するように、外から爆発音が連続して聞こえてくる。対空砲火が開始されたのだ。

 

 

「艦隊にも防空支援を要請。アトランタ級防空巡洋艦を中心に、沿岸部に接近してネウロイが射程に入り次第、迎撃を始めてください」

 

 

 極力慌てる素振りも見せないように注意しつつ、段どり通りに命じるドゥーリットル。焦るな、と自分に言い聞かせシミュレーションを思い出す。

 

(私たちリベリオンの強みは、沢山の武器を結合する有機的な運用と、トライ&エラーを繰り返すことによる改良スピードの素早さ……)

 

 

 それが今、試されようとしている。

 

 

 だが、備えは完ぺきだという自信があった。レーダー1つをとっても、今のリべリオン軍はこれまでの常識を過去のものとする。

 

 例えば今まで欧州で使われてきた、CXAMといった従来のレーダーには敵の高度を測定する機能が無い。ネウロイの大小も区別できず、最終的には目視に頼る部分も大きかった。

 

 さらに距離精度と方向精度の両立は難しいため、司令部にはそれらを統合運用する仕組みも存在しなかった。

 

 

 ――だが、それも過去の話だ。

 

 

 空母ホーネットには様々な種類のレーダーと指揮管制・通信装置を組み合わせて一元管理するCIC(戦闘情報管制室)と呼ばれる、あらゆる情報を収集・展示・評価・配布する戦闘情報指揮システムがある。

 

 

「よくもまぁ、これだけオモチャを揃えたもんだ」

 

 アドルフィーネ・ガランド少将は期待半分、面白半分といった体でリべリオンの新システムが稼働する様子を眺めている。副司令官なので一応、事前に説明を受けていたが、にわかには信じがたい。

 

「ホントに動くんだろうな、コイツらは」

 

「賭けますか?」

 

 アドルフィーネの軽口に、ドゥーリットルは自信たっぷりに返す。年齢はドゥーリットルの方が1つだけ年下だが、優雅で落ち着いた振る舞いのせいで随分と大人に見える。

 

 年下のドゥーリットルの方が上司になるという事で、周囲からは多少心配もされていたが、蓋を開けてみれば中々に息の合うコンビが出来上がっていた。上司同士の仲が良いことは、そのまま組織の風通しの良さにも通じることを二人とも弁えており、そんな風に価値観も似てる二人だからこそ、懇意となるのもそう時間はかからなかった。

 

 気さくさではガランドの方が、気配りではドゥーリットルの方が、それぞれ少しだけ勝っているが、二人とも部下にしてみれば話しかけやすい上司だ。陰で「夫婦」呼ばわりされてるのも定番の与太話で、こうしたトップ同士の付き合いが全軍の統合にも少なくない役割を果たしていた。

 

 

「勝った方は負けた方に好きな“ぶどうジュース”を要求できる、という事で」

 

「いいだろう。リべリオンのテクノロジーとやら、見せてもらおうか」

 

「ふふっ、後で後悔しないでくださいよ。カールスラントの技術力は世界一、と叫べるのは今日までです」

 

 

 空母ホーネットのCICでは、水平方向をキャッチする対空監視用のSKレーダー、マイクロ波を使用して目標を自動追尾する高度測定用のSMレーダー、低空を移動する目標を探知するSCレーダー、水上目標用のSGレーダー、 ドップラー効果による機速測定用のFDレーダーから、それぞれの情報がリアルタイムで伝えらえる。

 

 全ての情報は機械式計算機アナログ・コンピュータにて収集・解析され、接近する敵の現在位置から予測未来位置までが割り出される。そうした情報は司令部だけでなく艦載機や補助艦艇にまで共有され、的確な迎撃位置・方法が指示されるのだ。

 

 極めつけはMark11と呼ばれる、対空射撃用に高角砲と連動した自動目標追尾射撃管制システムの存在だ。同士討ちを防ぐために、レーダー照射波を浴びると別の信号を発進するIFF(敵味方識別装置)まで搭載されている。

 

 

「――では、始めましょうか」

 

 ドゥーリットルの掛け声とともに、PPI(円形レーダースクリーン画面) にリアルタイムの戦場が映し出される。

 

 戦場のビジュアル化……従来の海図と地図の上に色分けした駒を置く方式に比べて、これが正確さとスピード面でどれほど大きな優位を持つかは言うまでもない。

 今や刻一刻と変化する戦場のただ中でさえ、地形を含めた360度の中に敵・味方の位置を映せるのだ。

 

 

(リベリオンは必ず勝つ――私たちはそのために技術を磨き、十分な装備を揃えました。これまでのデータを分析した結果から、反撃パターンも充分なはず……!)

 

 ドゥーリットルは腕を組みながら、期待をこめて窓の外へ目を向けた。

 




 とりあえずレーダーに関して言えばリべリオンの技術力は世界一。厳密に言えばブリタニアの理論・技術力とそれを実現するリべリオンの資金・工業力は世界一。

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