ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~   作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン

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Vol.12:リネットの不運

                        

「そんな! どうして……」

 

 司令部から撤退命令が指示されるのを、ブリタニア軍リネット・ビショップ軍曹は絶望的な眼差しで見つめていた。

 

「どうしよう……このままじゃ地上部隊が……!」

 

 彼女が担当していたのは、リベリオンの担当地区に隣接する戦闘区域だった。眼下にはライフルを持った歩兵たちの姿――もし今リーネたちがネウロイを倒さなければ、彼らは圧倒的な力を持つネウロイに嬲り殺しに遭うしかない。

 

 

「……どういう事なの、それは!?」

 

 インカム越しに、部隊長であるエリザベス・F・ビューリング少尉の硬い声が聞こえる。見れば彼女は眉根に皺を寄せており、表情にも緊張の色が見えた。

 

『――だが、ウィッチ無しではネウロイの餌食になるだけだ! それでは前線の兵士たちが……!」

 

 滅多に使われない秘匿回線による通信――わざわざそんなものを使っている時点で、尋常ならざる事態が発生している事は自明だ。普段はクールな彼女が珍しく焦燥感をにじませ、にわかに剣呑な雰囲気が漂う。

 

「……それしか、ないのか」

 

 エリザベスの顔から血の気が引いてゆく。

 

「分かった。だが中将、これは貸しだぞ」

 

 リネットは息を飲んだ。聞こえた「中将」という単語から、エリザベスが通信している相手はあのドゥーリットルだという事が分かる。司令官直々の命令だという事が、事態の重要性を物語っていた。

 

 通信を切ると、エリザベスは全員に向き直った。

 

「全員、落ち着いて聞け。総司令部からの命令を伝える」

 

 リーネたち隊員の顔を見回しながら、エリザべスが続ける。明らかに不満そうな表情から命令に納得していないのは疑いようは無いが、そこは命令と割り切ったらしい。

 

「知っての通り、突発的に発生したダウンバーストによって、空は最悪の状況だ」

 

 この作戦には素人も多く、危険空域でネウロイと戦闘を続けても(いたずら)に被害が増えるだけ――それが総司令部の判断だった。であれば、今後も作戦が長期にわたって続くことを想定し、重要な戦力となるウィッチは一人でも多く残さなければならない。

 

「つまり――」

 

 一呼吸を置くと、エリザベスは静かに語った。

 

 

「我々はこの地区を放棄し、防衛線まで退却する。それも可能な限り迅速に、だ」

 

 

(それって……?)

 

 蒼ざめるリーネ。

 

(地上部隊を見捨てるってこと……?)

 

 ぎゅっとライフルを握りしめる。確かに筋は通っているかもしれないが、あまりにも非情な決断だ。

 

「ま、待ってくださ――!」

 

 抗議の声をあげようとした、その時だった。

 

「きゃあ――ッ!?」

 

 リーネの目の前を、赤い閃光が掠めてゆく。元凶は言われるまでもない。

 

「長距離狙撃……!?」

 

「散開しろ! 各機はバリアを張って後方を警戒しつつ、基地まで退却!」

 

 エリザベスはそう告げると、弾幕を張りながらバリア展開の時間を稼ぐ。その間にバリアの展開を済ませ、次々に帰投してゆくウィッチたち――しかしリーネはライフルの引き金に指をかけながら、身動きがとれずにいた。

 

 

「ビショップ曹長!」

 

 リーネに退却を促そうと、エリザベスが顔を横へ向けた次の瞬間――ネウロイのビームが彼女のストライカーユニットを直撃する。

 

「隊長――っ!」

 

 ストライカーユニットが爆発し、凄まじい衝撃に飲み込まれる。煙が薄れてリネットが目を開けると、気絶し墜落してゆくエリザベスの姿があった。

 

 

「……っ!」

 

 

 咄嗟にストライカーユニットを最大にし、エリザベスのもとへと急行するリネット。地表すれすれで気絶した彼女を抱きしめると、魔力を前回して激突を回避しようとする。

 

「――くぅぅぅッ!」

 

 リネットの表情が苦痛に歪む。地面まであと5m、3m、1m――そして。

 

「がぁっ――!」

 

 小さな茂みをクッションにして、よろめくように転倒するリネットたち。直撃は免れたものの、数メートルは地面を転がり、全身に打撲を負う。擦り傷は数え切れないほどで、脚の骨からは痺れるような痛みを味わう。骨折しているかもしれない――これでは、ストライカーユニットに乗って再度飛行する事は不可能だ。

 

「そんな……隊長が……!」

 

 リネットの瞳から光が失われる。地面に不時着し、行動不能に陥った――もう自分はここから動くことも出来ず、魔力を限界まで使ったせいでネウロイに有効弾を撃つことすら不可能。このままでは二人ともネウロイに殺されてしまう――。

 

 

 

「――おい、そこのウィッチ! 聞こえるか!?」

 

 

 聞き慣れないリベリオン訛りの英語が聞こえたのはその時だった。戦場で声を荒げ続けたせいで潰れてしまった、男のベテラン兵士の声。

 

「こちらリベリオン第4戦車大隊! ブリタニア軍のウィッチ、聞こえたら返事しろ!」

 

「はいっ! 聞こえます!――こちらは、ブリタニア軍・リネット・ビショップ軍曹です」

 

 必死に叫ぶリネット。

 

「――了解。友軍の救援要請を受け、これより現場に急行する。そのまま、じっとしてろ!」

 

 

 部隊の誰かが、連絡してくれていたらしい。待つこと2分、4両のM4シャーマン戦車とトラックに乗車した50名以上のリベリオン軍歩兵が現れる。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 トラックの荷台から、ガランド歩兵銃を担いだ兵士たちが駆け寄ってくる。

 

「はっ、はい! 自分は大丈夫です! でも、エリザベス隊長が怪我を――!」

 

 リネットが答えると、リベリオン歩兵部隊の隊長らしき人物は気絶しているエリザベスに目を向けた。

 

「誰か担架を持ってこい! トラックに乗せたら、すぐに出発だ! さもないと味方の砲撃に巻き込まれるぞ!」

 

「あの、私は――」

 

「あんたもだ。急げよ、グズグズしてると全滅だ」

 

「わ、分かりました」

 

 リベリオン兵たちに続いて、リネットも全力で走り出す。脚から電流が流れたような痛みが突き抜けるが、無理やり動かしてトラックの荷台に飛び込んだ。

   




 困った時にはとりあえず制圧射撃。だいたい全てが解決する

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