ストライクウィッチーズ ~ドゥーリットルの爆撃隊~ 作:ユナイテッド・ステーツ・オブ・リベリオン
3日後――。
連合軍は大規模なネウロイの反撃を受けていた。青い空と緑の大地が、無数のネウロイによって黒く染められていく―――ネウロイが戦力の逐次投入を嫌ったのかは不明だが、今まで溜めこんでいた戦力を全て叩きつけるかのようであった。
「――小型ネウロイの集団、要塞陣地の全域を攻勢正面として接近中。推定ですが、数は2万以上と思われます!」
空母ホーネットの作戦司令室で、ドゥーリットルは部下の報告を聞いていた。プロジェクターには各陣地の戦況の他、近隣の空母機動部隊やベルギカの友軍部隊の動向が表示され、リアルタイムで戦況情報が更新されている。
「――第一特別重砲連隊、間接射撃を開始! 迫撃砲もキルゾーンへの展開を終了しました!」
「――小型ネウロイ、予想の70%の時間で地雷原を突破! 陣地到達予定時刻を修正、あと21分30秒!」
(ひとまずは許容範囲内ですか……)
プロジェクター上の戦況ウィンドでは、ネウロイが洪水のような勢いで要塞陣地に近づく様子が表示されている。
フライトジャケットを着込み、マグカップに入れたコーヒーで両手を温めながらドゥーリットルは険しい顔になる。
「ブリタニアとリベリオンはともかく、装備の貧弱な欧州連合軍が心配ですね。一応対策はあるんですが……」
装備の貧弱な欧州連合軍の後方には、ウィッチを待機させてある。士気の低下を懸念して本音は隠してあるが、欧州連合軍がネウロイの攻撃を防げるとは思えなかった。
ドゥーリットルは彼らの陣地が突破される事を事前に想定し、すぐに穴を塞げるようウィッチ隊を配置していた。
――そして案の定、崩壊は30分と経たずに訪れた。
「――ロマーニャ第200歩兵大隊、通信途絶! 隣接するスオムス第101狙撃連隊によれば、壊滅した可能性が高いとのことです!」
最新の報告に司令部がざわつくも、ドゥーリットルは慌てずにあらかじめ指示していた通りにウィッチ隊を出動させる事を決意する。
「連合軍第7航空部隊「カールスラント」に出動を要請してください。目標はロマーニャ軍の陣地を突破したネウロイの撃破――」
指示を飛ばしながら、ドゥーリットルはひとまず被害が予想の範囲内に収まっている事に安堵する。
(要塞陣地は幾つもの小規模陣地の複合要塞。それぞれに一日分の武器弾薬と、食糧も備蓄済み……たとえ通信が途絶して友軍との連絡がとれずとも、24時間は立て籠もれるはず……)
ドゥーリットルは期待を込めながら、ウィッチ隊の発進を確認する報告を聞いていた。
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彼方からは、対空砲火に前後して開始された砲兵隊による支援砲撃の轟音。VT信管を備えた膨大な数の砲弾が、ネウロイのレーザーを飽和させつつその巨体に傷をつけてゆく。
このまま行けば――と誰もが願った、次の瞬間。
「――お姉ちゃん、あっちを見て! 気流が……!」
切羽詰まったような雁淵ひかりの報告に、孝美が振り返る。
そこにあったのは、山のように巨大な積乱雲。だが、様子がおかしい。積乱雲の下にある草木が、地面に叩きつけられるようにして倒れかかっていたからだ。
(まさか、ダウンバースト……!?)
積乱雲は減衰期に入ると、粒子が周囲の空気に摩擦効果を働きかけることで下降気流が発生する。この下降気流が極端に強いものがダウンバーストだ。
風速は通常のものでも台風並み、下手をすれば竜巻レベルに達するものもあり、そんな中で飛行すれば簡単に揚力を失ってしまう。
(どうして、このタイミングでダウンバーストが――!)
竜巻の下では、流石のウィッチいえども飛ぶことは出来ない。いや、魔力の強いウィッチなら強引に揚力を上げられるかもしれないが、不安定な気流の中をネウロイと戦いながら飛ぶことは不可能だ。
孝美は青ざめながらも無線機に手を伸ばし、別方向を飛行している坂本・宮藤ペアに連絡をとる。
「――坂本少佐、雁淵です! 今すぐ上層部に作戦を中止するよう進言します! さもないと――」
竜巻の風速はマッハ5までに達することもあり、万が一にでも巻き込まれようものなら死の危険がある。そうでもなくとも強い下降気流に機動を狂わされれば、それだけネウロイのレーザーに当たるリスクが増えてしまう。
つまり、ダウンバースト発生下ではウィッチは活動できない。それは地上部隊がウィッチの支援を失う事と同義であり、ネウロイの攻撃に対して丸裸になることを意味する。
最悪の事態を懸念しつつ、孝美はダウンバーストの移動する方向を確認し、その射線上に目を向け――いつになく険しい声で告げた。
「ダウンバーストが陣地帯の中央……ブリタニア軍の担当区域に直撃します」
「ウィッチが天候如きに左右されるか!」っていうのは一部のエースだけだと思うんですよね。無茶すれば出来なくはないけど危ないし、そもそも今回は首都陥落目前という訳でもないので安全策で。