fate/SN GO   作:ひとりのリク

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四節 青い星をソラに染め堕とせば

 

 

伍丸弐號と志村 剣、二騎があっという間に勢巌の刃に斬り裂かれた。

 

阿鼻叫喚の江戸で人類を支えてきた伍丸は、異世界から来て1日も経っていない僕を助けて消えてしまった。

 

正鬼から逃がしてくれた時の無力さを後悔したのに、剣に報いる指揮も結果も残せず同じ過ちを繰り返している。

 

いま、見えるのは、今にも大盾を落としてしまいそうな僕のパートナー。

いま、残された手は、クールタイムが終わった魔術礼装の3つの簡易魔術。

いま、僕たちに出来る事は。

 

「無い。そのまま俯き、こちらに未来を差し出せ」

 

無い。立ちはだかるのは、対峙するマシュを無視して僕たちの敗北宣言を行う、盲目の剣聖1人。

彼は僕の手の内を知っている。次に行動を起こそうとすれば多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)で容赦なく斬られる。

 

「立香────」「先輩………」

 

肩で息を整えようと必死の神楽、勢巌に飛びかかる寸前のマシュ。2人とも、打開策を求めて名前を呼んでくれる。

 

無い。

思い浮かばない。

打開策はもう無いんだ。

鬱屈で心が折れてしまう。

剣が居なければ越えられない時点で、僕の判断は間違っていた。

伍丸が身を挺して守るのは、勢巌に防戦一方を余儀なくされたから…。

 

「立て」

 

士郎が言う。

圧倒的な実力差を1番理解しているのに、鉄のような言葉で胸ぐらを掴まれた。

 

「何があっても進め。

どこを見てもいい、進むんだ。

銀時はそうした。この町の人たちもだ。

だから俺たちも江戸流のやり方に倣おう」

 

ついさっき、土方に激励されたばかりなのに…。

応えられなくなりそうで膝が折れそうになったのは、情けなさすぎる。死ぬまで考えろ、どうすれば良い?

 

僕にはマシュと神楽、士郎が付いている────

 

「士郎の言う通り!俺たちゃあ進むしかない‼︎」

 

無いもの強請りを辞めた愚か者に、一閃の火花が叱咤した。

 

「気ままに1番光るお天道様のようになぁ‼︎」

「ぬっ!?」

 

眩い光が霧散して、轟いた気勢に焦点を合わせる。

そこに居たのは、凛々しい羽織りを纏う快活な男性が1人。初めて出逢う背丈の人物は、

 

「剣………どうして!」

 

────志村 剣。

どうして、なぜ。

凡ゆる疑問符が頭の中に浮かび上がる。だが、僕に許された事は悩み立ち止まる事じゃない。

考え抜いて立ち上がり、足掻き進むんだ。

 

「下生の類いでもない貴様がなぜ生きている」

「俺は寿命以外で死なない、化け物みてぇな人間だよ」

 

六瓢(むびょう)が描かれた羽織りに撫でられながら、右手に握る刀を肩に担ぐ。背丈に合っていなかった刀も、身長170センチ超えの容姿に寄り添っている。

怪訝なのは発言だ。寿命以外で死なない、とは大きく出ている。まるで傷が付かない身体だと言いたげだ。

 

「左様か。“鉄患い”、なんと難儀な病だ」

「鉄患い…?」

 

鉄患い、この単語を復唱する。

覚えがあった。仁鉄が言っていた、聞いたことのない病いだ。

 

「それが正鬼から生還した理由…」

 

その意味は分からないが、剣の年齢が10は経っている状態でここに戻ってきたことと関係があるのは間違いない。

詳しいことを聞くのはあとだ。

 

「貴殿、なにと混じっている。

この勢巌の眼を欺く(まじな)い。…()()()か」

「そりゃあ江戸の皆んなの想いさ。呪いなんざと一緒にすんなや、父親ってのは倅のために地獄からでも檄を飛ばすんだぜ?」

 

己の秘め事に言及は許さないと、飄々と言葉を掻い潜る剣。

情報なんて与えず、一方的に引きずり出して、2つの勝利をもぎ取ることだけを頭の中で考える。

マシュも神楽も、そして士郎も大勝負が佳境に入ったことを意識に擦り込む。一瞬後のチャンスを手繰り寄せた側が勝利するのだ。

 

「気張れよお(めえ)ら! ここで城門を突破する‼︎」

「はい‼︎」「分かってるわよ」「あぁ…‼︎」

 

僕の礼装に、1つの通知が届いた。

 

▷Unknown

 

▷Guest Servant

 

▷が一騎、登録されました。

 

来た……合図だ。向こうの準備が整ったんだ。

 

『オーダーチェンジを使って助っ人を呼んでくれ。

こっちが城門を壊す準備が整ったら礼装に登録されるように源外が仕込んでくれてる』

『誰と交代するの?』

『私で大丈夫だ。状況に応じて身代わりと入れ替えるように設定しておく』

 

だけど…予定は狂ってしまった。

 

誰と入れ替えたらいい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで来てしまえば固有結界はもう使えない。

さっき源外庵の前で展開した時ですら、身体の内側が圧し潰されていく痛みに襲われた。俺を異物だと感知した世界から外に放り出されることに抵抗したからだ。

空想具現化。真祖が世界に干渉する人智の及ばない領域。自然を受け入れて、無機物は自然の下に降ろされる。

俺の固有結界は尚のこと相性が悪い。数ある心象風景の中でも、俺は戦場と刀を世界に塗りたくる。空想具現化からしてみれば、自らの絵画にペンキを塗られる屈辱に等しいのではなかろうか。

 

真祖正鬼の目がより光るここでは、固有結界を殺しにくるのも早いと剣製が訴えている。

分かってるよ、だから冒頭で固有結界が使えないって自分に言い聞かせたんだ。

 

(必要に迫られたら…)

 

浮かんだ疑問に、躊躇しないと返答する。

矛盾してるな。だけど銀時に近づくためなら、俺は歯を食いしばって剣製を展開してみせる。

 

覚悟は決まった。いや、既に決めてからここに来た。今のはイメージの再構成だ。勢巌を欺き、城門を壊すまでの工程を頭と神経に叩き込んだ。その時が来れば、反射的に動けるように。

 

数秒の逡巡を経て意識を戻すと────

 

「強くなった…?」

 

最悪に転じる最中、一筋の光が差した。

 

主語が欠けたが、その相手はもちろん志村 剣。

歳を経って再臨した彼は、勢巌の多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)を抑え込む獅子奮迅の活躍を見せている。

1度死んだ時よりも俊敏に、神速の名が相応しい剣技で幾多の勢巌を抑え込んでいた。

勢巌がこちらに刃を向ける数が明らかに減った。そのお陰でこっちの技術もメキメキと向上してる。座じゃろくすっぽ打ち合いも出来なかった剣聖富田 勢巌の技術、やっと身体に馴染んできやがった。

だが、決定打には欠けている。

勢巌はまだ予備の力を残していて、それを剣にチラつかせながら隙を窺っていた。ここだ、チャンスは既にこちらに回ってきている。決定打の役目を俺が果たせ。

 

手元に視線を落とす。

人を護る刀。銀時が使っていた宝具の1つだ。この刀のお陰で勢巌の太刀から辛うじて生存できた。けど、これから実行することに人を護る刀は相性が悪すぎる。新しい刀に入れ替えだ。

 

投影、装填(トリガー・オフ)

 

“剣の記憶”。あの技を再現するために試行錯誤していた時、とある先生から勧められた刀。

投影は問題なく行えた。だが相変わらず重い。俺が未熟なことを見抜いて嘲笑ってやがる。

 

「士郎!」

 

立香の声に頷く。

 

“呪いなら解析から伝授まで手の内だ。心臓に受けた傷を利用するなんざ普通は思いつかん。いい肝だ”

 

座では勢巌にこう言われた。

まさかアンタを殺すために、とは言えなかったけど。

 

…やるしかない。剣のクセして歯向かうな、あの先生の太刀筋ごと投影して無理やり黙らせてやる…!

 

(出し惜しみは無し。剣聖破り、やってやる)

 

俺たちは謂わば、無限に到達した存在を相手にしている。

仕合い…魔眼無しの勢巌でさえ無双の強さを誇るのだ。

俺も、俺に遺された大英雄の力を以って戦わなければ、無限を討つことは叶わない。

俺があの場所で身につけられた技の1つは、皮肉にも俺を殺した因縁の相手の宝具…そのガワを解放する。

 

全工程投影完了(セット)

 

その言葉とともに、魔術回路に3つの投影を準備した。

 

バーサーカー、ヘラクレスの心臓から戦闘技術を。

心臓に刻まれたゲイ・ボルグの傷痕から因果律の呪いを。

そして、剣の記憶からは勢巌にも届く剣戟を。

 

これらは俺に備わった力でもなければ、適正があって修得したものでもない。

じゃあ身につけたのは何故。銀時を救うため?否定はしないけど、責任を押し付けるようで嫌だな。強くなりたいっていう想いもあるし。

 

『それが、俺たちの…衛宮 士郎の正義(願い)だ』

 

でも、いいや。

銀時に文句をぶつけて、これから襲ってくる痛みを和らげてしまおう。この技は俺の身に余る奇蹟なのだ。

 

ちょっとくらい甘えさせてくれよ。

 

業火に身を投じる覚悟で臨むんだから…‼︎

 

「────是、射殺す百頭(ナインライブス・ブレイドワークス)

 

ハチキレル。内側が冷えていく。

因果律の呪い(ゲイ・ボルグ)を再現するにはランサーの槍が必要だ。あの歪な軌道があれば勢巌を騙せるだろう。

 

「ナインライブス!? ヘラクレスの!?」

「ですがアレはまるで…」

 

然し、俺が真似するのはそこじゃない。突き技は俺に真似するのは無理だ。身体がまだ受け付けてくれないから、軌道を最も馴染んだものに差し替える。

故にヘラクレスの戦闘技術(ナインライブス)が要る。勢巌の多重次元屈折現象に追いつける速さと、因果律の呪いを操れる技術が。

 

「まるで居合斬りです!!」

 

まるで、じゃない。まさにその通り。

因果律の逆転は、富田 勢巌に斬りかかることを決定付けた呪いだ。剣の記憶に載せた呪いの一振りは、全ての勢巌に適用される。

 

「……疾い────⁉︎」

 

ひと息、いや、瞬きのうちに6人の並列世界の勢巌を捉えた。ナインライブスを使用した神速、剛力の居合斬りは初見の優位性も相まって6人全員を斬り伏せた。

 

「やった!!」

「いや、まだ本体が残ってる!」

 

然し、この世界の剣聖だけは違う。より深淵を知り、凡ゆる世界の闇を識る勢巌は呪いの一撃を捌ききってみせた。

 

「くっ…」

 

この技の弱点のせいで失敗してしまった。

それは溜めが長いこと、そして事前に集中力を要することだ。複数の工程を俺の魔術回路は処理できる域に達していない。魔術回路を焼き切る勢いもつけられない、未熟な仕上がりに辟易しちまう。

剣が条件を整えてくれて最後のひと押し(ナインライブス・ブレイドワークス)が漸く実行できる始末。そんな言い訳は後回し。

 

「剣‼︎‼︎‼︎」

「応さ‼︎‼︎」

 

叫んだ声に即答。

ろくに回復してない身体を叩き起こし、ひと時だけ並列世界の勢巌を殺した今が好機と刀を振りかざす。

因果律の呪いで僅かばかり並列世界に繋げなくなった勢巌。これで致命傷、いや無傷ではいられない。

 

「若造が‼︎」

「っ……⁉︎」

 

いくら囲合斬りの達人と言えども、剣の前では安易に隙は作れない。そう立香は見定めて、自分の行動を思案する。

 

次の瞬間、剣が斬り伏せてくれるかも。

それを待ってから動けばいい。本当?

 

(勢巌が1人だ、剣が抑えてくれる!ここしかない!!)

 

もし機会がここだけなら?

その後悔だけはしたくない。

 

礼装に手を伸ばして────

 

「絶技、返し燕巌」

「………!」

 

再び揺れ起きる地震で、身体が地に伏せられていた。

 

「くそっ……!」

「あんな動作で揺らせるっていうの⁉︎」

 

この土壇場で、剣から距離を取ろうとして退がったのに、勢巌は退がる動作に震脚を折り込んできた。

また体勢が崩される。誰もがそう思って、誰も未来を手離さない。剣は身を捻って震脚をいなし、士郎は勢巌を観察し続けていて、立香は士郎の瞳を覗き込む。

 

(士郎の目は活きている…‼︎)

 

揺れる脳を内側…精神で奮い立たせて痺れを誤魔化す。

まだだ、諦めるのは死んでからだろ‼︎ 藤丸立香‼︎

 

(読んでいたさ)

 

士郎の策も1つ残されていた。

勢巌の絶技が繰り出されること。新しい絶技ではないことの2つに賭けて、最後の一手を解き放つ。

 

(ここは死んでも通さない)

 

直後、内側で綴っていた詠唱(こころ)を吐き出した。

 

「この未来は、銀色の絆と繋がっていた」

 

固有結界、無限の剣製。

空想具現化をめくり返し、真祖の真下でガンを飛ばす最悪の行為だ。

 

空想具現化された異界では、固有結界を堂々と扱うなど愚の極み。

画家の作品に、画家の目の前で我が色に染めようというのだ。全力で止められた挙句、永久追放されるのが目に見えている。

 

だが、ここで折れて未来が消えるのなら。

無理を通してこそ、正義の味方を志す者。

 

「オーダーチェンジ!!!」

 

ここに重なるのは魔術礼装。

登録されたサーヴァント同士を入れ替える奇策。

 

無限の剣製で引き込むのは富田 勢巌。

たった一秒、身体に叩きつけられる正鬼の重圧に耐えなければならない決死の時間稼ぎを背負って、立香が入れ替えたサーヴァントは────

 

「勢巌相手に良くやった。1秒あれば事足りる」

 

Unknown。Guest Servantと表記された選択肢。

 

光の中から生まれた声は晴れ晴れとしていて。

戦場で心細くなった時、その背中を追いかけたくなるほど逞しくて頼りになるサーヴァント。

鉄のように強く、硝子のような儚い微笑みを浮かべながら、紅い外套で砂埃を裂いて彼は現れた。

 

「え、エミヤ!?」

 

手元から離れた伍丸の手帳のことを忘れて、マシュと一緒に名前を叫ぶ。

話はあとだ。後ろ目でこちらに伝えると、僕たちに馴染み深い声音で詠唱を唱えた。

 

投影開始(トレース・オン)…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一秒未満、無限の剣製を展開した時点で俺の内側は世界からの拒絶に押し潰されそうになっていた。

 

「────っ、……く」

 

立香たちから見れば、俺は固有結界やサーヴァントの宝具を投影して使い熟している超ウルトラ凄腕魔術師となっているだろう。そう思い込むことで極度の疲労を誤魔化しているが、実際は息切れ寸前。歯ぁ食いしばって立ってるのがやっと。勢巌の絶技を無限の剣製に吐き出させて回避したが、もう次はない。

 

時間の概念がない座で修行したとはいえ、たかだか1ヶ月そこいらの時間しか取れなかった。

実力不足もいいところだ。

 

『魔術の制御は任せて!

なんたってイリヤはシロウのお嫁さんなんだから!』

 

情けない恥ずべき部分を、そう宣言してウキウキでカバーしてくれるのがウチの姫さんだ。アインツベルンの魔術工房で俺のバックアップに専念する反則技を使ってるんだ。第五次聖杯戦争の借りの返し方が過剰すぎて、恩を着すぎてショートしちまいそうだ。

 

「やりおったな、赤銅の童」

「………………」

 

────1秒間経過。

 

勢巌が珍しく心を荒立てて、俺にも読み取れる殺意を向けてきた。

 

(………………)

 

久々に吐き気を感じた。

無表情を維持するのでやっとだ。

本物にも向けられなかった殺意で、死────

 

「呪文を紡がなければ後手に回っていた」

 

青い光が剣製を縦に裂く。

こちらには目もくれず、後ろの裂け目から勢巌は現実に戻っていった。

 

勢巌の囲合いだ。

返し燕巌と同時に剣製を斬りやがった。

 

「────ばーか。知ってるってーの」

 

立ち去った勢巌に向かって舌を出す。

 

正直助かった。こっちに来られたら俺は死んでいた。

勢巌らしくない。冷酷に立ち回らなきゃ本物は越えられないぞ。

座にいる勢巌なら『門は開けてしまっても良いだろう。この勢巌に2度も食わせた褒美だ。打ち首になる老いぼれの黄泉路の供になれ、童』とらしくもなく笑いながら不届き者を斬り捨てる。

門が開いても中にいる十界に任せようと考えるが、ここにいる勢巌は違う。幸か不幸か、城門を守れと言われて忠実に守っている。優先順位の最優先に俺が来ることがないのがヤツの落ち度だ。

 

もう維持する必要のない剣製を解いて、城門の見える位置に降りた。

完成された投影魔術にありったけの声援を届ける。

 

「行け‼︎ ブチ破れエエエエエ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

投影開始(トレース・オン)…!」

 

無駄も与太も一切捨てた投影魔術を紡いで、エミヤはひと息の時間で城門の直線上にソレを造り上げた。

無限の剣製から卸すには造形が剣から離れすぎている。立香もマシュもエミヤの投影魔術を知っているから、本人が相当無理をしていることを理解した。

 

「っ………なんの」

 

唇を噛んで耐えている。

宝具に違いない砲門の投影。異例の事態だ、魔術回路が焼き切れてもおかしくはない。

 

「頑張れ‼︎ 漢見せろ‼︎」

「そうよ‼︎」

「エミヤ‼︎」

 

剣、神楽とその背中に感化されて声を張り上げる。

立香が叫んだのは少しでも助けになりたいから。

痛みが和らいでくれ、と。ここに来た疑問をすっ飛ばして、この投影を実行する覚悟を激励した。

 

正義の味方にとって、彼らの声援は魔術回路が一本増えるほど心強い後押しとなる。

 

「この勢巌を視野に入れることの意味を知れ」

 

それが例え、無限を秘めた剣聖が相手であろうとも立ち向かえる強さを貰ったのだ。

 

「勢巌!?」

 

エミヤと城門の間に青い光が斬り開かれて、勢巌が飛び出してきた。

彼の絶技を引き受けた士郎は見当たらない。兎に角、今はエミヤを守るんだ。

 

「させねぇよ!!」

「マシュ!!」

「了解────」

 

一目散に剣が飛びつき、一瞬遅れてマシュと神楽が勢巌の行く手を阻む。

 

「亖の鞘」

 

遠くにも轟く厳かな小声で、鞘を掴む左手を差し出す。

 

剣聖の絶技は攻撃だけに有らず。

現実への干渉が遮られる病いを利用した体術を駆使して、マシュと神楽、剣の猛攻を捌ききって突破した。

剣だけは反応して即座に戻るが、二者択一を迫られた。エミヤと砲門、何方かしか守れない。並列世界の勢巌が既に斬りかかっているからだ。

 

エミヤが投影した砲門は容易に投影できる代物ではない。

砲門が斬られればこれまでの全てが無意味になる。

ならば、選ぶ方は決まっていた。

 

「愚か。それが貴様らの結末だ」

 

守護したのはエミヤ。

守れなかった砲門は無惨にも輪切りにされて、未来を…修復を断たれた。

そう思い込む勢巌に剣は頬を吊り上げて言い放つ。

 

「へっ。そのまま返すよ」

 

笑う剣を見てエミヤは────

 

俺は当然だと笑い返した。

 

「たわけ。

私がこの時をどれだけ待ち望んだと思っている」

 

そして、当たり前の選択に気づかない勢巌を罵倒した。

 

「な────」

()()()は俺の生涯を賭けた投影だ。空を見上げ続けて、故郷から追い出され隔離された哀しき星に届かせるための号砲だぞ。

一度や二度壊された程度で消せる光ではない‼︎」

 

この場で状況を把握している者は、勢巌を除く者。

 

遅れてその存在に気づいた勢巌が空を仰ぐ。

そこにあるのは地上50メートルに浮遊する船。

 

「空に船だと……!?」

 

今更気づいたヤツを待つ理由はない。

視界の隅に落っこちた士郎に呆れながら、これで借りはチャラだと心の中で呟いた。

 

「銀時、もうじき引きずり出してやる。

今のうちに汚ねえ寝癖を直しておけ」

 

空に手を掲げる。

 

アレの殆どはエミヤの魔力以外で作られたものだ。

詳細はここでは省くが、俺もまた多くの人に助けられてここまで来た。その成果をいま解き放つ。

 

其は戦艦の前に球体を2つ要する、逞しい一本の筒。

黄色く白い魔力を放出し、雷の速さで城門に放たれた。

 

「砲弾を斬れば済む話だ」

 

身を翻した勢巌は、放たれた雷に飛びついた。

間に合う脚力に唖然としつつ、剣も砲弾を斬らせまいと脚を溜める。だが、手をあげて止めた。大丈夫だという意味を込めて。

視線の先で、勢巌の数十に及ぶ囲合いが解き放たれて、全て空振りに終わった。

 

「………なぜだ」

 

勢巌の囲合いは砲弾が概念であることまでは見切った。その概念に標準を合わせて斬りにいったが、それではまだ足りない。そもそも狙っている場所が違う、俺は城門ではなく江戸城に向けて砲門を向けていたのだから。

 

江戸城の城門はシンプルな造りとなっている。江戸城が落とされた時に開門する。故に城門を攻撃し続けたところでかすり傷1つ付きはしない。

 

“羅生門の霧”

 

正鬼に捉われて霊気を利用され、開場の手順を入れ替えているのだ。霧の宝具を知らなければ気付くことも困難だが、俺は知っている。たまから教えてもらった。たまがその身を砕いて調べてくれた。

 

「これが江戸城を落とした伝説の砲門‼︎ その名も‼︎」

 

ゆえに、この一撃だけは(あた)る。

 

 

 

 

 

 

 

l
l

 

 

 

 

 

 

 

凡ゆる障害を跳ね除けて、一撃のもとに異界化した城門を“逸話”を以って吹き飛ばした国賊は。

 

「再現度たけーなオイ」

 

決戦の幕開けを見届けて決め台詞を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伍丸弐號が手帳に記した『裏切る者』は誰?(予想)

  • 鳳仙
  • 神楽
  • 日輪
  • 晴太
  • 坂田金時

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