fate/SN GO   作:ひとりのリク

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【銀魂コラボガチャ第2弾‼︎】

レア度:SSR(星5)
真名: 伍丸弐號(ごまるにごう)
クラス:キャスター
宝具:Art
芙蓉
自身を除く味方全体に『博士の最適解』を付与+味方全体のNPをチャージ[Lv.1]+敵全体のチャージ減少〈オーバーチャージで効果アップ〉

『博士の最適解』
付与されたカード性能の上昇倍率の中で最も高い倍率に変化する(3ターン)+付与された攻撃力アップの上昇倍率の中で最も高い倍率に変化する(3ターン)

愛娘を実験体とした果てに死なせた機械技師。
その真相は愛娘を想い行動した結末だった。
娘の名前を呼んでくれさえすれば友達が増える。プレイヤーたちが娘のことを覚えてくれる。だから宝具名は娘の名前にした。「たま」でも解放できる。





四節 江戸城を開門したいなら

 

 

 

 

 

現界30日目

 

吉原を拠点にしてからは日に日に退去するサーヴァントは減っている。

 

慌ただしい日々から落ち着いて、ニコラ博士と調査を行う過程で気づいたことがある。龍脈がない。正確には、江戸の地下に張り巡っていた太く長く逞しい龍脈は消え、か細い人間の毛細血管のような龍脈が数本あるだけだった。

 

私たちを召喚する抑止力がこの世界にあるとは思えない。あれば白詛など蔓延らない筈だ。

過去に聖杯戦争が行われた記録は見つからないことからも、抑止力の存在は否定される。死者が影法師となって生者を守るのは、夢物語の中だけで済まされてきた世界なのだから。

 

……私の現界を維持する魔力は誰が供給している?

 

 

31日目

 

魔力源の真相は吉原にあった。マスターがいた。

鳳仙に聞いてみたところ、小言と併せてマスターを紹介してくれた。

 

ただ、マスター本人はマスターという役割を否定した。魔力を供給しているだけでマスターではない、と。

マスターと言われるのは毛嫌いするため、これからは“彼”と書いておく。

江戸に蜘蛛の糸のように張り巡ってある龍脈は、彼が流しているものだと判明した。

ここに魔術工房を作ることにした。先に誰がいようが知ったことか。

 

 

32日目

 

芙蓉が居ない。

どうやら娘を辱めたクズが吉原にいるらしい。締め上げて居場所を聞き出すと、別世界にいると言う。連絡手段は断たれていた。娘の通った通路が断線していることから、この世界は普通とは違う仕組みに変わっているのかもしれない。

 

マスターに話したところ、仕組みは知らないと宣った(私は嘘だと思っている)。ただ、我々を召喚する座が存在することは確認できた。正鬼の急造システムで抜け道が幾つも存在するため、生きていても座に入ることができるとか。

これを利用すれば、この閉鎖された世界で、別世界へと跳んだ芙蓉に連絡が取れるかもしれない。

その方法は彼も模索中らしく、私やニコラ博士、数人の博学者たちに情報公開して回線開通に本腰を入れる。

 

正鬼の理不尽な力に対抗する手段も欲しい。

私は彼に協力を求めてセーブポイントを開発することにした。場所は吉原とターミナルに設置するつもりだ。

 

 

33日目

 

最悪だ。奴ら、ターミナルを消しとばした。

破壊する瞬間を見ていた訳ではない。地上に出たときには正鬼がターミナルから歩いて来る姿を見た。荒廃したこの世界でも高さだけは変わらないソレが消えたのだ、正鬼の仕業で間違いない。

私の宝具を応用したセーブポイントは吉原だけの設置になる。

 

そろそろ戦力も揃ってきた。

ふざけた現状が悪化する前に、ここらで手を打つことにした。

 

 

34日目

 

この日までに集まったサーヴァントならば、江戸城の城門突破が出来るかもしれない。

 

対城宝具を持つアーサー王。

対界宝具を持つ鳳仙。

限定神殿を造ったメディア。

黄龍門の巫女母潭壱花(ボタンイチゲ)姉妹の龍脈拡張。

個の強さでは最も秀でた侍、佐々木小次郎。

 

加えて私のメイド千人、他のキャスターたちの雑兵千体を対真祖仕様に改造が終わった。

これならば、我々が強いられている最悪の消耗戦を打開出来ると信じる。強襲を掛けて城門を突破する。会話に応じない以上、城門の向こう側で対話を試みるしかないだろう。それが無理ならば、マスターによる最後の手段を実行するしかあるまい。

 

 

35日目

 

『何かを書こうとした跡がある。

ただ、文字ではない。荒れた感情を殴りつけたインクがあるだけの独白だ』

 

 

36日目

 

ニコラ博士が退去した。

夜だ。正鬼が大暴れした。だが、正鬼ではない。

いるのか、まさか。我々の中に。裏切り者が…。

 

 

…45日目

 

こちらの最後の手札を“裏側”に隠しておいた。

吉原に堂々と紛れ込んでいる“裏切る者”を討つためだ。

 

気取られないように、この記憶を移管しておく。

機を見計らって信頼できる人物に託すつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平凡な僕が、平凡な生活に戻りたい僕が、平凡な日常からは思いもしなかった結論を伍丸から聞いて、非日常に飛び出した勢いに声を上げて叫んだ。

 

「似蔵の正体が刀だっていうんですか!?」

「十中八九……と言うつもりだったが。衛宮 士郎、彼の固有結界を見せられたあとでは確定も同然だ」

 

改めて、と言うべきか。

名を馳せた職人の発想力ときたら、別世界だとしても一段と飛んだものになるんだと、平凡との違いを見せつけられた。

 

「似蔵や夜右衛門は刀で間違いない。俺の固有結界は剣を複製出来る。複製した紅桜が仁蔵に変わったのは、こっちの世界でそういう特製があったからだ」

「以上のことから、富田 勢巌は刀から。アーサー王に関しては聖剣エクスカリバーによって再召喚されている。

これで諸々のサーヴァントの再召喚は説明がつく。仁鉄を撃破しない限り、刀は増えるということだ」

 

聖剣が鍛てるのかは疑問だけど、相手は死徒だ。女神ロンゴミニアド級の強さを誇る鳳仙が有効打を入れられない、大地を擬人化したような存在なら、無茶苦茶な複製も可能かもしれない。

 

死徒、仁鉄の人間の頃の話を神楽から聞いただけでも、既に現在の片鱗がある。今ほど人間を辞めてはいないけど、紅桜は人の手にあっていい代物ではない。

サーヴァントを刀から召喚するのは無茶苦茶な理論だけど、怪物を産んだ親と考えれば納得するばかりだ。

だけど、疑問はある。

 

「サーヴァントを再召喚出来るなら、アーサー王ばかり鍛てばいいのに」

「恐らくは質だ。量産型の紅桜とは違い、勢巌の刀やアーサー王の聖剣は生半可なものではない。質が確保されなければサーヴァントを再召喚出来ない…と予想する。

仁鉄は稀代の鍛治職人、本物を越えんとする出来でなければ再召喚も行わない筈だ」

「質っていうのは、例えば?」

「材料だ。無機物の話ではなく、記録や記憶、自らが鍛つ英霊の物語。死徒とは言えど造るのが人ならば、当人の歴史無くして再現は出来ない」

 

アーサー王、沖田 総司の2人とは特異点で顔を合わせ、対峙したことがある。刀なんて言われても、僕の記憶上では超絶技巧に差はないように見える。

 

「あとは理解度だ」

 

だが、士郎の声は不満げに欠点を挙げた。

 

「再現する英霊の物語は器になる。知れば知る程、人物像は出来上がる。

そいつの思考や夢、想像理念と日常生活、生きるための中身が空っぽじゃ生前の再現は無理だ。夜右衛門みたいなお粗末な仕上がりになる」

「夜右衛門を斬れたのは、夜右衛門の再現性が低かったから?」

 

頷く士郎を見て目ん玉をひん剥く。

あの強さで再現性が低かった…⁉︎

マシュが押し負けていた相手だぞ⁉︎

 

「理解度と見抜いたのは、やはり無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)を展開したからですか」

「夜右衛門は自分の剣に絶対の信頼を置いていた。誰にも彼にも似蔵(もの)を盾にして欺くことはしない」

 

士郎の不満点は予想の斜め上をいくものだ。

夜右衛門の再現性の低さに対する怒り。鍛治職人が真剣の出来栄えに不満を抱くのと同じで、自分ならもっと上の仕事が出来るという自負があるからだろう。

僕には分からないけど、夜右衛門と会っている士郎には仁鉄の鍛った夜右衛門が不細工で堪らないんだ。

 

「ところでさ、固有結界の名前をどうして知ってるんだ?」

「うん、エミヤが使ってた」

「士郎さんはエミヤさんの────息子ですか?」

「同一人物。アイツとは別世界だけど紛れもなく俺だ一緒にするのはちょっとだけ違うっていうかアイツも不本意だと思うし俺も良い思い出がないんだ!ひいては型月ファンから論争の幕開けと思われる恐れがあるので触れないでほしい!!」

「りょ、了解しました。パターンE」

 

エミヤに触れられた士郎は明らかに様子がおかしくなった。寒さに震えるように眉毛が動き、暗闇に怯えるような瞳がマシュを…いや、マシュ越しに見ているであろうエミヤに向けていた。

マシュがタジタジになっているのにも気づかず、雨音にも負けてしまう独り言を吐き続けている。多分だけど、アーサー王が自分の若い霊気を見ていた時と似た感情を抱いているね。

 

「士郎。固有結界について聞いておきたい。

見ただけでもデタラメな魔術だ。君の魔力量で補えるほど燃費は良くない。30秒もどうやって維持出来た?」

 

伍丸、あの歪んだ流れから物怖じせずに聞きにいった!

 

「パスを繋いでもらった」

「仲間か」

「そんなとこ。魔術師が泡吹いて倒れちまう量の魔力を持ってて、俺が固有結界を使っても涼しい顔でお茶を決めてるお嬢様だ」

「魔力源は理解した。ここで展開できるのは何故だ?」

 

お嬢様のステータスが気になるのに、サラッと流すんだ。無駄がないね。

でも、伍丸の質問の意図が分からない。

士郎が固有結界を使えるから、じゃあないのかな。

 

「干渉が自然規模に制限された空想具現化とは違い、固有結界は術者の心象を無理やり世界に上塗りするもの。

既に元の世界に干渉している空想具現化(ここ)では、普通なら上書きがキャンセルされてしまうのですね」

「話が早くて助かる。正鬼に近づいて固有結界を展開した日には、多分だけど命はない…。

城の中じゃ無理、城門前でも1秒保てばいい方だ」

 

空想具現化された江戸じゃあ固有結界の展開自体が封じられるってことか。

 

「源外庵が空想具現化を有耶無耶にしてくれた。あそこが特殊な座標になってるらしいぞ」

 

30秒が限界って言ってたのは士郎の魔力が尽きるからじゃなくて、世界側の問題だったのか。

僕には難しい話だけど、要することは分かった。

 

「これからは剣製無しになるけど、足を引っ張らないように頑張るよ」

「なに言ってるの! 夜右衛門を倒したのがもう凄いんだ! すごく頼りになるよ!!」

「…恩に着る」

 

感謝を伝えて、前に進む。僕が出来ることは今はこれだけだ。士郎の顔を見て、切り札が通じなくなる懸念が少しは晴れたようで頬は緩んでいた。

 

一区切りついたところで、士郎の肩に手が置かれる。

 

「…………ねえ、ちょっと」

「どうしたん────」

「銀ちゃんのマスターって、なに」

 

待っていたと言わんばかりの力強い声音。

僕たちに銀時のことを聞いてきた時よりも血走った瞳で、士郎の左手の甲。凝視していた。

 

「それは、話せば長くなるんだけど…」

「令呪、まだ残ってる。ここに居るんでしょう」

 

士郎の令呪は2画残っている。

サーヴァントとの契約が継続していることの証拠だ。

しかし、士郎は首を横に振る。

 

「……………居ない。俺と聖杯戦争を勝ち抜いて、聖杯の力で江戸に戻ろうとして、この世界に拒絶されたんだ」

「どう言う意味?」

「出禁だ。地球が……正鬼が銀時を出禁にしたんだ」

 

銀時がサーヴァントとして現界しない…否、出来ない真相が告げられた。

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

士郎が話してくれた第五次聖杯戦争は、僕たちの知る歴史とは違ったものだった。参加サーヴァントだけで言えば、クラスが違えども半分が同名のサーヴァント。

一方で聖杯は大違いだ。魘魅に内側を滅茶苦茶にされて、願望機どころか魔力タンクにも出来ない星崩しの呪いと化している。使い道は江戸と士郎の世界を繋げる穴くらいなものだ。

それが特異点冬木と同じ冬木市で起きた、江戸と僕たちの世界とも本来交わらない3つ目の世界の聖杯戦争だった。

 

「魘魅。それが白詛をばら撒いた張本人…いや、天人」

「銀ちゃんを…この世界を殺した元凶」

 

神楽や伍丸は言葉に表せない怒りを表情に浮かべている。

当然だ。この世界の人たちを死の恐怖に染め上げる、最悪の怨敵の存在を知ったんだから。

 

「銀時ごと魘魅が死んだから白詛は無くなった…と」

「断定は早い。世界にばら撒かれた白詛は個体になっている。親元が死んだからと消滅するほど都合良くはない」

「まさか生き残りがいるってこと?」

「…………客観的推論だ」

 

歯切れ悪く伍丸は答える。

 

「それで。アンタだけ来たってのは、なに。銀ちゃんの代わり? 銀ちゃんの願いは諦めたってこと?」

「馬鹿言え‼︎ 諦めるもんか。俺は正鬼を説き伏せて、銀時を江戸に連れ戻す。

ここまで来て銀時の頑張りを無駄にさせないぞ。そんな事する奴は剣に括り付けて打ち上げてやる」

「打ち上げるって…?」

「どかーん、だ」

 

どかーん? 何する気!? 怖くて突っ込めないよ!

 

「令呪で思い出したんだけど。

立香、令呪はもう使い切ったのか?」

「……それ、は」

 

士郎が次に切り出したのは、言い出すタイミングが無くて黙っていた僕の消滅した令呪のこと。

 

「右腕を診せてくれ」

「先輩の令呪がない!?」

 

伍丸に右手を引っ張られ、外傷も令呪痕もない右手の甲が皆んなの目に留まった。

 

「魔術回路は無事だ。令呪だけを器用に斬ったのか」

「私が左手を斬られた時、妙な違和感がありました。あの時に令呪を斬られたんですか!?」

「うん、その時に消えたんだ。ごめん、言い出すタイミングなくて」

 

呆れた視線を向けられながら、マシュが謝り倒すのを必死で宥める。どう伝えたらマシュに暗い思いをさせないかな、と悩んだ僕が馬鹿だった。

 

「マシュ君、魔力供給は出来ているのか?」

「はい……不思議なことに、魔力供給は継続しています」

「言われてみれば、マシュとは繋がってないような、繋がってるような…?」

 

自分でも朧げな感覚に首を傾げる。

マシュとパスの繋がりは感じるけど、何か普段と違う気がした。

 

「龍脈から魔力を汲み上げてたりとかは?」

「こっちにも龍脈があるんでしょうか」

「ある。あぁ、元々はあったが正しい。銀の大地(ここ)に龍脈がないのは恐らく、正鬼の寝室だからだ」

「空想具現化された江戸だから、龍脈の再現はできていないの?」

「ターミナルが消えても龍脈が噴き出ない以上は、そう言うしかないな。

さっきの戦闘で影響が出なかったのは良かった。然し、令呪だけを斬るなんてことが出来るのか?」

「断言は出来ないけど、勢巌ならやれる気がする」

 

さっきの戦いでは僕の令呪を消滅させた。魔力だけを切るのはどうにも生温い気がするけど、マシュとのパスが繋がっているんだ、深読みはいけない。

 

「分からない事に足を取られても仕方ない。問題ないのなら良しとしよう。あと聞くべきことは────」

 

周囲を見渡し、子供部屋のおもちゃを全て散乱させたように路上を塞ぐ瓦礫の数々に目を向けた。周辺の建物は一部が切断されて、ある建物は縦に真っ二つに割られて片側が横倒れになっている。

別の建物も似たように子供が積み木を崩したように、しかし建物には一切の関心がないと一定方向に突き進む切り傷が云百と刻まれていた。

この倒壊を起こしたであろう人物への質問である。

 

「富田 勢巌ね?」

「正鬼によって整地された舗装路を、こうも深々と抉るのはどういう技だ。見ているだけで鳥肌が立ちそうだ」

「これ、本当にあの老侍がつけた傷跡なの? 戦ってる時と人柄が違いすぎるよ。

土方さんのほうなら付けられそうだけど……」

 

僕の疑問はすでに解消していたことを思い出した。ここに来るまでに土方の行方は伍丸に探してもらった。結果、こことは反対側に夥しい戦闘の痕跡があった。そこで戦っていたのが土方とアーサー王、沖田ということだ。魔力の質から伍丸が解析してくれたので、必然的にここの破壊痕は勢巌によるものと────

 

「?」

 

ぽん、と肩を叩かれる。

振り向くと、知らない青年がサムズアップしていた。

 

「坊主の言う通りだ。あちこち傷入れたのは俺だ!」

「誰ェ!?」

 

顔見知りの距離感で自白した青年。

僕と同い年くらいなのに妙な風格がある。

というか、勢巌と斬った張ったをしたってこと!?

こんな知り合い居たかなぁ!?

 

「失礼な。志村 剣だよ。昨日の今日で命の恩人を忘れるたぁ、俺よりモノボケ激しいんだな〜?」

「………え?」

 

右手でこちらを小馬鹿に指差してくる青年の名前を聞いて、

“そうさ、俺はサーヴァント。齢9歳だ!”

昨日の正鬼からの逃走成功の立役者、そして絶命必死の殿を務めてくれた少年の顔を思い出す。ワンパク小僧という言葉がピッタリだった面影が確かにある…!

 

「あの、志村 剣さん!先輩が昨日はお世話になりました!」

 

面影に気づいて声を上げようとしたけど、前に飛び出る影が1つ。

 

「おおう!嬢ちゃんが立香のサーヴァントか。ちと華奢だが────」

「先輩の記憶力は確かです。私の顔色を見ただけで昨日との体調の差異を見分けられるんですから」

「マシュ?」

 

なぜか記憶力の指摘に抗議するマシュの肩を叩いて静止を試みる。

 

「私と出会った時の会話まで覚えてくれていらっしゃる私自慢の先輩です。よって、記憶力はこのマシュ・キリエライトが保証します」

「ねぇマシュ?」

「ほう!やるねえ坊主。発言は撤回!悪かった。

………なあ立香、尻に敷かれる時は腰だけは避けるんだぞ。腰は大事だからな」

「小声でなんのアドバイス!要らないから!」

 

なんで勝ち誇った顔するの、マシュ?

感謝は伝えられて偉いよ。だけど、そこでシールダーしなくてもいいんだよ?

 

「い、いやいや!そうじゃなくて!昨日見た志村 剣は子供! 10歳くらいだったよ!!再召喚されたの!?」

「ないない。霊気は一毫(いちごう)も変わらんよ。

だが俺も男だ、侍だ! 死線を潜り抜けたともなれば、10年や20年は成長もするさ!」

 

そうなの!?そうかも?

 

………いや!勢いで騙されないよ?

 

「な、なにそれ…アンタが新八の父親なわけ!?」

 

僕を押し退けて顔を突っ込んだのは神楽。

新八…父親…あっ、吉原の大広間で分からなかったことが1つ解決した。あの時、神楽に聞く前に銀時の話になったもんね。

 

「おう!神楽だな、倅が世話んなってなあ!

どうだ、そろそろウチの道場を継がんか!?」

「はあ!?なに言ってんの。頭沸いてる?」

「荒廃した江戸の町を倅と一緒に守ってたらしいじゃねえの。夜兎の嬢ちゃんが地球守るとなりゃあ、コレだろ」

「死ね」

 

小指を立てる剣に傘を振り下ろす神楽。

風音を破壊する勢いの傘をひらりと躱す。

 

………こいつ、結構下品な人だな?

 

「新八の父親がこんな若い筈ないでしょ。こいつスパイか何かよ、ここで仕留めときましょ」

「待て待て。証拠ならある‼︎ 天堂無心流は塾生志願者が殺到する道場なんだ‼︎ この免許皆伝書こそ…」

「あいつん家の道場、塾生1人もいないわよ」

「………………白詛のせいだ」

「違うわ。私が『アル』ってた時からよ」

 

アルってたってなに。ねぇ剣の落ち込み具合凄いんだけど。これ絶対本物だよ。二代目で転けたパターンだよね。

「倅ェ……俺が弱いばっかりに………」って言い出した。これは本人だよ、間違いない。先立つ後悔すごいしてるもん。

 

「源外の言っていた助っ人が貴様か」

 

死後の現実に打ちひしがれる剣へと、伍丸は問答無用で問いかける。こっちは源外から頼まれた相手だからと気遣う気配ゼロだ。

 

「………勢巌の相手だろ、確かに任された。

自らを(いさぎ)よしとしない太刀筋でありながら、此方の技を労わる謙虚さも垣間見えた侍だな。

今思えば道場に入れたくなってきた」

「勢巌と剣が戦ったのに、剣の刀だけが傷を入れたの?」

「ヤツの刀、物体をすり抜けていたぞ」

「私の時と同じですね」

「それについては士郎に聞いた方が早いだろう」

 

勢巌と対峙した剣(今のところ疑わしい)も理解出来なかった理由を、勢巌を知っている士郎に聞くのは当然だった。

勿論、と快く頷いた士郎は簡潔に理由を説明してくれた。

 

「勢巌は物に触れなくなる病いを患ってる」

 

なんだかゲームのバグみたいなことを言ってる。

 

「うん、うん? お化けになったの?」

「あぁ分かる、その反応分かるぞ。言ってる意味が分からないよな。でも他に言いようがなくてさ…。

目の病いを患って視力を失った勢巌は、五指でなにも触れなくなったんだ」

「盲目の変わりに力を手に入れたとかじゃなくて?」

「ウチに秘めた力が目覚めたのでもなく?」

「追い討ちを掛けられた」

「最悪だね!?」

 

意味が分からない。

目の病いでどうして物に触れなくなるの!?

踏んだり蹴ったりもいいところだ。

…でもさっきの勢巌も、僕が銀時に見せてもらった魔術王と戦う勢巌も驚異的な剣術を使っていた。

 

「そのバグみたいな病気は治ってるんだよね? 刀は握ってたし」

「あぁ、克服してる。

()()()()()()()()を使って、物に触れる並列世界の自分を自分に重ねてるんだと」

「キ、キシュア・ゼルレッチ…‼︎」

「知っているのか、マシュ!?」

 

聞いたこともない名前に身を乗り出したのはマシュ。珍しい反応に思わず線画の濃ゆい男塾顔で問いを投げた。

 

「並列世界…所謂パラレルワールドと自分の世界を繋げる、第二魔法に匹敵する魔法級の技です。

こちらにも魔法という概念があるのですか」

「ふむ…。無いな。士郎?」

「あぁすまん、元の名前は“浮世離れ”だ。屈折現象って言ってたのはキャスターだった。こっちの方が分かるって聞いたから、つい」

 

うっかりしてたと照れる士郎。

立香がフォローを入れるのを横目に、マシュは続けて挙げるつもりの話題を伏せた。

村田 仁鉄が刀から英霊を呼ぶのは、第三魔法に似た所業ではないかと思ったことを、第二魔法と絡めようとしたのだ。然し、肉体ではなく英霊を呼ぶだけなら魔力と技術があれば不可能ではない。刀から英霊を呼べる事が異質なのだが、魔術や魔法の概念が無いはずのこの世界では突き詰めることに限界があると考えた。

 

「令呪は消滅したけどさ、手のひらを斬られたのはマシュだったよ。これもゼルレッチの能力なの?」

 

立香がもう1つの疑問を投げる。

重要な問題だ。斬られたのが令呪だけで済んだが、これが肉体ならマシュが前面で戦うデメリットが大きすぎる。

 

「ソッチは勢巌の剣技だ。斬った怪異の元…発生源に斬撃を飛ばせるんだと」

「?ちょっと待って。頭がこんがらがりそう。

目の病が実は魔眼で、物に触れなくなって?

魔眼の副作用を克服するためにキシュア・ゼルレッチを覚えて?

勢巌本人は置換じみた剣技が使える…ってこと!?」

「ゼルレッチは本気出せば数人分呼べるらしい」

 

魔法級の技術に最悪の補足が加わり、伍丸とマシュ、知識の深い2人の顔は青ざめていく。

 

「何人居ようが全部斬りゃあ同じ‼︎」

「普通じゃ無理だけど、この痕跡を作った張本人が言うなら大丈夫でしょ。正直、新八の父親がこんなに強いかは疑わしいけど」

「俺は特別だからな? 倅と比べてやるなよ。

アレは末恐ろしい老侍だ。侍からしてみれば無限の可能性に満ちてるぞ」

「無限………」

 

デタラメな相手に対して脳筋な答えを提示する2人。

その真っ直ぐすぎる戦法を聞いて、士郎が思い出したと懐から取り出したのは一枚の札。

 

「あぁ、対勢巌の礼装がある。持っておいてくれ」

 

禍々しい文字が刻まれたソレを人数分取り出して配る。読めはしないが日本のもの…多分古語だ。

 

「これは?」

「座の勢巌から貰ってきた。魔眼を打ち消す呪符が込められてる。これで刀に触れるからすり抜ける心配はない」

「今貰っていいの?」

「持ってるだけで効果がある。渡せる時に渡さなきゃな。もしかしたら、城門で待ち構えてるかもしれないだろ」

 

皆んな頷いて礼装を懐に仕舞う。

 

「じゃあ次は城門だな」

「おぉ。城門をどう破るか聞かせてもらおう!」

 

士郎の本題、僕たちが知りたかった方法が伝えられた。

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

城門の突破方法を聞いてから、作戦の確認を終えるまでに約十分が経過した。最後の休憩を挟むこととなり、僕は休憩を提案してから離れていた伍丸のところに来ていた。

 

「なにかあったの?」

「金時に連絡していた。どうやら鳳仙は一時的に霊体化しているようだ」

「やっぱり勢巌の攻撃が…」

「届いていた。霊気修復に2時間は要すると。

心配してやるな。ヤツは夜兎族の王、私たちの想像以上にしぶとい。

……私が脆いだけか」

 

さっきとは打って変わって儚げに笑う。

その姿が不安を掻き立てられて、伍丸の視線に入り込んだ。

 

「どうしたの伍丸。浮かない顔だよ」

「気のせいだ。カラクリの表情は読めないよ」

「分かるよ。僕たち、この世界を元に戻したい気持ちは一緒だからね」

 

想いをぶつけて視線を交わすこと十秒。

瞼を閉じて一考する素振りを見せると、懐から手記を飛び出した。慣れた手つきで開くと、付属のペンを握ってなにかを書き込む。

 

「手帳に近況を遺していた。ここを曲がれば江戸城の城門だ。記録(セーブ)はこまめにしておけ、と娘から言われていてね」

「そうなんだ。データより手書き派なんだね」

「データだけでは不安になる時がある。リセットボタンを押してもリセットされないように、形として遺す癖がついてしまった」

 

娘の受け売りだが、と笑う。

手記を閉じると、僕に差し出してきた。

 

「立香君、これを渡しておく」

「あれ、何も書いてないね」

「今はね。もしも必要になったら文字が浮かび上がる。敵に作戦が奪われないための細工だ」

「凄い…。けど、どうして? 大切なものじゃないの」

「大切さ。ソレを私だと思って持っていてくれ」

 

伍丸の方が強いし安全な筈なのに、それでも僕に渡してくれることに心が騒つく。何かを問い詰めたいけど、どう言い表せばわからずに僕は手記をポケットに仕舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伍丸から手記を与ったあとにマシュたちと合流して、江戸城に続く最後の直線を進み始めた。

それまでは普通だった景色が数分も進めば変化した。空模様は暗いとも黒いとも、若しくは赤いとも云える色となり僕たちを冷ややかに非難しているように見える。

魔王城に辿り着く直前の景色と言えば、RPG好きには拝んでみたい空だろう。

 

「これは…いつの間にか曇天に」

「城門に近づくとこうなる。雰囲気に呑まれるなよ。

江戸城に入ったあとの行動を確認しておく」

 

慣れた景色だと気にも留めない伍丸は、腕を捲って仕込みキーボードを打つ。間もなく僕の礼装、そしてマシュの通信端末に通知が届いた。

 

「正鬼の寝室を探すことになる。江戸城の構造と寝室の予測場所を記しておいた。データで送る。

寝室で準備とやらをしている正鬼を止める」

「その道中で仁鉄を叩きのめして倅を救出‼︎」

「以上、二点の遂行を以って特異点は修復される」

 

全員頷いた。正鬼の準備についてや正鬼との対峙、仁鉄が何をしているのか、そして銀時の身体を乗っ取った者のこと。不安材料はあまりにも多いが、今日中の決着が迫られている以上のんびりしていられない。

危険は承知。皆んな決死の覚悟で向かっている。

 

「気をつけるのは神楽、君が死ぬことだ」

「……私が?」

「銀の大地への保管方法は死ぬことだろう。

正鬼は人間全てを銀の大地に保管したがっていた。地球最後の生存者が保管されてしまえば、仁鉄の言う世界の切り替えは発動する」

「日輪だって生存者よ。惰眠掻いてる真選組だっている。それに私は夜兎族、地球人じゃないっての」」

「確かに天人だな。だがこの地球を捨てなかった天人だ。正鬼は地球を守るのなら天人でも受け入れる」

 

伍丸のソレは注意事項ではない。起爆スイッチの在処の宣言だ。

「今更言うのかよ!」という士郎の突っ込みに「彼女を守れという意味じゃない。身を投げ出すなと釘を刺したんだ」と付随する。その意味は単純だった。銀時が戻るためならと自己犠牲に走るな、という伍丸なりの神楽への評価なのだ。

 

「逆に、正鬼に抗うなら吉原から出てこない日輪たちは保管せずに切り捨てるつもりとみたぞ」

「左様」

 

角を曲がった瞬間、返ってきて返答に全員が身構える。

両端を刈り上げて後ろで白髪を結うのは、豆腐のように柔らかい眼差しを敢えて強調するために見えた。

威厳には縁遠い表情に見えて、口元の筋肉が深掘りしていて、武芸を極める者の風格を全て引き受けていた。

 

「富田 勢巌……!」

「皆んな気をつけろ。もうあいつの間合いだ」

 

士郎の言葉で身震いした。

30メートルは離れてるのに間合いの中って、無茶苦茶にも程がある。縁側でお茶を啜る姿が似合う老人とは思えない。

 

……よく見れば納得だ。勢巌が立っているのは城門の前。背後に聳え立つソレは現世にあるまじき瘴気を纏っている。

鬼ヶ島の入り口、地獄の門、魔王城に続く道。物々しい表現は幾つか思いつくけれど、しっくりくる一文字がある。

『孔』だ。魔術王がロンドンに現れたときの通路、魔神柱を召喚する術式が憎悪に満ちていたように、誰も通さない固い意志が伝わってくる。あの『孔』が僕たち正史の人間に対する答えか。

 

「口を滑らせるなどあってはならぬ。然し、冥土の土産とすれば、江戸の友に未来は繋がったと言い訳もできよう」

 

勢巌は正鬼の代弁者。

攻略困難の城門に配置した門番は、被害者に対する正鬼の情けだ。

 

肝心の江戸城は目視すら出来ないときた。

闇ではない何かに覆われている。城の面影どころか、向こうの空さえ何かに包まれている。真祖の根城としての説得力が高すぎるぞ。

 

「その身、その魂に真実を刻んで逝かせてくれる。

地球の意向を汲め。この勢巌に絶たれよ」

 

剣圧に震えて声が出ない。それでも前を見て、令呪をかざして、マシュに皆んなに進もうと伝えた。

盲目の侍、数のアドバンテージは無いと分かっている。多対一という概念を捨てて、城門の突破を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

伍丸弐號が手帳に記した『裏切る者』は誰?(予想)

  • 鳳仙
  • 神楽
  • 日輪
  • 晴太
  • 坂田金時

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