fate/SN GO   作:ひとりのリク

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三節 ファースト・シーン・アンリミテッド

 

 

この場に残るのは夜右衛門、勢巌、そして無数の似蔵となった。

 

「正史の鬼の副長は面白いですね。致命傷を無視する宝具とは。あれならアーサー王とて早々に戻ってこられない」

 

土方が命を削って開いてくれた活路を、あまりの狭さに夜右衛門は肩で笑う。沖田とアーサー王を引き離してくれた事の大きさ、その想いを嘲笑う言葉に対して右拳を握りしめて応えた。挑発に乗るほど暇じゃない。

伍丸が夜右衛門の背後に回っている。マシュは気づかないふりをして、正面から攻めて気を引きつけ、

 

「…………で。我々の注意が外れた隙に、接近して勝負を決めようとして失敗ですか」

「伍丸っ‼︎」

 

混乱に乗じての一撃。

 

だったが、伍丸の腕は斬られて、夜右衛門の足元に転がる。続けざま、夜右衛門は刀を左手に持つと、振り向きざまに右手を伸ばす。見えたのはそこまで。次の瞬間には、伍丸は宙でひっくり返り、顔から地面に撃墜されていた。

 

「勢巌殿、どうですか?」

 

驚く暇もなく、夜右衛門の視線に釣られて後ろを振り向く。そこには神楽を値踏みする勢巌と、真正面に立たれたことに遅れて気づいた神楽がいる。

混乱に乗じるのが上手いのは向こうだった…‼︎

 

「視えぬ。だが斬れば分かる」

「決まりですね」

 

マシュが駆け寄るには夜右衛門がいる。

ガンド、まだ打てない。出来ることが…。

 

「ヅ────っ────こ、れ……は…!?」

 

…1つ、既に打っていた手があった。

ガンド特有の呪いを帯びた光が、刹那の隙間で瞬く。

 

夜右衛門の呻めき声で勢巌の動きも止まる。視線を戻せば、夜右衛門にガンドが炸裂していた。何故!?

 

「ガンドを少しばかり拝借した。ほら、足元」

 

顔の自己修復を終えた伍丸が指摘する。夜右衛門の足元には、自力で這いずって、夜右衛門の草鞋に指を置いた伍丸の右腕があった。

 

真っ先に状況を理解したマシュは、そういった知恵があったのかと驚くほど自然に、夜右衛門の目の前で盾を構える。力一杯に振りかざし、次の瞬間を待つ姿勢からはオーダーチェンジを使えと伝えてくる。

無論、マシュも使えないことは承知の上で、だ。

 

「その術が()う術の仕込みだな」

 

一連の動きは、勢巌の抜刀を防ぐため。

それぞれが尽くした底の一手。

 

(………よし、見破ってくれた)

(私は動けません。クールタイムまで待ってはくれないでしょう……先輩…!)

(あと1発分のガンドは打てる。だが打つ前に夜右衛門の魂洗いが来るぞ。ここで状況を打破しなければ…)

 

神楽はハッタリの説得力を増すために、涼しい顔で佇んでいる。

全員、次の手は思いついていない。

 

「夜右衛門とこの勢巌を入れ替えるか。若しくは、この娘と夜右衛門の位置を変えられても一溜りもない」

 

勢巌に迷いが生まれた。

オーダーチェンジのクールタイムまでは見抜けていない。しっかりとハッタリは効いている!

 

少しでも迷っているうちに、早く次の策を…

 

「…優先順位は変わらない。()()()()()()()

 

暗に、自身が撃破されることを覚悟しろと言って。

夜右衛門は自由の利かない右腕を震わせながら、勢巌の動きに併せようと集中し始めた。ガンドを無理やり捻じ伏せて刀を振るつもりだ。

全体強化? それこそ悪手だ…夜右衛門にまで付与されてしまう。

 

「そんな状態で振れるとでも!?」

「やる人の目をしています! やる気です‼︎」

 

マシュの警鐘が確証に近づく。

どちらを入れ替えても、どちらかは目の前の敵を仕留める。勢巌は全てを考慮して、頷いた。

 

「承知。この一太刀で妖術の正体を見切ろう」

「──────っ──(きも)

 

 

 

ハッタリは効かないっダメか────

 

 

 

「────()()()()()()

 

 

 

 

源外庵の入り口が爆散したのは、その直後だった。

幕煙を纏いながら、人の形をした影が上空に舞い上がる。

 

夜右衛門と勢巌の動きが止まる。

似蔵たちも視線を上に向けて、影の正体に注目した。

 

僕が目視で拾えた情報は、その人物が青年であること。

そして、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

「な、に────!?」

 

その背中はヒーローのように逞しくて頼りになる。

勝手に決めつけるくらいに格好良いということくらいだ。

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

曇天の下、血潮の風が大地を通り過ぎる。

恐る恐ると目を開けたとき、視界に広がる剣の鼓動(おか)を目撃した。

 

「これ…無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)!?」

 

景色がちょっとだけ違うし、立っている人物は僕たちの知る紅い外套の英霊ではない。

英霊エミヤとは正反対の冴えた赤銅(しゃくどう)色の髪、近頃は目にしなかった一般的な現代服を着る姿に親近感が湧き上がる。

 

………いけない、気を緩めすぎた。今はまだ、感謝の言葉を送る余裕すらない。

周りには、以前として危機が迫っている。

周囲を埋め尽くす無数の似蔵。彼らの前に立つ夜右衛門。だが、勢巌が見当たらない。

マシュも気づいたようだけど、青年は目を合わせてきて。

 

「保って30秒だ」

「────分かった」

 

委細は省くけど俺を信じてくれ、と視線で語った。

言いたいことを飲み込んでほしいという。

30秒のうち2秒もこっちに意識を割いてくれたんだ、ここで頷かないと彼の行動を無碍にしてしまう。

 

返事を聞いた彼は前に向き直ると、剣の世界を覆い尽くさんとする悪鬼羅刹を見据えた。

 

同時に現れるのは、地面の上を小石の如く埋め尽くす無数の刀。

地面に突き立つ数々の刀の傍に、同じ数の人影を見た。

彼らはきっと未来を願った人たちだ。

終わらない星の姿を見ている。目に見えていなかった人たちの想いを浴びられる場所だ。

 

「一緒に行こう」

「もちろん!」

 

僕たちの背中を押してくれる人たちがいるように。

彼の道を応援する人たちがいるはずだから。

彼に想いを馳せる人たちと共に見届けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂れた街の廃れた道に1人、その侍は立ち尽くしていた。

 

「あの大人数が一瞬で消えた。この勢巌の眼で解せぬ業ともなれば、空想具現化の類いか」

 

源外庵の前で取り残された勢巌は、衛宮 士郎が発動した固有結界のことを凡そ見破っていた。表と裏を入れ替える正鬼の空想具現化を知るからこその看破である。

生前に体験している勢巌は、衛宮 士郎が空想具現化ほどの強さもあるものを展開出来ないとも読んでいた。アレは真祖だからこそ許された芸当、人間である青年ならば何かしら精度は劣っていて当然だ。

 

「さて、この眼で斬れるかな」

 

成長途上を突く形にはなるが、猶予がないために手加減は抜きにする。即ち魔眼の使用であり、勢巌が握る刀は空想具現化にすら切り口を与える業物へと昇華した。

 

「ちょっくらちょいと!」

「見計らったような頃合いだな」

 

この日2度目の妨害に、勢巌の(まなこ)は嵐の夕暮れを見上げるように開かれた。

 

「おー怖い怖い。鶴亀鶴亀……っとおわっ!?」

 

振り向きざまに一閃。声の主に対する魔眼使用は外れていた。居合いでは似蔵を上回る達人の速度を上回った。この事実だけで生きた時代の最強格であることは間違いない。

地面に降り立つ忙しない音を耳にして、声の主の身長体重を把握する。相手は成人済みの男性、一本の刀と1人の少年を抱えている。

 

峻峭(しゅんしょう)な爺さんだ。あっ、俺ん時の年寄りはこんなんばっかだった!」

「富田 勢巌の名を聞けば納得するか?」

「富田 勢巌!? それって盲目の剣聖じゃないか!」

「………有名なの?」

 

抱えていた少年は降ろされたあと、隣り合う男性に質問を投げた。

 

「日の国で剣聖と称えられる侍は歴史上で片手のみ。

盲目すら技の培いと豪語せしめた男だ。賜っただけの我が身とは大違いよなぁ…。

喜べ()()!その身を危めても知れなかった剣の頂点と仕合えるぞ!!」

 

晴太と呼ばれた少年は表情筋を動かすことなく、「気合い抜ける口調やめろ」と吐き出して青ざめた血を温める。

 

「貴殿は何者だ」

 

少年が投げた質問とは質の違う問い。

なぜ少年に刀を構えさせているかを指摘し、その意図を糾弾すること。

少年に稽古を積ませるには、相手の実力に疑いを持たないのか。

気配もなくどうやって源外庵の前に現れた。

もうサーヴァント召喚は出来ないはずだ。

 

「志村 剣。天堂無心流を興せし()1()8()の天才剣士だ!」

 

名乗りで勢巌の疑問を全て吹き飛ばしてみせた。

 

この侍が()()の目指す剣聖とは。

 

独りで合点した勢巌は、掟破りの剣聖に一礼をする。

晴太はその動作に見惚れつつも警戒して構えを深くしたが、剣は晴太の背中を叩いて礼儀を教育した。

 

「いざ手合わせ願う!!」

 

無限の剣製の外側で、剣豪たちの仕合いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“無限の剣製”を展開した理由の1つは分断だ。

 

富田 勢巌だけを外に置き去りにしてきた。

 

この場の誰も勢巌に勝機を見出すことは出来ない。この世界の“座”で記録媒体の富田 勢巌に稽古をつけてもらった経験則による、超独断と偏見による判断だ。

 

「うっ、わ。思い出したら鳥肌立ってきた。瞑想真剣白刃取りとか稽古じゃないぞ、殆ど拷問だったし」

 

蘇る記憶に天岩戸(あまのいわと)代わりの妄想固有結界へと封印し、干将・莫耶を投影する。

 

まぁ、源外の言葉を信じるなら、俺と同時にもう1人の応援が勢巌の相手をしてくれている。まだ10秒経ってもここが破られないから本当なんだろうけど、あの化け物とやり合える人って────

 

「この数を覆す方法がお有りで?」

 

どうしても集中出来なかったところに、鞭のように痛烈な声で煽る夜右衛門が意識を引き戻した。

こっちはこっちで酷い目に遭わされたので、真似た相手とはいえ心が冷えびえする。お陰でもう雑念は入らない。

 

「先払いでいいなら、幾らでも?」

 

ここにいる時点で解析し終えた()に向けて、挨拶代わりの速攻射出を見舞う。

その数、似蔵の数だけ。

 

地面に突き立つ無数の剣。中には当然の如く、似蔵の手にする紅桜を複製している。統率された軍兵の如く引き抜かれて着弾地点に切っ先を向け、人の手がトリガーを握るバラつきの如き差で発射された。

 

「ばかな…」

 

そう溢したのは夜右衛門。

士郎の号砲とともに放たれた無数の紅桜によって、周囲の絵面は剣山のように生まれ変わっていく。

剣山を彩る季節はさながら秋。投影した紅桜が似蔵を貫き爆散するさまは、紅葉を彷彿とさせて対照的に曇天が青く見えるほど。

ここに異を唱えるのは似蔵の紅桜。主人を亡くして宙を舞う無数の妖刀、その淡く紅色に光る有り様が春の如く、剣山を紅の雲が彩りを与えた。

 

「凄い‼︎ 似蔵がもう半分まで減った‼︎」

「剣が似蔵を狙って追尾しています。1人で百人分…いえ剣の数分の戦力になる宝具…‼︎」

 

後ろで待機している彼らも確かな手応えに興奮している。まぁ宝具じゃないのは後で説明しよう!

 

「半分は残っちまった。こっから似蔵を倒すのは難しくなるな」

 

複製した紅桜による剣山攻撃を防いた似蔵たち。

想定よりも多い数に苦い声を漏らす。

 

無限の剣製を展開した別の理由は、もう1つ。

十八代目 池田夜右衛門から勝利を挙げるためだ。

そのために出来るだけ数を減らして、邪魔されるのを防ぎたかった。

 

「彼を倒せるのか」

 

似蔵の動向に注視しながら背中合わせに寄ってきた金髪の男、伍丸弐號は夜右衛門との対峙に疑問を投げてきた。

当然の質問だろう。ここで倒さないなら夜右衛門は江戸城に逃げて、直ぐにでも似蔵を補充して戻ってくる。そうなれば勝機は2度とこない。仕留められる確証が欲しいんだな。

 

「此処なら勝敗は半々だ。守るのは厳しいから、アンタは後ろの3人を守ってやってくれ」

「なら尚更、時間が足りない筈だ。30秒だと? この世界を魔術師が維持出来るとでも?」

 

既に10秒が経過した。

伍丸は俺が人間……それも魔術使い(魔術師見習い)だと見抜いて聞いてきている。夜右衛門を倒す確証か、固有結界を維持するだけの魔力供給源を見せてみろってことか。

あの目、勝機が無ければ切り捨てる気満々だ。

俺が言えることは────

 

()()なら好きにするといいさ。

けど、父親の背中見せるんなら、前向く時だろ」

 

伍丸…林 流山のかつての父親像を伝えるくらいか。

それで分かってはくれたらしい。

 

「────貴様」

()()()()()()()()()があるんだ。任せてくれ」

 

俺が大魔術である固有結界を2つや3つ展開しても、悠々と俺ん家の居間でお茶を啜って「そんなんじゃシロウのご飯食べたら回復するよ〜」と言ってのける、最強のお姫様がな!!

 

「紅桜の居合い斬りを、全員が無傷で躱せますかね」

 

委細を省いた自信で納得してもらったところで、残った似蔵の半分が更なる動きに出た。

こうも広い場所に出てきたのだ、妖刀紅桜の真価を発揮するには丁度良いに決まってる。

 

「でか…!」

 

死ぬなら進めと、決死の覚悟で攻める似蔵を相手にしていた盾の少女、そしてそのマスターが思わず空を見上げて呟く。

 

対戦艦用機械(カラクリ)機動兵器。

戦闘を学習する人工知能を有しているソレは、読んで字の如く戦艦に対抗出来る刀なのだ。当然、その刀身は戦艦を斬るに相応しい大きさへと変貌しちまう!

 

無限の剣製に現れた、戦艦規模に膨れ上がる紅桜、その数は十三本。身体に突き刺さる剣で絶命しておきながら、まだ紅桜に纏わり憑かれている。あれでは爆発したところで紅桜は止まらない。

 

だけど、ここは剣の世界。

 

「いいのか、それで」

「───────?」

「振るの間に合うのかって意味だよ」

 

戦艦を斬り裂ける紅桜は、地上の似蔵の数だけ複製し終えている。一瞬で彼らの頭上に複製した同規模の紅桜を、一気に振り下ろした。

 

消えていく似蔵を見る夜右衛門と似蔵たちは、皮膚から内側に走る怖気で目を見開いていた。

時代を生き抜く者の目、衛宮 士郎の覚悟に僅かに心が退いた。

 

介錯を待つばかりの罪人を。

戦艦に捻り潰されるだけの鬼を。

生前(かつて)銀時に届かなかった己の刃を、悔やむように。

 

「所詮は死罪人、ただの囮です。本命は魂洗(きもあら)いだ」

 

花びらのように散る似蔵を隠れ蓑にして、夜右衛門は士郎の背後へと回っていた。振り向こうとする瞬間、既に神速の太刀から逃れるすべは士郎から奪い去る。

士郎が握り締める(複製した)紅桜を無駄な足掻きと吐き捨てて、己が務めを果たした。

 

────首が落ちる。

 

「どういうこと…?」

 

立香が驚愕の声をあげる。

 

地面に転がる、似蔵の首を見て。

 

なにが起きたのか、夜右衛門は理解できない。

 

「なぜ似蔵がッ」

「そりゃあ、()だからさ」

「似蔵を………紅桜の正体を見破ったのか」

 

士郎の手元にあった紅桜は消え、代わりに“人を護る刀”が投影してある。いま夜右衛門が斬ったのは士郎の複製した紅桜であり、立香がオーダーチェンジを使ったわけではない。

自分たちの正体を固有結界によって見破られたことを、夜右衛門は漸く理解した。

 

少年は世界の垣根を越えて、銀色の魂を取り戻すために刀を握りしめる。

 

「俺のは複製。中身は何もないマネキンだ」

 

神速の太刀の虚で差をつけて、神速の太刀を越える。

 

「こんな荒業で、私が虚を突かれるとは…」

 

下から斜め上に斬り裂いて、刹那を制する剣の読み合いは少年の生存で終幕を迎えた。

 

「本物の夜右衛門なら、俺の首を斬れたさ。

銀時から罪を裁かれたアンタなら、な……」

 

生前、銀時から受けた切り傷と同じように刻まれた痛みを見ながら、夜右衛門は自らの刀を地面に手放した。

 

「どうすれば、よかったんですかね」

 

内側を血肉以下の材質で作られた身体を見ながら、夜右衛門は声にならない無念に問いかける。

 

「乳首を斬られたら、俺は負けてた」

「──────────────ふ」

 

偽りの身体に宿ったはりぼての魂が、士郎の眼差しを受け止めた。思わず笑ったのは返答が完璧だったから。

 

最初から、私は公儀処刑人などではなかった。

魂洗いが伍丸の首を切れなかったのは、人に返すだけの罪を既に償っていたからで。それすらも見極められない自分には、似蔵なんて細工がなくともこの少年の首は斬れなかっただろう。

 

「────────」

 

留まる理由を失くした悪鬼は、目を見開くことなく退去した。

 

「えええええ!乳首で退去したアアアアアア!?」

「良かった、最後に思い出せたんですね」

「マシュ?なんでこの流れでホロりときてるの!」

 

両手を口元に当てて感涙するマシュ。

立香からしてみれば、乳首を見失ったことが敗因にしか見えない。居合い斬りのとんでもない幕引きだ。

 

「やはりか」

「なんだ、分かってたなら余計なことしたかな」

 

士郎と伍丸、2人で頷き合う。

だが、理解しているのは2人だけで、立香たちは窮地を脱した興奮でブーストした勢いと、置いてけぼりの状況でも慌てて食らいつけた。

 

「ちょっと2人だけで納得しないで!?」

「ごめんごめん。簡単に言うとだな、似蔵…いや、夜右衛門やその他の敵は皆んな、剣で出来ていたんだ」

「な、なんじゃそりゃーーーーーー!?」

「えぇーーーーーーーーーーーーー!?」

 

簡潔すぎる訳の分からない答えだ。

 

「剣で出来ていた?それなんて田中脊髄剣?」

「いや違う!製造方法から違うから!」

「人から作ったのには変わりないんでしょ?」

「まだ確定したわけではない。この件を話さなかった裏切り野郎から色々と聞き出さねばならん」

「…そうだよ!土方さんを助けないと!」

 

一戦終わったばかりだが、悠長にしてる暇はないことを士郎も知っている。状況は把握しているから、

 

「よしきた。外に戻ろう」

 

立香に合点したと頷いて、ここを解く。

 

「あっ、そうだ忘れてた」

「あっ、僕も」

 

剣の丘がゆっくりと消灯していく。

士郎と立香はまだ名前も知らない、だけど通じるものを認め合って右手を差し出す。

 

「衛宮 士郎。第5次聖杯戦争、セイバーのマスターだ」

「藤丸 立香。カルデア所属、マシュのマスターだよ」

 

握手とともに、無限の剣製が溶け消えていく。

 

2人の主人公はこうして邂逅を果たした。

 

 

 

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

固有結界から現実世界…正確には銀の大地に戻ってきたとき、最初の違和感は足元にきた。

場面が転換するように入れ替わったから、足元の地面が削れてバランスを崩して転んでしまったのだ。

 

「いてっ!?」

 

我ながら間抜けな声で痛みを訴えつつ、尻もちした場所も凹んでいて背中も地面に着いてしまう。また奇妙なことに、平らだった地面とは思えないほどに背中で感じられるほど割れていた。

まるで、僕だけが別の場所に降ろされたような感覚。

 

「ひゃっ! これはどういうことでしょうか!?」

「バカな……何があったんだ…」

 

その心配は杞憂に終わる。すぐに聞こえてきた声はマシュと伍丸。神楽もバランスを崩してもたついている。

 

「うわぁ、どんな助っ人呼んだらこうなるんだ」

 

ただ1人、士郎だけは事態の成り行きを知っている風の言葉を漏らす。

何が何だか、まだ空しか見上げていない僕は、腹筋に力を入れて上半身を起こす……すると。

 

「な、なんじゃこれぇ……」

 

と、情けない言葉しか出なかった。

だって当然だ、30秒前の源外庵前の風景とは別物だ。

 

横を見れば源外庵の看板を掲げていた筈の建物がある。建物の前に源外庵の看板が三等分に切られて落ちていて、建物自体は上半分が斜めに両断されているから断定が出来ない。

周りの建物も似たようなものだ。建物が真っ二つになっていたり、上半分が消えて無くなって、その上半分はどこにも落ちていないとくる。呆れた建物にもなればジェンガのように歪な切り込みが入っていて、所々が消滅している。

剣を使ったのか、掘削機を持ち出す英霊がいるのかは検討がつかない。まるで怪獣が暴れた跡地のようだ。

 

「建物に切断面がある。

勢巌か、勢巌と戦った相手の仕業か」

「正鬼が暴れた痕に似てるけど?」

「見てみろ。ノコギリのように捩じ切った痕ではない。どんなに小さな面にでも切り口がある。

正鬼の仕業じゃないのは確かだ。そうだろう、士郎」

「俺も詳しくは知らない。ただ、勢巌を相手にする応援が来てくれると源外の爺さんから聞いてたんだ」

 

じゃあこれ、あの侍と、その応援に来た人とで作ったのか。あの侍、このレベルの実力を持っているのに大人しかったのは何故だ。

 

「なにっ!? ヤツに会ったのか!どこにいる!!」

「落ち着け!? ここには居ない!会う手段もないぞ!」

「────! まあいい、後で詳しく聞くぞ。聞くぞ」

「2度言わないでくれ。怖い、特に目が!」

 

興奮する伍丸を宥めつつ、周辺を調べていく。

だが特に見つかるものはない。

 

「今のところ戦闘はない。娘たちは…全滅か。仕方ない、痕はあっちに続いている。向かうぞ」

 

伍丸の分析を元に、僕たちは土方のあとを追う。

 

「はい!!」

 

戦闘はない。つまり、もう結果は出ている。

……受け入れる覚悟はあるけど、土方の新撰組への想いが簡単に終わらないことも分かっている。

それがいい方向に転がることを信じて、伍丸の案内についていく。

 

 

 

 

 








あーーーー士郎の戦闘シーンやっと書けたーーー!





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