〜あらすじ〜
江戸にマシュとは別の場所にレイシフトした立香。戸惑う彼のもとに現れたのはアーサー王だった。然し聖剣を振るってきた彼女を、駆けつけた伍丸弐號が止める。
辛くも撤退して拠点へと移動する途中、堀田 正鬼と遭遇し、吸血鬼の暴威を目の当たりにする。死も覚悟したとき、志村 剣を名乗る英霊が殿を引き受け、江戸最後の砦、吉原へと避難した。
吉原にレイシフトしていたマシュと合流し、鳳仙の居城、大広間へと案内される。
【林 流山の手帳】
召喚初日
意識が現界したとき、視覚情報が取り込んだ最初の光景は荒廃した江戸の街だった。
脳裏に駆け巡るこれまでの情報を理解、整理して迅速に行動を開始した。目の前に迫る、見えぬ敗北の旗をしっかりと映像に焼き付けながら。
2日目
驚くことに私の住む地球とは別の地球があることが判明した。
発端はかぶき町で暴虐の限りを尽くす正鬼から避難した場所でのこと。数日前に召喚されたというアーチャーのサーヴァントと遭遇し、堀田 正鬼のことを教わった流れから発覚した。
彼の真名、宝具まで聞けば信じるしかあるまい。
3日目
この日、四騎のサーヴァントが退去した。
3日間で九騎も正鬼に殺られている。こちらの英霊、正史の英霊など関係なく、正男は直視しただけで霊気を砕いた。
宇宙剣聖を名乗る侍に庇われなければ、今頃は私が……。
4日目
現界初日、正史の坂田 金時に連れて来られたターミナル。
まさか、江戸一帯がここを除いて毎夜、”焼却”されているとは知らなかった。彼に止められなければ、調査のために外に出るところだった。ターミナルが無事な理由は………予想は可能だ。だが物証が……もっと言えば、理解者が足りない。
明日、動いてみることにした。
5日目
焼かれた江戸は、次の朝には元通りに戻っていた。理由を聞いたが誰もこの理由を解明出来ないという。
昼間、押し寄せる大量の岡田 似蔵をやり過ごし、源外庵へと足を運んだ。このなかを今晩録画する。今日、複数のカメラを外に設置した。重要と思った場所、なんでもない舗装道路、本当にどこにでも設置した。
本当に江戸が焼却されているなら、このカメラも残らないだろう。無論、建物の中も。明日の朝、生きていれば確認する。
もし私がダメなら、この記しを読んだ者に託した。録画記録を確認してくれ。
6日目
”残っていた”
源外庵の入り口付近に設置したカメラはしっかりと映像を記録し続けている。
そこには信じられないものも映っていた。真夜中、焼却される街の最中、源外庵を横切る人影があったのだ。
影に特徴はない。正体を探るのは困難だろう。
そして予想は殆ど当たり、他のカメラは炭も残らずに消えていた。成る程、これなら外に江戸の住民が1人もいないのは頷ける。
7日目
この日、娘たちと日中の江戸の調査をしていたとき、信じられない人物を目撃した。
消息不明となっている坂田 銀時だ。ヤツを見つけた娘たちは一瞬で押し潰された。攻撃方法は恐らく地面から。それ以外は分からない。
情報が足りない。ただ言えることは、坂田 銀時の内側は別のなにかが入っていることくらいだ。娘たちを
あの魂は人類とは相入れない存在だと。
〜ここで手帳は閉じられた〜
▼
「うわぁ…」
大広間に到着した立香。
本日10回目にもなる感嘆を吐いた。
まさか屋内でこれほど見渡せるとは思っていなかった。
オケアノスの大海やアメリカの広大な大地とは違う、建築物として桁違いの開放感。吸い込まれるように歩き出した自分を見て、思わず苦笑いを溢すほど和の世界に惹かれていた。
「こんなに広いなんて…!不肖マシュ・キリエライト、駆け回りたい衝動がすごいです!」
「僕も一緒に走りたい!」
「こらこら、走り回るのはあとにしなさい?」
「吉原で鳳仙の癪に触れると問答無用で外に叩き出すそうだ。吉原は鳳仙の宝具、ここでの隠し事は無意味に等しい。悪口より褒めたほうが得するぞ」
興奮気味の2人を宥める日輪と伍丸。
「大袈裟だねぇ博士も。よっぽどのことじゃなきゃ追い出しやしないよ。話が終わったら好きなだけ暴れ回るといい。子供は風の子、湿気ったこの部屋を換気しな!」
くすぶるテンションを日輪が笑ったところで、いよいよ話し合いに本腰が入る。
「はい!では現状について聞いてもよろしいですか」
参加しているのは4名。
他にもサーヴァントや住んでいる人がいるらしいが、まだ手が空いていないらしい。
大広間の中央に腰を落ち着かせ、伍丸が口を開く。
「カルデアが知っているのは魔術王が此処を立ち去るまでの話か?」
「十界の方々が倒され、正鬼さんが”空想具現化”を展開したと聞いています」
「正鬼は魔術王から江戸を守ろうとしていました。なのに、どうして僕たちを襲ったんですか?」
ここに来て出会った正鬼のことをマシュには話した。
正鬼の行動は江戸を滅ぼす勢いだった。銀時に見せてもらった映像とは別人と言っても過言じゃない。どうしても信じられず、初めに聞きたいことを言う。
「それは正鬼が私たちの敵だからだ」
「そんな……。ま、まさか魔術王に!?」
「安心しろ、魔術王側ではない。都度7回の戦闘の中で、やつは魔術王に明確な殺意があると判明している。
我々を襲う理由は”吸血衝動”によるものだ」
天変地異と化したその理由を伍丸は言った。
吸血衝動。ダ・ヴィンチちゃんが言っていたのを思い出す。確か、真祖は吸血衝動を抑えるために死徒を作るんだとか。
「それって、血を吸えば治るんですよね」
「まぁ、正確には違うが概ねはね。けど、ここでは治るが治せない。なにせ”死徒”がいないからね」
真祖の吸血衝動を抑えるための食糧。
根本的な解決手段がないというのはどういうことだ。
「じゃあ、吸血衝動は…」
「止める手段は構築できても時間がない。となると、残された道の1つが打倒になるわけだ」
敵と表現したのはそういうことか。
江戸を守る手筈だった正鬼であれば、死徒を作るなりして吸血衝動を抑えるはずだ。あんな、江戸の街を破壊する行為は目的から離れている。
「…そう哀しい目をするな。打開策は他にもある」
「えっ。あるんですか!?」
「正鬼が現れたのは人理焼却から逃れるため。
この世界はまだ江戸だけ生き残っている。私たちはこの短期間で解析を続け、1つの憶測に辿り着いた。
江戸をカルデアという異世界と繋げたのでは、とね」
「ふむふむ………。ふむふむ????」
伍丸のセリフを噛んでみたが固すぎて歯がボロボロになってしまった。無惨に散った歯を拾いながらマシュに翻訳を頼むと、「カルデアに接近したものはありませんでした」とのこと。
物理的な意味でも無いと伍丸が言って、首を捻ることが止まらない2人に真横から声がかかった。
「つまりだ。カルデアと江戸の座標を重ねて、ここを擬似カルデアにして人理焼却から逃れたってわけよ」
「あっ、ドクターが言ってたやつだ!」
黎明な説明に漸くイメージが合致する。
カルデアは特別な磁場で守られたが故にいまも活動を続けていられる。その特性をなんと、座標を合わせる神技で江戸は守られているのだという。流石は吸血鬼…って。今の誰?
「学者殿、もう少し分かり易い言葉を選んでやんな。老骨と長話は人離れの始まりだろ」
大広間に入ってきたのは金色のストレートヘアに既視感のある服飾。坂田 銀時に似た背格好の色男だ。
「金時、話の腰を折るのはよせ」
「まあ拗ねんなって。
遠路はるばるよく来てくれた。兄弟たち、白詛って知ってるか?新型コ○ナウイルスみたいなもんだ。感染したら命に関わるんだが、うがい手洗いはしたか?清潔にしなきゃ追い出すって鳳仙が言ってたぜ」
「いえ、白詛どころかコ○ナもまだです」
「うがい手洗いを欠かしたことはありません、ゾロさん!」
「ゾロじゃあねえよ。俺は坂田 金時、オタクらの知る同名とは別人の金時だ。気安く金さんと呼んでくれ」
「分かったよ、金さん!」
「おいおい、飲み込み早いな!流石は正史の男だ!」
容姿通りの豪胆な笑いで手を挙げ、立香もまた合わせ鏡のように手を伸ばしてハイタッチを繰り広げる。
2人の横から恐る恐る手を出したマシュ。ハイタッチの姿勢を見た金時が爽やかハイタッチを決めて、流れるように立香も続く。ちょっと先走ったテンションに乗れたマシュは感激に浸り始めた。
「拗ねてない。娘を口説くヤリ○ンクズ男め」
「伍丸さん、すごい光出てるんですけど。タキオ○のトレーナーもビックリなエネルギーが目からステージ照らしてます」
「気にするな。アニメ銀魂255話での娘への仕打ちを衝動的に思い出しただけだ。娘の肌を傷つけやがって…」
「成る程!では仕方ありませんね」
「仕方なくないよ!?
マシュ、お願いだから
伍丸は”延長戦01”の金時の顔面を潰しながら。
マシュは銀時から送られてきたDVD完全生産限定盤を手にして肯首する。
「まあいい。大切なのは正鬼の目的だ。人理焼却から解放されれば吸血衝動も止まる、と仮定する。江戸に余計な力を使わず、眠りにつくはずだ」
希望的観測だと伍丸は知っているから断定しない。吸血衝動の解決策は彼の中にある。期待という不安定な要素で構成された、特異点よりも厄介なものだ。
話す必要はないと自己完結する。
「さて、なにか聞きたい事はあるか」
「はい。私たちと同じくレイシフトしたサーヴァントが3騎います。なにかご存知ではないでしょうか?」
「沖田 総司、ニコラ・テスラ、スカサハのことか?」
「えっ………」
3人の名前をピタリと当てられて困惑する。
「まさか、既にレイシフトしていたのでしょうか」
「その通りだ。彼らも不思議がっていた。バラバラにやって来たよ。先ずはニコラだった。正鬼の襲撃で退去し、沖田、最後にスカサハと、タイミングを見計らうように現れて手助けをしてくれた」
「いま吉原が稼働しているのはあの3人のお陰だね」
マシュが納得したため質問タイムは終わった。
「それで、貴様はなぜここに来た?源外の身柄でも確保したか?」
「
金時の言葉に伍丸は身を乗り出した。
「誰だ。その忌々しい殺人犯は」
「志村 新八だ。俺が仕掛けたガラクタを装ったカメラに映っていた。メイドの斬り口に血が付いている。原理は解析不明、溶接や修理が不可能ときた。人の成せる業じゃねーよ」
「…………あり得ない」
新八という名前を聞いて逡巡した立香。
銀時から探すように言われていたもう1人の名前だと思い出す。
「新八さんはここに居ないんですか?」
「あぁ、敵に捕まってる。安否不明だったが……どうやら精神でも乗っ取られてるらしい」
会話の流れから察しは出来たが、まさか敵に捕まっていたなんて。確か、羅生門の霧が連れ出してくれたはず。
それに、地上で出会ったサーヴァントの名前も確か…。
「僕たちを助けてくれた志村 剣の父親ですか?」
「剣?確かに剣に生きるヤツだが、根っからのオタクだ。生んだものといやあ、追っかけてたアイドルの
「馬鹿者。新八くんの子孫の話だ」
「分かってるから沸々すんなよ。
いねぇよ、子供どころか嫁さんも」
犬猿の仲のように見える伍丸と金時のやり取り。
お互い、知りたいことは理解しているから拳を握らない。
「確か、サーヴァントは縁に導かれて召喚されることもあるんだったな?」
「はい。人理に敵対する邪竜には竜殺しの英雄、犯罪の王様に世界の名探偵と。対となるサーヴァントが連鎖的に召喚されることがあります」
「なるほどねぇ。空知 ○秋に週間原稿、黛 冬優○に芹沢 あ○ひってことだな?インプットしたぜ」
「正史の情報を比喩にするのやめて!?」
「これだから源外のカラクリは……。
ここはfateに乗っ取るのが礼儀だろう。間桐 慎二に遠坂 凛、柳桐 一成に遠坂 凛だ」
「遠坂の力に頼りすぎだろ‼︎
金の亡者に弱みでも握られたか⁉︎」
らしくない突っ込みをする金時の上空で、ニコニコ笑顔の赤い悪魔がチラリと見えた。その横で微笑む冬優○もいる……気がした。錯覚だったそれには殺意があったけど、立香はそっと両手を合わせることにした。
「新八くんの異変と剣の召喚。なにか関係があるはずだ、書斎に戻る。情報を整理しておきたい」
「おい待ちなって。結論がないだろ。もっと早く言わなきゃ娘にも愛想尽かされるぜ?」
「娘が私に愛想を尽かすわけがないだろう!」
目を血走らせ、金時に食いかかる。どうやら娘というワードを容易に弄ってはならないようだ。
「結論ですか?」
だから脱線しかけた話を振った。
緩んでいた雰囲気でちょっと油断していたんだ。
「………では簡潔に、最終目標を伝えよう。
坂田 銀時の討伐。それでこの特異点は解決する」
伍丸の口から出てきたものは、喉をワイヤーで締め付けられたように息苦しい解決方法だった。
すぐに返事なんて、出来るはずなかった。
FGO7周年おめでとうございます。
そしてお久しぶりです。長らくお待たせしました。
二節を8月中に終わらせます。このお話はFGO7周年お祝いで予定より早く投稿しました。