fate/SN GO   作:ひとりのリク

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一節 江戸最後の砦へ

魔王が会話を割って入れた一撃。

それを上空へと打ち上げた時点で実力は出し切っていた。

 

(だが、退く理由にはならん)

 

軋む骨を心で堪え、伍丸が跳躍した瞬間に抜刀する。

 

「地球に委ねろ、死には至らん」

「聞かん坊めッ!!」

 

地面に寝転がったまま、空気を掬うように右手を伍丸に向けて伸ばす。

絵面としては面白い動作だが、その実、即死級の威力を込める意志を察知していた。存在が動くだけで地形が荒れる。

せっかく降りてきた希望をみすみす失うわけにはいかない。剣は刀ごと身体を前に倒し、大地を捻るように刀を斬り払った。

 

(なにッ!?刃が通らん!)

 

斬り落とすための一刀。

魔王の即死級の一撃を逸らしたまでは良かった。だが、刀は斬り込みを入れることもなく、甲高い音を伴い二の腕に止められた。

 

(手で掴んだ感触と違うな、どういうカラクリだ)

 

舌打ちをしながら背後を見る。

ビルの屋上に伍丸たちが達した。直ぐに視界から消え、あとは地下に下りるのみ。もう気にする必要もなくなると思った矢先、魔王の身体がいつの間にか立ち上がっていた。

その気配すら無かったことに驚く間も無く、煩わしいと言わんばかりに剣へ目掛けて左人差し指を穿つ。

 

刹那、路上を細い衝撃が突き抜ける。

 

それは光線でも、物体を投擲したのでもない。

指先に触れた空気ごと、ただ衝撃を押し出した。振動を散らし、路上にヒビが入るなかをつま先で軽快に飛び跳ねる剣。

 

(っ、ぶねェ!空間捻れたぞ、おい!?)

 

魔王の指先を見る前に回避し、衝撃波をも躱す。

そうしなければ、肉体が巻き込まれて死んでいた。

 

「けっ、流石は地球を名乗るだけあるぜ。

素振りするだけで大地が揺れやがるか!」

 

声を張り上げて己を鼓舞し、麻薬の如く恐怖心を拭って再び懐に飛び込む。

相変わらず視線は遠くを見ているが、剣の殺気に反応して腕を持ち上げる。反応速度はA級サーヴァントにも劣らないものだが、剣はそれを見越してギアを全快で懐へ入り込んでいた。

そして、首へ向けて刀を容赦なく振り上げた。

 

(喉にも切り傷1つ無しかよ!無敵か!?)

 

先ほどと同じく、刃が通ることはなく。

殴りつける右腕を躱して距離をとる。

 

5秒を過ぎて10秒目を刻んだ。

この攻防を以って伍丸たちは安全圏へ避難した。

 

(先ずは約束を果たした。

こっからは建物もお構いなしに行くぞ)

 

時間稼ぎを主体とした意識を置くことができる、と前傾姿勢に移ったとき。

 

「愛しき子よ。地球の記録にも”志村 剣”は存在する。同一人物だという確認も取れる。なのに、なぜプロファイリングが見れない」

 

ぼそり、遠くの地面を眺めながら発した問い。

 

「俺に聞かれてもよ?機械は壊すばっかだ。

それに、地球を欺けるほどの業を持っちゃいねえよ」

「そうか……」

 

たかだか10秒の出来事で体力を半分消費した。

少しでも回復に繋げたい剣の考えは、間も無く潰される。

 

「欺く道はあるのか」

 

紙切れを手離したように揺れる右の掌。

開かれた手のひらが剣に向けられたとき、ゆっくりと萎ませる。それだけで行動は終わった。

 

「あー、くそ。なんだ、そりゃ」

 

空気が捻れる。

剣の周囲が歪み、抜け出そうとする身体を柔らかく跳ね返す。

 

「地球は全てを知る。だが、理想には成れない。

だが捨てもしない。大人しく皆んなと祈ってくれ」

 

刀を振り払うが、斬れ味すら意味がない。

文字通り、空振り。その身を閉じ込めた檻の正体は空気と気付く。

一振りして気づいたのはそれだけではない。刀でなぞった空気がガラリと変わったのだ。柔らかな豆腐が地を砕く起爆剤に変化し、次に刀を振れば刀が折られるという確信がある。

 

「地球が正しく戻れる日を。

地球は皆んなを…守りたいんだ」

 

ここまでしておきながら、魔王は殺めることを迷うような声音で呟く。

しかし、次の攻撃を止めるつもりはカケラもない。

俯いたまま、魔王は右拳を構える。

 

「まだ″始まったばかり″の俺なら納得しよう」

 

剣が敗北を受け入れる。

次の瞬間、黄金の光に匹敵する右拳は振り抜かれた。

 

街を抉り、路を掻き散らし、雲を揺らす。

江戸全域に伝わる衝撃を放ったあと、魔王の視界には眩い光が一瞬だけ映っていた。

 

「火花……?」

 

剣が立っていた場所に散る火花。

それがなにを意味するのかを知る少年は、その場所には跡形もなく。

 

こうして藤丸 立香、伍丸弐號の撤退は果たされた。

 

 

 

 

 

 

ビルの陰に剣が隠れたとき、伍丸は立香の感情を測る。

後悔と自責を感じながら、同時に強く光る意志を観測した。

 

「……後ろを振り返らないんだな」

「剣さんの想いを無駄にしたくはありません」

「そうか」

 

想像以上に強い意志を持っていることを知る。

魔王を前にして救うと発言したことも嘘偽りではない。伍丸が不可能だと判断している事態を、立香は成し遂げると宣った。

 

「見えた。あれが吉原への入り口だ」

 

状況の好転にはこれくらいの勢いが必要かもしれない。そんなことを思いながら、視線の先に見えた門を伝える。

 

「あれが!けど、周りからすごい浮いてますね」

「仕方あるまい、夜王が所構わず作っているからな」

 

ビル街の中心にぽつんと建造された絢爛な門。地下へ続くそれは、どう見ても異物感があり、よく言えば目立つ。

不用意に開け放たれた門へ、一直線に跳躍するために踏み込んだ足。

 

「あれ、まさか宝ぐわあ!?」

「チッ、面倒な!」

 

背後に迫る殺気を感知し、真横へと方向転換する。

 

「おやあ、外しちまうたあ思わなかったよ。

アンタ、さてはまた賢くなったね?」

 

ぐにゃり。

そんな擬音が似合う笑みを浮かべ、オールバックの男が刀を振り下ろしていた。

 

「ふん、呑気だな」

「ん、こりゃ……」

 

追撃を試みる男の喉元に、伍丸の右手が引っ付いていた。そして次の瞬間、悲鳴も許すことなく首から上を右手諸共爆発してしまう。

 

「ええええ!?」

「慌てるな、パーツは自動再生する」

 

魔力の粒子となって消え去っていく男。

そして、魔力を纏って形を成す右手。

 

「今のもサーヴァントですか!?」

「岡田 似蔵。人斬り似蔵の名で知られる辻斬りだ」

「そっか……けど、呆気なく倒せて良かった…」

 

安堵の息を吐いて前を見たとき、振り返った先で似蔵がベタつく笑みを浮かべ居合いの構えを取っていた。

 

「酷いねぇ、博士さん。あんなの食らっちまったら、どんなヤツでも霊気が壊れちまうよ」

「え、え!?」

 

振り抜かれる刀。

それを、パーツを組み変えた左手で止める。

 

「邪魔だ、辻斬りッ!!」

 

親指を似蔵の顔に向けると、弾丸の如く眉間を撃ち抜いた。

 

「ど、どういうことですか!?

「詳細は不明だが、サーヴァントであることに間違いはない。なぜ増えるかも知らん。

分かっていることは、とにかく数が多いことくらいか」

 

補填される親指を確認しながら言う。

 

「だが、おかしい。対似蔵用のカラクリメイドを100人配備していた。なぜ1人もいない、どうして私に連絡も来なかった」

 

門の周辺にメイドらしき影はなく。

代わりに、待ち伏せしていた数百はあろう岡田 似蔵が生理的拒絶を促す笑みでこちらを見ている。

独特の隠れ方、恐らくはアサシンだ。そして。

 

「この数は想定外…っぐ!?」

 

突破を試みようとした矢先。

大気を揺らし、地面を迫り上げるほどの衝撃が立香たちの感覚を襲う。

 

「この衝撃は……!?」

「Aランク宝具に匹敵する衝撃。……剣がいた方角か。下手をすればあと数秒で魔王が来る」

 

伍丸の分析が意味するところ。

セイバー、志村 剣が魔王に敗れた可能性の示唆。

 

考え過ぎと言う資格はない。

剣は覚悟して送り出したのだ。立香もその結末を受け入れる覚悟をした。そして魔王の暴走を止めてみせると決めたのだ。なら、伍丸とここを切り抜けなければ格好悪いにも程がある。

 

10秒の刻を稼いでくれたことに感謝しつつ。

襲い来る似蔵を躱す伍丸の背中で、立香は腕を動かす。

 

「剣の稼いだ時間を無駄にするもんか…!」

 

魔術礼装を起動し、伍丸に手のひらを当てる。

カシャリと音を立てて手のひらから礼装が起動し、伍丸の全身を淡い光が包み込む。襲い来る似蔵を払い除けていた伍丸は、この行動を即座に解析。

 

「成る程、霊気の瞬間的な強化か。良し」

 

逃げに回るしかなかった状況を打破するべく、一気に中央突破へと切り替える。

指を開き、視界を覆うように雪崩れ襲い来る似蔵へと五指を向ける。カロ、と中で転がる音が過ぎた瞬間。辺り一面に眩い光が炸裂、半径十数メートルに迫っていた似蔵たちが塵と化した。

 

「レーザー光線!?!」

「メイドを作る過程の産物だ。いまの強化をレーザーの拡散出力に充てた。これなら焼き尽くして退避できる!」

 

視界が拓け、似蔵が割り込むまでに隙が生まれた。

伍丸は次に両手を門へ向ける。独特の凝縮音を伴い、眼前の似蔵たちへ向けて再び強化されたレーザー光線…前方集中型を放った。

 

「やった、道ができた!」

 

門まで十数メートル。

この距離を1秒もせずに駆けることは容易。

加えて、レーザー光線が道を補強し、割り込もうものなら電撃が襲う。散らばる光に触れた似蔵たちは次々に黒焦げとなり、道には刀の破片が在るのみ。

 

「霊気反応無し。行くぞ、掴まれ」

 

立香を抱えなおし、伍丸が道の中央を駆けた。

食らいつくように数で押し寄せる似蔵。丸い光を掻い潜る似蔵がいるが、それでも刃は補強された道に斬り込むことは叶わず。

 

あと一歩で門にたどり着く。

立香が息を飲んで事なきを願った視線の先。

声も出ないほど驚きに目を見開いていた。

 

「この、辻斬りがッ!」

「ざぁんねん。俺はただの”隠れ蓑”なのさ。

鉄屑だからって素通りは良くないねえ!!」

 

前方にゆらりと現れる1人の似蔵。

直後、伍丸は後方にも1人現れたことを探知する。

進入を許したわけではなく。

この道に隠れる場所なんてない。

 

(魔術礼装はまだ使えない……そんな……!)

(自動迎撃も反応していない。まずい……!)

 

抵抗する手段が一手遅れる。

相手は居合いの達人。伍丸とて、機械の備えあってこそ対応出来たのだ。不意打ちにおいて、辻斬りに先手を取れる手段はもうない。

 

にたり、勝利の嘲笑が浮かぶ。

懐の刀が鞘から抜かれ、閃く瞬間。

 

「オオ、オオオオォォォ!!」

 

颯爽と、そして吹き荒ぶ足音を連れて、怒号が響いた。

 

「テメェら、退かねえなら死ね‼︎」

 

襲い来る背後の辻斬りが刻まれ、ボトボトと肉片となり、直ぐに魔力の粒子と成り果てる。

 

「チッ…だが!」

 

誰よりもソレを認識していた前方の似蔵。

背後に現れた新たな人物は、しかし刀を割り込ませるだけの隙間はない。追い越すことはレーザー光線で作った道が阻む。漸く迎撃が間に合うかもしれないと、伍丸が腕を動かすときにガシャリと音が鳴る。

 

「刀で間に合わねえなら、こいつだ」

「……あーぁ、こりゃ参っ────」

 

立香の横から飛び出したのは銃身。

居合いより疾く撃鉄が銃声を鳴らし、最後の障害である似蔵の眉間を撃ち抜いた。

 

「ヅアアアア!!」

「うおわあっ!?」

 

そして、勢いそのままに門のなかへと連れ込まれる。

 

門を潜り、提灯が道を示す世界。

頭が揺れるような数秒間が過ぎた矢先、門の前を竜巻の如き衝撃が通り抜ける。

 

「あれは、魔王の一撃か!?」

「ふぅ、間一髪ってとこか。冷やりとしたぜ」

 

息を吐く両者。

しかし、立香はまだ門の近くにいるかもしれない似蔵に警戒していた。早く門を閉めようと提言するために振り向く。

 

「おい伍丸、カルデアのをよく連れて帰ったな。

お前も今日から”新選組”だ、あとで沢庵出してやる」

「何度も言わせるな、私に栄養摂取は必要ない。

だが助かった、この借りは新選組全員のメイド服を支給で返してやる」

「何度も言わせるな、ウチは奉仕屋じゃねえ」

 

などと、呑気に軽口を叩き合っていた。

気配を感じて門のほうに視線を移す。

そこには、先ほどの災害から逃れたであろえ似蔵たちが門を潜っていた。

 

「ちょ、2人とも!まだ似蔵が入ってくる!早く入り口を閉めないと!」

「いや、その必要はない」

 

伍丸の言葉に、もう1人の男性が顎で見ろと言う。

視線を再び戻すと、侵入してきた似蔵たちがたちまちに門の外へ吹き飛ばされていく。死というオマケつきで。

 

「夜王の断りなく立ち入った者は試される。

夜王の重圧に耐えられない者は地上に逆戻りだ」

「はっ、これだから辻斬り風情は」

「い、いまのって…」

「鳳仙の野郎が好き勝手開閉できる仕組みだ。

どのみち俺らに出来ることじゃねぇしな」

 

え、俺大丈夫?

 

「立香のことは夜王も承知している。

こうして立っていることがなによりの証拠だ」

「そ、そうですか…良かった…」

 

漸くここが安全地帯だと受け入れられる。

緊張感が解け、一息ついたところで偉丈夫の男性に向き直る。

 

改めて見ると威圧感が凄い人だ。

腰に差した刀、反対側にぶら下がる銃。マスケット銃っぽいと思いながら、刀との異色の組み合わせにどの時代の英霊なのか見当がつかなくなる。だが、ここで尻込みしては失礼だと、感謝を精一杯に声にする。

 

「先ほどは助けていただきありがとうございます。

僕は藤丸 立香、カルデアのマスターをやってます!」

「あぁ、挨拶が遅れた。

クラスはバーサーカー。真名は土方 歳三

新選組って言えば分かるだろ?近代で言う警察組織の副長をやっている」

 

戦闘とは打って変わり、落ち着いたもの腰で真名を明かした土方 歳三。

 

(土方 歳三っていったら、鬼の副長で有名なあの!?)

 

驚くところはバーサーカーのクラスというところ。

会ってきたなかでまともに会話が出来るバーサーカーは坂田 金時くらいなものだった。

 

「そして、此処が夜王鳳仙が治めていた吉原。

俺たちの拠点(とんしょ)だ。それで、立香。いや、新入り。

晴れて今日からお前も新選組だ!」

 

久しぶりの新鮮さに頬を綻ばせる。

たったいま飛び出した、変な言葉もきっとコミュニケーションの1つだと信じて。

 

「はい!宜しくお願いしま────」

 

笑顔で握手を求めた矢先。

 

「タ〝ク〝ア〝ン〝!?」

 

歳三の身体は、何かに跳ね飛ばされるように門の外に放り出されていた。

 

「えええええええええ!?」

 

余りの勢いに叫んでいると、伍丸が呆れ顔で状況を説明する。

 

「因みに、土方は夜王から認めてもらっていない。ああして吉原を屯所呼びするたびに拒絶されている」

「いや、アンタも認められてなかったんかいィィィ‼︎」

 

 

 

〜一節 完〜

 

 

 

 

 

 

 







雑談なので飛ばして大丈夫です。

ずががっと一節を書きました。
スパンを空けず、これだけ連投したのはこの作品では序章以来です。
こんな感じで4/4章は各節ごとに、ストックができるまでは投稿しません。たまにTwitterをチェックしてくだされば、そのうち予約投稿をしていると思います。

それでですね、ざっくりと味方の登場キャラクターをお見せすることができたと思ってます。
事前に公表した3人の他に、晴太、伍丸弐號、日輪、志村 剣、そして土方 歳三と。剣、歳三については予想出来たかな?どうだろう、微妙ですね。4/4章の告知で、『天堂無心流』『新選組』を入れておいたので、納得はできるかな?

敵についても、アルトリアと似蔵は予想出来た読者さまも多そうと勝手に思ってます。(アルトリアは1話目の締め方から、似蔵はめっちゃ敵ポジで出しやすそう)
似蔵が増える理由は今後掘り下げていきます。予想もし易いようにセリフのなかにヒントを混ぜているので、暇つぶしにでもどうぞ!

次の二節は今年中に準備します。
では皆さま、またのお越しをお待ちしております。

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