fate/SN GO   作:ひとりのリク

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一節 最初の抗戦

 

 

 

 

自らを機械(カラクリ)技師だと名乗る、人の名前にしては些か無機物に過ぎる英霊。

 

「伍丸……弐號?」

「聞いたことは無いはずだ。坂田 銀時と同じく、空想の住人らしい」

 

彼はこちらを見て答える。

 

次に、耳に手を当てるとパチリと音が鳴る。

 

「こちら伍丸弐號、カルデアのマスターを確保。捜索にあたる者は至急戻られたし」

 

誰かたちに向けて、通信を送ったところだった。

本当はマシュのことや同行してくれた沖田さんたちのことを言うべきなのだ。けど、状況はそうさせてくれない。眼前で機を伺う騎士王を前にして、下手に動けば殺される。

 

…というか。

そのクラス、キャスターだと言うのに。セイバークラスの最強格に等しいアルトリア・ペンドラゴンを前にして、挑発しているとも受け取れるほど無防備に立ち、睨み合いに応じている。

 

それも当然だ。伍丸弐號は自らを空想の住人と言った。なら、アルトリア・ペンドラゴン…アーサー王伝説のことは知らないはずだ。

 

「伍丸さん!彼女は───」

「大丈夫だ、安心して見ていろ」

 

それでも、彼の瞳は自信に満ちている。

6つの特異点、そして微小特異点で見てきた、諦めることを知らない英雄たちと同じ眼だ。世界が焼却されていく時代で培われた、前に進む姿がそこにはあった。

 

説得力のある言葉を伝えて、伍丸弐號はアルトリアへ向き直った。

 

「……気色の悪い身体だな、セイバー。悪魔に身体を売っても、思想くらいは見逃してもらえるというのに。

その身体、文字通り骨の髄まで堕ちたか」

「理解を求めるほど悠長に構える時間はない、空想の住人よ。元より、私に与えられた猶予が永遠にあったとしても、だ」

 

ゆっくりと言葉を紡ぐ声音は徐々に沈んでいく。

 

小さな体躯を見下ろす伍丸の腕が、最後まで聞き届ける前にノーモーションで動いた。人間の動きとしては理解に苦しむ駆動で指の関節が回り、そして指先から電撃がアルトリアへと奔る。

 

それはアルトリアとの数行の会話を経て、価値を見出せなかったことを意味する先制攻撃。ダ・ヴィンチも驚きの両腕魔改造。

だけど、そんなもので彼女は止められない。

 

「甘く見られたものだ」

 

冷たく言い放ち、力強く地面を踏みしめる。

落とした重心を一気に蹴り出し、魔術師の得意とする遠距離を潰す。

金の砲撃を一振りで払い、瞬く間に踏み込んだ。

なによりも、アルトリアの対魔力はAランク。キャスターとの相性は最高なのだから、振り払う動作に違和感を感じるほど。

 

しかし、その声を届ける間も無く。

呆気なく、絶命の一撃が伍丸の胴を真っ二つに斬り割いた。

 

「あ、ぁ…」

 

助言を挟む隙を与えず、戦いの覇者は1秒で勝利を眼前に捉える。立香に出来る抵抗はある。だが、騎士王を前にして可能な動作など万に一つとして実行前に斬り伏せられてしまう。

ゆえに、特異点の修復。

人理焼却を阻止できないまま旅が終わる。

 

敗北の実感が背筋を駆け抜けた次の瞬間。

 

「そうか……キミと私は存外、似た者同士なのだな」

「ッ!?」

 

決した勝負、その余韻となるたった1秒。

宙を舞う伍丸弐號の上半身が電撃を放ち、アルトリアの鎧に傷をつける。予想外の反撃に大きく飛び退く小さな身体。そこへ、残された下半身が飛び蹴りを捻じ込んでいく。

聖剣で受け止め、滞空中に3撃を返す。

全てが下半身を斬り裂くも、地面に立つ時には原理は不明だが繋がっていた。

 

光の粒子となり弾け、落下する上半身に纏ったかと思えば下半身が元通りくっ付いていた。

 

「か、身体が斬られたのに!?」

「言っただろう、江戸一のカラクリ技師と。

私ほどにもなれば、全身をカラクリにすることなど容易い。寧ろ、ここまでがチュートリアルだ」

 

いや確かに技術者っていうか、科学者の英霊とかは身体の一部分を機械作りにしたりしてるけども……。

まさか中身すら機械だなんて思わないぞ!?

 

「ぜ、全身…機械(カラクリ)!?」

「滅多なことでは死なない。

後でこの身体の素晴らしさを教えよう、異世界の人よ」

 

既に素晴らしさの大部分を見せられた気がする。

そんな言葉を出そうとして、背後から迫る黄金の剣に目が釘付けとなっていた。

 

「奇怪な身体だろうと、マスターを斬れば済む話だ」

 

今度は不死体にも似る伍丸を斬り捨て、立香を殺さんとアルトリアが疾る。早くも最短での決着を見極める相手に、伍丸は淡々とした態度で見つめる。

 

「元より、技術者の私が戦いのイロハなんぞ知るわけがない。効率よく結果を出すための身体だ」

 

勝利の剣が再び伍丸に届く直前。

足元から浮かび上がる影が天上へ伸びる。

 

「似-参丸伍號、出番だ」

「お任せください!ですわ〜ッ!!!」

 

荒々しい旋風が煌めく一撃を弾き飛ばしていた。

余波の強さに思わず両腕で顔を隠す。

 

「新しいサーヴァント!?」

 

桃色の頭髪に業務用モップを携えた少女。

華奢な体躯からは想像もできない威力でモップを振り、アルトリアを後退させていく。

 

「まァ、その剣、黄色に光ってます!きっと子供がおし○こしちゃったんですわね!廃棄します!」

「貴様…ッ、言葉の軽さと力が乖離しすぎだろう…!」

 

聖剣の煌めきを排泄塗れと侮辱され、額に青筋を浮かべて対抗する。特異点冬木やキャメロットからは想像もしていなかった。凛とした風貌を崩さずに戦う彼女が、あっさりと怒りを面に出すなんて。

 

伍丸はそれすらも知らない。

中々に凄いことなのだが、身を翻してこちらの身体を抱えると、戦闘中の両者を置いてあっさりと戦線離脱した。

 

「え、ちょっと!?あのサーヴァントは!?」

「このまま離脱する。私のメイドは特注品。対騎士王戦闘メイドだ、十分に時間は稼げる」

「ま、待ってください!まだマシュが……仲間がいるんです!」

「あぁ、それなら安心しろ。江戸に現れた”2人”のレイシフトは私の方で観測している。

残る1人は私たちの目的地に現れた」

「2人って……」

 

伍丸の言葉、レイシフトしてきた2人という数字に疑問を抱く。ここに来たのはマシュ・キリエライト、沖田 総司、スカサハ、そしてニコラ・テスラだ。

 

1人はマシュだと思う…そう思いたい。

そして、レイシフトしていない他の3人はどうしたんだ?

 

悩んでも出ない答えを思考の片隅に置いて、次の課題を知るべく伍丸に問う。

 

「あの、目的地って何処なんですか?」

「向かう先は江戸最後の安全地帯、吉原だ」

 

行き先を聞いて生唾を呑みこむなか、颯爽と建物を置き去りにして進んでいく。

 

 

 

───

 

──

 

 

 

ガシャリ、地面に機械の破片が飛び散る。

次いで投げ出される肢体、頭部。血は無く、代わりに電気回路がショートして火花を散らしていた。

 

「うふ、ふふふふ……。確かに見ましたわ、貴女のお手前。次に会うときは、お覚悟を───」

 

不気味に言葉知りを濁してメイドの機能は停止した。

20秒で似-参丸伍號の猛攻を斬り伏せたアルトリア。

 

直感で、今からなら追いつけると確信。

身体を屈めて伍丸とカルデアのマスターを追う準備に入ったとき、背後に現れた気配に迷わず距離を取る。

 

「誰だ!」

 

振り向いて背筋が伸びるほどの声量で問いかける。

 

「そこの勇敢な騎士よ、異郷の地で何処に行く?

お上も逃げ出す、かぶき町緊急事態宣言中だというのに」

 

立っていたのは紅い羽織を纏う長身の男。

褐色の肌を巧く魅せながら、仁侠とした日傘を持ち上げながら憎らしく笑ってみせる。

 

「貴様もカルデアのサーヴァントか?」

「……キミの上司からはなにも聞いていないのか?

あぁ、答えなくていい。一国の王に対して上下関係など、言うほうが無粋だったな」

 

男は何処からともなく刀を手に構えた。

金色の龍の鍔が特徴的な刀を握る顔は、清々しいほどに澄んでいる。

 

「それに、この手の輩は早めに潰すに限る。

小さな火を燃え広がるまで待つ必要はない」

 

キザに口元を上げる。

時代に染まる鮮やかな装いが風に吹かれ、ハタリと凪いだ瞬間。

 

「そうか。ならば斬り伏せてカルデアのマスターを追うまでのこと」

「ふん、騎士王の真似事が上手いな、鉄屑」

 

青い奔流と紅い剣劇が同時に金属音を響かせる。

 

ここに、もう1つの死闘が幕を上げた。

 

 

 


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