fate/SN GO   作:ひとりのリク

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「アーチャー、狙撃の準備!」
「………あぁ、そうそう。凛………」



夜王の如く

衝撃的な現実。

言葉を忘れる瞬間。

何かを考えるなんて、この時に限ってはあり得ない。

どうしてって、

 

「士郎、近寄りすぎたらあぶねぇぞ?」

「セイバーの戦いを近くでみたいんだ。それより、」

 

気づいたら、坂を駆け上がっていた。息を切らしながら、セイバーの元に立つ自分がいた。

あの大男を、その木刀一つで数十メートルも動かした。その事実が、固まっていた俺の躊躇を打ち砕いてくれた。

不思議な緊張感。ここでするべき事は、

 

「よそ見してたらあぶないぞ?」

「ハハ、違いねえ!」

 

セイバーを笑顔で見送るくらいかもしれない。

出来るだけニンマリと笑い、セイバーに言葉を掛けた。すると、彼もまた笑い、その言葉を聞いて地を蹴る背中を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

凛&アーチャー

 

「アーチャー、狙撃の準備。こっちは出遅れちゃったけど、今すぐにセイバーの援護をお願い」

 

坂の下、アーチャーは凛の指示を聞く。そして、

 

「凛、君に死なれては困る。付いて来い」

「…どういうこと、きゃっ、ちょっとアーチャー!?」

 

凛の身体を持ち上げるなり、戦いの場とは反対方向へ跳躍していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂気の咆哮が大地を揺らす。遠くで聞く者すら、感じる死の戦音。

少し離れた場所にいる公園から起き上がる、巨大の戦士。セイバーへと突き刺す視線は、其処から、イリヤから離れろと怒りを露わにしている。

イリヤが、待っている。少女が必死に訴える、名前を呼ぶ声が耳に届いたと同時に、その場から跳躍。ヒュンという風切り音の後に、公園の中心地点に降り立つ。その巨体からは予想も出来ない速さで、主の横に立つセイバーへ目掛け、破壊の猛進撃が地を抉る。

地面に足跡を残す圧。その踏み込みは、狙われた者にとって戦慄させられる痕だ。この一歩を踏み終えて、二歩目で飛び出した時、バーサーカーの突撃を躱すのは困難で、致命的なダメージを負いかねない。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!!」

 

セイバーは誰よりも先の悲惨を想像し、迫り来る戦士へと視線を向ける。何よりも避けるべき状況を、場所を。彼は即座に見極めたようだ。

隣に立つ少女に攻撃をしない。

その意志を確認して、士郎はホッと安堵した。次に感情を覆うのは、こちらへと矛を向ける狂戦士への恐怖……ではなかった。右手に握る木刀を、士郎を護るように構えているセイバーに対する、どうしようもなく抑えきれないイメージ。

まるでインスピレーションを探し求める小説家のようで、士郎はセイバーから、何か分かりもしない答えを見つけ出そうとしていた。

 

自分の在り方か。

はたまた、未来への姿か。

 

ふと、似つかわしくなくセイバーの背中を見ていた。気を引き締めなければ、と頬を軽く叩いた。意識をこちら側へと戻すと、セイバーが木刀を居合の構えで踏み込んだ瞬間。確信した。また、あの動きをするのだと。

 

それは、コマを跨ぐかのような移動。

 

「い、いない……!」

 

見失った。

目の前から消えた。やっぱり、風音も立たない。

けど、見失ったのは一瞬で、セイバーが何処にいるのかは確信していた。

駆け出したばかりで、武器を構えてすらいないバーサーカーの頭上。

セイバーは一瞬にして距離を詰めて、″自身″の木刀を振り下ろすように叩き込んだ場面を目撃する。前進していたバーサーカーは勢いよく地面に減り込み、唸り声を上げる。しかし、不意の一撃にも関わらず。バーサーカーは身体を捻りながら両手で地面を押し、即座に態勢を整えた。

 

もう、何もかもが圧感だ。攻めも、受けも。

ピリッと何かが俺の中に生まれそうだ。

 

交差する形で距離が離れたセイバーの位置を確認するべく、飢えた視線を上げる。

 

「…!」

「よぉ」

 

そこには既に、セイバーがバーサーカーの顔面へ目掛けて木刀を突き出している姿。バーサーカーは岩石から削り取ったようにゴツゴツとした剣を上へと払い、木刀の軌道をずらそうと試みる。

だが、コンマ一秒という、無いようで長い時に見放されて眉間に凄まじい衝動が走っていた。

その身体は木刀の攻撃に耐えきれずに、支えきれなくなった頭から地面へ向け、身体がしなるように反り回る。抗いきれない力に身を任せながら、右手で強く握る剣をセイバーの顎へ向けて振り上げる。

バーサーカーとは思えない戦闘のセンスに目を見開きながら、セイバーは木刀を身体に寄せ、空中でその反撃を受け止める。

 

「………」

「………」

 

二人は後ろへと吹き飛ぶ。そして、二人同時に地に足を着けて。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!」

 

セイバーは再び地を蹴り、バーサーカーはその場で斧剣を振り下ろした。

また、コマを飛ばすような速さ。イリヤスフィールは、気配遮断かと疑問を持つ。その捉えられない動きには、説明があまりにも足りていない。

故にセイバーの跳躍が、視認が難しい程の域に達しているのだと解釈したのはバーサーカー。セイバーの跳躍に合わせて振り下ろし、その姿と疾さを見極めようとする。

先程、木刀を眉間に叩き込まれた時を思い返す。あの時の、距離を詰めてきた時間を身体で覚えているバーサーカーは、

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!」

 

身体に委ね、感覚を研ぎ澄まし、タイミングに合わせて剣を地面へ叩きつけた。相当に力を込めていたと見える一振りは、叩きつけた地面を砕き、ヒビを入れて抉り出した。

バーサーカーといえど、中身は生粋の戦士。理性が飛ばされようとも、卓越した戦闘技術は無くなるものではない。だからその一振りは、確かにセイバーの跳躍に寸分違わず合っている…!

 

 

 

 

だから、イリヤスフィールは信じられなかった。

 

 

 

 

「◼︎◼︎!?」

 

 

 

 

 

砂埃が舞う豪源の中から、身が引き締められる打撃音を数回聞き届けた後、林の向こうへと吹き飛んでゆくバーサーカー。あの狂戦士が宙を舞う姿を、目を見開いて驚愕する。思わず息を忘れて、その行方を少しの間、見送っていた。

 

 

「…そんな」

 

 

語れる言葉を忘れて、原因の全てである一人の英雄の姿を思い浮かべる。ふざけた髪型で、いいかげんな武器。木刀でサーヴァントであるバーサーカーを叩き伏せる実力の持ち主。

彼女の神経を逆撫でしているのは、それだけではない。それらは全て、たった一つの部分から派生している苛立ち。きっと、セイバーのサーヴァントがもっと優秀で、もっとマトモなら、ここまで怒りを覚える事はない。例え、衛宮 士郎という男がマスターだとしても。ここまでの怒りに達する事はなかったはずだ。

銀髪のサーヴァント、セイバーでなければ。

 

「その目…死人みたいな目。やめて…」

 

呼吸が乱れていく。

バーサーカーを開幕て吹き飛ばし、自身の隣にいたにも関わらず。殺すことも、人質にする事もない。ただ、今夜は帰って欲しいと、″死んだ瞳″で話しかけられた。

あの屈辱が、あの瞳が、一人の憎悪の産みの親(愛していた男)を思い出させる。

 

 

 

しつこく舞っていた砂埃の中から姿を現す、セイバーのサーヴァント。

全く覇気を感じなかった、銀髪の下から見える目。欠片程も油断はしていなかったイリヤはそれでも、認めざるを得ない状況だと現実を受け止める他なかった。

苛立ちでどうにかなってしまいそうな感情を落ち着かせて、一呼吸。

住宅街から離れ、バーサーカーとセイバーが戦っていた公園の周りにあるアスファルト路に踏み入れながら、更に深呼吸をする。バーサーカーが飛ばされた方向を見て、あのギリシャの大英雄が押し負けた事を再確認する。心の中で、悔しさが生まれた。決して表情には表れない程度の、対抗心。

 

「認めるわ。さっきのは私と、バーサーカーの慢心が招いた結果よ。だけど、これきり。もう次はないと知りなさい、セイバー。その目の輝きは、不要よ」

「……」

 

セイバーと視線が合う。

バーサーカーとの戦闘で、ギラギラに燃えている侍。

セイバーを敵として認め、必ず殺すと目で伝える少女。

 

「バーサーカー、そのクラスを存分に奮いなさい。セイバーを、そしてそのマスターを殺して」

 

その一言で、狂化の合図となった。

今頃、赤黒く沸騰する狂戦士の姿が林の向こうにある。

更に狂度を増した咆哮。受け皿のないイリヤの怒りを共有した叫び。

漲ると言うには例えとして物足りなさを感じる。それを聞いて、何の戸惑いもなくセイバーはバーサーカーの元へと走り、公園の中を駆け抜けて林へと消えていった。

 

 

 

「セイバーッ‼︎」

 

 

 

彼の背中を追って走ってきたけど、見つけたと思えば林の暗闇へと消えてしまった。

セイバーの戦いをもっと見ていたいと、士郎は後を追いかけていく。

本能が、そうしろと全身に信号を送るのだ。それに、異議を唱えずにいるのは、何かあると確信しているからだと思う。

 

 

 

 

「セイバー!」

 

声を上げて粉塵に紛れて見えないであろう、彼の名前を呼んだ。彼の背中が消えて行った林の入り口に立つと、現実では滅多に見ないであろう荒れ方に息をのんだ。

木々が何本も倒されている。千切れている箇所は、何かがぶつかった後だとハッキリと理解出来る。これは多分、バーサーカーが吹き飛ばされた先にあった木だ。これらがクッション代わりになったのだろうか。そこまでは分からないが、木々が倒れている跡を追えば、セイバーに追いつける。そうと決まれば、セイバーに追いつかなければならないと、不安をのみ込んで走り出す為の一歩を前に出す。

 

「待て」

「うわあっ!?」

 

駆け出した瞬間に、足に何かが引っかかって転けた。情けない声と共に、ドカッという鈍い音が出た。他人事ではない。これ、かなり痛い。

 

「静かにしたらどうだ。マスターがそれではセイバーも落ち着いていられないだろう?」

「いって……アーチャー、何しやがる?いや、それより今まで何をしていた。遠坂はどうした?」

 

焦る士郎の後ろから、アーチャーが腕組みをしながらそう言った。転ばされた事に不満を感じつつ、アーチャーの行動に疑問を持つ。どうして彼は、ここにいるのだ。凛は、どこだ。

 

「答える時間はない。それよりも、今の君が、バーサーカーと交戦中のセイバーの元へ行って何になる?」

「それは……」

 

士郎の疑問は一蹴される。もう、ここで聞いても無駄らしい。

アーチャーはサーヴァント。英雄として現界した者だ。特別、彼にその疑問を投げかけられなくても判る。今の士郎が、セイバーの元へ行く事の意味。

 

鼻を鳴らすと、鍛え甲斐がありそうなポンコツマスターだ、と言い満悦そうに笑う。

彼が笑うと、こちらはとても良い感じがしない。

 

「お前はマスターとして何も成っていない。今から向かう場所が、本当に死地だという事を理解していない」

「どういう、意味だ」

「凛は、君を未だ殺す気がない。だから此処は、貴様に現実を叩き込んでやる事にしようと思ってね。私からの貴重な好意だ、受け取りたくばついて来い」

 

そう言いアーチャーは足に力を込める。そしてボッという音を置いて、跳躍した。

とても嫌な、許されない事が起きるような気がして。

 

「おい、何をする気だ!?くそっ、待てよアーチャー!」

 

必死に、視野も足場も悪い中を走り出す。

アーチャーが何をやろうとしているのかを、考える余裕は無かった。

 

 

 

 

不可解。

セイバーの跳躍は、解析がままならない。

宝具か、スキルか。どのような加護があれば、空間転移のような真似事を連続して行えるのか不思議で仕方ない。

あれは、視覚的な問題ではない。今は、真夜中。月明かりと、戦闘の直感を頼りに戦闘を行っているのだろう。両者、その点は難なくこなしているので、バーサーカーだけが夜中戦が不得手という事はまずない。

……似たようなモノは知っている。

 

「一体、何処の英霊なの貴方は。バーサーカーが苦戦するなんて。流石はセイバー……ね」

 

急ぎ足で、木々を追い抜いていく。障害物が多いお陰で、バーサーカーが通った跡がはっきりと分かる。木々の薙ぎ倒された跡、地表が割れて盛り上がっている場所。災害ないし、カマイタチが通り過ぎた跡だと言われたら、驚きの中で納得し、頷いてしまうのではないだろうか。

 

「この木の折損部分、バーサーカーが折った跡じゃない。けど、セイバーが斬った跡でもないわ。″何か″が叩きつけられた衝撃に耐えられなくて折れた、衝突の跡」

 

イリヤスフィールの表情は、穏やかさを保つ余裕が全く見受けられなかった。何故なら、その衝突の跡を残していった正体は。意図的にではなく、例えば吹き飛ばされた拍子でなら。それも一方的に。

 

「うおあぁぁぁぁあっ!!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

遠くで唸る二つの雄叫び。巻き上がる木の葉。視認だけで分かる。あれは、バーサーカーが押されているのだと。

″剣撃の重なる音″は止まず、バーサーカーは苦戦を強いられていた。

然し、バーサーカーはセイバーと剣を合わせるまでに能力を上げている。十の攻撃のうち、八つを防ぎ、残り二つは不完全ながらも刃を当てるといった、直撃を避ける態勢で守りに徹していた。

 

 

何故だ?

 

 

セイバーの使うワザ。力強く地面を蹴った、かと思えば次の瞬間にバーサーカーの懐で木刀を叩き込もうとしている。目が、脳が、追いつけない。視覚的に違和感しか覚えない。

 

 

ギリギリと頭の中で、苛立ちの音が聞こえる。

有り得ない可能性が、組み上がっていく。

固有時制御(タイムアルター)。思い出したくもない名前の男が、生前使っていたという魔術。時間流の加減を行う能力。バーサーカーへと詰め寄る瞬間だけ、その魔術の一片を重ねてしまう。

 

 

然し、本質は全く違うモノだ。そうだ、そうでないと、接近戦中も使っていないとおかしい。

身体能力を上げ、狂化を刺激する事で、バーサーカーは懐にセイバーが飛び込んできた事に、辛うじて反応していた。その怪物の反射神経は、セイバーのワザに食らいつき、先程、ようやく打ち合いにまで立ち直している。

アレは、ギリギリだ。

バーサーカーは既に死が見えている(セイバーがバーサーカーを上回っている)。セイバーの攻撃を受けると、バーサーカーは苦悶の声を上げている。バーサーカーに限って、並大抵の攻撃は通用しない。

彼の武器を、木刀だと笑っていたが仇となってしまった。

 

あの木刀は、列記とした宝具だ。

 

「時間の問題ではあるけど。

狂化したバーサーカーでダメだなんて。

このまま長引けば、苦戦していてもこっちの勝ちは確実。一度や二度は殺されちゃうかも。だけど、それじゃお兄ちゃんが魔力切れで死んじゃう。

そんなのじゃ、お兄ちゃんが可哀想。魔力が枯渇して死んじゃうなんて、″物足りない″。

私はね、圧倒的なまでの絶望を教えたいの」

 

イリヤにとって予想外にも程があり、決して許されない事。

衛宮 士郎は殺さない。己の自己満足の為に。

けど、衛宮 士郎を殺す。己の復讐心に任せるがままに潰し、抉り、刺し、嗤う。肢体を蹴り、生命力を吸収して殺す。死体になれば仮染めの魂を宿し、屍となった身体で更に遊び尽くし、捨てるのだ。そこに意識があるかどうかは定かではない。彼が、衛宮の性を降ろした時、無造作に街でも見送ってあげよう。

煮える怒りが、ブレーキを壊す。

それでもイリヤは、残った理性で己を落ち着かせようと静かに目を瞑る。そして、気品よく呟く。

 

「令呪を持って命じます。セイバーを殺しなさい」

 

バチリと、起動するブーストの幕。

ラインを走る稲妻。

恐ろしい狂眼に力が流れ込むのを、イリヤは離れた場所から感じ取る。

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!

 

その轟きは森を揺らし、葉を落とす。鳥は地に落ち、木々が震える。

感情の所在に関わらず、生きるモノ全てが錯覚した。狂戦士の轟きを、地球の終わりが如き災害に。生命が脱力し、思考を、機能を強制的に止めてしまう。

人の手に余るモノ。

自然が、恐怖の闇を見た。

 

「さあ、蹂躙するのよバーサーカー」

 

暴走するのは、イリヤというマスターの″魔力(感情)″を一身に浴びた英雄。

勝機を目先に見つけたのだ。バーサーカーは、セイバーのあの動きに追いつこうとしている。ならば、今のうちに摘む他ない。バーサーカーが一度でも死に近づいているという、癪に触る事態を目の当たりにした以上、イリヤは令呪の使用を躊躇しなかった。

完全に詰める。怒涛の攻めで、押し切る。

あと二分もすれば、セイバーの姿は魔力の塵となる。その姿を、セイバーのマスターである彼と見てから、絶望に落ちた彼を捕まえるのだ。

やや遠くで粉塵が夜空へと舞う。そこが、彼らが戦う場所を示している。そこへ向かい、終わりを見届けようと歩き出した。……その為の一歩目を、踏み出した瞬間に、イリヤの背後に気配が降りたった。

 

咄嗟に取った行動は、魔力で強化した足でその場から離れる事だった。

 

「くっ…」

 

離れた場所に突き刺さる矢。それを視認して、アーチャーのモノだと理解した時。

 

「諦めろ、バーサーカーのマスターよ。いくらセイバーといえど、厄災のような破壊力のある英雄を相手ではそう長くは持たないだろう。

なにより、あのヒヨコがマスターなんだからな」

 

ソレは、イリヤの首に双剣(王手)をかける。顎下で止まる刃。

後ろを向く事が躊躇う程の殺気を浴びる。バーサーカーが放つ、野生的かつ理不尽な殺気とは程遠い。落ち着きという優しい皮に包まれる、執拗的な鋭さ。執着を感じる雰囲気が、背後に立つアーチャーの瞳から感じる。明確な理由を持ったソレは、イリヤに親しみさえも与える程のモノ。

 

「あら、一見紳士そうに見えてその中は、皮を被った狼って事かしら。護衛のいないレディーを襲うなんて、貴方、生前は相当な女たらしね?」

「それにはノーアンサーだ。恥ずかしくて言えない、という訳ではない。なに、此方の身勝手な都合が大きい。いつ私の情報が露見するかわかったものではないからな」

「慎重な正確は好きよ。けど、堅すぎる姿勢は嫌われるわ」

「ふん、否定出来ない自分の口が憎いよ。だが、あまり時間を取りたくないのでね。これ以上の抵抗は何も生まない。″盲目的なまでの君の殺意″は、些かアレには荷が重い」

 

アーチャーは、マスターと共に逃げたか、又は狙撃場所を探しに行ったかのどちらかと決めつけていた。

 

「…何の事かまるで分からない」

 

それが仇となって、この現状を産んだ。

聖杯戦争で最も早く、最も効率的な方法。マスターの殺害を、アーチャーは選んだに過ぎないのだと理解した。

 

「……マスターを狙うのは、私だけじゃなかったのね」

「当然だ。君はマスターとしての自覚が足りないな。殺すと殺されるのは、相互関係だろ?

バーサーカーはセイバーの相手で手一杯。いや、令呪のブーストのお陰で彼を追い抜いている。もうここで倒すのは困難だ、ならば必然的に、君を殺す選択肢が出てくる」

 

 

失敗した。溺れた。自惚れた。失念していた。

復讐で己を忘れていた。セイバーのせいだ。

怒りで唇を噛むが、もう収まらなかった。

死ぬ覚悟はあった。

けど、士郎を殺す方が先に来るはずだった。

ここで、私は終わる…

私の心は、復讐で満たされるはずだったのに……

 

 

「やめろアーチャー!」

 

 

喉元に当たっていた刃が離れるのを、肌で感じた。

頬に伝わる涙が、目を開けろとくすぐる。聞こえてきた怒号は、どうしてか私には暖かく感じられた。

 

「…貴様」

 

衛宮 士郎が、アーチャーを睨んでいた。私を庇うように左手は、私の身体をアーチャーから隠そうとしている。切断されるはずだった首元に、士郎の左手が回る。その腕のせいで、死ぬ恐怖は四散していた。

予想外だった。こんな虫も殺せないような人間が、私の首を落とそうとするアーチャーの手を、ガッシリと掴んでいた。そんな彼の横顔に、イリヤは。

 

「……」

 

それでも、湧き出る殺意を抑えながら、見つめていた。

更に、殺意とは違う感情が産まれている。何が何なのか、分からない。

アーチャーを止める右手を、鋭く睨みながら。

 

(……どうして?)

 

私とアーチャーとの間に、どうして割って入ってくるのか。その理由が、理解出来なかった。





セイバーの、コマを送るような動きって想像出来ているでしょうか?イメージ的には、沖田さんの宝具「無明三段突き」の、三歩絶刀!で敵の前に現れていますよね。あれです。


次話投稿まで今しばらくお待ちください。
明日の26日、18:00までに仕上げる予定でしたが、1.5部が面白すぎて27日の15:00頃までかかってしまうかもしれません。

お詫びとして、バレンタインイベントで、もしもカルデアに銀時が召喚されていたら?という定で、書きました。
FGO知らない方は、これを機にダウンロードしようよ!(さり気ない布教)
パターン1です。(駄文注意。コメディも苦手ですが、どうぞ)


【甘党の極み】

「おーい、銀時〜!」
廊下を歩く一人の男を発見すると、足が勝手に動いていた。
やや早歩きだけど、相手の歩くペースを上回らないと追いつけないのだ。仕方ない仕方ない。
こちらが名前を呼ぶと、銀時と呼ばれた銀髪天然パーマの英雄は立ち止まってくれた。一瞬、びくりと落ち着かない反応をしていたが、驚かせてしまったのかな?
「どうしたの。あ、また変な事するつもりだったんじゃ……」
「な、なんだ立香か。驚かせんなよ、ったく。
違う違う、別に悪事を働こうなんざ思ってねえから、安心しろ」
こっちの顔を見て胸をなで下ろしている。
一言で………怪しい。
このサーヴァント。とある縁を経てカルデアに召喚されてからというもの。日々、トラブル(主に女性関係)を起こしては、ありとあらゆる罰を与えられている。
マシュの胸を(真顔で)ガン見した時は、円卓の騎士達(主にランスロ)に追い回されていた。父親の「私の娘になんという視線を向けるのだ!父親の私でさえ我慢しているというのに!」という涙ながらの怒りに、アルトリア(獅子王)は引いていたな。まあ、銀時と一緒にアルトリア(獅子王)の胸も見てたけどバレてないようだ。
かと言って、アルトリア(ナイチチ)はある部分を見るなり、「なんでお前はないの?あっちって(獅子王)、大人?あ、もしかして槍トリアさんはお母さん?」と、親子と勘違い。将来的に成長するとしても、親を見て子を見てを繰り返すのは、英雄としてどうなのか。
それに銀時、何故かアルトリア顔のほぼ全員から命を狙われているらしい。アルトリア's曰く、「その顔、許容外。踏みつけたくなる」。確かに、日頃の行いもあるが。初対面であろうヒロインX、ヒロインXオルタからも合うなり首よこせと言われていてビックリだった。
黒髭なみに女性から不評のサーヴァントだけど、彼はとても真っ直ぐな心を持っている。普段は死んだ魚のような目だけど、いざ敵を前にすると、ピリッとした空気になる。スイッチの切り替え所を知っていて、誰も見捨てようとしない。
少なくとも彼を、自分は人生の先輩として尊敬している。

坂田 銀時。正史には存在しない、どこかの世界の英雄。
今日は、銀時が悪事を働かないようにするんだ。
「そうか。その言葉を信じるよ。信じるついでに、はい。ハッピーバレンタイン!!」
「………こ、これは?」
「チョコだよ。バレンタインにチョコは欠かせないだろ?あ、もしかしてパフェとかの方が良かったかな?」
彼は、重度の甘党だ。ナイチンゲールから「貴方の糖分摂取量は異常です。肝臓がくたびれてボロボロになっている可能性があります。今すぐに、摘出する必要があるので大人しくしてください」と言われるくらい、糖分摂取量が尋常じゃない。なんせ、食堂で四六時中、エミヤ特注特盛りパフェ(無限の剣製)を頬張っているのだ。結局、ナイチンゲールからは一日中追い回された後に、「これで有酸素運動…糖分を燃やす事が出来ました。一先ず治療はこれで終わりますが、次はありませんので」何ていう、追い回していた本当の理由は糖分を燃やす為だったのか!なんて出来事もあった。まあ、サーヴァントに糖分摂取が〜とか、糖尿病が〜、なんて心配事は必要ないと思うけど。
「チョコ…チョコ…そうか。いや、パフェよりも良いモンを貰ったな。今日はコイツで一杯やるかね」
笑った。銀時は、ニィッと笑ってチョコの入った手のひらに収まる大きさの袋を受け取る。
「よぅし、そうと決まりゃ付き合えよ立香。どーせお前、この後は女共に追いかけ回されるくらいしか予定入ってないだろ?」
「はは…言葉に語弊はあるけど、確かに予定は入ってないや。
まだお酒はダメだけど、ジュースで勘弁してくれ」
「少しぐれえ良いじゃ…いや、どうせ意見は変えやしねえんだ。
分かったよ、俺の部屋の冷蔵庫に大量のイチゴ牛乳がある。台所の英雄のお手製らしい。今日は特別に分けてやるぜ」
それは楽しみだ。銀時程でもないけど、自分も甘いモノは大好きで、特にタルト系には目がない。
銀時のルーム扉が、彼が手をかざすと開く。
部屋は、明かりが点いていた。中に誰かが入るまでは、点かないのに。つまり…
「このクソ天パァ!貴方は何度言えば分かるのですか!
サーヴァントだからといって、糖尿病にならないとは限らないでしょうがぁぁぁあ!」
と、鬼の婦長ことナイチンゲール。
お登勢とかいう人の面影があるとか、ないとか。
「銀時、貴様ッ‼︎なぜ立香と並んで部屋に入ってきた…
立香は今から私と、甘美なる時を過ごすのだ。貴様は疾く消えるがいい‼︎
ゴクッ……ぷはぁ、それはともかく。貴様のイチゴ牛乳は私が徴収したぞ」
と、銀時のイチゴ牛乳を飲むアルトリア・オルタ。
「先輩、離れて。敵性反応確認です。先日モーション変更でイケイケのセイバー、アルトリアさんと撃退します!」
ランスロットに向ける凍てつく視線で、マシュ。

▶︎これが修羅場!
▷天パを生贄にする

患者を診る目(マジで怖い)で銀時へ詰め寄るナイチンゲール。
彼のアイデンティティー(コンプレックス)の髪を鷲掴み、隠し持っていたであろうイチゴ牛乳の容器について問い詰め始めた。
「ギャァァァア‼︎俺の髪の毛掴むんじゃねえ、ナイチンゲールいだだだだ‼︎」

▶︎天パを生贄にする

無慈悲だろうか?いいや、違う。
マシュは兎も角、ナイチンゲールは治療の為に善意でやっているんだ。邪魔しちゃ悪いじゃん!?
「ぎ、銀時…ちょっと用事思い出した。サラバッ‼︎」
銀時の部屋の扉を開ける。
「おいまってぇぇぇえ‼︎せめて俺のイチゴ牛乳ガブ飲みしてるソコのアホ毛ない方だけでも連れてけぇぇぇぇえ‼︎」
ごめん、後でお詫びの再臨素材持ってくるから。
一先ず退散する!よし、ドア開い…
「立香、ここにいたか」
ゲェ、獅子王じゃありませんか。
「探したぞ。貴様、この前はそこの銀時と一緒に、私の″ドコか″を凝視していたらしいな。どこかの後輩系サーヴァントから密告を受けた」
「エッ…それって密告じゃないじゃん。ねえ、マシュ…?」
後ろを振り向くと、瞳から光の消えた可愛い後輩、マシュが口元だけ笑っていた。あ、やばい、肩を掴まれた。
「セクハラは、ノッブです。先輩」
「だ、そうだ。さて、そこで血塗れの天パ共々、私が直々に罰を与える。光栄に思え」
数秒後、阿鼻絶叫がカルデア中に響き渡り。その後、アホ達のセクハラと過度の糖分摂取は減ったらしい。

数日後、オカンは語る。
「フッ、欲を抑え込むのは勝手だがね。その反動まで考えなければならない」
セクハラは復活した。

「おいぃぃ!俺がセクハラと糖分摂取しか能の無いサーヴァントだと思われるだろうがぁ!」

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