fate/SN GO   作:ひとりのリク

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あけましておめでとうございます!

アニメ銀魂74話、こち亀30周年お祝い回のパロディ。
さり気なく本作品1話と続く部分あり。ちょっぴり長いので暇なときにどうぞー!


ヘヴンスフィール公開祝福編
ギャグっていざ書き始めると難しい


 

 

衛宮邸居間にて。

 

「色々なことはあったけど、まずはおめでとう!

fate/stay night Heaven's feel 第三章

spring songが2020.3.28に公開決定だ!」

 

士郎の音頭によって、セイバー、桜、ライダーがお茶の入ったグラスを持ち上げる。コンと良い音を立てながらそれぞれのグラスに触れ、祝福を鳴らす。

 

「はい、本当に嬉しいかぎりです。第一章、二章でもみどころは多いですが、第三章はもっともっと期待できちゃいます!」

「この映画は桜の桜による桜のための作品。ファンが十年以上待ち望んでいるのです。社長が脱税したり、あまつさえ楽器ケースで脱獄したくらいで止まるはずがないでしょう」

「いや色々と混ざってるから。

それ、別々の会社の社長だからね?」

 

興奮気味のライダーを士郎が制する。

 

「桜のサーヴァントたる私にもそれは言えるでしょう。フフフ、他のルートでは散々でしたが…。ここで起死回生のためにベルっちゃいます」

 

身をくねらせて興奮するライダーを横目に、セイバーは大きくため息を吐いた。

 

「おたくは良いよなぁ、一番美味しいところで出番があってさ?あーあーいいなぁー!俺もそっちで必殺技の名前を思いっきり叫びたかったー!テイルズオブるとかもう古いって!」

「大人なんだから発言に責任もってくれよ!?」

 

駄々っ子もビックリの声を上げる銀髪の侍は立ち上がると、庭にのそのそと移動し───。

 

「責任もつからさ〜、宝具出してもいいよね」

「良いわけないだろ!?だいたい、セイバーの宝具って…」

 

宙に飛び上がると、かかと落としの体勢に入った。

 

「エクスッーーーカリb」

「かかと落としはやめろォォオ!」

 

居間から飛び出した士郎によって全力で阻止される。

 

「おいおい、めっちゃ気持ちよく言えてたのに邪魔すんじゃねーよ。もうちょっとでビーム出せそうな感じだったじゃん」

「出せそうってか、出かけてたから!それ宝具じゃなくて必殺技!俺にはサッカーボールまで幻視できちゃったから!作品名に超次元ってつけなきゃいけなくなるわ!」

 

いつのまにか着ていたイギリス代表の服を脱ぎながら、仕方ねぇと呟き居間に戻るセイバー。

 

「もー、ダメですよセイバーさん。タダ飯食いなんだから、あまり先輩を困らせてはいけません」

「困ってはないけど、魔力は俺そんなにないから大切にしないとダメだぞ?」

「気のせいかな、桜ちゃんのセリフが妙にトゲトゲしてない?」

「羨ましい話ではありませんか。この程度のことで狼狽えるほど貴方の精神は綺麗じゃないでしょう」

 

うふふ、と淑やかに笑う桜。

次々と料理を運ぶ彼女の髪を見た士郎が違和感に気づく。

 

「あれ、桜ちょっと。髪の先端が白くなってるぞ?」

「あ、ほんとだ。すみません、さっきまで撮影現場にいて、着色を落とし損ねていました。ちょっと落としてきます!」

 

トテテと音を立てて洗面所へ向かっていった。

 

「まぁ、桜は桜で忙しいからこういうときもあるさ」

「ねぇ士郎くん、俺のタダ飯食い否定してくれないの?もしかして内心ではそう思ってる?」

「おっちょこちょいな桜も大変良き、です」

「ライダー、ちょっと落ち着きすぎじゃないか?」

「おーいシカトされちゃってるよセイバーさん、流石のセイバーさんもときには泣くからね?」

 

ぐだぐだと会話をしていると、桜が居間に戻ってきた。毛先が白かっただけの状態は、色を落とすどころか髪全体に広がり、余計にひどくなっていた。

 

「ぷぷ、どうした桜。片栗粉でもぶち撒けたのか?髪の毛全部真っ白になってるぞ!」

 

笑いが広がる居間。

ライダーは無言で立つ彼女に近寄る。

 

「桜、私が髪を洗ってあげます。さ、お風呂場へ」

 

すると、目元を隠していた髪が左右に分かれ、凍てついた視線が突き刺さる。

 

「さ、桜!?」

「アィァァァア!!」

「ちょ、まっ、あん!」

 

間髪入れず、桜はライダーに馬乗りを仕掛けた。

 

「士郎、桜が聞きなれない言葉遣いでライダーに襲いかかってるんだけど」

「うーん、ライダーも嬉しそうだしほっとけ」

 

案外気持ち良さそうな声を出すライダー。しかし、徐々に、徐々にその声は悲鳴に近いものへ変わり…。

 

「おーい、はしゃぐなら庭か道場でやってくれライダー……ライダー?」

「いや、これは!」

 

士郎が二人を制するために立ち上がったとき、ライダーの身体が一回り大きくなる。それは魔力の増長の報せであり、異常事態の初期段階。セイバーはすかさず士郎を掴み、庭へと一飛びで駆けた。

 

「パンデモニウス・ケテュス」

「ぎゃあァァァァァァァァ!」

 

直後、居間が爆発する。

爆煙の奥からせり出したのは黒い衣装に身を包んだ怪獣。バーサーカーが豆粒かと思えるほど大きな図体が士郎たちを見下ろしていた。

 

「ゴルゴーンだ、やばいほうのライダーだ!」

「絶対魔獣戦線が始まってるゥゥゥゥウ!」

 

屋敷が破壊されるも、逃げる以外の選択肢はない。

 

「親父の家が!くそっ、セイバーどうする!?倒すしかないのか!?」

「大丈夫だ!あいつはグランドオーダーのほうに送っときゃ大体解決する。そろそろ収録に呼ばれるはずだ」

「丸投げじゃねぇか!」

 

某FGOアニメの影響が出た、という理論でセイバーはその場を去ることにした。勘が言うのだ。アレの相手をしても時間の無駄だと。

 

二人が逃げた先、交差点の手前に見知った人影。

赤い服に黒のスカート、ツインテールの黒髪と言えばもう分かるだろう。そう…。

 

「あ、おい遠坂ッ!大変だ、桜とライダーが急に……」

「まて士郎!!!」

 

振り向いた彼女の目には、『¥』『$』の文字が左右に浮かんでいた。ひどい目だ、五百年を生きる妖怪のごとき亡者がそこに立っている。

 

「マネー……お金……宝石ィィイ!!!」

「ギャァァァア!」

「どりゃ!」

 

セイバーは容赦なく亡者の腰に蹴りを入れた。

亡者はそのまま吹き飛んで、向かいの家の木に引っかかる。

 

「蹴飛ばした!?仮にも女の子だぞ!」

「言ってる場合じゃねぇ!ありゃもうダメだ、金の亡者になってやがる。具体的には株でうっかり破産する」

「最悪だなオイ!けどすまん遠坂、あとでご飯作るから!」

 

慰謝料と叫ぶ亡者をよそに、士郎とセイバーは安息の地を求めて駆け出した。

 

 

 

 

新都のとあるビルの下。

マスコミが押し寄せる先には一人の長身男性の姿。彼は腕を組み、これ以上先に進めば斬る、と言わんばかりの圧をかけていた。

そんな彼にマスコミは次々と質問を飛ばす。

 

「いま街中で発生しているウィルス″黒化″についてお答えください!

黒化の発生源と考えられる場所からは、

『次はhollow(ホロウ) ataraxia(アタラクシア)を映像化希望、だと?ふざけるな!』という、犯行声明が記載されたメモが残されているとか。これについて一言!」

「現状ではなにも言えん。私は通りすがりのバトラーだ。君たちは記者を名乗るのなら、まずはTYPE-M⓪ONに問い合わせてはどうかね」

 

誰が名付けたか、人格が突如として反転、或いは悪しき存在へと堕ちる現象は黒化と呼ばれ混乱を呼んでいる。

 

「いま冬木市を中心に蔓延している黒化、この現象が起きたのとほぼ同時に上空にに黒い球体のものが現れました。これは一体なんなのですか?」

「現状ではなにも言えん」

「戒厳令を発令して一帯を封鎖するとのことですが、それは住民を捨てるということですか?」

「現状ではなにも言えん」

「去年、uf0tab1eが脱税疑惑で世間を騒がせましたが、これと関係があるのですか!?」

「だから、現状ではなにも言えんってば」

 

アーチャー、買い物のおり事件を知り話を聞いていたところマスコミに嗅ぎつけられた。じつにいい迷惑である。

 

 

 

 

セイバーと士郎は逃げに逃げ、新都を爆走していた。

 

深山町のほうはゾンビのごとく大量の黒化した人が往来し、とてもではないが近づける場所ではなかったのだ。

彼らを攻撃するわけにもいかず、逃げ惑ううちに大橋に出た。幸いにもまばらにしか黒化人はおらず、よしきたと新都にたどり着いたのだ。

 

しかし…。

 

「いやァァァ!町中が桜みたいなので溢れかえってる!」

「髪が白くなったり、瞳の光が消えたりしてるゥゥウ!」

 

いざ生存者を捜索し始めるや、出てくるのは性格が反転した人ばかり。通りがたちまち黒化人で埋まっていくため、堪らず裏路地へと逃げ込んだ。

物陰に隠れてやり過ごしていると、背後に足音が聞こえ振り向く。

 

「動くな、今すぐこっちを向いて目を見せろ!」

「し、慎二!」

「なんだ、お前らかよ。まぁライダーよりは役に立ちそうなやつらが来たな」

 

間桐 慎二が魔道書を携えて立っていた。

 

「オメーこそよく無事だったな」

「僕が無事なのは当たり前だろう。そもそも、僕をさしおいて物語が進むなんてありえないから……ぐっ」

 

ふんぞり返る慎二だが、膝が落ちるや脇腹を抑えて座り込んでしまう。

 

「慎二、お前血が出てるじゃないか!」

「ばーか、こんなのかすり傷だ。僕がそう簡単にやられるはずがないだろ?」

 

慎二の背景には、間桐邸地下の階段を踏み外し転落する姿が浮かび上がる。

 

「お前どうでもいいところで負傷してるじゃん。今回の事件まったく関係ないじゃん」

「う、うるさい!だってあそこ暗いしジメジメするし気色悪いじゃん!ちょっと清掃しようかな〜、なんて思ったのがそもそもの間違いだったんだ!わかってた、わかってたさ…」

 

拗ねる慎二をよそに、外が騒がしいと表通りに目を向ける。すると、勘づいた黒化人の軍団が一気に押し寄せてきた。

 

「まずい、囲まれた!」

「ヒィッ!この銀髪の魔力だけで勘弁して!」

「慎二ィィ!」

 

挟まれ、もうダメかと思ったそのとき。

 

「こっちだ雑種!」

「!!」

 

救いの手が壁の窓から差し伸べられる。

慎二、士郎を放り投げ、セイバーは急いで窓に飛び込んだ。

 

「し、死ぬかと思った」

「オヤジが見えた……」

 

飛び込んだ先はスウィートホテルのごとき高級感溢れる事務室。黄金の装飾が目立つ部屋の一角に、救いの手を差し伸べた人物は立っていた。

黒基調のライダースーツがお似合いの英雄王。

 

「英雄王!助かったぞ」

「ふん、貴様らなぞを助けるとは、(オレ)もヤキが回ったか」

 

いつものように憎たらしい笑みを浮かべた英雄王の口から、つぅと赤い液体が垂れた。

 

「お前、その血!まさか、やつらに!?」

「あぁ、獅子の類であった」

「バカな……最強のサーヴァントがここまでやられるのか!?いったい誰に!?」

 

-回想-

 

『クク…フハハ…アハハハハハハ!!!!

良い、許す。騎士王よ、決心は固めたか?我と生涯を果てる覚悟は!?』

『聖槍、抜錨』

 

携帯画面に映し出される金髪の騎士に英雄王は語りかける。

舞台はキャメロット、最終ステージ。

フィールドには英雄王(弓)が1騎、アルトリア・ペンドラゴンが1騎。

 

『クク…。セイバーでは(アーチャー)には勝てん!クラス相性は不利、なにより宝具5レベルフォウくんともにカンストの最強のこの(オレ)にはなぁ!!!

そして、魔術礼装の無敵付与!どうだ、貴様の聖剣もNPを貯めるための献上だ!もうこれプロポーズでは?』

『ロンゴミニアド(無敵貫通)!!!!!』

『な、無敵貫通、だとォ!?』

 

-回想終了-

 

「ク…。(オレ)としたことが。よもや騎士王がセイバーではなくランサーなど…えぇい、ややこしい。どちらも愛でねばならぬとは、フッ…罪な男よ」

「FGOじゃねぇかァァァァ!!」

 

すかさずセイバーはゲンコツを英雄王に放つ。

バックステップでかわした英雄王。

 

「ややこしいのはテメェだ!騒動と関係ないとこでダメージ受けてんじゃねーよ!どんだけ金髪セイバーのこと根に持ってんだ!」

「うるさい下郎!我は認めん、認めんぞ!セイバーは銀髪ではなく金髪のみだ!お前交代しろ!」

「こいつ裏で『十年も待ったのに、召喚されたセイバーがアレ(銀髪天パ)だと?もうマジ(オレ)だけで終わらせよっかな』って事あるごとに言ってるんだぜ」

 

慎二の家に遊びにいっている英雄王であった。

セイバーはそんなの知るかと英雄王を追いかけたため、全員がプールのある場所まで移動した。

 

「そんなのはどーでもいーんだよ!おい金ピカ、お前がラスボスなんだろ?どーせオレなんでも知ってますよ?なんだろ!」

「ふん、安い手に乗ると思うな。これは丁度良い機会だ。どこの誰かは知らんが、人類が勝手に間引かれるのだ。(オレ)は座して待つだけのこと」

「この野郎……」

 

英雄王の本来の目的に合致する出来事が起きている。元凶を知っていようともこの解決に乗り出すはずもなく、高みの見物を決め込む姿に拳を握り締めたとき。

 

「フッ、呑気なものね。ここまできて立ち止まるというの?」

 

岩陰からキャスターが現れた。

 

「ふん、なにやら(オレ)の庭をウロつく輩がいると思っていたが。誰の断りでここに立ち入った」

「あら、ここはリゾート施設。一般人やサーヴァントが利用してもおかしくはなくてよ?」

「今日は臨時休業だ女狐!」

 

クスクスと笑い彼女の足はセイバーの背後へ。英雄王から遮蔽物を設けることで攻撃の危険をさり気なく押し付ける魂胆だ。

 

「宗一郎が近々出かけると言うんですもの。こういった近代アトラクションを見学するのは妻としての務め。

ですが、その矢先にこのような事態になってしまったの。飛んで宗一郎のもとへ行こうにも、邪魔が入ってしまって…」

 

ふらりと近くの岩にもたれかかるや、つぅと鼻から血が垂れる。

 

「お前……やられたのか!」

「えぇ、ヤツらの実力を侮ってはいけないわ」

 

キャスターの背景には、FGOのアカウントに神代魔術でセイバー顔にウェディングドレスを着せる姿が。

続いて、不正なゲームアカウント利用により垢BANされ絶叫するキャスターが浮かび上がる。

 

「お前もFGOじゃねぇかァァァア!」

「なによ!アンタなんかに私の気持ちは分からないでしょうね!美少女に花嫁衣装を着せたいの!それがなに、今回召喚されたセイバーはおっさん!?

誰がくたびれたおっさんにタキシードなんて着せるものですか。

その役は宗一郎ただ一人よ!」

 

士郎があいだに入り仲裁する。

 

「ふん。運営会社の連中はあとで遊んであげるとして…。

一刻も早い事態解決が最優先。原因は掴めたから、あとは貴方たちには知恵を絞ってもらうわよ」

「なに、本当か!?」

「えぇ。症状としては見ての通り、髪が白くなり瞳から生気が失われてしまうわ。感染すれば他の人を襲い、爆発的に数を増やすの」

「どうして数を増やすんだ…?なにか目的があるはずだろ!?」

「魔力…いえ、聖杯ね。手段も分からず聖杯を降臨させるために魔力を集めている。

見てごらんなさい、外を。ここにはサーヴァントがこんなにいるもの。必然と彼らを引き寄せてしまうの」

「聖杯?手段どころか、一般人はその存在も知らねーはずだろ」

「元凶がそう願ったからでしょう。

この屋上に行けば分かる。ちょうど屋上付近に黒い球体が浮かんでいるわ。そこから魔力の粒子が飛び散っている。

あれはね、女の子なの。どこかの少女が報われない願いを叶えるために、なにかに呼応してこんな形で顕現してしまった。

″星の涙″、とでも名付けようかしら」

 

どうして球体に意識があるのか。

引っかかりがあるものの、士郎はその疑問が払拭できない。

 

「だから…女の子の涙を拭うように、球体から溢れる涙を止めなければならない。

ちなみに、私は無理だったわ。止める方法、その心情を解析はできても、実行できるだけの手段はなくなったもの。

主人の願いを叶えるため、聖杯に中身を注ぐために。一般人が理解もできもしないことであるけれど、元凶が願ったために感染者たちはそう動くの」

「……その球体を壊せば良いのか?」

「そう簡単にいけば良いけど、私の攻撃は通じなかったと言っておくわ。

涙を止める方法は2つ。球体の概念ごと消失させる。或いは、願いを叶えてあげること…そう思わせて納得させる、と言ったところね」

 

物理攻撃を手段に上げないということは、球体は実態がないのだろう。この世に存在していけないものということ。

ただ、願いを叶えるということは不可能だ。聖杯なんて降臨させることが無理なのだから。

 

「それをいまから考えるの。

ここはあの金ピカの住まい。魔王でも来ない限り大丈夫よ」

 

それもそうだと頷いたとき。

 

プール入り口のドアが豪快な音とともに吹き飛んだ。

そのあとに続いて現れた巨大な影が1つ。

バーサーカーである。

 

その肩にはイリヤが座っており、その髪は変わらないものの、瞳はあからさまに正気ではない。どす黒く塗りつぶされていた。

 

「いや、魔王降臨したんですけどォォォ!」

「落ち着け士郎。型月でいう魔王ってのは、真祖が吸血衝動に駆られた状態のことを指す。迂闊に隙を見せたら狩られるぞ」

「ちょ、そんなこと言ってる場合かァァァ!俺から見たらアレ以上の王なんていないよ!」

「ワタシモ…ヒロイン…ナリタイィィイ!」

 

カクカクと壊れたおもちゃのように動くイリヤ。片言で話すさまは可愛らしい。姿に限る。

 

「イリヤ落ち着け!俺だ、士郎だ!」

「作レ…書ケ…ルートヲ…省クナァァァア!」

「■■■■■■■■■■!!!!!」

「ファンタズマァァァ!?」

 

イリヤの号令でバーサーカーが暴れ始める。

逃げる彼らが次に目にしたものは、バーサーカーの背後から押し寄せる黒い泥だった。

 

「泥っ!泥きたァァァァァァア!

ちょ、急げ!奥に逃げろ!!!」

 

アレに触れたら終わりだと全員が理解、即座に施設の奥へと駆け出した。

 

「英雄王てめぇまで来る必要ねーだろ!」

「そ、そーだ!お前アレなんとかしろよ!」

「いやな?(オレ)とあいつらの相性悪い」

「役立たず…あ、エレベーター!乗れ乗れェェ!」

 

これでもかとボタンを押し、士郎と慎二に続いてドタドタとエレベーターに入る。ドアが閉り浮上し始めたことで、ようやく張り詰めた緊張感がほどけて息が漏れる。

 

「みんな大丈夫か?」

 

セイバーの声に士郎が点呼を取る。

 

「俺とセイバー、慎二にキャスター」

 

一人一人指で数えて。

 

「それに英雄王。うん、みんな大丈夫だ」

 

最後に視線が下がり、そこに立つモノを数えて士郎がそう言った。

 

「……おい衛宮。なんかおかしくね?お前の目ん玉、心象風景でも映してんじゃねえの?」

「いや、そんなことないぞ慎二。じゃあもう一回確認するぞ」

 

青ざめる慎二の言葉でもう一度点呼を取る。

 

「俺、セイバー、慎二とキャスター」

 

やはり最後に視線が下がり…。

 

「それと英雄王。ほら、みんな大丈夫だ」

 

そこにあるモノを数えて点呼を終える。

そして、慎二は絶叫した。

 

「気づけよォォォォ!!!おまっ、これ英雄王っていうか、英雄王の右足ィィィィィィ!!!!!!」

 

そう、士郎が数えていたのは英雄王の右足だった。

上はない。がっぽりもっていかれている。

 

「全然大丈夫じゃないから!英雄王助かってないから!!完っ全に闇に呑まれちゃってるよ!!!」

「ばかやろう慎二。この世全ての財は(オレ)の物だって人類最古のジャイアニスト(英雄王)が言ってんだ。例え英雄王の右足だろうと、英雄王は英雄王。英雄王は生きてるんだよ、俺たちの心の中で」

「結局死んでんじゃねーか!心の中で生かせられる訳ねーじゃん、こっちは範馬 刃牙みたいに想像力豊かじゃねーんだよ!」

 

最強のサーヴァントがリタイアしたことが、慎二の恐怖心を煽りまくっていた。

そんな彼にセイバーはポケットからあるものを差し出す。

 

「仕方ねーなぁ。ほらコレ」

「な、なんだよこれ。携帯…?」

「英雄王の携帯だ。そのなかに育成完了した英雄王がいる。それをやつと思って大事にするんだぞ」

「人の心がないのかお前ら!」

 

ツッこむ慎二の声と同時に、エレベーターが途中の階で止まる。

 

「ちょ、誰だよこんなとこ押したやつ。屋上しか用事ねーっつうの」

「セイバー…誰も押してない…」

「つ、つまり……」

 

誰かがエレベーターをまっている。

誰かを想像するまでもなく…。引きつる頬など知らないと、ドアは開いた。木刀を握るセイバーが目にしたものは、紫の羽織りを着こなす男。アサシンであった。

 

「アサシン、お前かややこしい!」

「…」

「アナタはここでなにを…」

 

キャスターの質問に、アサシンは横たわる葛木を見せて応えた。

 

「あぁ…!宗一郎!ご無事ですか、宗一郎!?

ともかく、良くやったわアサシン!」

 

返事はないが息はある。

キャスターが駆け寄ったところで、慎二は無言でエレベーターの閉めるボタンを押す。

 

「あれ、ところでアナタ。山門からどうやってここまで来たのかしら?」

 

その無駄なき動きにセイバーが関心する。

 

「うん、なにも知らない。あいつそもそも山門離れられないし?とかそんな疑問もう忘れた」

(あれ絶対ハサンだ)

 

エレベーターが動き出したとき、悲鳴のようなものが聞こえたがこのときばかりは耳をふさぐことにした。

 

「オメーの犠牲は無駄にしねぇ」

「もう逃げ道はないじゃないか…。くそ、屋上に出てぶっつけ本番で壊すしかないのかよ。キャスターの魔術が効かないのにどうするってんだ!」

 

エレベーターが屋上に到着した。

駆け出した3人が目撃したものは………。

 

 

 

 

少し前、士郎たちのいるリゾート施設の屋上にはヘリが一機、旋回して黒い球体に近づいていた。

 

「あれが黒化の原因か。キャスターの情報によれば、聖杯を求めているという」

 

アーチャーが球体を見て呟く。

 

「おい、聖杯なんざどう用意するってんだよ。今から俺たちで殺しあえって言うんじゃないんだろ?」

 

運転席にはランサー。

ちなみにヘリはCA○COM製である。

 

「無論だ。君にヘリの運転を任せたのは、この距離まで近づけば一般人は即座に飲まれてしまう。こうして死亡フラグの塊に載せるには、我々のような者でなくてどうする」

「ケッ……んで、どうするよ」

「球体の正体は見当がついている。アレは壊すものではない。宥めるしかないのだ。そして、それが可能なのは私と……あのバカくらいだ」

 

そう呟くと笑う。

 

投影・開始(トレース・オン)、エクスカリバー・イマージュ」

 

手に持つ煌めきを見て、ランサーはなにかを感じ取る。決死の覚悟だというのは言うまでもない。

 

「私が乗り込んだあとはすぐに離れろ、いいな」

「おい、球体が!」

 

球体が歪む。刹那、圧縮された泥がヘリへ向かい放たれた。

 

「しまっ」

「どうして俺こんな役ばっかァァァァア!!!」

 

退避の暇すらなく、黒い光にヘリは呑まれていた。

 

 

 

 

「黒い光線!?」

「たぶん斬撃だ…。あの球体、攻撃もできるのか」

「星の涙…アレさえ破壊すればこの騒動は丸く収まるぞ。けど、どうする」

 

考える3人の前に上空から煌めく物体がコンクリートに突き刺さる。

 

「これは…剣?」

 

神々しい光に、1番に歩み寄ったのは士郎。

これを創る意味が手に取れば分かる、直感が彼を動かした。目の前で見ればさらに理解が深まる。これは、誰も斬らずに事態を済ませるための宝具。衛宮 士郎にしか扱えない代物である、と。

手に取って、その想いすらも胸の内に届く。

 

「…わかった。そう言うことだったんだな」

「士郎」

 

振り向くと、屋上入り口のドアを蹴破り黒化したあらゆるものが飛び出してきた。

 

「ヒェッ!」

「すまんセイバー、ちょっとのあいだ踏ん張っててくれ!俺はあいつを………星の涙を止めてくるから」

「っしゃ、任せろ!士郎、お前なら大丈夫だ」

 

無理難題、そう知りながらセイバーはマスターの言葉に頷く。

命じられたからではない。命を投げ出すわけでもない。

男が女の涙を止める、その想いを無駄にする作法を銀髪の侍は知らないだけであった。

 

その聖剣を握る資格があるものはただ一人。

士郎は球体へ向けて剣を向けると、意識だけが最奥へと落ちていった。

 

───

 

──

 

 

暗い底に辿り着く。

 

全てが黒く塗りつぶされた空間に、ただ一人。色褪せながらも美を保つ少女が立っていた。

 

「もうこんなことは止めよう。続けてもキミの欲しいものは手に入らない」

 

言葉を投げる。現実を教える。

少女はすぐさま反応した。

 

「私だけになれば……ほかのサーヴァントが消えれば現れるはずなんだ」

「違う。聖杯戦争に参加していない英霊には、どうしたって手に入りはしない。第5次聖杯戦争は、7騎もう埋まっている」

「…………ッ!」

 

凍てつく視線が殺意となり、きっと一息のうちに斬り伏せられてしまうと冷静に判断した。

それでも言葉を止めるわけにはいかない。このまま彼女が戻れなくなってしまえば、それこそセイバーが悲しむからだ。

 

一歩、一歩と近づく。

ついに少女の剣が腕を伸ばすだけで届く距離になる。次の瞬間、斬られると確信した。だから叫んだ。

 

「けど!俺のなかに在るコレは、アンタと切っても切れない縁だ!きっとアイツは……いいや、俺はこの聖杯戦争が終わったら次の聖杯を探す!

俺が、そうしたいんだ!」

 

果てがなくても、これがきっと定めなんだ。

その証拠が、ヤツが用意したこの剣にある。

この剣を少女に突き出す。すると凍てつく視線は、剣に触れることによって一気に暖かさを取り戻していく。

 

「この剣…まさか、あなたは…こんな人生を送ったというのですか…?」

「いいや、俺じゃない俺の記憶だ。とてつもないバカなんだよ、俺たちは」

 

聖剣とは程遠い贋作であった。

しかし、ヤツの生涯を語るには相応しい不恰好なもの。少女には、それがじゅうぶんに伝わってくれた。

 

「名も知らぬマスター。恥を承知で言うが、″ここではない私″のことを、どうか助けて…」

 

その言葉は、この先のことを示していた。

言われずともそうする。未来を取り戻すために。

 

「あぁ、任された」

「ありがとう、■■■」

 

こうして事件は収束した。

目が覚めると、セイバーと慎二がヘトヘト顔で出迎えてくれた。つられるように笑いながら自分の家へと戻るのだった。

 

奇妙な事件は、まるで起きていなかったかのように1日が過ぎていく。誰がどう片付けたのかは知る由もない。ただ言える事は、これから待ち受ける戦いが1つ増えたということくらいだろう。

 

 

 






1年ぶりくらいの更新です。お久しぶりです!

これ4/4章に繋がってるところもありますが、気楽に読んでください。
ヘヴンスフィール3章が公開されるかハラハラしながら過ごし、公開決定して日付決まったときはガッツポーズしました。いやぁよかった!
ほっと一安心してから書き始めたので、ちょっぴり遅めのお祝いとなりました。皆さん、ヘヴンスフィール3章観に行きましょうね!


さて、4/4章の連載は5月中旬の再開を予定しています。
準備が整い次第更新しますので、どうかそのときはよろしくお願いします!

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  • 一部まで知っている
  • どういうストーリーかは知っている
  • 全く知りません
  • 知らないけど気にせず読む

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