fate/SN GO   作:ひとりのリク

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幾たびの戦場を越えて不敗

柳洞寺を建てた円蔵山は、冬木市で最も霊脈の強い土地とされている。ある魔術師は、あまりにも強力な霊脈のため後継ぎの育成に悪影響を与える、と別の霊脈を選ぶほど人の手に余る。

だからこそ、聖杯戦争を始めるための魔法陣(大聖杯)の設置場所に選ばれた。

 

円蔵山の地下に広がる天然の大空洞。

大聖杯を臨む地に、二つの影が訪れる。

 

「セイバー、案内はここまでよ。悪いけど、流石の私でもここでは気を張らないと、するっと意識が落ちちゃうかもしれないの。

加勢なんて考えないでよね」

「あぁ、ゆっくりと寛いでくれ。ちゃちゃっと倒して、ぱぱっと士郎んとこ戻って祝勝会だ」

 

紅い外套を纏うアーチャーと視線を交わす。腕を組む表情にしては、先に待っていたことを苦には思っていない。

側で似たような格好をする遠坂 凛は、呑気な雰囲気の二人を見てキッと視線を細めた。

 

「ここからは大人の時間(手本)だ、大人しく楽な姿勢で待ってろ」

 

誰も、この場所を指定することはなかった。

始めから合戦の舞台は決まっていたとばかり。

最古の神話、五百年の妄執、神代の魔術、朱槍との対峙。このどれか一つ、或いはその他の英雄譚が欠けていたとして。最後に残った者たちは必ず大空洞へと訪れたことだろう。

聖杯に呼ばれた者は一目見れば眉をひそめ、そして限られた時間を遅かれ早かれ認識する。

そして魔術師は、落胆するか或いは。

 

″これは、長くは持つまい。

ならば簡単だ。崩壊より先に、我々は根源に至れ″

 

代々受け継いできた義務を果たすため、英雄を殺し相手を殺す。

 

「…ほう。マスターを替えるとは、あの小僧では魔力不足か、セイバー?」

「んなわけねーだろ。士郎はちょいと準備中でな、料理の下準備に時間がかかってんだよ。よく言うじゃねーか、ヒーローは遅れてやってくるもんって」

「はっ、それはヒーロー気取りの人間がする愚かな行為さ。魔女の神殿から帰ってくるなど、衛宮 士郎には当たり前のことでしかない」

「随分と士郎のこと買ってくれんのね」

「聖杯を欲する熱意だけは半人前だった。理由は魔術師としては目も向けられないが、君のようなサーヴァントを従えていれば納得もする」

 

だが、英雄二人は異常を気に留めない。

 

唯一の魔術師、遠坂 凛は一歩だけ身を引く。彼女もまた、英雄たちの決闘に大聖杯のことを持ち出す気はなかった。

 

「ふぅん、んで。そいつでいいのか、アーチャー」

 

向き合い取り出した双剣。

一挙手一投足、視線の向きから呼吸の幅に至るまで。

全神経が騒つき、この身体の細胞一つ一つに危険信号を鳴り響かせる。

弓兵という肩書きを無視して、手に持つ物は双剣。白と黒、真逆の色の双剣。いつか見た武器に、その存在意義を見誤るな、と意識的に警告してくる。

 

「あぁ、この剣のことか。安心しろ、なにも問題はないし、君を侮るつもりも毛頭ない。私が持ち歩く武器のなかで、今はこれが最善なだけだ」

 

言葉の端々に引っかかるものを感じとりながら、おそらく自分では分からない正体なのだと納得をする。

士郎ならこの正体を暴けただろうな、と。それだけが、考えるだけ無駄な事実。小難しいことなどは戦いが終わってからでいいのだ。今は、誠実に向き合い一秒で勝負を決する刹那を伺う、目の前の弓兵を叩き伏せる。

 

「あぁ、まさか、私の本分(クラス)を見失ったと心配したか?」

「そりゃ性格の問題だろ、お前の場合」

 

両者の頬が緩む。

 

「ふ。なんだ。よく分かってるじゃないか」

 

冗談を交えたとき。

 

笑いながら相手の肩を叩くような気軽さで、アーチャーは双剣をセイバーへ向けて放り投げた。

 

勢いは最初から捨てている。無回転に近い双剣はゆっくりと円弧を描く。剣としての価値はまるでなく、武器のない相手に渡しているようにも見える状態。だが、セイバーには不要だと分かることは、彼なりの配慮と言えた。

 

宙を舞う双剣が落ちてくる意味を直感し、思いきり後ろに飛び退く。

直後、前触れ一つなく背後で爆発が起きる。背中で焦げ付く音を拾いながら、その原因が双剣であると確信した。

 

「やっぱりテメエ、どのサーヴァントよりタチが悪いぜ」

 

爆煙から飛び出して映った光景は、大きく距離を置いて弓矢を取り出したアーチャーの姿。

 

宙を舞いながら、本人よりも異彩に溢れた黒い弓。

そして、その弓が(つが)えたものを矢と呼ぶには荒く、あまりにも似つかわしくない捻れた刃を備えていた。

宝具に疎いセイバーですら理解できる、剣における至高の一品。歴戦の猛者たちが求め、或いは生を授かった瞬間から手にすることが決まっていた伝説のうちの一つ。

 

「───I(我が) am(骨子) the bone(は 捻れ) of my s(歪む)word.

 

間違いなく一級品。宝具として疑うことのない伝説。戦士であるならば手放すことを惜しむ宝具を、アーチャーの指は使い捨てだと言うように的へ向けて、不敵な笑みとともに射た。

双剣が爆発するのだ。

剣だろうが矢だろうが、それは変わらない。この男が手放した物の価値は等しく、用途は爆ぜるもの。

 

「こいつでぶっ叩けば、そいつも意味ねぇ!」

 

ならば、と。

セイバーは爆発物へと詰め寄り、木刀を振るった。矢を叩いた瞬間、鈍い音に続いて矢は砕け散っていく。

次弾装填、一秒の間も無く次々と歪な矢が放たれる。それを、爆発する前に自ら飛び込み叩き落としていく。

 

「あの木刀、実物で見ると厄介この上ないわね」

 

爆発すれば致命傷になるソレを、木刀一つで砕いていくセイバーを見ていた凛は目を見張る。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

宝具という火薬を詰めた矢を爆発させる、魔力の爆弾がアーチャーが放った矢の正体。この場で初めて知った破格の破壊。サーヴァントたる宝具を破壊する行為は異常で、それ以上に一度きりの切り札を魔力の粒子へとしてしまったセイバーは、更に異常だ。

 

切り札である宝具を豪快に散らされたというのに、アーチャーの頬には喜びの情すら見える。真反対から疾風の如く駆けるセイバーもまた、アーチャーと似たものを顔に浮かべていた。

戦闘に酔っているのか、互いに勝ちを確信するだけのものがあったのかは定かではない。

 

ただ、遠坂 凛は決戦の舞台においても、余計な手出しを極力しないと決めていた。

 

「…分かってる。まだ何もしないから」

 

十五の矢が真価を発揮することなく砕かれたとき、アーチャーは地に降り立つ。

弓矢を片付けると、凛に視線を向けることなく。

 

「あぁ、頼むよ」

 

先ほど爆発した双剣を取り出して、迫るセイバーを迎え撃つ。

 

両者、距離を見極めて右足を踏み込む。

地面を揺らすほどの衝撃は、そのまま一振りに託される。交差する力と響き渡る音は、アーチャーの黒い剣が砕け散る悲鳴が大部分を占めた。

砕けた剣を横目で確認した振り向きざま、残る白い剣で強引に突破しようとする木刀を出迎える。同様に、ガラスが散るように呆気なく、双剣は大空洞の闇に呑まれてしまう。

 

「脆い!その剣は煎餅(せんべい)かァァ!?」

 

両手にはなにもない。

己を現実に繫ぎ止める錨は、二つだけでは足りなかった。

木刀が反り返る。ガラ空きになった胸元に霊気を貫かんと、飛び退くことを許さないように深く、アーチャーの懐に入り込んだ。

 

「そうだなッ、客人を前にして茶菓子をきらすのはマナー違反だ」

 

だがセイバーは、視線を交わした刹那、自ら飛び退いた。

入れ替わりで、四本の剣が左右から突き刺さる。全くの同時、四肢を()ぐための剣は空振りに終わる。

 

「矢を乱射したときに備えてやがったのか」

 

空中を見上げると、まだいくつかの剣が浮遊していた。

切っ先は常にセイバーを狙い、木刀への深い警戒心を露わにしている。双剣を壊す木刀を、数で押そうという魂胆はしかし、セイバーの進撃を減速させる理由には足りない。

 

「そんなに欲しいなら、いくらでも用意し(くれ)てやる!!」

 

だから数を増す。

両手に握られた剣が木刀を抑えつける時間は一瞬。剣を取り出すのが僅かに遅ければ、灰塵の一撃が全てを飲み干す。人が災害の前に無力であるように。その木刀と、アーチャーの取り出していく双剣の相性はソレと似ていた。

 

「くっ、あぁ!」

 

 

地球という星に存在するモノは、あの木刀を前にしては形なき概念ですら打ち砕かれる。他所から地球に持ち運ばれようが、地球から別次元の何処か(地球)へと移ろうと、地球という領域に登録されたものは例外ない。

星をも砕く木刀。故に、星に在るモノならば運命さえ砕く。

 

 

「あっ、がぁ──────!」

 

指先の感覚が壊れていくなか、昨日のことを思い出す。

 

″それがセイバーが持つ木刀の正体。そして、自身にも手に余るため、その価値(ランク)をEにまで落としている″

 

木刀だけではない。己が知る見識全てを伝え、このときのために打ち合わせを入念に行った。

 

″たった一つだけ攻略方法がある″

″衛宮くんでも狙う?違うわよね、これまでの会話からして、アーチャーってばセイバーを倒したいんでしょ″

″あぁ。至極簡単だ、触れられないくらいの物量で押しきればいい″

 

デタラメな木刀にも通じる手段があるとすれば。それは間違いなくセイバーの天敵となり、一発逆転の鍵を握る。否、一発逆転などでは話にもならない。身を削がれないうちにやらなければ、負けの烙印が押されるのだ。

 

「グ、ヅッ!!!」

 

剣戟を受けること三十。

両手の感覚が抜け落ちる。剣を握っているのかさえ分からないが、神経が断たれたのならそういうことだ。電撃の如く脳に伝わる痛覚のおかげで、瞬時的なもので済んだ…が。

 

「これで全部だ」

 

あまりにも長い隙を、セイバーが見逃すはずがなかった。宙に展開していた剣は、木刀の一振りで容易く砕けていく。両手の感覚が回復したものの、今から取り出していたのでは間に合わない。

いや、やらなくては分からない。…そうだとして、これ以上は魔術回路がダメになる、と指が危険信号を送る。

分かっている、だけどあと百の寸断に耐えてくれ。祈る。俺ならできると信じ、アーチャーは次の剣を握るため、右腕を静かに天井へと向ける。

 

「離れ───、やがれ!」

 

夜空に、一筋の流れ星が発生する。

天から降るソレはアーチャーの右手に落ち、仄かに光る銀色が突き出された木刀を振り払った。

 

「バカめ、ガラ空きだっ!」

「その刀、いつ取り出しやがった!?」

 

崩れていく銀色の光の奥から、アーチャーは勢い良く足蹴りを繰り出す。不完全な体勢で、肩で受け止めるセイバーは距離を置く。アーチャーが手にしていた刀のことは知っていたとばかりの反応で、知りたいことはいつ取り出したのかだった。

 

その視線に、外套をたなびかせて男は笑う。

 

「これか?これは私の願いを叶える流れ星だよ」

 

完全に剣戟が鳴り止んだ。それが一呼吸の束の間であれ、最高頂のパフォーマンスができるのなら、思いきりやるだけのこと。

砂埃を押し退け構えるアーチャーの右手には、再び金色の龍が舞い降りた。これで準備が整った、そう一安心したように息を吸い込み、そして全神経を研ぎ澄ます。

 

「I am the born───」

 

その詠唱が始まりの合図だった。

五メートルの距離を置いていたセイバーの身体は、現実から目を離したようにぶれる。既にその影を消し、闇が照らす魔法陣の上で無類なき暴力の幕が開けた。

 

いかなる間合いをも詰め、真名解放を止めるその行動。

宝具を拒むという特性を凛は見抜いていた。

あのバーサーカーが、赤子のように扱われる。その時点で最強、己の研ぎ澄ました牙を台無しにする、敵にだけはしたくない手段。ならば、こちらは全財産をもって対抗する必要がある。

 

そう言って顔を歪ませる凛に、アーチャーはこの上ない″証拠″を見せていた。

 

「───of my sword」

 

アーチャーの詠唱は歯ぎしりの後に続く。

闇を散らす火花をもって、その証拠は確たる信頼へと変わる。

 

「テンメェ、おっかねぇことしやがったな!」

 

夜空、大空洞の天井。

無数に突き刺さるなにかが、視界に収まりきらないほどあった。あれを数えるなら百や二百では足りない。

 

その正体は、刀。

穂村原学園でランサーと戦ったときに使用した武器。

金色の龍がとぐろを巻いた鍔が特徴的な刀。

 

何度か天井を見上げただけでは気づけない数は、最早天井を作り上げていると言っても過言ではなく。ならば、無限という他にない。

 

「Steel is my body, and fire is my blood」

 

次々と降り注ぐ、金の龍たち。

何本かは切っ先から降り、何本かは柄を先頭にして降り注ぐ。

 

切っ先はセイバーの行く手を阻み、或いは木刀を狙って行動を制限させる。詠唱を続けるアーチャーの周囲をひっきりなしに移動し続け、死角や不意の一撃を阻む。

 

「I have created over a thousand blades」

「止めろ」

 

柄を下に降る刀は、見計らったようにアーチャーの両手元へと着地する。詠唱しながら己を守り抜くため、木刀の一振りで砕ける刀を次々と補充していく。

僅か一手の過ちで決する戦いは、皮一枚で繋ぎ止められていた。

 

「Unknown to Death」

「止まれ」

 

否、あと一手などと言う段階はとうに過ぎていた。

韻の数だけ貫き叩き、振り降ろし斬り払い、己の意識すら置き去りにして。綴り続ける弓兵の誇りを否定せんと、いつの日か出会い頭にバーサーカーを叩き伏せた跳躍をもって弓兵を囲い込む。

 

そうして瞬く間に、跳躍を繰り返す侍と、全ての攻撃を捌き詠唱を止めない弓兵という異様な光景は出来上がっていく。

 

「Nor known to Life」

キサマァァァァ!!!

 

セイバーの瞳が変貌する。銀色の輝きが薄まっていき、代わりに正真正銘の呪いが滲み出てきた。

喉の奥から飛び出した声は、猛獣か怪物の雄叫びに等しい。跳躍を繰り出す毎に、呼吸がまともに出来ているのか疑問に思うほど原型が崩れていく。

 

「Have withstood pain to create many weapons」

オオォォ、止まれ、止まレ、止マレッ

 

攻撃の軌道が荒れ果てていく。

駄々をこねる赤子のように、宝具を防ぐことだけに固執する。最早セイバーには、侍と呼べるだけの誇りなどない。

 

だが、誰もセイバーの様子に息をのむ人物はいない。

むしろ、これで納得がいくとばかりに戦いの終わりを見つめ続けていた。

 

「Yet, those hands will never hold anything」

 

闇が蠢く。

セイバーという存在の背後に、この世には存在してはならない影が現れる。帯に纏う混沌が宙に蔓延し、降り注ぐ数の暴力を闇に染め上げた。

銀色の流れ星は″空想の毒″を前にして無残にも散り、アーチャーに残された刀は一本のみ。それでも詠唱を止めず、佳境に入ったと直感したが故に。

 

止メロォォォッ‼︎

 

渾身をもって、木刀を振り抜いた。

退路を断たれてはいたが、元よりアーチャーには逃げることなど考えてすらいない。最後の一刀で、己の集大成を解放するために、真っ向から立ち向かった。

 

「─────────!!!!!!」

 

しかし。

その抵抗は始めから無駄な足掻きだと分かっていた。

 

アーチャーの刀は耐えることすら叶わず、セイバーの一刀はアーチャー諸共吹き飛ばした。

地面を転がり、砂埃が盛大に巻き上がる。

 

「……、奇抜な男だ。ここがどこだろうと、無駄な下準備をするだけの座標だと分かりきっていただろうに」

 

誰かは、満足げに呟く。

次の瞬間、木刀を握っている右手から血が滲み出し、まるで拒絶されたかのように木刀は弾け飛んだ。

 

「チッ、よもや使えぬか。まぁいい、アーチャーよ死ね。その身を器へと捧げろ」

 

それを気にも留めず、まだ霊気反応があるアーチャーを仕留めるために近づく。

すると、白くたなびく砂埃を押し退け、または全身に纏いながら、影が一歩踏み込んできた。

 

「まだ動けたか、だが歩くのがやっとだろう」

 

構わずに歩む。木刀で叩かれた時点で、既に正常な霊気など保てはしないのだ。死に体の身体ならばと、左手を握り締めて砂埃を振り払う。

 

「バカなッ…⁉︎」

 

セイバーの身体が硬直する。

振りかざす拳は勢いをなくし、その人物から身を引くための行動を咄嗟にとっていた。

 

「ナゼ、お前がッ!」

 

その人物は、歪な短刀を手にしていた。

人に刃を向ける人間の顔じゃない。

親しい友人、或いは親と街中でばったりと鉢合わせしたときに気軽に手を振り合うように。

 

目の前に現れた衛宮 士郎はニコリと笑ってみせる。

 

鉄の心などとは無縁で、その綻びは日常的に見る笑顔。

 

「この、短刀はッ」

 

それが、セイバーの仮面を被った者の不覚。

これまでただのかすり傷すら許さなかったその身は、抵抗する間も無く短刀が刺さるのを見送ることしかできなかった。

 

その霊気にヒビが入ろうと、魂が朽ちないならば良い。たとえ脳が消えたとしても、積み重ねた執念が″詠唱(宝具)″を紡ぎ上げる。

 

「グ、ガッ、アアーーーーーーー」

 

なぜ、お前が?

 

叫んだ疑問に、衛宮 士郎は心の中で呟く。

 

″信じたい未来が、この先にあるからだ″

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

短刀、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)が刺さると同時。セイバーの身体から、これまで潜んでいた″この世全ての悪(空想の毒)″が表舞台に解き放たれる。

 

 

そして、空想の毒に被せるように、最後の詠唱の終わりとともに世界は一変した。

 

 

見渡す限りに広がる曇天の世界。

いつか夢に見た、英雄が駆けた戦場の片鱗。

 

 

「……そう、なのねアーチャー」

「ごめん遠坂、ずっと嘘をついてきた」

 

錆びた鉄のような髪色、相変わらずの童顔には凛々しさが垣間見れ、遠坂が知る同学年の衛宮 士郎とは別人だと教えていた。

白と黒、そして紅混じりの相変わらずの服装。サーヴァントなのが似合わないな、というのが遠坂の感想だった。

 

「だから改めて名乗らせてほしい。

俺はアーチャーのサーヴァント、衛宮 士郎」

「ふん、今更改まったって仕方ないじゃない。私上手く振り回されてるな〜、とか思ってたけど…そーゆうこと!」

 

あはは、と遠坂の文句に頬をかいて答える。

 

「文句はあいつを片付けた後でいくらでも聞く。だから、もう少しだけ俺のワガママに付き合ってほしい」

「始めからそのつもりよ。まずはアイツをとっちめて、それからアンタの番だからね。そこんとこ、覚悟しときなさい」

 

活が入ったとばかりに、背筋をピンと伸ばして振り向く。

 

「目は覚めたか?全て遠き理想郷(アヴァロン)の居心地はどうだった。汗水垂らさずに最終決戦を迎えた感想は?」

「…」

 

視線の先。

 

ボロボロの布を全身に纏い、首からは握り拳の大きさの数珠が呪符をぶら下げている。

外に見えている腕には包帯が巻かれ、呪いの類の文字がびっしりと書かれていた。

菅笠で顔の全体を覆っているものの、こちらを見据える赤い瞳だけはしっかりと殺す対象を映している。

 

「さぁ、立て。銀時の無意識を貪り尽くした反英雄」

 

坂田 銀時がかつて使っていた刀を投影する。

 

「九人目のサーヴァント、魘魅。ケリを着けよう」

 

衛宮 士郎の不敵な笑みを合図に、魘魅は咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

白い空間。

地も、空も。ただ白いだけが広がる。

 

『ここは…。なにもない。いや、けど見たことがある』

 

そこに、セイバーのマスター、衛宮 士郎は立っていた。

立ちくらみがして、回復したと思えばこうだ。状況整理をしていると、背後で足音がなる。

 

『誰だ』

『驚きました、まさか喋ることができるとは。少しだけ嬉しい誤算ですね』

 

なんと形容すればいいだろうか。

いや、知識だけなら少しだけ分かる。その物の用途に興味はある。しかし、そういう使い方をするものではない。

 

『おい、何を言ってるか全く分からないぞ。それにアンタ』

『ですが、残念。もう時間はありません。意識が覚醒するタイミングを図るのって、案外難しいんですよ』

 

それはこちらの話をぶった切ると、

 

『私の目的は、()() ()()()が決戦の舞台に行くことを阻止すること』

 

意味不明なことを言った。

直感的に危険だとは思えなかった。敵意がないことは分かるからだ。それでも、ここが現実ではないならば警戒する。この状況が策略だとすれば、自分は既にチェックメイトになっているかもしれない。

 

『え、ちょっとまっ!?』

 

しかし、その人物が手を上げた瞬間、身構えていた身体は簡単に吹き飛ばされた。

 

『そして、()()()()()と願いを叶えることですから』

 

あまりにも単純な動きに理解が追いつかず、情けない悲鳴を上げてしまう。

どこかも知らない世界から遠退いていく。なのに、此処には止まりたい気持ちがあったことで、漸く点と点が繋がりそうだ。

白い世界の意味を考えた後、自分が行く先を見る。

 

その先は、曇天の丘。

 

少しだけ、この場所に意識を繋ぎ止められた意味を考えて。

刻まれた令呪から伝わる熱が、本能に任せろと教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

坂田 銀時の無意識に潜んでいた九人目のサーヴァント、魘魅。

「愚かな。この身と白夜叉を引き裂いた、だから私はこれでお終いだとでも言うのではあるまいな。
坂田 銀時と霊気は分裂してしまった。だがその宝具は同時に、坂田 銀時と衛宮 士郎の契約を破棄している」

VS

アーチャーのサーヴァント、衛宮 士郎。

「星崩し。空想の世界からも弾劾された大量殺戮の実像。そして、俺のいた世界で最悪の敵として立ちはだかった、史上最低辺の英雄の正体だ」

両者の思惑、目的、願いが明らかになり…。
決戦の舞台は尚も捻れ、遂に決着のときを迎えようとしていた。

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