fate/SN GO   作:ひとりのリク

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英雄たちの魂/正義の刀
神父は待つ


教会を包む音は、周辺の林から流れてくる小鳥の鳴き声。

 

大扉を開けて中に入る。

百人を軽く迎え入れられる礼拝堂だが。

 

「…」

 

中を見渡すも、礼拝者はおらず。こちらとしてはやや退屈とも言える。

ここ最近、私の昼食時を狙っては教会の椅子に座り読書にふける男性スーツを着こなす女性がいるのだが、今日は気が向かないらしい。

いるからといって話しかける訳でもない。ただ黙々と何時間もページをめくる。その顔を見ても、全く何を考えているのか分からない。何より、たまにだが。注意して聞かなければ気づかないような怪奇的な音が漏れている。人から出る音は、大方知っているつもりだ。故に面白い人間も意外といるものだな、その程度の認識。

 

ふ。しかし今日は面白い人物と会話ができた。

衛宮 士郎。第七のマスターにして、衛宮の名を受け継いだもの。衛宮 切嗣と似ている。彼は、あの男に寄ろうとしている。意識してか、せずかはこれからを見なければ判断材料に欠ける。

聖杯戦争が衛宮 士郎の目指す先を示したのは事実。ならば待てばいい。彼自身が、そのサーヴァントが、そしてアインツベルンに間桐と。他のマスターたちの影響は計り知れない。

成長か、変化。教会を訪ねてきたときから固い意志があった。黙って聖杯戦争のルール、それも令呪に選ばれたことの意味を伝えた後には揺るぎなきものになっている。

そこに私は、衛宮 士郎の建前と本音を知ることができた。

 

『俺は、聖杯戦争を止める。十年前の悲劇を繰り返すわけにはいかない』

 

聖杯戦争への決断(建前)を下した彼はそう言い、違う場所(願い)をみていた。

愚かしく、壊れた心だ。本音など、隠しきれていない。そのつもりでも、目は嘘をつけない。

いや、嘘ではないのだろう。彼は確かにそうも願っている。第四次聖杯戦争(十年前)の終幕は業火と共に日を跨いだ。地獄と呼ぶに相応しい状況を生き残った、唯一の生存者であるならば、犠牲者のことを思わずにはいられない。そういう性を持って、衛宮の名を受け継いでいる。

 

故に、別れ際。

 

『喜べ少年、君の願いはようやく叶う』

 

第五次聖杯戦争始まりの日。衛宮 士郎へとこの言葉を贈った。

その意味は、時期に分かるだろう。

願いを叶えるなら、悪が必要だ。

君の望みは、ここで成就する。

 

つい、笑みが溢れる。

ここではダメだと、礼拝堂の奥の扉を開けようとした瞬間。

 

「はて」

 

突如、陽が差し込む教会の窓が、黒く塗りつぶされる。

僅かな漏れも許さない、明確な意図。密会を望むかのような周到さはなく、手間のかからないことなのだと感じる。要するに、礼拝者(よからぬ風)だ。

 

「どういう風の吹き回しかは知らんが、要件も聞かずだんまりは職業柄できない」

 

教会の入り口を無視し、教会の中央に黒い粒子が細かく湧き上がる。

静かに落ち着き出すと、黒い粒子は床から徐々に足、身体、手、そして頭部と形作る。

色を表現した時、紫のローブに身を包むキャスターだと知った。

 

「よもや迷える仔羊ではなかろう、キャスター」

「そうよ、神父。聖杯戦争の監督役さん?迷える仔羊は釜にくべたわ。…泣き声も上げずに、目の前のベールを仰ぎながらね」

「…」

 

迷える仔羊、その言葉は一瞬で状況を察するに事足りる。

アトラム・ガリアスタ、キャスターの″元″マスターにしてキャスターに裏切られた者。″裏切りの側面″を持つ魔女を召喚し、己の求めていた条件との違いからキャスターとの契約を破棄しようと目論み、返り討ちとなっている。

裏切りのキャスターがここに来る意味は、深く考えるまでもない。

 

「眉一つ動かさないのは流石?詰めが甘いのは、カワイイと言えなくもないわ」

 

アトラスの目論みには、私も関与している。

どこで情報が漏れたのか。考えるだけ無駄だ。

先ずは、自力で逃げるしかない。

 

「その手の令呪が無ければ……だけど」

 

キャスターの呟きに、全身が反応する。

 

「ッ!!そこまで…」

 

魔術による壁は、破壊できる。ただ、前提が間違っていた。破壊など無意味だと気づいた。

 

キャスターが懐から取り出した歪なジグザグを描く短剣。

裏切りの名に相応しい、宝具。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)か!」

「えぇ。あの男は、つくづく救いようがないお喋りさんのようね。私よりタチの悪そうな、こんな男は信用していたと?

相手がマスターだとも知らずに…ふふ、やはり始末して正解」

 

避けようとした時には、既に遅く。剣先が、背中に届いていた。令呪が光る。赤く、紅く。そして瞬く間に、キャスターの左手甲へと光が移る。

容赦無く、それは契約を破棄していった。

真正面にいるはずのキャスター。確かに、まだ見ている。

 

「キャス、ターッ…!」

「死になさい。もしくは不愉快なその顔を歪ませて、私を楽しませて?さすれば穢れた心も、救われるでしょう」

 

見せられていた。

キャスター、稀代の魔女が信じて前に立つ筈がない…。

 

背後で眩い光門が展開する。

教会の中の音は外に漏れることはなく、事実を知るのは片手で足りた。

 

サーヴァント、ランサー。そのマスター、そして聖杯戦争の監督役として影で暗躍していた言峰 綺礼。

マスター権を剥奪され、その日から姿を消した。

 

 

 

アインツベルン城、激戦の前日。

衛宮 士郎、イリヤスフィールと別れた後の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 




さて、今年の抱負ですが。

fate/stay night GINNIRO完結!

これを目標にして、成し遂げることに尽力致します。
どうぞ、これからもよろしくお願いします!

【次回投稿】
そして謝らなければなりません。この日、1月25日は去年、「fateSN /GO」を投稿しました。その一周年ということで前倒しで投稿しました。
どうか!来月までお待ちください!

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