fate/SN GO   作:ひとりのリク

3 / 95
「チッ、まさかマジのマスターだったか」




銀の刀、朱の槍

男の一振りは、少年の前に(そび)え立つ壁を粉砕した。

その壁は酷く赤黒い、濃厚な死。ドロリと全身を包む、死の装飾で成り立つ一枚の高い壁。

月明かりの夜、背中に、胸に襲ってくる死の槍。叫びながら逃げて。吼えながら、震える手を動かした。何度か気絶しかけても、その度に少年は踏みとどまった。

きっと大層な理由は持っていないかもしれない。ただ、納得が行く最期じゃないから、なんていう物凄い贅沢なものだ。これが、自分に向けてのものなら……だが。

 

銀色の一筋を見た。

その光景が、目の裏に焼きついて離れない。

 

不思議な光景だった。銀色の月明かりが少年に光を当てた。土蔵の入り口から差し込む光を全身で感じると、力んでいた足腰から力が抜け落ちる。力む必要が無くなった、と言うのが正解かもしれない。

月の光のお陰かと思ったが、違う。目の前で、俺を助けてくれた男が向ける瞳が、よく凌いだなと言ってくれたからだ。

 

「よ〜っ、マスター。その胸は、どうやら大丈夫そうだな。いや〜安心したぜ、敵の攻撃弾いたつもりが、実は打ちそびれて刺さってました〜!なんてオチなら、ケツ穴締まりそうだったぜ?驚かせやがって〜〜」

「…………」

 

土蔵の床にへたり込む少年を、銀髪の男はやや眠たそうな視線を向ける。何かしらの反応を待っているようだった。けど、少年は理性を吹き飛ばす程の驚きと、先程まで自身が握っていた木刀を右手に握る男から感じる安心感で、動作というものが固まっていた。一つ確かに動いている、不安感を(あお)る心臓は、ようやく落ち着いてきてくれたが。

男はやれやれと呟いて、尻をつく少年の傍に立つ。

 

「今から一戦おっぱじめる前に、あんたの名前を教えてくれよ。召喚していきなりの初陣だが、それでもこれから一緒に戦い抜くんだ。背中預けるヤツの名前知らねえと、俺のケツの穴が引き締まらねえんだわ」

 

ケツの穴を引き締めたいのかそうでないのか、どっちなんだと聞きたい気持ちをのみ込む少年。(わざわい)は口から。変な事は言わないに限る。

肩にトントンと少年の木刀を置きながら、私物のように扱う男は、少年の名前を訪ねた。助けたついでに聞いた、なんてものでは決してなく。少年に信頼を寄せたいと、男は無言で語っている。

少年は起きた事の整理がつかず、しかし懸命に名前を伝える事だけに集中する。震える喉を、掠れ声が出ないように深呼吸をして落ち着かせて。聞いてくれ、と。是非、俺の名前を覚えて欲しいと。男の質問に応える。

 

「衛宮……………士郎」

 

衛宮 士郎。自分の名前を言っただけなのに、恐怖から解放されるような気持ちになる。聳え立つ壁に、ヒビが入る。

男はそれを聞いて、ニンマリと笑った。

 

「衛宮 士郎か………。ん?おいおい元気ねえなあ。腰の力抜けてんぞ〜、さっきまでの気合いはどうしたよ………アレか、タマヒュンか?タマヒュンしたなさては。分かるぜ、あの何とも言えない爽快感?あー、けど俺はもう大人だし?タマヒュンはもう来ないんだわ、大人だから」

「タマッ………いや、それよりもアンタは!?」

「俺?俺はサーヴァント。取り敢えず、セイバーって呼んでくれ」

 

サーヴァント…?セイバー…?それに、俺がマスター?

聞き慣れない、いや、点ですら分からない単語に、キョトンとなる。槍兵の言っていた、英雄というモノと何か関係があるのだろうか。

士郎の表情を見て、一瞬だけセイバーはハテナと首を傾げる。釣られたのだろう、しかしすぐにニッと白い歯を見せてきた。

 

「後は俺に任せて、マスターはそこで取り敢えず休んでな!」

 

落ち着く。暖かい表情。死に震えていたのに、彼がいてくれるだけで全ての絶望が吹き飛んでいくようだ。同時に彼は、絶望へ立ち向かい()ぎはらうのだろう。いや違う。だろう、というのはおかしい。彼は、あの絶望を倒すのだ。死を生へ塗り替えるために、木刀を握ったんだ。

背中を向けて土蔵を飛び出していく彼の背中を追うように、俺は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土蔵の床を蹴り、セイバーと名乗った男は槍兵との距離を二步で詰める。身体を右回転させて、木刀を突風の如く水平に薙ぎ払い、槍兵の胸部目掛けた。槍兵は避けきれないと判断したのか、朱槍を盾に木刀を正面から受け止める姿勢をとる。

そして。どう表現していいのか分からないくらいに激しい衝突音が、衛宮邸の庭に響き渡る。受けた槍兵は苦い顔をしながら、両手に走る衝撃に驚きの表情を見せた。だが、すぐに表情は一変。闘争心漲る笑みを見せて、雄叫びを上げ押し返した。今度は槍兵からセイバーに詰め寄る。

槍兵が繰り出したのは、突き。二つや三つではない。人間でいる限り見切れないようなスピードと数。穂群原学園のグランドで見た、化け物と思った動きが今、セイバーへと襲いかかった。

 

「…っ!」

 

 

ソレが繰り出されたのと同時。士郎の感情は、静かに興奮していた。

この場ではとても可笑しいと思う。だけど、恥だとかいう感情を捨てされるくらいに、彼は輝いていたんだ。

 

 

槍兵が突きの構えを見せたコンマ数秒で、セイバーは木刀を両手で握る。左足をやや前へ、槍兵の突きに備えた。瞬間、朱槍の矛先がセイバーへと襲いかかる。その矛は、人間の視野で捉えることは不可能だと断言出来る。槍の長さを感じさせない突き。ヒュンと空気を裂いて放たれる。人間としての域を凌駕(りょうが)している、槍の残像が幾つも見えている時点で、改めて認識した。

しかしセイバーは特に表情を変える事なく。

ギラリと冴える瞳。白い歯を覗かせ、幕を開ける。

瞬間、セイバーの姿も槍兵に合わせて残像を見せる。土蔵に転がっていた木刀で、槍兵が猛威を(ふる)う突きを、(ことごと)く捌いてみせた。

 

「……すげぇ」

 

槍兵が突きを止め、後ろへ飛び退く。セイバーは後を追わずに、木刀の持ち手を確認していた。槍兵は、朱槍の矛先をセイバーから逸らすと、彼が扱っている木刀を見ながら口を開く。

その目からは、怒りを感じ取れる。

 

「…ふざけてんのか、てめぇ?ソレは、あのガキが土蔵で咄嗟(とっさ)に拾った木刀だろう。てめえ自身の武器じゃねえ!」

「おいおい、そっちこそふざけたこと言ってくれるじゃねえの、青い人」

「青い人って何だセイバー、俺はランサーだ!」

「それで、この木刀がどうかしたのか?木刀舐めてんだろ、木刀は使う人間によりゃぁな、そこいらに売ってある刀より凶器なんだからな、青い人」

「ランサーだ……!舐めてんのはそっちだろうが!その木刀が触媒なら分からんでもない。宝具と呼べる代物なら納得する。先の剣筋から見て、セイバーってのも納得した。

けどなぁ、だからって何の魔力も通ってない木刀で戦うっつーのは、ちと舐めすぎじゃないか?お前さんが握ってる木刀からは、神秘性も魔力も皆無じゃねえかよ!」

 

真っ当な怒り。真剣勝負に対する熱意と、ソコに用いる武器への指摘は士郎も頷くしかない。ランサーだの、触媒だのと分からない言語が飛び出すが、今は知る由もなく。セイバーと名乗った男と、ランサーと名乗った男の動向を静かに待つばかりだ。

ランサーは解せぬ表情を露わにしている。それに加えて、何の魔力も帯びていない木刀を攻め崩せない事への苛立ち。アレは、セイバーの扱う物は、土蔵で埃まみれになっていた木刀に間違いはない。

何の変哲もない、そもそも土蔵に木刀があった事すら知らなかったのだ。もしかすれば、特別な代物なのかもしれないが、士郎にはセイバーが握る木刀から、特別なモノは感じ取れなかった。

剣道場の隅に立てかけてある木刀と、何ら遜色(そんしょく)のない(ぼん)も良いところの木刀。

士郎は、そう思った。だが、セイバーは違っていた。士郎の手から弾かれた木刀を握りしめた事に、彼は。

 

「へっ、なんだそんな事かよ。

そうかい、″コレ″の正体がおめぇには分からねえんだな」

 

セイバーは憎みきれない、いや、敵にとっては相当に腹の立つであろう清々しい笑いをする。ランサーは頬をピクリと上げ、不満を込めた目でセイバーに矛先を向ける。

 

「こいつはマスターから受け取った木刀(バトン)だ。本当は俺の武器で臨むつもりだったんだが、今のお前にはソレ(俺の武器)じゃ物足りねえ。

その頬に一発ぶち込んでやる。この想いの重さ、その真っ青な身体で受け止めやがれ」

「………」

「セイバー…」

 

本気だ。

本気の目。

生きたいという執念、恐らくセイバーはその想いを受け止めていた。まるで、その執念(想い)に共感したような、少年の心を見透かした言葉。そして、少年ではランサーの身体に届かせる事が出来ない武器を、抵抗を代弁しているのだ。

短く、真撃に。

己の武器では物足りない、と。セイバーは、槍兵を相手に敢えて、士郎の最後の抵抗であった木刀を選んでいるのだ。

自分の武器があるにも関わらず、ソレでは足りない等と。この場で言えるようなセリフだろうか…。

会ったばかりで、何も語っていないはずなのに。士郎は、セイバーの行動に、確かに感銘を受けた。だけど、それだと。

 

「ま、待ってくれ!えぇっと、セイバー?……あのランサーってのを相手に、たかが土蔵の木刀で持ち堪えれる訳ない!気持ちは嬉しい。けど、それであんたがやられたら…」

 

俺は怖かった。初対面の人物に助けられて、俺を死なせまいとランサーという敵と向かい合っているのに。その木刀にはきっと、なんの思い入れもない筈なのに、彼は、俺の想いをかけがけのない武器として扱うと言うのだから。

けどそれで負けたら、意味がないじゃないか。そう続けようとしたセリフに、セイバーは割って挟む。

 

「まあ見てなって、マスター」

 

セイバーはそう言うと、口元をニヤリと上げて見せ、士郎と目を合わせる。

自分の心配が的外れで、彼にとってそう大した事ではないと知るには十分だった。もしかしたら、失礼だったのかも。

 

「はっ、何処ぞと知れぬ英雄よ。その挑発に乗ってやろう。今ここで!その心臓、貰い受ける……!」

 

直後、ランサーは呟く。セイバーの言葉を、挑発だと受け取ったのだろう。

空気が一変した。全身に溶け込む、痺れるような殺気。

再び、死の緊迫がランサーの朱槍から溢れ出る。

 

「あれは………!」

 

学校で、遠目で見た光景が過る。アレを見て、自分は駆け出したんだ。脳に焼き付いた、死の恐怖。遠目でだって、見れば誰だって逃げ出したくなる。

何も訳のわからない士郎ですら、あの槍が尋常じゃない事は直感で悟った。普通ではない。常識的なモノなんか跳ね除けてしまうモノに違いない。

心臓に巻きつく朱い薔薇。恐怖の悪寒が周囲を満たす。絶対に逃がさない、逃げられないと確信出来る程の説得力を受ける。ランサーの殺気を証明し、一撃必殺としての意味をも体現している。

当然、セイバーもソレは分かっているのだろう。来るであろう何かに備え、重心を低く落とし、居合いの構えを取っていた。

 

「宝具か………!」

 

静かに、セイバーは口にする。その危険性を、既に知っているような素振りだ。

宝具、と言った。きっとそれが、あの槍から放たれるであろう技の正体なのだろう。

ランサーは姿勢を落とし、槍を構える。そして…

 

刺し穿つ死棘(ゲイ・ボル)────」

 

描かれる朱。描かれる銀。

呼吸を忘れ、その攻撃が繰り出される前に一つの決断に悩んでいた。







【おまけ】
ギャンブル中毒のセイバー(銀さん)は、幸運E。

セイバーのステータス
筋力:C 耐久:D 俊敏:B 魔力:D 幸運:E 宝具:A

ま、ステータスなんて飾りですよ()
彼の幸運はギャンブルで証明されています。たまに大勝ちしたとしても、元は全然取れてないですから。ありゃ、イッちまってるよ…
銀魂の金時なら、幸運高くて黄金律もAぐらいありそうだよね。金○だし。幸運A+++くらいあるんじゃないかな!?(てきとう)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。