fate/SN GO   作:ひとりのリク

17 / 95
穏やかな難関

青空の下、自転車のかご一杯に積み込んだ食材。背後に消えていく商店街をよそに、セイバーと二人で家路へとついた。

セイバーから話を聞いて俺は、やっぱりな〜、と呆れた声を出していた。学校で俺と別れたセイバーは、新都寄りに歩いて行った後、来た道を戻って柳洞寺へと向かったらしい。

よく柳洞寺まで迷わずに行けたね、そう突っ込みを入れると。足が勝手に動いていたという返事をもらう。なんだよそれ。

 

「あれだよ、侍の直感ってやつ?」

「いや、分からないけど」

 

セイバーは英雄としてここにいるんだ。研ぎ澄まされた侍の第六感的な、凄い能力があっても頷ける。けどこの話、これ以上続けても終わりが見えない。

取り敢えず、今晩の夕食について考えながら、藤ねえや桜に、セイバーのことをどう説明するかという難問を片付けよう。

だけど一つ。アーチャーがセイバーの方に着いて行ったことには驚いたが、じゃあ遠坂はさっき、学校で何をしていたんだ。歯切れの悪い別れ方をしてしまったけど、俺は全然納得してない。明日、彼女を見つけたら聞いてみよう。

 

 

そろそろ、家に着く。

早急に解決しなければならない問題が残っている。

 

「セイバーの事、藤ねえ達になんて言おう」

 

俺の家に来る人達にセイバーのことをどう説明しようかと相談したら、なんと彼は隠れて過ごすなんて言い出した。

 

「どうしてさ。セイバーは霊体化が出来ないんだろ?……いや、出来たとしても。聖杯戦争の事は隠して、一緒に夕食とか食べればいいじゃないか」

 

セイバーは命の恩人だ。それに、俺をマスターとして一緒に戦ってくれる。それなのに、セイバーをまるで除け者のようにするなんて俺には考えられない。

 

「俺なんかが来たら色々面倒だろ。それによ、俺らサーヴァントが一般人の前に出ないのは割と普通だぜ。どんな拍子でポロっと正体バレるかわかんねぇ。

……万が一があれば、士郎が後悔するぜ」

 

それって、つまり。

 

「セイバーは、俺の家族が聖杯戦争に巻き込まれる可能性を減らそうとしてくれてるのか?」

「ん、まぁな。おめえも参加しちまった時点じゃもう、塵くれえの差かもしれねえけど。もしもってのはあるからな」

 

意外………でもないけど。こうして改めて聞くと、セイバーは本当に優しい。ちょっとニヤケそうになるくらいに、俺は嬉しくなってしまう。

勿論、アーチャーやランサーのような奴等と一緒に見ていたわけじゃない。まだ知り合って一日だけど、セイバーのこういった性格を見れて安心する。

 

「俺、これでも結構気ィ配ったつもりなんだけどなぁ。ニヤニヤしやがって〜」

「セイバーはもう家族みたいなもんだ。大丈夫、ウチの虎はそっとやちょっとの事はバッチコイだ!絶対に受け入れてくれるって。

それに、セイバーの言う、万が一が来た時は、俺が死んででも彼女たちを守ってみせる。そのために俺は、聖杯戦争に参加したんだ」

 

藤ねえも、桜も。そして切嗣と育った冬木を、俺は守る。

これを当然だと考える自分がいる/あの日を体験すれば誰でもこうする。ある種、聖杯が生んだ呪いだとは、考えもしない。

行動の活力は、切嗣との思い出から始まった。それだけだ。

 

「……そうか。俺は、やっぱ運がいいのかもな

 

昨夜のことを思い出す。ランサーに追い詰められて脳裏に過った走馬灯。忘れるつもりはなかったけど、それでも徐々に薄れていた切嗣の姿。あの時、幼い頃の自分越しに、成長した今の自分の目で切嗣を見た。

するとどうだ、心が熱くなるのを感じる。遠い記憶を()て見た瞬間から、最後まで諦めてはいけないと本能が言っていた。俺の在り方であると……。

そこからだ、運命に呼ばれるように、土蔵へと向かった。いや、向こうに呼ばれたかのような錯覚。心が通じ合っていたのか、それとも魂が求めていたのか。

そのお陰でセイバーと出会うことができた。だから、俺はセイバーに余程の事情が無い限り、彼を家族として受け入れる。たった今思いついた、切嗣を訪ねてきた親戚という案で押し通す。

 

「はぁ。こりゃ言っても聞かんねえか。わーった、わかったよ。ホレ、取り敢えずお前のねーちゃんにどう説明すっか教えてくれ」

 

 

 

 

セイバーは、切嗣の親戚というこもで話を通す。あれやこれやと説明しているうちに、家の前に到着した。チャリを玄関横に置いて、カゴに入ったビニール袋を持ち上げる。

 

「お〜い、イリヤ〜?帰ったぞ〜」

 

呑気に玄関を開けたかと思えば、これである。状況がイマイチ掴めないまま、セイバーは士郎の頭を鷲掴んで顔を無理やり後ろへと向けた。

 

「いやおかしいだろ。なんであのガキがまだお前家にいるみたいになってんの?士郎、まさかそのケーキ、今夜のデザートじゃなかったのか!?」

「イデデデ!ちょ、離してくれセイバー!

あいつ、体調悪そうなのに帰ろうとしたから呼び止めたんだよ。休んでろって。まさか、一人で帰ったのか…?」

「お前はバカかぁぁあ!?あのバーサーカーのマスターだぞ!?表じゃ無垢な素ぶりしといて、裏じゃ何仕掛けてくるかも知れねえのに!

おい、てことは。この家に何か細工してるかもしんねぇじゃねえか!?」

 

そ、そんな事はしないと思う……。

なんて風に、彼女を庇おうとしたけど。

 

「士郎、おめぇは家に入るんじゃねえぞ。いいな。俺がいいって言うまで入ってくんじゃねえぞ!」

 

颯爽とセイバーは、どこからか取り出した黒いサングラスを掛けて、玄関から我が家へと突撃してしまった。

今の時点で既に、緊張感なんて物は霧散してしまったけど、まあいいや。

 

 

ポッポー♪(時間が過ぎる音)

 

 

もう十分は待った。

しかし、中からは何も返答がない。

 

「お〜い、セイバー?」

 

玄関を開けて、恐る恐るセイバーの名前を呼ぶ。

五秒待っても返事がない。嫌な、予感がする。

 

「よし、ただいま〜〜…」

 

静まり返った家。無人かと思えるが、確かにセイバーはこの家にいる。セイバーが変な先入観を与えてくれたせいで、少しだけ空気がピリッとしている。妙な不安を殺すように、そっと靴箱に手を伸ばす。

手に取ったのは、靴箱の奥底に防犯用にとこっそり置いている木刀だ。

目を閉じて、いつもの言葉を呟く。

 

「トレース・オン」

 

チリッ、小さく音が弾けて次に、薄く木刀が発光する。

右手に握る木刀に、回路のような線が走ったのを見て、思わず疑問の息を漏らす。

 

「こんなに上手くいくなんて……

前はもっと時間掛かってたのに。やっぱ、セイバーと契約したお陰なのか?」

 

確実に、いままでとは違う事を確信する。強化の魔術は、一から十までを組み上げるのに相当な集中力を使うものだ。あれは、死と隣り合わせのような危険すぎる魔術。そういう認識で、そのせいなのは俺が魔術師として未熟だからと思っていたのに。

今はどうだ。ここ数日で死ぬような思いはしたものの、死ぬ余程の鍛錬は積んでいない。なのに、目を閉じて、強化の回路を開いた瞬間には既に、成功している。

 

「って、今はセイバー探さないと」

 

一先ず、この事は置いておこう。

あれこれ考えても、俺だけで解決するようなモノじゃない。

玄関で靴を脱ぎ、家に上がる。ここは一つ一つの部屋を見ていくのが常識なのかもしれないが、俺は自分の部屋に向かうと決めていた。

そっと、音は立てないように素早く歩く。三十秒もせずに部屋の前に来た時、部屋を出る時は開けていた筈の障子が締まっているのを見て確信した。

 

「セイバー、御用だ!」

「あ、やべ」

「………!」

 

開けた瞬間、そこに広がっていたのは″新たに″発掘されたであろう慎二のあーるじゅうはち本だった。

ピリッとした空気に火がついた。握っていた木刀を思いっきりセイバーの脳天目掛けて、

 

「アンタ結局人のエロ本読みたいだけだろぉぉぉぉ!!」

 

振り下ろす。しかし、セイバーに当たるはずも無く。セイバーの木刀によって防がれてしまった。

 

「おっと危ねえ。ホレ見ろ、こんなに罠が出てくる出てくる。これだからいけねえ、サーヴァントの俺ですら引っかかる罠なんざ没収だ!」

「それ罠じゃないんですけどぉぉ!」

 

 

 

 

新たに発見された性異物は燃やした。

場所は居間。

 

「何もなくて当然だろ。イリヤはそんな事はしない」

「あぁ、粗方部屋は見たけど、んな物騒なものはなかったわ。するとわかんねえ、士郎に手を出した訳でもねえのに、どうしてイリヤスフィールはここに来た」

 

それは、分からない。

だから話さないといけない。立ち上がり玄関へと向かう。

 

「あいつが心配だ。見てくる」

「待て待て、今外に出るのはやめとけ。お前は大人しくしてろ、イリヤスフィールは俺が探してみるからよ」

「で、でもセイバー。俺、イリヤともっと話さないといけない気がするんだ」

「いいからいいから。安心しろ、絶対に襲ったりとかはしねぇからよ!オメーは身体を休めんのが先だって」

 

セイバーが見に行ってくれるなら、俺も一緒に行けばいい。そう言おうとしたけど、俺の事を気遣ってくれている手前、ちょっと言いにくい。それに、身体を休めたいのもある。

 

「じゃあ悪いけど、イリヤの事を頼むよ。もしいなさそうなら、すぐ帰ってきて構わないから」

「そのつもり。んじゃ、ちょっくら行ってくる」

 

片手をフラフラと上げながら立ち上がると、セイバーは玄関へと行ってしまった。

さて、本当なら横になっていたいのだけれど。

 

「セイバー、もしかすると俺が夕飯作るの遅れるから行ったのかなぁ」

 

今夜はいつもより豪華にいかなければ。これから聖杯戦争を戦い抜く為に、セイバーに少しでも魔力を回復させてあげたいのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一時間も経ってるのか」

 

セイバーがイリヤを探しに行ってから、かれこれ一時間は経っている。時計の針は十七時を回っていた。

俺は夕飯の準備を着々と進めて、下準備は全て終了。後は、セイバー達が帰ってきてから熱を通せばいいんだけど。

 

「やっぱり、イリヤは帰っちまったのかな。あいつ、無理しやがって……」

 

セイバーが帰ってこないのは多分、イリヤが見つからないからだ。そして、イリヤが見つからないのは、一人でどこかも知らないあいつの帰る場所に向かっているのだろう。別れ際、玄関で見た彼女の顔を思い出すと放っておけなくなる。今すぐにでも探しに行きたいが、ここは…。

 

 

▷やっぱり気になる。ダメ元で探してみよう。

▶︎……情けないが、セイバーの帰りを待とう。

 

 

玄関に向かう足を止めたのは、放っておけないと思った筈の彼女の顔だった。

彼女の視線は、まるで別人のように静かで、優しさが見えている。あの一瞬の事を、忘れられない。イリヤの事を分からないなりに、彼女は一人になりたいと、どこか思っている節は見えていた。それも含めて、俺はセイバーの元へと向かう後押しにもなったが、本来なら彼女一人になんかさせたくはない。

 

あそこで立ち止まらなかった自分に果たして、彼女を探しに行く資格はあるのだろうか。

色々と考えているウチに、足だけが玄関へと向かっていた。

せっかくセイバーが休んでろと、気を利かせてくれたんだ。今から出ても仕方ないか。あ、そうだ。靴箱から持って行った木刀を戻しとかなきゃ。

 

「ん?」

 

よく耳を澄ませると、玄関の向こうからセイバーの声が聞こえる。なんだか、女性の人と何か言い合っているようだ。どうしたんだろうと思い、玄関を開けようとすると、先に外にいる人が開けてしまった。

 

「あ、すみません。先にどうぞ」

「どーもすみません、ではお先に〜」

 

という会話の後に。

 

「あ、グッドタイミングゥ!ただいま〜!士郎ぉ、お腹減った〜〜!」

「士郎帰ったぞ〜」

「おかえり藤ねえ。それにセイバーも」

 

セイバーと一緒にいたのは、藤ねえだった。なんだぁと安心してホッとした矢先だが。いや待て。藤ねえ、だと。

 

「………いや、貴方誰よ!!??なんで士郎の名前知ってるの!?なんで親しそうに話してるんですか!?」

 

あー、なんてタイミングの悪い人だ。

セイバーが余計な事を言う前にフォローしなければ。

 

「俺はグフッ」

「落ち着いてくれ藤ねえ。彼は、切嗣を訪ねてきた古い友人のセイバーさん。どうやら切嗣がいないのを知らなかったらしくて……宿も取ってないって言うから、ウチに泊まってもらうことにしたんだ」

「…怪しい。切嗣さんの名前を利用した不審者かもしれないわよ!ちょっと士郎、人が良すぎるのはいいけど、こんな怪しい人をホイホイ信用しちゃダメ!」

 

ガーッと物凄い勢いに押されてたじろいでしまいそうだ。

 

(み、見えなくもないから困る……)

(これだけ失礼な視線ぶつけられたの久々なんだけど。おいぃ士郎、お前ちょっとだけ納得してただろ)

(いや大丈夫だって。そんな視線向ける訳……ないだろ?)

(今の間はなんだぁぁあ!?)

 

念話って便利だ。

 

「目……!目だよ、藤ねえ。なんたってセイバーさんは、切嗣と目が似てる!ホラ!!」

 

セイバーは何やら不満そうだけど、黙っているのは正解だ。彼は切嗣の事を何も知らないのだから、口を滑らせたら速攻で刑務所行きは間違いない。

青筋見えるけどこの際仕方ないのだ。

 

「む、むむ……?むむむむぅ〜〜、、、、。

た、確かに……?何処かあの人と重なる部分があるわね。ザ・親友って感じ?けど服装が………」

「ふ、服は個人の趣味じゃないか!それにさ、目が懐かしいって感じ?訪ねてきた時は少し戸惑ったけど、話聞く限り悪い人じゃないからさ!!」

「けどダメ!私、これでも教師ですから。士郎を、身分も知れない人と一緒に居させる事は許可できません」

 

それを言われると、ちょっときついな。けどどうしても、藤ねえには納得してもらわないといけない。その説得材料が少なすぎるのと、セイバーが普通に怪しい人っぽいせいで、難航しそうだけど。

 

「けど、士郎が此処まで言うなら悪い人じゃなさそうそうね。へ〜〜、木刀ね。ふむふむ、よし!

私に剣道で勝ったらいいわよ!」

「まじで?」

「お、早くて助かるぜ。士郎、お前ってすんごい信用されてんな」

 

………墓穴を掘ったな、藤ねえ。

得意げに言い放ったそのセリフはもう、取り返しがきかない。冬木の虎と恐れられたその腕前は本物だ。しかし、相手がセイバーじゃ…ね。

これで、どうにかなりそうだ!

 






少し早いですが、士郎は強化の魔術が少しだけ使えるようになってます。勿論、投影なんて全然出来ませんけど。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。