fate/SN GO   作:ひとりのリク

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「セイバー………!」




侍たるは燕なりⅠ

まるで光。側から見れば、そう例えるはずだ。

何かがぶつかり合う。

甲高い金属音が、眩しい。

 

「ふっ……!」

「ぐ………!」

 

右へ、左へ。通り過ぎ、瞬けば通り過ぎた筈の一刀が折り返してくる、鋭く空を斬る線。その形状は視認不可能な域。行き踊る鋼色と茶色の線は、繰り出す本人達にすら光のような速さに見えている。

遠くで聞こえても、ぶつかり合う音はとても軽い。

しなやかさを感じる。乱戦の最中を思い浮かべてしまう程に、刀と刀がせめぎ合う。殺風景な石段を賑わせる、無数の俊音。

しかし、現実は違う。

 

「銀時よ。こちらはさっきから、その木刀を斬り刻もうと加減無しで物干し竿を振るっているが」

 

光の如き速さを持って、刀を振るうのも。

 

「不思議だ。真剣と渡り合える木刀と聞けば、一発でその真名まで辿り着けると思っていた。然し、それがしでは無理のようだ」

 

怒号は無いものの、それを補う程の刀同士の衝突音を響かせるのも。

 

「おいおい、まさかこの斬り合い中に、んな事考えてたのかよ。もう俺は名乗ったんだ。余計な考え事してたから負けました、なんて言い訳は受け付けねえかんなぁ!」

 

たった二人。たかだか二刀。

絶え間なく紡ぐ火花。ザ、と足元の立ち位置を僅かに調整する音。

 

「当然。あぁ、言っておくが、そなたを侮っているのではない。銀時、お主は先程言ったではないか。挨拶の後はお互いに見せるモノを見せ合うだけだと」

 

更に速度が上がる刀の斬鎖。

何処までも続くように思える、石段の上と下で繰り広げられる攻防。これら全て、たった二人の侍によるもの。

門番、佐々木小次郎と。

 

「だから胸が踊る。その隠し通そうとしている、愛刀を抜かせずしては始まるまい?」

 

彼に挑む、坂田 銀時。

 

「さっきから見せてるよ、これも俺の全力だ。コレ(木刀)の破壊力にゃ気を付けな!」

 

寄せず、然し首を断つ為の薙ぎ。

躱し、段差を無くさんと勇み足。

銀時の技量は僅かに、小次郎の腕を上回る。不利な足場であるにも関わらず、一歩、二歩と詰め寄る。あと一歩、あと一段上がれば、届くかもしれない刃。然し。

 

「………ちぃ!」

「ふっ……ぁ!」

 

その一歩、一段が遠い。

小次郎は門番という立場があるにも関わらず、攻め続ける。長刀のクセを知り尽くしているのだろう足取りは、下から攻める銀時が最も嫌う角度で刀を切り返す。

現状、銀時の攻めは、小次郎の振るう長刀に翻弄されてしまい結果、守りの為の攻めへと変換してしまっている。

だが。石段の上と下。これのせいと笑いも、嘆きもしない。自分だってそうしていたと、小次郎の立ち位置に寧ろ自分を重ねていた。もし、自分が彼のように上を取ったとして、上を守り通すのは困難であると知っている。

 

「ぐっ、ぁぶねぇ!」

「これでも、届かぬか」

 

素早く、石段を二段降りる。すると目の前を瞬く間に斬り返す長刀が影を残していた。普段ならばこの隙を見逃さずに、石段を駆け上がっているのだが。その時にはもう、態勢を万全にした小次郎がいる。この瞬間に石段を踏めば、疾風の如く放たれる線によって、首は断たれているだろう。

たかが石段を数える程度。余りにも高く、余りにも遠い。

そして、何よりも近くにある、目の前の死。

これまでの攻防を経て、未だ戦況に動きはない。銀時は一段、二段と登った場所を維持できず、小次郎の剣技によって後退を余儀なくされる。

 

「斬り返しを最短距離でしてるわけじゃねぇ。なのに、こっちが踏み込んだ瞬間にゃ次が来てる。何処で学べばそうなるんだよ、全く」

 

踊り場から見上げる。ただ立っているだけに見えるが、もう構えは終えている。それが佐々木 小次郎のスタイル。これが、この男の強さ。

 

「褒め言葉として受け取っておこう。そして受け取れ。これでもな、七の数はその首、断ち斬ったと確信していた」

 

小次郎は嬉々と口にする。その表情は、刀と刀のぶつかり合いを純粋に楽しんでいる。一振り一振りは遊びと真剣を兼ねて、こちらの出方を観察しているように見える。

 

「けっ、よく言いやがるぜこの野郎」

「……話はよかろう。今は口ではなく、手を働かせる時だ銀時!」

 

次に動いたのは佐々木 小次郎だった。

その剣筋を見る間もなく、銀時目掛けて繰り出される銀光。最早視認できる域から離れたソレを、確固たる勘だけで、銀時は己に迫る刀を捌いていた。

彼の一太刀はこちらを見定めるように、あらゆる線を描いていく。

面、胴、籠手。その部位はまだ離れていない。

脛、肘、膝。まだ健全、太刀が触れる事はない。

全て。死を彷徨う全ての居合いが火花を散らす。

 

「くっ…!」

 

捌いた、そのはずなのに。一段を踏めば其処には、やはり斬り返してきた刀がある。

これまでの常識から外れているソレに、感覚が麻痺してしまいそうだ。ただガムシャラに、木刀を薙ぎ払って返された刀を捌く。すると逆から迫る長刀が映る。いや、もう分かっていたとばかりに予想通りだった。一歩身を引いて、段差を利用した高さ調整でソレをやり過ごす。

また、一歩前へ。進まなければ、上へ上がらなけらばいけないという己の本能に従って踏み出す。同時に、このまま進めば危険だという赤信号が感情へ伝えられる。分かっている、次の攻めで小次郎を踊り場へ引きずり出さなければ負けてしまうと。

 

「笑わせんなよ、キザ野郎。お前みたいなヤツはな、俺の時代じゃあ数え切れないくらいはいたぜ。勿論、お前以上もな!」

「ほう、それは。是非とも行ってみたいものだ。だが」

 

何度あの太刀筋を見ても、一向に見えない。法則性もなければ、斬り出す瞬間までどこを狙っているのかさえも見極められない。

過去、岡田 仁蔵や泥水 次郎長といった怪物の域にある侍と対峙した時を思い出す。彼らとの死闘を思考の片隅で振り返って、そのどれもが確実にこちらを殺す為に刀を振るっていた。目的の遂行へ向けて。だから侍独特の、明確な太刀筋ってやつが見えていた。

 

「………その太刀筋。この世に二人とおるまい。無垢な頃から真剣を振っていなければ出来ぬ芸当だ。きっと、その腕でなければ私は、とうの昔に斬り伏せていたぞ」

「おめぇ、人の事言える筋じゃねえだろ」

 

小次郎のセリフが煽りに聞こえてしまうくらいに、彼の刀は生涯を賭しても至れるような域ではないのだ。事実だと小次郎は確信している。

足が地面から離れない。故に、常に。普通なら無理とさえ見える構えからでも、あの長刀はこちらを狙い澄ましている。銀時自身でさえ真似が出来ない。何度もボヤくが、あんな立ち回りは見たことが無い。彼には、明確な太刀筋というものがありはせず、それが大きな壁を作っていた。

 

「断言するが。この先、何処か別の場所に呼ばれたとしても、銀時!そのデタラメで隙の無いセイバーに会う事はないだろうよ」

「よく、いうぜっ!!」

 

長刀を捌いて、踏み込みを仕掛けようとした瞬間。

 

 

 

「よぅし」

 

 

 

意気揚々と、心の底から小次郎は呟いて。

 

 

 

「な、に!?」

 

 

 

銀時の木刀を、なんと小次郎自ら鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「油断したな、銀時!」

 

それは目にも止まらない動きだった。

銀時は何をされたのか分かっていない。

 

「ぐ、ぁ??」

 

ただ、気付けば自分が踊り場に転がり落ちていた。

背中に走る鈍い衝撃で、自分の態勢を把握して即座に地面に足を着ける。

立ち上がるとさらなる衝撃が、感情の隅々に走り渡った。

 

「てめぇ、どーいう腹積もりだ」

「いやなに、あのまま刀を交え続けるのも良かったのだがな。私の物干し竿はそうもいかぬだろう。その木刀の衝撃は予想を遥かに上回っていた。

お主の忠告を受け入れたのさ。ソレの破壊力は侮れぬ。下手を打てば、物干し竿は折れてしまう」

 

己の有利を捨て、銀時と同じ足場へと降りてきていた。

これは、千載一遇のチャンスだ。段の上という武器を捨てている今なら、この狭い踊り場であの長刀はむしろ不利なのは一目瞭然。

だというのに。

 

「ふ、構えろ銀時。お主を侍として、秘剣を持ってその命、散らせてみせよう」

 

依然、小次郎の涼しい表情に変わりはない。いや、むしろ逆だ。

 

「キメに来るのか?今日は挨拶だけっつったじゃねえかアンタ。えらく勝負を急ぐな」

「先程のは、こちらの失言であったわ。まぁ、気が変わった。それだけのこと」

 

ここにきて初めて、全身が凍えるような殺意を目の当たりにする。

その全ては、生前見た事も、この戦いが始まってから見せられた事もない、侍の構え。

 

「まだ、奥の手は使わぬか。様子見の暇はもうないぞ」

「────ッ!!!!」

 

両者の間合いは凡そ三メートル。

明確なイメージを感じ取った。そして、既に回避不可の域、小次郎は逃さない確固たる自信を携えている事を悟る。それでも、あの構えを崩さなければならないという本能が、銀時の足を動かしてきた。長刀の間合いの内に入れば、あの長さは弱点でしかないのだから…

…とんでもない。それは大きな間違いだ。

 

 

「──秘剣」

 

 

決定的に見誤ったな、と。小次郎が横目で語っているのを見て、銀時も理解した。この男に、間合いもクソもない。どんな立ち位置だろうが、″どれだけ懐に入られようが″、そこは全て、彼の手の内。

 

「燕返し──」

 

脳裏に過るイメージ。小次郎の殺意から予測した、全く同時に発生する、三本の銀筋。濃ゆく、それは見えてしまった。

噓偽りではない。これから来るのは、秘剣であって宝具ではない。この現象は、彼自身の努力のみで宝具の域にまで達した絶技…!

ダメだ、身体が前にしか行かない。分かっている、描かれる三本のうちの一つだけでも凌ぐことが出来れば、すぐ左にある石段を転がり落ちて回避出来るかもしれない。

早く、踏み出した左足が地面に着けと。早く、無様でも構わないから足搔けと。自分にあと一押しか足りないのを痛感しながら、その時に備えていた。歯を噛んで、混乱している神経を落ち着かせようとする。

 

──来る!

 

稲妻の如く、現れる剣筋。その三本は、確実に殺す為にまず逃げ道を潰した。

 

然し。魔の檻に手を伸ばす一人の声が、石段を駆け抜けた。

 

セイバーーーーー!

 

それは声だけだ。ただ一生懸命にセイバーを呼ぶ、マスターの()

十分だ。必死に差し出されたのだから、こちらも必死に、不細工に死に物狂いで手を伸ばす!!!

 

「ぐ、ぉぉぁ!!!」

 

左から迫る、左への逃げ道を塞ぐ檻を下から走らせる木刀でもって防いだのと同時。銀時の身体は既に、石段を転がり落ちた。士郎の声に攫われるように。

 

 

 

 

 

 

 

「今の声が引き金となったか。まさか、この石段がそちらに天運をもたらすとは」

 

 

落ちる勢いを殺して、石段を見上げる。

振り出しに戻ったな、と心の中で笑って、ニヤリと表に出した。

 

「あぁ、アイツには助けられてばっかだわ」

 

後ろ、石段の下を見ると、不安そうにこっちを見上げるマスターの姿。

あんなに頼りなさそうなのに、実際俺は助けられてばかりだ。ほんとに、なぁ。

 

「今日はここまでだ、″セイバー″よ。大方、昼間にふらりと出て行った大馬鹿侍を探しに来たといったところか」

「………あぁ。このままじゃ決着はつきそうにねえ。その気遣いは助かる。近いうちに、決着は必ずつけようぜ。佐々木 小次郎」

「こっちはこっちで、女狐めの説教が待っている。やれやれ、とんだブラックマスターだ。24時間の門番なぞ、割に合わん。お主を前に、ここを動けないのは惜しい………再雇用先、あるといいが」

 

小次郎は相変わらず涼しい表情でそう言って、石段を登り始めた。

この、なんとも呆気ない戦いの先送りに少し物足りなさを感じたのか、

 

「その前に、銀時よ。お主は一つ、勘違いをしているから正しておく」

 

二段、踏んだ所で此方へと振り返った。

 

「このなりは亡霊とも例えられよう。私は、この世に存在するかも分からぬ、佐々木 小次郎という剣豪を割り当てられたのだ。

佐々木 小次郎という剣豪に最も近い器を持つ者が、この私だ。それだけだ、私は一端の、何処にでもいた農民であった。が、私は特に暇を持て余していたものでな?ある時を境に、山奥で刀を握っては侍の真似事をするようになった」

「へぇ、だからアサシンってか?」

 

そういう事か。最初から感じていた違和感の正体、それは。

 

「そうだ。

生まれてこのかた、侍と真剣を交えた事はない。今宵が初めて。銀時よ、私は剣を習ったのではない。刀の切っ先が赴くまま、それに乗っているだけのこと」

「楽しそうに剣を扱うわけだそりゃ。確かに、これまでやった奴らとは違うわ。違和感の正体がコレってことね」

「然し、それだけでは成せぬ事がある。それこそは、あの日出会った燕を斬るという難航。その姿を追い続けているとな、いつの間にか出来ていた。それが、佐々木 小次郎という者の代理たる証拠だ」

 

敵意がない理由は、純粋に刀を振るう事を楽しんでいたから。

真剣同士のぶつかり合いを、この男は骨身に染み渡らせていた。己の経験値として、あらゆる角度から、あらゆる太刀筋で筋を描いていた。成る程、止まっている時間が惜しい訳か。きっと今も、幾千もの手を考えて、試したいに違いないのに。

どうして切り上げたのか、その理由は知る由もなかった。

 

 

 

 

石段を降りると、士郎は駆け寄ってきた。それに右手を上げて気さくに挨拶を返す。

 

「よう士郎、よくここが分かったな。お前もしかして、実は魔術使えるパターン?」

「いやそのパターンはない」

 

それを半分笑いながら否定した後、

 

「家にイリヤが来てさ。なんやかんやあって、セイバーがここにいるって教えてくれたんだ」

「ちょ、お前イリヤって」

 

佐々木 小次郎の燕返しにも負けないくらいの衝撃を聞いてしまった。

 

「ペドか!?」

「はあ!?ペドとか分かりにくいぞ、そこは最悪でもロリコンとかだろ!?って、違うから!そういうのじゃないからぁぁあ!」

 

青筋立てて切れる士郎。

 

「わかった、分かったって。ホレ、取り敢えず家に帰ろうぜ?もう疲れたわ〜」

 

何か言いたそうな士郎の背中を押して、歩き始める。その後ろを、ママチャリを押して追いかけて来る士郎を見て、つい笑いが溢れた。

 

「お前、ここまでママチャリ飛ばして来たのか!?」

「そーだよ、こうでもしないと何時間かかるか分からないぞ!」

 

そうか。改めて士郎がマスターでよかったと思う。

ママチャリ飛ばしてくるなんて、普通しないもんな。

 

「セイバー、あいつは…?」

「門番だとよ。あの寺にゃ、何かあるっつー証拠だ」

 

遠ざかる山門をチラリと見上げて、ぼやいた。

 

「なあセイバー、商店街に寄っても…うわっ!?」

「助かったぜ、サンキューな士郎」

 

士郎の頭にワシャワシャと右手で撫でる。

隣に並ぶ士郎の姿を、志村 新八と重ねているのか。久しぶりに横並びに誰かがいる事を、嬉しく感じていた。

嫌そうに、けど楽しそうに笑いながら、暫くの道を歩いた。

 

 




閲覧ありがとうとうございます。
気づけばお気に入り登録者様は160、とても嬉しく思います。こうして私の作品が、セイバーが、士郎が書けるのは読者の皆様のおかげです。僅かではありますが、感謝の気持ちとしてセイバーのクラススキルのランクが決定しましたので、公開します。

【クラススキル】
対魔力:B
騎乗:A

騎乗スキルのランクが高い……?″定晴″に乗るなら、これくらい必要だよ〜〜きっと!


真名:クラス
坂田 銀時:セイバー

ステータス
筋力:C 耐久:D 俊敏:B 魔力:D 幸運:E 宝具:A

クラススキル
対魔力:B
騎乗:A

保有スキル
銀色の魂:A+++

オマケ
本編で出せないボツ設定その1
・ギルガメッシュのヘアスタイルは嫌い。やたら単行本40巻の角をぶつけたがる。

ステータスはセイバーとは思えませんが、まぁ士郎なので……!
その他の保有スキルにつきましては、ストーリーの進行を見ながら公開したいと思います。

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