fate/SN GO   作:ひとりのリク

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「見つけたわ、お兄ちゃん」




夢への序盤Ⅰ

場所は校舎の入り口。

やや乱れていた呼吸は、晴々と広がる青空を見ていると落ち着いてくれた。

あれで、良かったのだろうか。遠坂からの冷たい殺意に、俺はただ黙っていただけ。当然、納得なんかしていない。胸の中ではそうなのに、あの時は何も言えなかった。どうして、廊下に血を流して倒れる自分の幻覚なんて見てしまったんだろうか。

なんて意味のない、偶々のモノなのだと言えないのがムカムカする。

俺は、本当に無力なんだと思った。マスターとして、間違いなく過去最弱で役立たず。…それは、セイバーと契約した昨日の夜から痛感している。

 

 

ランサーに襲われた時、まぐれで成功した強化の魔術。あんな、一か八かの賭けで生死の境界を彷徨うなんて、もう二度としたくない。

バーサーカーとの戦い、俺はセイバーが戦う後ろを見ていただけだ。あれだけじゃ、絶対に足りない。きっと、セイバーを補助出来る魔術は沢山あるのだろう。俺はそれを知らない。どうすればいい……

 

いや。一つ、既に考えてはいる。

なんでこんな事を思い付くのか、本当に俺の馬鹿さ加減には底がないのかもしれないと笑ったが。

セイバーが助けてくれて、凛が現れた夜。聖杯戦争の事を教えてくれると言って、遠坂はウチに上がり込んだ。そして、居間で本当に教えてくれたあの時に、ふと考えたんだっけ。

 

 

「………俺が」

 

 

ランサーを倒す事も出来るのか?と。分かっている、解っているさ。実体化していれば、マスターはサーヴァントを倒せるかもしれない、なんて事を彼女は苦笑いしながら言っていた。同時に、どれだけレベルの低いサーヴァントでも、魔術師が倒すなんて不可能に近いと。それこそ、令呪で自害でも命令されない限り。

俺が、本当に馬鹿な考えを浮かべたな〜程度で聞き流そうとしていた話だ。けど、何処かで突っかかっていて、結局忘れていない一つの答え。

あまりに高すぎる壁。セイバーの隣に立つという、自殺行為。でも、うん。

 

「そんなの、分からないさ」

 

自嘲しない。ここで嗤えば、絶対に叶えられない。

だから、どう転ぶかも分からないのに諦め捨てる事は出来ない。

目標は遥か高い。一体、どう登ればいいのかすら分からない。

あぁ、分からないさ。そりゃあ、分からなくて当然だ。初めての一歩の踏み方が大切だから、先ずは落ち着こう。セイバーと、大切な″一″の確認が大切だ。

 

 

 

 

 

取り敢えず、これからどうするかはセイバーと落ち着いて話せばいい。こういう時が一番肝心だ。ここで路を誤れば、確実に終わる。慎重に、かつ的確に。きっと既に、俺一人の手に追うにはきついかもしれない。

セイバーは、一足先に学園から出て行った。

この町を一通り見てくると言っていたが、銀行にフラリといかないか不安で仕方ない。……けどまあ、一応英雄だし。サーヴァントだし。天パだし。そこは大丈夫だろう。

 

「やる事もないし、帰るか」

 

帰ろうと一歩歩くと、立ちくらみに襲われた。うつ伏せに倒れそうな程のくらみだったが、更に一歩踏み出して踏ん張って持ち堪える。

 

「う、なんだ……って、あれ?」

 

もう頭は重くない。

どうやら突発的なモノだったらしい。

さて、帰ろう。桜には悪いと思ったけど、やっぱりセイバーの事が気になる。

何か、嫌な予感がする。不安を煽るように、心臓がバクバクと警鐘するかのようだ。有りもしない不安に駆られて、少しでも早く家に帰らないと…そういう考えに至る。

どうしてだ。嫌な予感なんて、本当は感じないのに。俺はセイバーを悪い事なんてしないと、きっと信用しているのに。

何故か、無性に帰路につきたくなってしまった。無理やりに、意識が家へ帰ろうとしているような……?分からない。セイバーの事も心配だけど、信用しているのに。それに勝る衝動に動かされる。

 

「あ……れ?」

 

少しだけ意識が揺らぐ。視界が、眠気に襲われているかのように覚束ない。

どういう感情なのか、理解が追いつかない。

誰かに、意識の手綱を握られてしまう気がした。それはいけないと必死に抵抗するのに、優しく囁かれる甘い歌声に意識が沈んでしまう。

そのまま、俺は弓道場でタイミング良く休憩していた桜に断りを入れて、いつもの道を歩いて帰る事にした/そうさせられた。見慣れてしまった道を歩いているせいか、途中の景色は全く頭に入ってこない。もしかすると、セイバーが横を通り過ぎたくらいでは気が付かないかもしれないな。

それくらいに、頭がボーっとしている。周りに意識を向けられない。脳が伝えるのは、、、伝えるのは………。

あれ、何だろう。

俺は、何処に帰っている?帰る、、、そんなの、家に決まってるじゃないか。なんでこんな当たり前を、自分自身に聞かなくちゃいけない。

 

「すごい……悶絶くらいするかなと思ったのに」

 

近くで誰かの声が聞こえたけど、振り向くという行動を実行出来ない。

全身を蝕んでいるのは、一体何なのか。

家に近づくにつれて、麻酔のような毒は薄まっていった。原因は分からないまま、きっとこの″恐怖″という感情を俺は忘れてしまう。そんな事を、考えているのだけは覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

家の門をくぐった時には、さっきまでのボーッとした感覚は吹き飛んでいた。道中の事は、思い出せない。

昨日の今日だ。身体の調子が悪いのは仕方ない。今夜から、どうしてもやりたい事がある。それまでは、ゆっくりと休んで体力回復に努めよう。

 

「ただいま〜」

 

返事はない。家の中から気配もない。やっぱり、セイバーは家に帰ってきてなかった。少し寂しい気もしなくはないけど、先ずは夕食の準備だな。あ、その前に俺の秘蔵(R-18本)を……やる事はいっぱいあるけど、どれか数個にしておこう。

そう考えて、ガラガラと家の入り口を開けた時。

 

 

「お邪魔しま〜す」

 

 

それは後ろからだった。

陽気で、元気な声。とても可愛らしい、幼さが残る挨拶なのに俺は。全身の筋肉を強張らせて、消えそうな声で。

 

「え………」

 

まるで、有り得ない筈のモノを見た時に出てくるような呟き声を出していた。真昼に現れる幽霊だとか、性格が豹変していた真夜中の優等生だとか、………バーサーカーのマスターだとか。

バーサーカーのマスター、つまり。

 

「こんにちは、お兄ちゃん。昨日ぶりだね、身体の具合はどうかしら?」

「イリヤ……スフィール!」

 

白くて壮麗な、腰あたりまで伸びる思わず魅入ってしまう銀髪。

フワリと風になびいて、彼女の容姿とは離れた大人っぽさが見える。

ドカンという緊張する鼓動と共に真昼の背景でも思い出す、強烈な残忍性。その幼い容姿を覆い隠す程の、無邪気に隠れた殺意。

構えてはみたものの、バーサーカーを呼ばれたらひとたまりも無い。然し、何かイリヤスフィールの様子がおかしい気がする。

 

「そう強張らないで。今は私、バーサーカーを連れていないの。それに、戦う気もない。お兄ちゃんもマスターなら、それくらいは感じ取れるんじゃない?」

 

……何処までが本気なのかは分からない。

こんな事を容易にカミングアウトするなんて、敵地で何を考えているんだイリヤスフィールは。だけど、確かにバーサーカーは連れていないのは分かる。

全面的に押し出していない″なにか″越しの殺意が、そう教えてくれる。

 

「……!あぁ、何と無く。バーサーカーの殺気とかは感じられないけど、殆どは勘だ。俺は魔術師としては見習いだから、あんまり分からない」

 

寒空の下で話している筈なのに、肌は何も感じない。

それくらいにイリヤスフィールとの会話に集中しているのだろう。そうであってほしい。理由は分からないけど、バーサーカーを置いてまで俺の家に来た少女に、恐れなんて抱いたら失礼ではないだろうか。

イリヤスフィールへと視線を戻すと、彼女はとても冷たい視線を向けているのに気付いた。

 

「……。ねえ、お兄ちゃん。貴方、今どれだけの失態を私に晒したか、全く理解していないでしょう?」

「晒すもなにも、事じ……!?」

 

事実、そう続けようとした口が閉じた。いや、イリヤスフィールが向けてきた右手によって、言えなくなってしまった。

彼女が笑う。次の瞬間、その手から俺を殺す為の何かが…!

 

「な〜に。そこは普通、警戒して構えるところじゃないかしら。やっぱり素人、なんだ」

 

…出なかった。炸裂したのは、無邪気だけの笑顔。イタズラに、楽しそうに笑う小悪魔。ほんの少しだけ、このひと時が大切に思えたのはなぜだろう。

張り詰めていた呼吸が動き出す。

 

「取り敢えず、上がらせて貰うわ。見ての通り、戦う気はないの。殺す気もない。私は一人の少女として、貴方の家に来た」

 

…きっと俺は、バカだ。こんなに警戒心を解こうとしてくれているのに、俺は未だに緊張で身体が思うように動かない。

 

「………はぁ。昨日の今日だぞ、全く。あ〜ぁ、どうにでもなれ」

 

きっとここで追い返すのは違う。どうしてって、彼女は追い返されたくて来たわけじゃないだろう。何か、俺に話があるから、わざわざバーサーカーを置いてきたと明言している。

これが一番いい。話せば分かる事があるかもしれない。

玄関で靴を脱ぐイリヤ。どうしてあんなに楽しそう何だろう。昨日とはあまりにもかけ離れた顔だから、戸惑ってしまう。こういう時、セイバーがいてくれたら。

 

「まだ、帰ってこないか」

 

門の方へと振り向いてみるけど、セイバーはまだ帰っていなかった。ヘタレだな俺は、なんて考えていると。

 

「ちょ、滑ッきゃあぁぁぁ!!??」

 

只事ではない叫び声!ズルリ!という芸人もビックリの滑り音。

これは、イリヤスフィールの声だ。一体どうしたんだ!

 

「どうし、、、うわわわあシロェッ!?」

 

ズルリ、という音はきっと、上がり框から廊下に立とうとしたけど足を踏み外してしまったんだと瞬時に悟らせてくれた。そして。

叫び声に釣られて振り向いた直後、玄関の向こうから見えた光景は、それはそれは真っ白なお姫様でした………。何処かとは、言えませんです………。

 







上がり框とは、靴を脱いで廊下へと移る段差の部分の事です

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