fate/SN GO   作:ひとりのリク

12 / 90
侍と侍

特に考える事もなく、そこに何度も通っているかのように足は進んでいく。一つの道も迷わずに、足は止まることを知らない。

見慣れない景色。初めての道。上に続く道には、これからいく先に何があるのかだけを理解している。

何かがそこにいる。いや、何かは誰かを待っている。そんな勘が彼の足をここに運んだ。

 

落ち葉で飾られた石垣の階段。その段数は、すごく多いとだけ。数えていたら眠ってしまいそうだから。階段の果て。その終わりは何処だと、遠くの景色を見るように上を見上げる。この先に、柳洞寺という建物があるらしい。そこがどんな場所なのかを把握するつもりも、理解する気も無かった。

唯、聖杯に近づく為に通っておかなければいけない門がある。だから、この階段の段数を一つ一つ減らしていく。

 

一つ、足を進める。この場所はとても冷えている。時季の話ではない。柳洞寺の門へ続くこの階段は、進む度に命を削られる感覚に襲われる。戦場は何処も同じだと、薄く笑う。

一つ、段数が減る。階段の終着点から引き寄せられるように、全神経が余所見する暇を忘れる。知らない世界、知らない土地に立って初めて呼吸が落ち着かない。乱れたりするのではなく、普段の調子から少しだけズレているらしい。ダメージを受けて荒げる呼吸とは違い、コレは相当にタチが悪い。何せ、既に向こうのペースだからだ。早く、取り戻せ…。

一つ、誰かに誘われる。未だ見ないサーヴァントはいざ知らず。今はそんなモノには関心が向かない。余計な雑念はココに必要がない。総力を注ぎ込んで、一人で殺ると決めたのだ。今から垣間見るのは、厄介とか、手強いで言い表せる次元の世界から乖離しているだろうから。己の勘が初めて、本当の脅威というものの存在を指し示した。

一つ、空へ向けて。誰もいない山門へ足を進める。何分くらい昇っただろうか。何段を踏んだだろう。足元へ目を向ければ驚く事に、落ち葉は一つも落ちていない。枯れた生命ですら、山門へと続くこの階段だけは避けている。成る程、ここを通るのは、物好きだけのようだ。

 

 

 

一人、山門を守るように男は現れた。

 

 

 

「止まれ、片袖の侍よ」

 

ザッと、石垣を踏む。それは、合図だ。

遂に、石垣の階段を上がる足が止まった。そして同時に、理解した。この空間を支配している、冷たい空気の出処を。

 

────紫色の羽織を纏った男性。

 

何よりも特徴的なのは、右手に握る長刀だった。

その長さ、加えて壮麗さは目を見張るものがある。

それだけなら、いい。侍を相手にするのは、もう飽き飽きするくらいに斬り合い尽くしている。そういう立ち振舞いの、少しだけ面倒な奴は五万といた。もう手慣れすぎて逆に、油断のしようがない。

だが、この男はどうだ。これまで出会い、刀で語り合った強者達全てとは違う。何かが決定的に違うのは、目と目を合わせた瞬間に分かった。喉まで出ているのに、あともう一押しでその正体が分かるのに、その何かが分からない矛盾。

 

「よお。アンタも侍か」

 

風が止む。木々の葉が擦れる音が消える。

二人の侍の邪魔をする現象は、もうこの場所に踏み込めない。

全て、全て。二人の邪魔をする事は許されない。

 

「如何にも」

 

セイバーの返しに、山門を塞ぐように立つ侍は涼風のように答える。

分からない、謎が深く沈んでいく。

セイバーですら驚く程に、彼には隙がない。間違いなく、隙を誘おうと奇襲を仕掛けたとしても、その悉くが斬り伏せられる。そもそも、奇襲という手段が通用しないばかりか逆に、こちらの首が跳ね飛ぶ方が現実だ。

そして、敵意が感じられない。これに尽きる。隙がないくせに、敵意が無いという侍や戦闘狂はいた。然し、その全ては、敵意が無いのではなく、此方を下手に見るか、殺し合いを心の底から楽しむ戦闘快楽者。少なくとも、あちらがそうだとは見えない。……この違和感は、何だ。

 

「聖杯戦争でまさか、侍のサーヴァントと巡り会うとは。フム、サーヴァントというのも実は、世間は狭いのかもしれぬな」

「そうか?少なくとも俺は違うね。何千、何万と侍を見てきたが、オタクみたいな奴は初めてだ」

 

階段の下から、山門を背にする侍を見上げる。

この立ち位置関係も、厄介そのもの。距離は凡そ、五メートル。階段の上で待つ長刀は、断頭台と同じ。駆け上がれば確実に、此方の首を討ち取る準備が出来ている。

 

「拙者もそれは同じだ」

 

セイバーは、腰に差す木刀を抜く。

これまで、まだ知らぬ敵に挑んで死にかけた事は、十回や二十回だけではない。血反吐を吐いてでも、最後は誰かの元へと帰っていった。断頭台程度、拭いきれない違和感程度、今更気にする事はない。勿論、決して忘れる事もしないが。

 

「まさか、真剣に木刀で挑むとは。生前見た燕にも負けぬ衝撃を受けた。

…いや、言わずとも分かる。ソレが奇襲の為ではなく、真っ向からの斬り合いを望んでいる」

「へ〜、それじゃコイツ(木刀)で、そこいらのビルぶっ壊せるって言っても信じるかい?」

 

とても奇怪な投げかけに、男は眉一つ動かさずに答えた。

 

「信じよう」

「やっぱアンタみてえなのは初めてだわ」

「無論、その一刀にて証明してもらおう」

 

にやりと口元を上げるのはどちらか。

悠然とセイバーの動きを待つ長刀使いの侍。

右手に握る木刀を構えるセイバー。

 

「貴様は拙者が招いた、言わば客人。なに、決着とまではいかなくてよい。此処で侍同士が垣間見えた以上、刀を合わせて挨拶としようではないか」

「挨拶…。もうとっくに顔合わせは終わってんだ。後は互いに見せるモン見せるだけだぜ。その余裕面、必ず崩してやるよ。山門の門番侍」

「門番侍ときたか。ネーミングセンスはどうやら、あまりないと見える。さて、そなたのネーミングセンスを小突いたからには、拙者はこう口にしよう」

 

その時初めて、山門の侍は薄く、確かに鋭い笑みをこぼした。

不意だった。セイバーすら、彼が口にする言葉は予想すらしていなかった。

 

「サーヴァント、アサシン。名を、佐々木 小次郎」

「────!」

 

石段を一つ下り、長刀を陽差しに当てる。日中堂々としているのに、優雅さは欠けていない所が、彼の自信を体現していた。

クラス名どころか、真名を口にしたアサシンのサーヴァント、佐々木 小次郎はまた一つ、石段を下りる。

 

「聞かねえ名前だ。佐々木 異三郎って、何考えてるかわかんねーガラケー依存症なら知ってるが。あんた、割と似てるかもな」

 

依然変わらず、石段の上と下。

 

「ふむ。ふむ。であれば、残るはこの刀のみ」

 

突き上げる殺意を、小次郎は笑みで受け流す。

彼は、この空気を存分に堪能している。小次郎だけが、心の底から笑っていた。嬉しそうに長刀を構えて、その感触を手で確かめている。殺意がこもっていないだけに、気色がとても悪い。

殺意はないのに、アレはきっと加減を知らない。あの目は、殺す事を頭の中で理解しているだけに見えてしまう。とてつもない矛盾だ。

 

「ちょっとだけ、とか言いながら、殺し合う気しかねえって面だぜオイ。上等だ。上等ついでに、俺も名乗らせてもらおうか」

「よい。此方が好きで名乗ったのだ。相手が誰であれ、刃を交えるのなら必要あるまい。名乗り返す相手だと思っていたが、それを聞いても私にどうこうする知恵はないのだ。故に、この刃を向けよう」

「おいおい、好き勝手言ってくれるじゃねえか。けどよ、一方的に名乗られてもすぐ忘れるんだよ!男の名前覚えるのは、昔っから得意じゃなくてな。ボーッと空眺めてたら、いつの間にか忘れちまってる」

 

投げ合う言葉。探る隙。

セイバーは、二つの結論を出す。

 

「では、その首を絶つ寸前でもう一度、私の名前を教えよう」

 

何も確信はない。

出した答えのウチ一つは、取り止めなんて無いモノだ。

 

「あ〜、おっぱじめる前によ。人払いがまだだったわ」

 

石段の左右に立つ山林へ、視線を交互に送ること二回。

小次郎へと視線を戻して、もう一度、位置関係を確認するように仰いで。一段、二段と降りる。丁度、長い長い石段の小スペース、休憩の為にと作られている踊り場へと足が着いた。瞬間だった。

 

「コソコソしてんじゃ……」

 

右手に握る木刀を投げるモーションに入ったかと思えば、セイバーは右側の山林へと向けて。

 

「ねえっ!!!」

 

木々を薙ぎ倒さんという勢いで、木刀を投げた。

風を掻っ切り、狭く立ち並ぶ木々の間をすり抜けて、やがてたった一本の逞しい自然の柱へとぶつかった。

その木に、何の意味があるのか。

セイバーだけでなく、小次郎もその理由にどうやら辿り着いているようで。

 

「ぐっ………なんてヤツだ」

 

粉々に飛び散る、木であったその柱の陰から、一つの声と共に男が飛び出していた。それは、セイバーの行動に驚きを露わにしながら、山林を足早に降りていった。

 

「……アーチャーか。覗きなんざ、俺が一番知ってるっつーの。女風呂覗いて出直してこい」

 

 

 

小次郎は、敵の前で武器を投げるセイバーに、感心の目を向ける。その隙だらけの侍に決して、己の刀を向けようとはせずに、事の行く末を見て満足していた。更に彼は、確信している。隙だらけの、目の前の侍に斬りかかったとして、その首を断てはしないだろうと。

何せ、誘っていた。こちらを覗く者に敵意を示しつつ、その無防備に見える横っ腹に食いつく瞬間を。

 

「ほぅ。いや、失礼した。あやつとはてっきり、手を組んでいるのだと思っておった。許せよ、銀髪の侍。

無論、そちらが真剣勝負を望むとあらば………」

 

真剣勝負…待ちわびた。

セイバーという男の一端を垣間見た瞬間。

隙だらけのようで、終始、隙は無かった。露呈しそうになる笑みを堪える。誰の邪魔もなく、この刃を振るうまでは…

 

「背後の山門の1m上、真ん中辺りに探りを入れてみるといい。思わぬ女狐めが隠れているかもしれぬぞ」

「……どーゆう意味だ?」

「警戒するな。私とて、好きで門番をしているのではない。偶には、のびのびとしたい気分になる気紛れ侍よ」

「へ〜ぇ。お前のマスター、苦労してんだなぁ。何となく分かるわ」

 

よっ、と言いながらセイバーは、まるで先程投げた筈の木刀を抜くような動作を行う。有りもしない筈の木刀が、その動きだけでなんと、セイバーの右手に握られている。

 

「驚いた。その木刀は、替えがあるのか」

「前は通販で取り寄せてたんだけどよ、召喚されたらそういう訳にはいかないじゃん?ま、そーゆうの関係なしに、ポンと出せるんだけどな」

「一体、いつの時代の話か点で分からぬ」

 

昔、飛脚なるものは居たが、今とは用途が違う。そもそも、通販などとは呼ばない。どう言う事だと首を傾げると、同時に顔の右横をシュンと音を上げて通り過ぎる木刀。

小次郎の指定した位置目掛けて投げられた木刀は、山門の上部分に到達した瞬間、大きなガラスを砕いたような飛散音を上げた。

空中にヒビが入る。文字通り、ガラス張りがそこにあったかのような、小さな亀裂が入っていた。やがてバチリと、使い物にならない配線がショートしたように悲鳴を上げて、亀裂から出現した赤黒い球体が弾け飛んだ。

 

「あれは?」

「私のマスターが置いている、監視カメラに似たようなモノだ。ふ、今頃はそこら辺でギリギリと歯を擦っておろうな」

「とんだ門番だ。お前、マスターに恨みでもあんのか?」

「あやつの目が無くなった今だから言うが、この山門から動けないのは辛い。ここからでは、街の風景しか見えぬのでな。出来るなら、食べ歩きをしたいものよ」

 

新たに取り出した木刀を構えるセイバー。

薄く瞳を閉じて、長刀を構えるアサシン。

ここに、邪魔者は全て取り除かれた。

彼らを偵察する者、敵の戦闘力を知ろうとする狐。

 

真昼の正午過ぎ。普通では有り得ない時刻での戦闘。騒ぎ立てる風はなく、風に吹かれて飛び出す枯葉も今は、石段の上には一枚もない。

故に伝わる。セイバーは、佐々木 小次郎を倒すと決めた。その為に剥がさなければならない壁は厚く、何よりも高い。

己の刃が届くかも測れない。底が全く見えず、ただ暗闇のみが彼の全身を漂っている。これが、初めて見るスタイル。

小次郎が笑う時の高揚感が分からない。

侍と呼べる存在なのかが疑問ですらあった。

だから、己は全てを出し尽くす。意味があり、何よりも。

 

「セイバーのサーヴァント、坂田 銀時‼︎‼︎そのキザな脳みそに木刀叩き込んでやっから、歯あ食いしばれ!!」

「────なんと。良い、実に良い心地だ!坂田 銀時。侍同士、いざ斬りあおうっ!」

 

坂田 銀時。

彼には、一度足りとも敗走は許されない。

これが最後の希望で、果てに至る戦いなのだ。

佐々木 小次郎にだけは、勝ち負けの行く末が分からないのだから。これが挨拶だけにせよ、馴れ合いだけで終わらせるつもりは微塵もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【士郎、学校からの分岐路】

 

流石に、下駄箱まで来ると部活動中の生徒が数人、廊下を行ったり来たりと忙しそうにしている。誰かがいる事に少し安堵して、これからどうするかを考える。

あまりりウロチョロとするのはよくないだろう。ここは…

 

▷セイバーの言う通り、ここは帰ろう。

▷…セイバー、どこに用があるんだろ?

 

 

…よし。

 




選択肢みたいなのがありますが、これは既に私の方で決めているので特にはありません。ただ、ここでこういう分岐路を作っていましたよ〜っていう印です。片方はボツです。

毎度毎度の事なんですけど。
一つの話を2000〜3000字程度で纏めようと書いているのが、気づけば5000、6000字と増えてる現象に名前はあるのでしょうか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。