さてさて、グランさんとギャノンさんの歓迎会でのドンチャン騒ぎから一夜が明けたのだが…………
「「うっわぁ~……………」」
特殊能力の1つ、"アルコール耐性"によって酔い潰れずに済んだ(と言うか全然酔わなかった)俺とラリーは、ギルド内で広がっている惨状にドン引きしていた。
ギルドの床には、他の冒険者達の屍…………げふんげふん、酔い潰れて寝ている冒険者達があちこちに転がっている。
ギルドの隅っこでは、我が恋人達が幸せそうな表情で寝息を立てている。
あの6人は、俺が意趣返しのキスをしたら気絶してしまったため、他の冒険者達より一足早く退場となったのだ。
因みに彼女等の周りには、酔い潰れて寝ている冒険者は居ない。
「それにしても、この散らかりよう…………まるで、僕達がSランクに上がった時の宴会みたいだね」
「ああ、そうだな………」
ラリーに言われ、俺は当時の事を思い出す。
「俺等をほったらかしにして、オッチャン達があれやこれやと話を進めてたよな」
「だね。僕達が手伝おうとしても、『お前等は主役なんだから、どっかで適当に待っとけ』とか言われちゃったっけ」
ラリーが染々と言い、俺は頷く。
この町では宴会で騒いでばかりだったが、それらは全て、良い思い出だ。
「何つーか、帰りたくなくなっちまうよな。コレ見てると………」
「……………」
俺がそう言うと、ラリーが複雑そうな表情を向けた。
「俺、何時かは日本に帰るけどさ…………その時は、この人達とお別れする事に、なっちまうんだよな………」
「うん、そうだね…………」
ラリーも頷いた。
コイツも、俺が日本に帰る時についていくと言っていた。
そうなれば、コイツと仲良くしている魔術師の女の子達とも、お別れになる。
俺だけでなく、ラリーも此処で、多くの友達を作っていたのだ。
「ねえ、相棒。僕、考えたんだけど…………」
不意に、ラリーが口を開いた。
「僕、今まで色々な魔法を編み出してきたから、もう、新魔法のレパートリーなんて無いと思ってたんだ。でも、よく考えたら、こんな魔法を思い付いたんだよ」
「……………」
ラリーが何を言おうとしているのか、何と無く分かるような気がした。
「異世界同士を、自由に行き来出来る特殊な魔法さ」
「やっぱり、そんな魔法を考え付いたか」
そう言うと、ラリーは少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「おや?その口振りだと相棒。まさか君も、そんな魔法を考えたのかい?」
「フッ…………まあな。当然、その魔法を作るのはお前だけどな」
軽く笑ってから、俺は頷いた。
「そっか…………僕等、本当に気が合うね」
「ああ、全くだぜ」
そう言って、俺達は軽く笑った。
「ああ、それからラリー。話は大きく変わるんだが………」
「ん?」
「"女王陛下からの手紙"だって?」
「ああ、昨日届いたんだよ。何か知らんけど、使い魔的な感じの鳥が落としていった」
そう言って、俺は収納腕輪から手紙を取り出し、ラリーに投げ渡す。
それをキャッチしたラリーは、早速便箋を取り出して文章に目を通した。
「それにしても、中々気になる文を綴ってるね。"クルゼレイ皇国とガルム隊の今後の関係について"、なんてさ」
そう言いながら、ラリーは封筒に便箋を戻して俺に投げ渡した。
それを受け取り、再び収納腕輪に入れる。
「つーか、"今後の関係についての大事な話"って言われてもな…………そもそも俺等と向こうって、どんな関係だっけ?」
「"王女と護衛騎士団を助けた冒険者パーティーと、その王女達が居る国"…………じゃないかな?」
言葉だけ聞くと、それ程大したモンじゃないな。俺等とクルゼレイ皇国の関係って。
それに…………
「………あの国と同盟結んでる訳でもないしな、俺等………」
そう言った時だった。
「"同盟"、か………あるかもしれないね」
「…………?どういう意味だ?」
ラリーの呟きに、俺は聞き返す。
「エリージュ王国とクルゼレイ皇国の仲が悪い理由は、相棒も知ってるよね?」
「ああ」
人間主義を掲げており、魔人族や亜人族………即ちヒューマン族以外を下等な存在として見ているエリージュ王国と、ヒューマン族以外も受け入れ、魔族大陸との交流が続いているクルゼレイ皇国。
相反する考えを持つ2国が、仲良く出来る訳が無い。
「実はコレ、僕が学生の頃に聞いたんだけど…………この国、クルゼレイ皇国にも喧嘩売ってるらしいんだよ」
「…………マジで?」
そう聞くと、ラリーは頷いた。
つーか、この国ドンだけ喧嘩売るの好きなんだよ?その癖、魔人族との戦争に利用するために勇者召喚なんてやってやがるし。
正直言って、連中が何考えてるのか全く分からん。まあ、別に分かりたくもないがな。
「勇者召喚を行って軍備を強化したエリージュ王国と、それが無いクルゼレイ皇国…………もし戦争になった時、どちらが有利かは………… 言うまでもないよね?」
「だな」
今、エリージュ王国とクルゼレイ皇国が戦争したら、恐らくエリージュ王国が勝つだろう。
だって勇者が居るし。
「おまけにエリージュ王国には、僕達ガルム隊が居る。万が一、いや億が一にも、僕等がエリージュ側について戦争に参加したら………」
そう言ってラリーが口を閉ざし、俺も沈黙した。
結果など言うまでもないからな。
「だから相手は、同盟を結んでクルゼレイ側につくか中立で居るか、このどちらかを要求してくると思うよ。まあ、9割ぐらいの確率で前者だろうけどね」
「だよなぁ~…………」
俺は気だるげに返事を返した。
「あちこちで暴れまくったツケが回ってきた…………って感じかな?この状況は」
「だと思うぜ?」
俺はそう言った。
「それもそうだけど、そろそろ皆を起こそうか。時間も時間だし」
そう言ってラリーが指差した時計は、午前10時を指していた。
俺は頷いて、寝ている連中を起こしていった。
6人は、事もあろうに狸寝入りを始めたので、キスをして起こした。
ヤレヤレ、甘えん坊な恋人達だ。
てか、最近彼女等とはキスしてばかりな気がするが…………まあ、別に良いよね?恋人だし。
「ええっ!?またクルゼレイ皇国に行くの!?」
さて、ギルドの片付けを終え、皆が其々の生活に戻った頃には昼になっていた。
食事スペースで休憩している時、俺は6人に、クルゼレイ皇国に戻らなければならなくなった事を話していた。
「どうしてよミカゲ!?あの国で何かあったの!?」
「まさか、もう戻ってこないなんて言わないわよね!?」
「ミカゲ……行かないで…………」
「ミカゲさん………」
軽くパニックを起こしているのか、アルディアの3人とエスリアが酷く狼狽えている。
ゾーイとアドリアも、不安げな目線を向けていた。
「待て待て待て。戻ると言っても"一旦"だから、また直ぐに帰ってくるよ。未だ里帰り期間中だからな」
そう言うと、6人はホッと溜め息をついた。
「(それに、指輪だって未だ渡してないからな…………)」
俺は他の面子にバレないように、チラリと収納腕輪に視線を向けた。
この中にある指輪は、俺にとっては婚約指輪のようなものだ。
何のムードも無い場所でホイホイ渡せるものじゃない。
ましてや、クルゼレイ皇国に戻らなければならないから早めに渡しておこうなんて、そんな軽はずみな渡し方なんて出来る訳が無い。
そんな事をした時点で、俺は彼女等の恋人失格だ。
「(クルゼレイ皇国と此処を往復する間に、渡すタイミングを考えないとな…………)」
俺は内心そう呟いた。
「それで相棒、クルゼレイ皇国には何時行く?」
不意に、ラリーが聞いてくる。
「そうだな………」
俺は悩んだ。
今から戻ると言っても急過ぎて混乱するだけだし、だからと言って数週間後とかになったら、流石に長過ぎる。
「…………明日、とか?」
俺はポツリと呟いた。
「明日か…………皆はどう?」
ラリーがエメル達に言う。
4人は、互いに顔を見合わせると、此方を向いて頷いた。
どうやら賛成のようだ。
話についてこれず、唖然としていたグランさんとギャノンさんには、話が終わってから説明しておいた。
それからは各自で自由に過ごす事になり、ガルム隊女性メンバーとアルディアの3人は、グランさんとギャノンさんの宿の部屋を取ってから、2人に町を案内すると言って出掛けていった。
それで、俺とラリーは……………
「オラオラオラオラオラァ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
町外れの平野で、2度目の手合わせをしていた。
この前の手合わせでは、ラリーの魔法や俺の
まあ、拳や足だけにしても、衝撃波とか起こしまくりだから結局荒れ地にしてるんだけどね…………まあ、その辺りはラリーが直すから良いとして。
「だりゃぁぁああああッ!!」
「うおらぁぁぁああああッ!」
取り敢えず今やるべき事は、このバトルを楽しむ事だ!
決着が着くまで暴れてやるぜ!
それから、双方共にズタボロになってブッ倒れるまでガチバトルは続いたが、結局、勝敗はつかなかった。
そんなこんなで翌日、俺達ガルム隊は、再びクルゼレイ皇国に向けて旅立つ。
準備を終えて宿を出た俺達を待っていたのは、アルディアの3人とエスリア。それから、他の住人達だった。
オッチャン冒険者達の姿もある。
「うへぇ~………ちょっと行って戻ってくるだけなのに、めっちゃ集まってるじゃねぇか」
宿を出るや否や、ギャノンさんが目を丸くした。
「なあ、ミカゲ。コレって皆、オレ等の見送りなのか?」
「ええ、まあ…………」
そう聞いてくるギャノンさんに頷いていると、今度はグランさんが話し掛けてきた。
「成る程………人気者なんだね、ガルム隊って」
「まあ、ルージュの町ではね」
俺はそう返した。
ルージュ以外で、こうして住人が見送りに来てくれるような町と言えば…………クルゼレイ皇国の王都ぐらいだな。
まあ、長期間滞在した町が、この2つだけと言うのもあるのだが。
「ミカゲ」
なんて考えていると、ソブリナが話し掛けてきた。
「道中、気を付けてね」
俺の手を握り、ソブリナがそう言った。
「大袈裟だよ、ソブリナ。ちょっと行って、話聞いて直ぐ帰ってくるだけだし………明日か明後日ぐらいには帰れるよ」
俺はそう言うが、ソブリナは首を横に振る。
「たとえ1日でも、貴方と会えないのは嫌よ。それに私達、連絡すら取れないのよ?」
ソブリナがそう言うと、エリス達も頷いた。
連絡を取る手段なら持っているのだが、だからと言って今見せるってのも、流石にムードが無いからな…………彼女等には申し訳無いが、もう少し我慢してもらうしかなさそうだ。
「終わったら直ぐ帰ってくるから。そしたら会えなかった分、一緒に過ごそうぜ」
そう言うと、4人は渋々ながら納得し、見送りに来てくれたルージュの住人達の方へと戻っていった。
「愛されてるね、ミカゲ君」
すると、グランさんがニヤニヤしながら話し掛けてきた。
何と無く気恥ずかしくなり、頬を軽く掻いて誤魔化す。
それから、俺達は2列に並び、其々の機体を展開する。
俺が展開したのは、勿論サイファー仕様のF-15Cで、ラリーが展開したのは、そのピクシー仕様だ。
それからエンジンを掛け、フルブレーキの状態で出力を上げる。
人数が増えたのもあって、そのエンジン音も、また一段と大きく聞こえる。
「それでは、行ってきます!」
"拡声"を使ってそう言うと、俺はブレーキを解除して勢い良く飛び出す。
そしてクルゼレイ皇国に進路を取り、一気に速度を上げた。