さてさて、アルディアの3人を引き込もうとしていた、Aランク冒険者パーティー"ラミー"の男性メンバーと勝負する事になってしまった俺は、王都の外に来ていた。
俺達の勝負の噂が広まったのか、かなりの数のギャラリーが来ているが、そんなのは大して気にならない。
「…………」
軽く体を伸ばしたりしながら、ふと、ルーンとザントの方へ目をやると、2人はラミーの女性メンバーから、肩を揉まれたりしていた。
俺の視線に気づいたのか、2人は何処と無く勝ち誇ったような表情を浮かべている。
「(いや、別に羨ましくないんだけどさ………)」
こちとら、毎晩ネグリジェ姿のゾーイとアドリアと言う美女2人に抱きつかれてるし、2人に耳舐めされる事なんてしょっちゅうだからな。
ルージュのギルドで、他の冒険者達がお帰りなさいパーティーを開いてくれた日は、酔っ払ってたとは言えソブリナやエスリアさんにキスされたし、その次の日は…………
「…………って、何対抗してんだよ俺は?アホらしい」
そう呟き、俺は足元にあった3㎝程の石を拾い、地面に叩きつける。
そのまま石が見えなくなってしまったのを見る限り、恐らく地中深くまで掘り進んでしまっているだろう。
そんな事を考えながら、俺は再び、ルーン達に目を向ける。
彼奴等、相変わらずイチャついてる上に、人目も憚らずキスまでしてる。それも濃厚なヤツ。
その際、此方をチラッと見てる。いや、だから羨ましくないっての。
「…………はぁ……」
溜め息をつき、俺は空を仰いだ。
「(何か、ああいうのって女性が男性の装飾品みたいに見えるから、俺としては好きじゃないんだよなぁ…………)」
内心そう呟いていると、服の裾がクイクイと引っ張られた。
振り向くと、其所にはニコルが立っていた。
申し訳なさそうな表情で、俺を見上げている。
「……ゴメン、ミカゲ………巻き込んで…………」
今にも泣きそうな表情で、ニコルはそう言った。
恐らく、俺の意見もロクに聞かず、勝手に勝負の約束を取り付けてしまった事への謝罪だろう。
俺は、首を横に振った。
「いや、良いんだ。ニコル」
そう言って、ニコルの頭を優しく撫でてやる。
「そういや、誰か鑑定のスキル使える奴って居ないかなぁ………」
「使えるわよ?」
ニコルの頭を撫でながら呟くと、エリスがそう言った。
「そっか…………じゃあ、それ使って連中のレベルを見る事って出来るか?」
そう訊ねると、エリスは頷いてルーンとザントの方を向き、暫くすると、再び俺の方を向いた。
「2人のレベルを見たけど…………あれじゃ貴方に勝つのは無理ね」
エリス曰く、2人のレベルは両方共55らしく、アルディアの3人より低いんだとか。
因みにアルディアの3人のレベルを聞いたところ、リーダーのソブリナが68、エリスが63、ニコルが65らしい。
…………ルーンとザントよ。お前等、アルディアの3人にもレベルで負けてるぞ。
「(それでも俺との勝負を受けるって事は、何か秘策でもあるのか?それとも、パーティーの仲間に寄生してるだけの雑魚とでも思われてるのか…………?)」
どちらにせよ、警戒しておいて損はしないな。
いざと言う時は、
「(取り敢えず、相手を先に攻撃させて、様子を見ようか…………)」
そうしていると、ウォーミングアップ(と言っても、ただイチャついてただけだが)を終えたルーンとザントが近寄ってきた。
「そろそろ始めたいんだが…………良いかい?」
「おう、良いぜ」
そう言って頷き、2人の装備を見る。
ルーンは木刀、ザントは…………何かメリケンサックみたいなのを装着していた。
まるで不良とかヤクザとかが持ってそうな装備だな。
「…………フッ」
すると、ザントが鼻で笑った。
「何だお前?まさか武器持ってねぇのか?」
憎らしい笑みを浮かべて、ザントは訊ねてきた。
「まあな」
俺は淡々と答える。
「なら、今回の勝負は俺等の勝ち確定だな。調子乗って丸腰で挑んでくるような身の程知らずに、この俺等が負けるかよ」
そう言うと、ザントはソブリナ達の方を向いた。
「お前が負ければ、あの3人は俺等のモンだが…………こんな八百長試合で、あんなスタイル抜群の美女が3人も手に入るとは、サイコーだな!それも、あの"アルディア"の3人だから尚更だぜ」
ザントの口振りからして、つくづくこの3人は、有名な冒険者パーティーだったのだと実感させられる。
まあ、出会った当初からCランクだから、そこそこ顔も売れてるとは思っていたが…………
「さて、それではルールだが…………」
ルーンが、今回の試合のルール説明を始めた。
内容は以下の通りだ。
ルール1:今回の試合は、俺vsルーン&ザントによる1vs2での勝負とする。仲間の介入は禁止。
ルール2:魔法や武器の使用はOK。ただし、殺すのは禁止。
ルール3:相手を気絶させるか、『参った』と言わせれば勝ち。
ルール4:俺の場合、ルーンとザントの両方を気絶させる、または『参った』と言わせて初めて勝利とする。
「…………と言った具合でどうかな?」
説明を終えると、ルーンが訊ねてくる。
「随分と不公平なルールだな…………其処までしてでも勝ちてぇのか?」
そう言うと、またしてもザントが鼻で笑い、馴れ馴れしく肩を組んできた。
「何だ、臆したのか?所詮、雑魚は大口叩く事しか出来ねぇのか?」
そうして、ザントはある意味の"禁句"を口にする。
「何なら俺等……………命懸けても構わないぜ?」
…………What the fuck did he say?(何て言いやがったコイツ?)
『命懸けても構わない』?それなら…………
「今この場で殺してやろうか?」
「あ?テメェ何言って…………ッ!?」
ザントの言葉が最後まで出る事は無かった。
その理由は簡単。俺が零戦を展開して、刀の先をザントの目の前に突きつけているからだ。
「命は簡単に懸けない方が良いと思うぜ?」
「ッ!」
俺が睨むと、ザントは後退りした。
「ふ、フンッ!まあ良い。テメェをぶちのめした後、その3人をたっぷりと可愛がってやるよ!テメェの目の前でな!」
思いっきりゲスな捨て台詞を残して、ザントはルーンと共に歩いていった。
「…………さて、それじゃあ俺も行ってくるわ」
俺は、後ろで呆然としている3人にそう言って、零戦を解除してから、ルーンとザントに続いた。
所定の位置につくと、ギャラリーがざわめき出した。
粗暴な冒険者も混じってるのか、『やっちまえ!』だの『ボコボコにしてやれ!』だの、そんな言葉がチラホラ聞こえる。
「おい、テメェ…………遺書は書いたか?今なら、遺書書く時間ぐらいならくれてやるぜ?」
手をボキボキと鳴らしながら、ザントが問い掛けてきた。
てか、コイツ俺を殺す気かよ?ルールに『殺したら駄目』ってあっただろうが。
「生憎、書くものを持ってないんでね。別に書かなくても良いよ」
俺はそう返した。
「つーか、さっさと始めようぜ?こちとらデート邪魔されてるんだからさぁ。何処かの誰かさん達に」
そう言って、俺は爪先を地面に軽く打ち付ける。
あからさまに待ってあげてます感全開の態度で居ると、遂にザントがキレた。
「さっきから舐め腐った態度取りやがって…………ブッ殺してやる!」
早速ルール無視宣言いただきました。
なんて思っている間にも、飛び出したザントがどんどん迫ってくる。
全く動かない俺を見て、その笑みが狂気に染まる。
公衆の面前で俺をボコボコに出来ると考えてるんだろう。
「おらぁ!」
そうして、ザントが俺に拳を振るった。
狙いは多分、俺の額だな。
取り敢えず、受けてみる。
ゴッ!と音を立てて、拳が俺の額に叩き込まれる。
俺は吹っ飛ばされるが、体勢を建て直して着地する。
流石に、買ったばかりの服を初日で汚す訳にはいかないからな。
まあ、汚れたり破れたりしても、ラリーが直してくれると思うけど。
「未だ未だ終わりじゃねぇんだよぉ!」
そう言いながら肉薄してきたザントが、主に俺の顔面を狙って、立て続けに拳を振るう。
一先ず、腕をクロスさせて防ぐ。
「おいおい、あの黒髪の奴、さっきから一方的にやられてないか?」
「でも、彼奴って確か、あのガルムのリーダーなんだろ?」
「それにしては防戦一方だし…………ただのそっくりさんだったってオチじゃないの?」
ギャラリーからは、そんな言葉が飛び交っている。
まあ、こんな光景見せられたら誰だってそう思うわな。
「オラオラどうしたぁ!?さっきまでの威勢の良さは何処行ったぁ!」
思いっきり調子に乗ったザントがそう言う。
つーか、お前さっきから拳ばっかりじゃん。足使えよ、足。
おまけに、そんな大してダメージ受けてないし。
何だよコレ?警戒して損しまくりじゃねぇか。
「…………はぁ~あ……」
俺は溜め息をつき、素早く屈んでザントの拳を避ける。
「うおっ!?」
いきなり俺が目の前から消え、ザントがつんのめる。
そんなザントの顎目掛けて、俺は勢い良く飛び上がって頭突きを喰らわせてやる。
所謂、"ロケット頭突き"と言うヤツだ。
「ぐげぇっ!?」
モロに喰らったザントは、そんな情けない声を上げて海老のように反り返る。
コレを某殺人ゲームのボイスチャットしてるユーザーさんが見たら、誰もがこう言うだろう。
『はい雑魚~!』と…………
「(まあ、それを言う気力すら起きないんだけどね…………)」
内心そう呟き、俺は地面に叩きつけられそうになっているザントの横腹に回し蹴りを喰らわせる。
すると、ザントは物凄い勢いで吹っ飛び、ラミーの女性メンバーの直ぐ前で地面に叩きつけられた。
そのままピクリとも動かないから…………多分、気絶してるだろうな。取り敢えず1人撃沈。
「ざ、ザント様ぁ!」
女性メンバーの1人が悲鳴を上げる。
てか、"様"って…………まあ、俺も人の事言えないけどな。ゾーイとアドリアが"様"付けで呼んでるし。
「なあ、ルーンさん」
俺は、ザントの方を見て呆然としているルーンに話し掛けた。
一応"さん"付けで呼んでいるのは、いきなり呼び捨てにするのもどうかと思ったからだ。
まあ、ラリーやロイクの場合は、出会った当初から呼び捨てにしておきながらこう言うのも変な話だが。
「な、何だ?」
「今思ったんだけど…………お前等、なんでアルディアの3人に声掛けたんだ?」
「…………は?」
俺の質問に、ルーンは間の抜けた声で聞き返す。
「だから、なんでアルディアの3人に声掛けたのかって聞いたんだよ」
「そ、それは…………」
ルーンは口ごもった。
まあ、3人を勧誘していた時の台詞から大体の予想はつく。
この3人を自分達のハーレム要員に加えたかったからだろう。
何せコイツ、『君達のようなお嬢さん達なら大歓迎だ』とか言ってたしな…………つまり、ソブリナ達が美人だから声を掛けたって事にもなる訳で…………
中々口を割らないルーンに焦れた俺は、口を開いた。
「どうせ、あの3人をお前等のハーレムに加えたかったんだろ?それで、さっきキスしてたお前の女達みたいな事させたかったんじゃねぇのか?」
「ッ!?」
あ、どうやら図星のようだ。
「…………つくづく見下げ果てた野郎だな、お前等」
そう言う俺だが、相手からの返事は無い。
「今のお前等は、女を自分達の欲を満たすための道具か、周囲に見せびらかすためのアクセサリーとしか見てないだろ。そんなお前等に、ソブリナ達が靡かないのは至極当然の事だし、俺が気に入らないのもそれだ。俺が女でも、お前等を拒絶してるぞ」
「…………」
相変わらず黙り込んでいるルーンに、俺は止めの一言を投げ掛ける。
「お前等は、女と言う奴等を何1つとして分かってない」
そう言うと、ルーンは俯いてしまった。
このまま戦意喪失してくれれば良いのだが………
「…………ん?」
すると、徐にルーンが立ち上がった。
物凄い形相で俺を睨み、木刀を構える。
「うぉぉぉぉおおおおおおっ!!」
すると、いきなり雄叫びを上げながら突っ込んできた。
「おっと」
ルーンが振るった木刀を俺は体を左にずらして避ける。
その後も、兎に角力任せに木刀を振り回すルーン。
「お前に!お前に何が分かる!?」
不意に、ルーンが叫んだ。
「SSSランクで、ちょっと有名になった程度で調子に乗りやがって!僕のファンだった女達も、皆お前等の方へと行ってしまった!『貴方達よりも素敵な人を見つけた』と言ってな!」
俺等、そんな風に思われてたのか…………
「何故だ!何故お前のような何処にでも居るような奴が良いんだ!僕やザントの方が、お前以上のルックスがあるのに!お前等より早くAランクになったのに!実力だって、経験だって!」
こんなにも自画自賛出来るとは、ある意味凄いよコイツ。エースコンバットやってる時の俺でも無理だ。
「それに、あの3人は元々僕達が狙ってたんだ!彼女等が黒雲に捕まったって話を聞いた時、彼女等を助ければ僕達に惚れると思っていた!なのに、黒雲のアジトに行ってみたらどうだ!?山岳地帯は殆んど消えてるし、既に救出されてると言うじゃないか!」
あ、山岳地帯消し飛ばしたのラリーだわ。
「お前が!お前が僕のハーレム要員を奪ったんだ!お前が居なければ!お前さえ居なければ!」
コイツの本音に、呆れてものも言えない。支離滅裂とは、正にこの事を言うのだろう。
だが、それを聞いた俺は、内心腹を立てていた。
コイツ、さっき俺が言った事を聞いてなかったのか?
結局それって、ソブリナ達がコイツ等の欲を満たすための道具になってるって事じゃねぇか。
「……………ふざけんな」
小さくそう言って、俺はルーンの木刀を片手で受け止め、握り潰す。
「なっ!?」
まさか木刀を握り潰されるとは思わなかったと言わんばかりに、ルーンは目を見開いた。
「お前等にとって、ソブリナ達はその程度の存在だったのか?」
「い、いきなり何を………ぐほっ!?」
ルーンの言葉を遮るように、俺はルーンの腹を殴り付けた。
腹を押さえて後退りするルーンだが、それを見逃す俺ではない。
一気にルーンに迫り、さらに攻撃する。
「さっきから黙って聞いてりゃ、『僕のファン』だの『僕のハーレム要員』だの好き勝手ばかりほざきやがって…………俺が気に入らねぇのはそれだって言っただろうが!!」
俺は怒鳴った。もう我慢の限界だった。
後は攻撃しながら、マシンガンの如く捲し立てるだけである。
「それにテメェ、さっき黒雲がどうとか言ってやがったな。それでソブリナ達を助ければ、自分達に靡くと、そう言ってやがったよな…………ふざけんのも大概にしとけよカス野郎!人に恩を売って自分達の好きにしようと考えてるようなクソ野郎に、あの3人をやれるか!!」
そう言い終わった頃には、ルーンの顔はボコボコになっていた。
流石にこれ以上続けるとマズいので、止めだけ差して終わらせてやろう。
「消え失せろ!そして2度とその胸糞悪い面見せんじゃねぇ!!」
そう言って、俺はルーンの顔面に右ストレートを喰らわせてやる。
ルーンは横向きに数メートル飛んでいき、地面を滑った後、動かなくなった。
一応近づいて、生死を確認しておく。
生きているようなので、足首を掴んでザント達の元へと引き摺っていく。
そして、怯えた表情で俺を見上げる女性メンバーの前で、掴んでいたルーンの足首を地面に叩きつける。
『『ひっ!?』』
小さく悲鳴を上げるラミーの女性メンバーを無視して、俺はアルディアの3人の元へと近づく。
「ミカゲ…………」
ソブリナが複雑そうな表情を浮かべて、俺を見ている。
エリスやニコルも、何処と無く申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「…………帰ろうか」
俺がそう言うと、3人は戸惑いながらも頷いた。
俺はアパッチを展開して、王都に来る時と同じようにロープをくくりつけると、上昇してロープを垂らし、ソブリナ達をロープに掴まらせてルージュに戻った。
その後、何と無く気まずい雰囲気になり、そのまま宿の部屋の前で別れる。
部屋に入った俺は、留守番していたゾーイとアドリアに一言掛けると、そのままベッドに倒れ込み、眠った。
神影とラリーが使える航空兵器に、ドアガンナーと爆撃機とガンシップを加えようかと思い始めた今日この頃。