エスリアさんとのデートから一夜明けて、グループデート2日目の朝を迎えた。
朝食を終えて外に出た俺は、宿の壁に凭れ掛かって今日のデートのお相手を待っている。
「さてさて、今日のお相手は誰なのやら………」
清々しい青空を見上げ、俺はそう呟いた。
どういう訳か、その日のデートの相手が誰なのかは知らされない事になっており、昨日だって、相手がエスリアさんだと言うのは彼女が現れて初めて知ったのだ。
「まあ、昨日はエスリアさんとデートしたんだから、今日はアルディアの3人か、ゾーイとアドリアの2人だろうけどな」
またしても呟き、俺は今日のデートプランを考える。
昨日はロクにデートプランを考えず、エスリアさんの提案に任せる事になっちまったからな。
今回こそは、ちゃんとしたデートプランを練らなければならない。
「(だが、何か良いプランはあるのか…………?)」
顎に手を当て、俺は考えた。
ゲーセンや映画館みたいな娯楽施設が無いこの世界で、俺は、どのようにデートをすれば良いのだろうか?
まあ、ゾーイとアドリアの場合は未だある程度考えられる。
2人共戦闘機を使う力を持ってるから、3人で遊覧飛行をするのも良いだろう。
他にも、何処か良さそうなデートスポットを聞いて、其所に行くのも良さそうだ。
何れだけ遠くても、超音速でかっ飛んでいけば大して時間は掛からない。
だが、相手がアルディアの3人となれば、話は別だ。
あの3人は、当然ながら戦闘機を使う力は持ってない訳だから、遠距離の移動は無理だ。
だとすれば、彼女等とのデートは近場で済まさなければならなくなるのだろうが、この辺りに良いデートスポットなんてあるのか…………?
そう考えていた時だった。
「「お待たせしました、ミカゲ様」」
不意に、横から声を掛けられる。
その声の主の方へと振り向くと、其所にはゾーイとアドリアが立っていた。
どうやら、2人が今日のお相手のようだ。
「おお………」
2人の姿を視界に捉えた俺は、思わず感嘆の息を漏らした。
その理由は、2人の服装にある。
ゾーイはオレンジ色のキャミソールに薄い赤の上着を羽織り、丈が膝までの白いスカートを穿いている。
アドリアの服装は、白のブラウスに黒の上着、それから黒を基調としたチェック柄のスカートだ。
バリバリのデート仕様と言ったところだろう。
それにしても、こんな服何時の間に買ったんだろうか………
「その服、どうしたんだ?」
試しに聞いてみると、その質問にはゾーイが答えてくれた。
どうやら、この前に女性冒険者達と買い物に行った際、彼女等に勧められて買ったらしい。
「成る程、そう言う事だったのか」
俺はそう言って、2人の姿を改めて見た。
2人共美人でスタイル抜群であるため、よく似合ってる。
「その………どう、でしょうか………?」
恥ずかしそうにしながら、ゾーイが聞いてきた。
「ああ、2人共よく似合ってるよ。お前等って元々美人だから、尚更だな」
「…………ッ!」
そう答えると、2人は顔を真っ赤に染め上げた。
ヤバい、めっちゃ可愛い。
まあ、それもそうなんだが…………
「(この2人と比べて、俺の服装ってどうなのさ………)」
俺は内心そう呟き、肩を落とした。
俺の服装は、城で暮らしていた時に支給された冒険者の服だ。
あれから長らく経っているが、コレ以外の服は制服しか持ってない。
せめて、新しい服買っとけば良かったなぁ………
「…………?ミカゲ様、どうしました?」
そんな俺を不思議に思ったのか、ゾーイが訊ねてくる。
「いや、その…………俺の服が、な」
「服………ですか?」
そう聞いてくるアドリアに、俺は頷いた。
「ホラ、2人は気合い入った服で来てるのに、俺の場合はな………」
そう言うと、2人は顔を見合わせ、また俺の方を向いた。
「今思ったのですが、それ以外の服は………?」
「ああ、この世界に来る前に通ってた学校の制服ならあるけど」
ゾーイからの質問に、俺はそう答えた。
「なら、その服を着ては如何でしょう?」
「制服を?」
聞き返すと、ゾーイは頷く。
「ええ。制服姿のミカゲ様、見たいです」
ゾーイが続けると、アドリアも同意とばかりに頷いた。
そうして、俺は一旦部屋に戻り、収納腕輪から制服を取り出して着替えると、再び宿の外へと向かった。
「こんな感じだが、どうだ?」
「「………………」」
着替えを終えて外に出ると、待っていた2人に感想を求めてみる。
2人は呆然と、俺を見ていた。
「(………もしかして、『似合わない』とか思われてるんじゃないだろうか?)」
そう思うと、少し不安になってくる。
何かコメントしてほしいのだが、2人は相変わらず、呆然とした様子で俺を見ている。
何かコメントしてくれそうな気配は、今のところ感じられない。
それから数分程見つめ合っていたのだが…………流石に、コレ以上沈黙されたら気まずい。
…………此方が動くしかなさそうだな。
「あ~、2人共?そろそろ、何かしらコメントしてくれるとありがたいんだが………」
そう言いながら、2人の目の前で軽く手を振る。
「「……………はっ!?」」
すると、2人はビクッと跳ねた。
「やっと気づいたか」
そんな2人を見て、俺は苦笑混じりにそう言った。
「す、すみません。ボーッとしてしまって………」
そう言うゾーイに、俺は首を横に振った。
「まあ、良いって。この服装をお前等に見せるのは初めてだもんな………で、俺の服装はどうだ?」
そう返して、俺は改めて問い掛ける。
「そうですね………」
そう言って、アドリアは俺をまじまじと見つめる。
「何だか、何処かの貴族が着ていそうな服ですね」
「そっか」
そう言うと、俺は明後日の方向を向く。
「んじゃ、庶民の俺には似合わんかな」
「い、いえ!そう言う訳ではなくて…………!」
試しにそんな事を呟いてみると、アドリアがアワアワしながらそう言った。
こうしてアワアワしてるのを見るのは、結構面白いな。
「冗談だよ。ちょっとからかっただけさ」
軽く笑いながらそう言うと、アドリアは安堵の溜め息をつき、次の瞬間には、ジト目を向けてきた。
「ミカゲ様も、人が悪いです………」
「悪い悪い、ちょっとした出来心だったんだよ」
そう言うアドリアに、俺は軽く笑いながら言葉を返す。
そんなやり取りを見ていたゾーイは、クスクスと笑っていた。
「それもそうだが、そろそろデートを始めようぜ。朝とは言え、時間は有限なんだからな」
「「はい!」」
俺が言うと、2人は返事を返す。
さあ、行動開始だ。
「それでミカゲ様、今日はどうしますか?」
ルージュの町を歩き回っていると、ゾーイが訊ねてきた。
因みに今、俺はゾーイとアドリアに左右から挟まれた状態で歩いており、右腕にゾーイ、左腕にアドリアが抱きついている。
2人共スタイル抜群なので、両腕に、もにゅもにゅした柔らかい感触が……………っと、いかんいかん。こんな事を考えてる場合じゃなかったな。
「そうだな………何処か、良さそうなデートスポットがあったら、其所に行こうと思ってるんだが、どうだ?」
そう訊ねると、2人は頷いた。どうやら異存は無いようだ。
2人からの了承を得た俺は、冒険者ギルドへと向かった。
ギルドに着くと、俺達は談笑している冒険者達に声を掛け、良さそうなデートスポットを知らないかと訊ねた。
すると、親切な冒険者の1人が、取って置きだと言うデートスポットを教えてくれた。
ゾーイとアドリアも、そのスポットの話を聞くと目を輝かせて行きたがったので、其所へ向かう事にした。
そんな訳で、俺はサイファー仕様のF-15Cを、そして2人は、其々
「まさか、よりにもよってフュールとはな…………」
2人と共に空を飛びながら、俺はそう呟いた。
あの町は、ソブリナ達から集団告白された日の昼頃、ラリーと共に行こうとしていた町だ。
因みに、その町には行かずに引き返している。
理由は簡単、F組の連中が居るからだ。
「あの、ミカゲ様………気が進まないのでしたら、他の場所でも……」
俺に気を遣ったのか、ゾーイがそう言ってくれる。
だが、俺は首を横に振った。
「いや、駄目だ。今日は2人のための日なんだから、俺の都合に2人を巻き込む訳にはいかねぇよ」
「ですが………」
俺が返すと、尚も何かを言おうとするアドリアの右主翼を、俺は、左主翼で軽く叩いた。
「お前等が気にする必要はねぇよ。せっかくのデートなんだから、楽しもうぜ」
俺がそう言うと、アドリアは渋々ながらも頷いた。
それから、未だ納得しそうにないゾーイを説き伏せた後、俺達は速度を上げ、フュールの町へ向けてかっ飛ばした。
それからかっ飛ばすこと10分、俺達はフュールの町に到着した。
町の手前で機体を解除し、門でギルドカードを見せて町に入る。
「此処がフュールか………賑わってるなぁ」
町に入り、俺はあちこち見回しながらそう言った。
『デートスポットとして人気だ』と、ある冒険者から評されているだけあって、カップルをチラホラ見掛ける。
勿論、普通の観光客も多く居た。
それから、F組の連中と出会す事を警戒しつつ歩き出したのだが…………
「(……何か、スッゲー見られてるんですけど……………)」
俺達3人は、道行く人々からの視線の雨を受けていた。
「なあ、あの3人って"ガルム"の奴等じゃね?」
「え?…………うわっ、スゲー。本物じゃん!」
「私、初めて見たわ……」
「あの"ガルム"のリーダーと、そのメンバーを見れるとか………今日はツイてるぞ!」
俺等を見た人々が、口々にそんな事を言っている。
「すっかり、有名人になってしまいましたね」
そんな彼等を見ながら、アドリアが苦笑混じりにそう言った。
「ああ、そうだな………それにしても、まさかこんな有名になってるなんて、思いもしなかったよ」
俺はそう返した。
そうして俺達は、フュールの町の散策を始めた。
町を暫く歩き回って分かったのだが、どうやら、この町には宿が多いようだ。
この町のギルドの受付嬢に話を聞いたところ、どうやら町の外れに、町全体を見渡せる高台や、滝などの自然があり、そう言ったのを見ようと訪れるカップルや観光客が多いらしい。
他にも、迷宮が幾つもあり、冒険者の修行の場としても人気が高い。
それで、そう言った目的で訪れる人々に、この町に1日でも長く留まってもらい、色々な景色を見てもらおうと言う気持ちから、こんなにも宿が増えたんだと言っていた。
「迷宮か………そういや、この辺りの迷宮は、未だ入ってなかったな」
歩き回りながら、俺はそう呟いた。
「今度、ガルム隊全員で行ってみるか」
俺がそう言うと、2人は頷いた。
その後、俺達は受付嬢から貰った地図を見て、色々なデートスポットを廻るべく歩き出した。