航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第69.5話~勇者が動けば魔族も動く~

時間を遡り、神影とラリーがルージュに帰った後、2年F組の面々と数人の騎士達が、王宮に向けて歩みを進めていた。

 

「……………」

 

クラスメイト達が、その日の出来事について色々な意見を交わしている中、沙那の表情は暗かった。

彼女は、神影と再会した時、桜花と共に自分達の想いを打ち明けようと意気込んでいたのだが、神影が、彼女等をクルゼレイ皇国に誘った際、女子達が賛成する中で割り込んできた秋彦が話を拗らせ、その話が有耶無耶になった挙げ句、神影はラリーを連れて勝手に帰ってしまったため、それが叶わなかったのだ。

 

「だ、大丈夫だよ天野さん!」

「そ、そうだよ。また会えるって」

「もう2度と会えない訳じゃないんだから、ね?」

 

そんな沙那を心配して、他の女子生徒達が彼女を励ます。

それに礼を言う沙那だが、表情は相変わらず、暗いままだ。

 

「………」

 

そんな沙那を、奏は複雑そうな表情で見ていた。

沙那が神影に寄せている気持ちを誰よりも理解しているだけあって、今の沙那の心情も、誰よりも理解出来てしまうのだ。

 

「(せめて、あの時古代君を引き止めて、沙那と桜花の事を話しておけば………)」

 

内心そう呟く奏だが、今そう思ったところで意味は無い。

元の世界では、連絡や調べものなどで大活躍していたスマホも、この世界では単なる箱形の玩具でしかない。

 

「(古代君は、『暫くエリージュ王国(この国)に居る』とは言ってたけど………そもそも、この国の何処に居るって言うのよ………?)」

 

奏は溜め息をついた。

 

少なくとも王都以外の町なのは確かだが、王都を除いても、この国には他に、幾つもの町や村がある。

『せめて、どの町に居るのかぐらいは言っておけ』と、奏は内心で呟いた。

それから奏は、自分の隣を歩くもう1人の親友、雪倉桜花に視線を向けた。

 

「……………」

 

王宮への道中、彼女は俯いたまま一言も喋っていない。

恐らく、沙那と共に、神影に想いを伝えられなかった事を悔いているのだろうと、奏は予想した。

 

「えっと………桜花?」

「…………はい」

 

おずおず話し掛けると、桜花が顔を上げて、奏の方を向く。

 

「あ、あの………その………」

 

話し掛けてみたものの、何と言ってやれば良いのか分からず、奏は言葉を詰まらせ、視線を逸らしてしまう。

 

「…………」

 

そんな奏を見ていた桜花だが、ふと、視線を前に向けて口を開く。

 

「あの方に……」

「……?」

 

突然話を始めた桜花に、奏は視線を向けた。

 

「あの方に、想いを伝えられなかったのは……残念です………」

 

ポツリポツリと言う桜花の話に、奏は耳を傾ける。

 

「ですが、私は諦めません」

 

そう言って、桜花は奏の方を向く。

 

「今回は失敗しましたが………何時かまた、彼に会える筈です。だから……その時は、必ず………沙那さんと、一緒に………」

 

目に強い意思を宿して、桜花はそう言った。

 

「………そう」

 

そう頷いて、奏は視線を前に向ける。

その横顔は、何処と無く嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、王宮へと到着したF組の面々は、騎士達と別れ、料理が全て下げられて無人になっている食堂へと向かい、誰も入ってこないようにした後、其所でシロナを中心に、ある会議を開いていた。

その議題は、『神影達がクルゼレイ皇国に戻る際、彼等についていくべきか否か』についてだ。

 

「先生、私は古代君達についていくべきだと思います」

 

開口一番、奏が言った。

 

「この世界に召喚されて、この城で生活を始めてから、半年………いや、それ以上の月日が経っているにも関わらず、未だに魔人族からの襲撃はありません」

 

奏がそう言うと、他の女子生徒達が相槌を打った。

 

「そうなれば、本当に魔人族や他の亜人族がヒューマン族の敵なのかが怪しくなってきます。その上、私達は他種族について、座学の授業でしか知らず、実際に会った事はありません。なので、この機会に授業で教えられた事が本当なのかを確かめる必要があると思います」

 

そう続けると、女子達は賛成の意を示しているのか、拍手を贈った。

 

 

 

「なあ、コレはさっきも言ったんだが、お前等はなんで、彼奴の言う事をホイホイ信じられるんだ?」

 

だが、何処にでも水を差す輩は居るもので、秋彦が早速、口を挟んできた。

 

「彼奴はさっき、『魔人族の友人が居る』とか言ってやがったが、それって、つまり俺等を裏切ってるようなモンじゃねぇのかよ?」

 

秋彦はそう言った。

 

確かに、このエリージュ王国では、魔人族や他の亜人族………即ち、ヒューマン族以外は敵として認識されている。

そんな敵と、自分達のクラスメイトが仲良くしているとなれば、このような考え方も出るだろう。

「それに彼奴、この国に結構恨みがあるみたいだしさ………俺等をクルゼレイ皇国とやらに連れていって、この国に攻め入ろうとか企んでるんじゃねぇのか?」

「流石に無いわね」

 

秋彦の言う事を、涼子が即座に否定した。

 

「古代が本気でこの国を潰そうとしてるなら、とっくの昔にやってる筈よ」

 

涼子が続けて言った。

 

「でも、赤崎さん。古代は………」

「逆に聞くけど、なんでアンタ等は、其処までしてでも古代を悪者にしたがるの?」

 

慎也の言葉を遮って、涼子が訊ねた。

 

「この世界に召喚される前から思ってたけど、アンタ等男子って、ずっと古代の事を目の敵にしてたわよね?それに、さっきだって、彼奴の言う事を兎に角否定しようとしていた………一体、何がアンタ等をそうさせるのよ?」

『『『『『『『『……………』』』』』』』』

 

涼子がそう言うと、男子達は黙り込んでしまう。

涼子は、そんな彼等を鼻で笑い、再び口を開いた。

 

「ああ、別に言わなくても良いわよ?分かってるから」

 

嘲笑を浮かべながら、涼子は言った。

そんな彼女に、F組全員の視線が集中する。

 

「アンタ等男子が、古代を嫌う理由は簡単………」

 

そう言って、涼子は沙那と桜花、そして奏の3人の方を向いた。

 

「…………えっ、何?」

 

急に視線を向けられた沙那が目を丸くする。

奏は、その視線の意味が分かっているのか、悟ったような表情を浮かべていた。

 

「お、おい赤崎!テメェそれ以上言うと………」

 

余程言われたくない事のようで、声を荒げて脅そうとする秋彦だが、涼子は止まらない。

 

「あの3人と古代が仲良くしてるのが気に入らないからよ………まあ、言わば嫉妬よね」

 

涼子がそう言い放つと、その場に要る全員が沈黙した。

 

「おまけに天野さんと雪倉さんの場合、古代の事が好きだもんね。勿論、"like"じゃなくて"love"の方向で」

「ちょ、赤崎さん!此処でそんな事言わないでよぉ!」

 

ペラペラと喋る涼子に、沙那が顔を真っ赤にして叫んだ。

桜花も顔を真っ赤にして踞っている。

 

「ゴメンゴメン。でも、こうしないと連中は理解しないから」

 

涼子は軽く笑いながら、手をヒラヒラ振って謝る。

 

「ああ、一応言っておくけど、白銀さんも例外じゃないわよ?」

「それはつまり、私も古代君の事を好いていると言いたいのかしら?」

「そう言うつもりじゃないけど…………でも、少なくとも嫌ってる訳でもないわよね?」

「…………ええ。嫌いじゃないし、寧ろ信頼しているわ」

 

涼子がそう言うと、奏は頷く。

 

「学園三大美少女の内の2人から好かれてる上に、もう1人からも信頼されてる………それで、3人は揃いも揃って美人でスタイル抜群だし、白銀さんの場合は、3人どころかクラスの女子では群を抜いてエロい体してるんだから、そりゃ妬みもするわよねぇ」

成る程、彼女は神影から『結構お喋りな奴』と評されているだけあって、こう言った話題でも容赦無く暴露する性格のようだ。

まあ、この場合は『デリカシーに欠ける』と言った方が適切だが………

 

『『『『『『『『………………』』』』』』』』

 

長きに渡って神影を目の敵にしていた理由が単なる嫉妬だったと言う事実に、F組の女性陣は呆気に取られている。

 

「まあ、茶番はさておき」

 

そんな彼女等を他所にそう言って、涼子は真面目な表情に戻す。

 

「つまりアンタ等は、3人と仲が良い事への嫉妬で、古代を嫌ってたって訳よ」

 

涼子がそう言うと、女子達が男子に冷ややかな視線を向ける。

 

「…………っと、いけない。話逸らしちゃったわね」

 

そんな雰囲気の中でも平常運転の涼子が改めて言った。

 

「ゴメン、本題に戻そう」

「え、ええ」

 

涼子の言葉に奏が頷き、話を再開しようとした時、食堂のドアがノックされた。

 

「はい」

 

シロナが返事を返すとドアが開き、宰相のグリーツが入ってきた。

 

「おや、未だお話中でしたか。これは失礼」

「いえ………それで、何の用ですか?」

 

シロナが聞くと、グリーツは話を始めた。

 

 

 

曰く、訓練場が跡形も無く破壊されており、修理のために、暫く使えなくなるとの事だ。

 

「そのため、勇者の皆様には暫く、別の町へと行っていただきたいのです」

 

そう言うと、グリーツはテーブルの上に地図を広げ、F組の面々を集めた。

 

「王都から南南東に40㎞行った所に、フュールと言う町があります。其所には大きな宿がありますので、寝泊まりには困りませぬ。それに迷宮も多々あります故、訓練場の心配も無用です」

「そうですか………」

 

そう言って、シロナは教え子達の方を見る。

全員、それに異存は無いらしく、無言で頷いていた。

 

「分かりました。出発は何時でしょう?」

「皆様の準備が出来ましたら、直ぐに馬車を用意しましょう」

 

どうやら、何時でも良いようだ。

それからの話で、王国騎士団が護衛として付き添う事などを伝えて、グリーツは食堂から出ていった。

 

それからは話どころではなくなり、一行は移動の準備をするため、各自の部屋へと向かった。

 

「クルゼレイ皇国には、行けそうにないわね…………」

 

教え子達が食堂から出ていくのを見届けたシロナは、ふと呟いた。

 

そして、自分も用意をするべく、部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、一行は準備を済ませて馬車に乗り込み、フュールの町へと向かった。

それから数日後、絶体絶命の危機に陥ることなど、今の彼等には知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者達が行ったみたいね…………」

 

王宮の使用人が使う部屋の窓から、王都を出ていくF組一行と騎士団を見届け、メイドであるセレーネはそう呟いた。

 

「さて、それでは此方も仕事を始めましょうか」

 

そう呟くと、セレーネは部屋全体に防音の結界を張り、右手首につけている腕輪を起動させる。

 

《セレーネか》

 

すると、腕輪が光り、男性の威厳ある声が聞こえた。

魔王、グラディス・ヘルシングの声だった。

 

《通信を入れてきたと言う事は、勇者達に動きがあったんだな?》

「はい」

 

そうしてセレーネは、これまでの国の情勢や、勇者達が王都を出て、フュールの町に向かった事。そして、そうなるに至った経緯を伝えた。

 

「…………と言う事です」

《成る程な………それにしても、訓練場を破壊されて移動を余儀なくされるとは………可哀想と言うべきか………》

 

グラディスが苦笑混じりに言う。

 

《そう言えばセレーネ、ミカゲ・コダイは勇者召喚された少年少女達の中の1人だったらしいが…………何故、そのメンバーから外れているのだ?》

「はい。それが…………」

 

そうしてセレーネは、神影がF組勇者達から外れる事になったきっかけを話した。

すると腕輪から、グラディスが深い溜め息をつくのが聞こえた。

 

《何と馬鹿げた連中だ。自分達が好意を寄せている少女達から好かれていると言う、ただそれだけの理由でそのような事をするとは…………勇者と言う肩書きも、堕ちたものだな………》

 

セレーネには、グラディスが顔を手で覆い、ヤレヤレとばかりに首を振っている姿が想像出来た。

 

「ところで魔王様、そちらの方は………?」

《ああ、既に出来ている。今回の威力偵察では、魔王軍幹部の1人、ゲルブに任せる事にした》

 

そう答えると、グラディスは溜め息をついた。

 

《彼奴、私が念話した途端に『自分が行きます!』とか叫んでな………未だ何も言っておらんのだがな………》

「そ、そうでしたか………」

 

グラディスが言うと、セレーネは苦笑しながら返した。

今のセレーネには何と無く、ヤレヤレと肩を竦めるグラディスの姿が見えた。

 

《まあ、そう言う訳だから、お前も時期を見て王宮を出て、勇者達を追え。それから連中が町に着いたのを確認したら、また連絡しろ。後は私がタイミングを見計らい、ゲルブを向かわせる》

「了解しました」

 

そうしてグラディスとの通信を終えたセレーネは、ベッドに寝転がる。

 

「ミカゲ様………申し訳ありませんが、貴方のお友達には、少し危ない目に遭っていただきます」

 

短期間ながら仕えていた、今は居ない主に謝り、眠りについた。


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