アルディアの3人と食事を終え、俺達は一旦、其々の部屋に戻った。
「それにしても、あの銀髪ナルシスト野郎がアルディアの3人にも手を出そうとしていたとは予想外だな………彼奴、ドンだけナンパ好きなんだよ?つか、そもそも彼奴って婚約者居るんじゃねぇのかよ?さっさとソイツと結婚しちまえば良いのに」
ベッドに腰掛け、俺はそう呟いた。
一応言っておくが、コレは僻んでる訳ではない。僻んでないったら僻んでないのである。
「『強き者はハーレムを作るべき』、か………」
そういやコレ、座学の授業でも言われた事だったな………初めて会った時も、ラリーが言ってたっけ…………
「あの、ミカゲ様………」
「ん?」
すると、不意にゾーイが話し掛けてきた。
「ミカゲ様は……その………ハーレムを作りたいと…………思いますか……?」
言いにくそうに、ゾーイはそう訊ねてきた。
アドリアも此方を見ている。
「そうだな…………」
俺は返事に困った。
今まで俺の頭の中では、戦闘機やエースコンバットの事が一番で、異性云々については二の次三の次にしてたから、正直な話、ハーレムとか考えた事が無かった。
エースコンバットをプレイして、戦闘機の画像を眺めていられたら、その辺りについてはどうでも良かったからな。
…………あ、俺がゾーイやアドリアの気持ちに気づかなかったのは、それが原因なのかもしれねぇな。
なんて考えていると、ゾーイが恐る恐る声を掛けてきた。
「あの……ミカゲ様………どうしました?」
「……あ、すまん。ちょっと考え事してたんだよ」
そう言って、俺は咳払いして誤魔化す。
「えっと、何だっけ………俺が、ハーレムを作りたいと思っているかどうか……だったっけ?」
そう聞くと、2人は頷いた。
「正直、よく分からねぇんだよなぁ………今までモテた事なんて1回も無かったから、ハーレムとか全く考えなかったし」
俺がそう言うと、2人は意外そうな表情を浮かべた。
2人曰く、顔立ちはそれなりに整っているから、多少はモテるんじゃないかと思っていたらしい。
…………眼鏡外した俺って、そんなに整った顔してたのか?
大して珍しくもない、普通の顔だと思ってたんだがな…………っと、また話が脱線しちまった。
「取り敢えず、お前等の質問に答えると………」
そう言うと、2人が此方に視線を向け、次の言葉を待つ。
「まあ、俺も男だからな、ハーレムに憧れないと言ったら嘘になる」
俺はそう言った。
「でも、別に作ろうとは思わねぇよ」
「「えっ?」」
続けて言うと、2人が聞き返してきた。
「ん?どうした?」
「い、いえ………」
「な、何でもありません………」
2人は誤魔化すようにそう言った。
「で、では………もし、複数の女性に好意を寄せられているとしたら、どうしますか?」
今度はアドリアが質問してくる。
この『複数の女性』と言うのが誰を意味しているのかは分からんが……多分、ゾーイとアドリアの事だろうと、勝手に予想してみる。
それにしても、『複数の女性に好意を寄せられる』、か…………
さっきの質問と変わらない…………って訳でもないか。
それもそうだが、2人から投げ掛けられる質問が、さっきから異性云々の事ばかりだから、マジで返事に困る。
ずっとエースコンバットとか戦闘機の事ばかり考えてきた俺にとっては、異性云々の話は未知の領域なんですよ、うん。
「まあ………心の底から俺の事を好いてくれてるって言うなら、受け入れたいとは思うよ」
俺がそう言うと、2人の表情が明るくなった。
「でもなぁ……」
「…………?どうかしましたか?」
アドリアが首を傾げる。
「いや、俺が元々住んでた世界では、ハーレムってのは物語の中でのみ許されるものだけだったんだよ。現実なら、二股とか三股とか言われるからな」
「ですが、此処はミカゲ様が元々住んでいた世界とは違います。ですので、其処まで気にする必要は無いかと」
話に入ってきたゾーイがそう言う。
「それもそうだが、帰ってからがなぁ~………」
そう言うと、2人はいつになく神妙な表情を浮かべた。
「ミカゲ様。その事について、1つお聞きしたい事が………」
「おう、何だ?」
すると、ゾーイはアドリアと顔を合わせ、互いに頷くと、此方に向き直った。
「ミカゲ様が、元々住んでいた世界にお帰りになる時………私達も、連れていっていただけませんか?」
ゾーイがそう訊ねてくる。
「そりゃ、出来るなら連れていきたいよ。何だかんだで、それなりに長い付き合いなんだからな。元の世界に帰る際にサヨナラなんて、俺としても嫌だ。お前等とは、ずっと一緒に居たい」
「「ミカゲ様…………」」
俺が言うと、2人はジーンとしたような表情を浮かべた。
勿論、『お前等』と言うのには、ラリーやエメル、リーアも含まれている。
他にも、アルディアの3人やエスリアさん、ルージュで仲良くなった冒険者達。
そして、コレはクルゼレイ皇国で知り合ったロイクにも言える事なんだが……流石に、欲張りすぎかな。
ラリーは様々な魔法が使えるし、それらは全部、ラリーが独自に開発したオリジナル魔法だって言ってたから、この世界と日本を行き来出来るようになるような魔法でも作ってくれねぇかな……………なんて、かなり贅沢な事を考えてみる。
「まあ、取り敢えず元の世界に帰るとなれば、ガルム隊のメンバーは絶対に連れていきたいな。何処に行っても、皆でワイワイやっていたいんだよ」
「「……………」」
そう言う俺だったが、2人は何やら複雑そうな表情を浮かべていた。
「………?どうした?皆で居るのが嫌なのか?」
「い、いえ!そう言う訳ではないのですが…………」
俺が訊ねると、ゾーイが慌てた様子で取り繕う。
ゾーイの答えに安堵の溜め息をつき、俺は再び、ベッドに寝転がる。
「ゾーイ、ミカゲ様はこう言う方なのですから、期待するだけ無駄ですよ」
「ええ、どうやらそのようですね」
おい、お前等。何か失礼な事言ってないか?
「ふう………」
何だかんだで、夜の12時を過ぎた。
中々寝付けなかった俺は、相変わらず俺を抱き枕にしているゾーイとアドリアの拘束から抜け出し、足音を立てないように気を付けながら部屋を出た。
すると、隣の部屋のドアが開く音がする。
そっちに顔を向けると、髪の長い女性のシルエットが見える。
「あら、ミカゲ」
「ん?」
聞き慣れた声が聞こえ、そっちに顔を向ける。
そして、徐々に目が暗闇に慣れてきて、そのシルエットが見えるようになった。
「…………ああ、ソブリナか」
隣の部屋から出てきたのは、ソブリナだった。
「何だ、お前も寝付けなかったのか?」
「ええ…………って、『お前も』と言う事は、貴方も?」
「まあな」
ソブリナの質問に、俺は頷いた。
「そう……」
そう言って、ソブリナは少し考えるような仕草を見せた後、こんな事を提案してきた。
「それなら、一緒に外を歩いてみない?夜間デートみたいな感じで」
「おう、別に良いぜ」
取り敢えず、『夜間デート』と言うものについては何も言うまい。
宿を出た俺とソブリナは、誰も居ないルージュの町を歩いていた。
街灯も無いため、俺が適当に機体を展開して、膝のヘッドライトで照らそうかと提案したのだが……………
『駄目よ。貴方のライト、光が強すぎるもの。それに、灯り無しで歩く方が、気分が出るでしょう?』
…………と、断られてしまったのだ。
そんな訳で、俺とソブリナは、月明かりだけを頼りにルージュの町を歩き回っているのだ。
「不思議なものね………」
不意に、ソブリナがそう言った。
「この町には何度も来ている筈なのに、まるで、知らない世界に居るような気分だわ………」
「………お前は、夜の町を歩いた事はあるのか?」
そう訊ねると、ソブリナは首を横に振った。
「いいえ。普段なら、この時間には既に寝ているからね。夜の町を歩き回った事は無いわ」
「だからじゃねぇのか?ホラ、日が出ている間と夜じゃ雰囲気も違って見えるし」
「そうかもしれないわね」
俺が言うと、ソブリナは同意だとばかりに頷いた。
まあ、それはそれとして…………
「ところで、ソブリナ………」
「何?」
声を掛けると、ソブリナは此方を向く。
月明かりに照らされる彼女は、その容姿と相まって何処か色っぽく見えるので、一瞬ドキッとしたが、それを表に出さないようにしながら言葉を続ける。
「…………近すぎやしませんかね?」
俺はそう言った。
実は、こうしてルージュの町を歩き回っている間、ソブリナは俺に寄り添うようにして歩いているのだ。
「デートなんだから、近づいても良いでしょう?」
「デート"的な"って言ってなかったか?」
『的な』の部分を強調して言ってみると、ソブリナは不満げに頬を膨らませた。
「何よ、私とデートするのが嫌だって言うの?」
「いや、別にそう言う訳じゃないんだが………」
「なら、近づいても良いわよね?」
「……………」
そう言うソブリナに、俺は頷くしかなかった。
それから暫く歩き回った俺達は、広場のベンチに座って休憩する。
ソブリナは相変わらず、俺に密着するようにして座っている。
…………もう、この際どうでも良いや。何も言うまい。
「そう言えばソブリナ、1つ聞きたい事があるんだが」
「"聞きたい事"?」
聞き返してくるソブリナに、俺は頷く。
「晩飯の時、この世界の風潮云々について話したろ?その際、ハーレムがどうだとか言ってたと思うんだが」
「ええ、そう言ったわ」
ソブリナが頷く。
「お前は、この世界の風潮についてどう思ってるんだ?」
男子………それも、力を持ってる男子なら、『ハーレムが作れる!』とか言って意気揚々としてそうだが、女性の立場からすれば、この世界の風潮はどのように感じるのだろうか?
「そうねぇ………」
そう言って、暫く考えた後、ソブリナは口を開いた。
「別に、ハーレム云々については何とも思わないわ」
「ほう」
意外や意外。こう言う思想は、女性からすれば軽蔑の対象になるのではないかと思ってたんだが…………
まあ、それは、未だ元の世界での考え方が抜けきってないからだろうな。
「ミカゲはどうなの?」
「俺は、そうだな………」
そうして俺は、ゾーイやアドリアに聞かれた時に答えた事を話した。
「………まあ、こんな感じだな」
「……………」
話を終えると、ソブリナは目を丸くしていた。
「何と言うか………貴方って、"その辺り"についての欲が無いのね」
「其処は『少ない』と言ってほしかったな。俺だって男なんだから、女に興味はあるんですよ」
そう言い返してやると、ソブリナはクスクスと笑った。
「でも、そう言うの………私は好きよ?」
不意に、ソブリナがそう言った。
「覚えてる?私達が出会ったきっかけが何だったのかを」
「ああ」
俺とラリーがアルディアの3人と出会ったのは、村の女性達と共に黒雲に捕まってたところを助けた事がきっかけだったな。
「あの時…………私、凄く恐かったの」
「"恐かった"?」
俺が聞き返すと、ソブリナは暗い表情で頷く。
「黒雲がどんな連中なのかは知ってるわよね?」
「ああ、ギルドでラリーから聞いたからな」
あちこちの村を襲い、作物を奪い、若い女を拐ったり、迷宮から帰宅しようとしていた女性冒険者襲ってはアジトに連れていき、裸にして踊らせた後、自分達の性欲の捌け口にして、挙げ句の果てには奴隷商人に売り払うって言うトンでもない奴等だって聞かされたな。
「牢屋に閉じ込められてる間、数十分毎に看守が入れ替わるようになってたんだけど………ソイツ等は皆、私達の体を舐め回すように見るの。そして態とらしく、私達を犯すって下卑た声で言い放つのよ」
話が進むにつれて、ソブリナの表情が青ざめていく。
「その時は助けが来るなんて思ってなかったから、何時その時が来るのかと思うと………うっ」
話の途中で、ソブリナが嘔吐く。
「ソブリナ、もう良い。その辺で止めとけ」
そう言って、俺はソブリナの背中を擦ってやる。
暫く擦っていると、ソブリナの吐き気も収まり、俺は、彼女の背中から手を離した。
「ふう……ありがとう、ミカゲ」
礼を言うソブリナだが、未だ若干辛そうだ。
やはり、幾ら冒険者をしているとは言え、17歳の女の子にとっては、あれは精神的にも堪えるものなんだろうな。
何とかしてやれないだろうか…………あ、そうだ。
「なあ、ソブリナ。お前、歌は好きか?」
「歌?」
俺が訊ねると、ソブリナはキョトンとした表情で聞き返してきた。
「ああ、歌だ」
「ええ、好きだけど………それがどうしたの?」
そう問い掛けてくるソブリナに、俺は微笑みかけた。
「いや、何。気分が安らぐ歌を聞かせてやろうと思ってな」
「あら、何か歌ってくれるの?」
「ああ」
そう言って頷くと、俺はベンチの背凭れに凭れ掛かる。
「♪~………」
口笛を前奏に、俺は歌い始めた。
エースコンバットをプレイしてる人なら、誰もがこの歌に涙を流したのではないだろうか?
この曲、『The Journey Home』を聞いて。
YouTubeで『The Journey Home』を聞いた時、何故かウルウルしてしまったのは自分だけだろうか?
…………いや、そんな事は無い筈だ。