「ラリー!」
ドアを蹴り開けてラリーの部屋に飛び込んだ俺は、ベッドに隣接している壁に背をつけてガタガタ震えているラリーに声を掛けた。
「あっ……相棒……」
震えながら振り向いたラリーの表情は青ざめていた。
「どうした?何があった!?」
あのラリーがこんなにも怯えるとなれば、ただ事じゃないだろう。
俺はラリーの肩をつかみ、何があったのかを問い質す。
「コレよ」
後ろからエメルに呼び掛けられ、俺は振り向く。
その視線の先では、床に落ちていたステータスプレートを拾い上げているエメルが居た。
そして、俺の元に歩いてきたエメルは、言葉を続けた。
「ラリーに、
「……………」
何だ、そんな事かよ。
「全く、驚かせるなよなぁ~………」
もう1つのベッドにボフンと腰掛け、俺はそう言った。
「ちょっと相棒!何ぐだぁ~っとしてるのさ!?僕のステータスが滅茶苦茶な事になってるんだよ!?」
「そんなモン知ってるよ。俺と同じように、桁が万越えてるんだろ?」
「そうなんだけど大変なんだよ!兎に角見てよコレ!」
そう言って、ラリーはベッドから降りると、エメルからステータスプレートを引ったくり、俺に突きつけてきた。
「あ~、はいはい、分かった分かった。ちゃんと見るから、少し落ち着けって」
そう言ってステータスプレートを受け取り、俺はラリーのステータス(
そのステータスは以下の通りだ。
名前:ラリー・トヴァルカイン
種族:ヒューマン族
年齢:18歳
性別:男
称号:追いやられし者、片羽の妖精、
天職:航空傭兵
レベル:200
体力:29700
筋力:27600
防御:27800
魔力:300000
魔耐:324000
俊敏性:30000
特殊能力:詠唱破棄、全属性適性、魔力感知、空中戦闘技能、僚機念話、魅了・催淫無効化、錬成『アレスティング・ワイヤー』、錬成『カタパルト』、拡声、アルコール耐性、気配察知、
「あ~、成る程ね………」
ラリーがあんなに驚いていた理由が分かったような気がする。
「ホラ、見ただろ?ステータス値は全部桁が万だし、魔力系なら桁が十万になってるんだよ!制限解除したものとは言え、最早ヒューマン族の比じゃないよコレ!」
俺の隣に腰掛けて、ラリーが騒ぐ。
耳にガンガン響くから止めてもらいたい。正直、スッゲー五月蝿い。
こんな大声出されると、『拡声』使ってるんじゃないかとすら思ってしまう。
「まあ、ステータス値の桁が万になってるのは俺も同じなんだが…………魔力系の桁が十万なのは、『ラリーだから』の一言で片付くだろ」
「いやいや!片付かねぇよ!?何言ってんだよ!?」
ラリーの口調が盛大に乱れる。
正直、其処まで取り乱すような事なのかと思うのだが…………よく考えたら、俺も制限解除した自分のステータスを見た時、大声出して驚いたんだよな。
コレじゃ、人の事言えねぇや。
「ねえ、相棒…………僕、自分がヒューマン族である自信が無くなってきたよ…………」
ラリーの魔力や魔耐がヒューマン族の比じゃないのは今に始まった事ではないのだが、それは言わない事にする。
「まあ、その…………何だ」
ラリーに投げ掛けてやる言葉を模索しながら、俺はラリーに近づく。
「ラリーよ、そう肩を落とすなって」
俺はそう言って、ベッドの上で項垂れるラリーの肩に手を置いた。
「確かにお前の魔力や魔耐はヒューマン族の比じゃねぇが………やっぱ、ステータス値は低いよりも高い方が良いだろ?」
「た、確かにそうだけど…………」
いまいち納得いかない様子を見せるラリー。
「それに、コレはあくまでも制限解除した場合のステータスであって、通常時のステータスじゃないんだ。そうだろ?」
「う、うん………」
「なら、良いじゃねぇか。ここぞと言う時にだけ、制限解除を使えば良いからな」
俺がそう言うと、ラリーは漸く納得した。
まあ、どうこう言っておきながら、俺も若干戸惑ってるんだがな。
「…………ん?」
そうしていると、ドアの向こうに人の気配を感じた。数は3つだ。
「ちょっと失礼」
そう言ってベッドから立ち上がると、ドアの方へと歩いていき、そのままドアを開ける。
「「「きゃあっ!?」」」
アニメでもありがちな可愛らしい悲鳴を上げて、3人の美女が雪崩れ込んできた。
ソブリナとエリス、そしてニコルだった。
何の前触れも無くドアを開けたため、3人は今、床に倒れ込んでおり、ソブリナとエリスの上にニコルが倒れている。
「よう、お前等。盗み聞きとは随分と悪趣味じゃねぇか」
「ぬ、盗み聞きなんてしてないわ!」
「そうよ!最後辺りがチラッと聞こえただけよ!」
俺が言うと、ソブリナとエリスが即座に反論してきた。
「"最後辺り"って…………具体的に、どの辺り?」
「「「………………」」」
ラリーが訊ねると、3人は黙り込んでしまう。
そして、暫く沈黙した後、ニコルがポツリポツリと口を開いた。
「『ラリーに制限解除とか言う新しい特殊能力が加わったらしいんだけど~』…………の、辺りから……」
「「それ、ほぼ始めの方じゃねぇか!?」」
俺とラリーが同時にツッコミを入れる。
「し、仕方無いじゃない。依頼を終えて宿に帰ってきたらラリーの叫び声が聞こえて、何事かと思って、荷物を置いてから部屋に行ったら、さっきの話が聞こえてきたのよ」
ソブリナが言い訳した。
「それじゃあ、つまり……僕のステータスの事を…………?」
「ええ」
「思いっきり聞かせてもらったわ」
「ですよね~」
ソブリナとエリスの返答に、ラリーはそう答えた。
コレがアニメなら、ラリーは真っ白になった後、そのまま風に吹かれた砂のように、サラサラ………と、消えているだろう。
「ま、まあ大丈夫よ、ラリー」
「そ、そうよ。この話を聞いていたのは私達だけなんだから」
「………誰にも、言わない…………約束、する……」
そんなラリーを慰める3人。
「うん………ありがとう」
ラリーはそう言った。
「それで?ミカゲの方はどうだったの?」
「え?俺!?」
不意に、エリスが話の矛先を俺へと向けてきた。
「そう言えばラリーのは聞いたけど、ミカゲのステータスは未だ聞いてなかったわねぇ~………」
「……ミカゲの、気になる………」
ソブリナとニコルも同調する。
えっ、ちょっと…………コレ、マジでどうしたら良いんだ?
「相棒」
ジリジリと迫ってくる3人に戸惑っていると、何時の間にか背後に居たラリーが肩に手を置いてきた。
「君も道連れだよ」
「…………」
そう言うラリーに、俺はどのように返したら良いのか分からなかった。
そんなこんなで、結局は俺も、3人に制限解除したステータスを見せる事になった。
その際、アルディアの3人は勿論だが、リーアにも驚かれたのは言うまでもない。
それと同時に、俺は此処で初めて、アルディアの3人に自分の正体を打ち明ける事になった。
「それにしても、あんなトンでもないステータスを見せられると………」
「つくづく、ミカゲ達は普通の人間じゃないって思うわね」
「……………」
あれから少しして、俺達は夕食を摂っていた。
ソブリナとエリスが言うと、ニコルが2人の意見に同意するかのようにコクコク頷いている。
「ミカゲさんとラリーさん………凄いです」
夕食で出されたパンを両手に持ち、リーアがそう言った。
それからパンを頬張るのだが、その際にほっぺが膨らむため、見ていて凄く和む。
「それに、2人共レベルが200になってるからね、制限解除していない状態でも、ステータス値は高かったわ」
エメルが続けた。
「レベル200………」
「最早……人間の域、超えてる……」
エメルの言葉に、ソブリナとニコルがそんな感想を溢した。
ニコルも目を丸くして、手を口に当てて驚いている。
「最早、この2人には常識なんて通じやしないわね…………一体、何をどうやったらそんなレベルになるのよ………」
驚くのを通り越して呆れてしまったのか、ソブリナが溜め息混じりにそう言った。
「まあ、魔物の群れを殲滅したり、迷宮攻略したり、小型~中型のドラゴン叩きのめしたりしてたからな」
「…………もう何も言わないわ」
そう言うと、ソブリナはテーブルに突っ伏した。
「それにしても、貴方達………いえ、コレはミカゲとラリーに言いたい事なんだけど………」
「「ん?」」
不意にエリスが話を切り出してきて、俺とラリーが同時に聞き返す。
「2人共、この世界の風潮が何なのか知ってる?」
「風潮?」
突拍子も無い話に、俺は聞き返した。
頷くエリスだが、正直、風潮がどうとか言われてもパッとしないと言うのが素直な意見だ。
だが、どうやらラリーだけは違うようで…………
「『力を持つ者はハーレムを作るべきだ』…………ってヤツかい?」
「ええ、そうよ」
ラリーはそう言い、エリスは頷いた。
「はっきり言うと、貴方達は強い……いえ、強すぎる。あの飛行能力を持つ摩訶不思議な魔道具………確か、戦闘機とか言ったかしら?それの力もあるかもしれないけど、そもそもレベル200とか制限解除の能力なんてものを持ってたら、その気になれば国1つを相手取れるわ。それ程までの力を持ってるなら、自惚れたって不思議ではない。他の人なら、きっと調子に乗ってるでしょうね」
まあ、そうなるだろうな。
「でも………」
そう言って、エリスは神妙な面持ちで俺とラリーを見据える。
「貴方達は違う」
「「…………?」」
彼女の言う意味がよく分からず、俺とラリーは首を傾げる。
「そんな力を持っておきながら、自分達の能力をひけらかしたりしない上に、人柄も良い。それに加えて、風潮を利用してハーレムを作ろうともしない…………正直な話、何か裏があるんじゃないかとすら思ったわ」
…………俺等って、そんなに信用無いの?
「ああ、勘違いしないでね?別に私は、貴方達を信用していない訳じゃないの」
言い方がマズいと思ったのか、フォローを加えてくれた。
「実は私達、依頼で王都に行った事があるんだけど…………」
「へぇ、王都に?」
話を切り出してきたソブリナに、俺は聞き返す。
「ええ。結構久し振りだったわ」
「そっか…………で?王都はどうだったの?」
ラリーが続けて言う。
「相変わらず賑わっていたわ」
そりゃ、王都なんだから賑わってナンボだ。
「私達、王都みたいに賑やかな場所って、結構好きなのよ。だから王都に滞在していた時は、楽しかったわ」
ソブリナはそう言った。
「でもね………」
すると、表情を曇らせたエリスが口を開いた。
「1つだけ、気に入らない事があるの………」
「「"気に入らない事"?」」
俺とラリーが、同時に聞き返す。
「王都の連中………と言っても、士官学校出身の連中なんだけど…………皆エリート面してるのよ。『自分は特別なんだ』とか、『自分は強いんだ』とか言って、自分より下と見なした人を見下すの。おまけに、風潮を利用してハーレムを作ろうとしてるんでしょうけど、ハーレム目的で私達に声を掛けてくるのも居るのよ」
うっわ~…………そりゃ、さぞかし苦労しただろうな…………
「その時だって、銀髪長身の騎士に絡まれたわ。士官学校の騎士科を首席で卒業したとか、公爵様の息子だとか言ってたわ」
「「……………」」
エリスの話に、俺もラリーは言葉を失った。
エリスが言う銀髪長身の騎士ってのは、恐らく彼奴だろうな。あの銀髪ナルシスト野郎め、婚約者居るのに天野達を口説こうとしてた上に、今度はアルディアの3人にも手を出そうとしてたのか。つくづく女癖の悪い奴だな。
「でも、貴方達は違う。何時だって気取らず、自然体で………」
それから続けるソブリナの話を、俺達は黙って聞いていた。
結局、その話は食堂が閉まる時間まで続いた。