さて、ステータスや戦闘機のお披露目も終わり、俺はクラスメイト達(と言っても女子だけだが)との久々の交流を楽しんでいた。
女子達から話を聞いたのだが、座学は今でも続いており、この種族間戦争に関する話もあったのだが…………完全に他種族が悪者になっている上に、クルゼレイ皇国が、"悪者を匿う国"として伝えられており、人間主義国家であるエリージュ王国こそが、正しい考えを持つ国だと植え付けられているらしい。
訓練の内容は俺が未だ城に居た頃と変わらず、訓練場での模擬戦や魔法の練習、迷宮での実践訓練ばかりらしい。
盗賊を殲滅したり、魔物の群れやドラゴンを潰しまくっていた俺等とは全く違う。そりゃ俺等よりもレベルの上がり具合が低くなるわな。
こんな事を言うのも失礼だとは思うが……………はっきり言って生温い。
種族間戦争に参加すると言う事は、"人を殺す"のと同じ事だ。
魔人族や他の亜人族は、この国からは下等な存在として見られているが、皆、俺等ヒューマン族と同じように、時に笑い、時に怒り、泣いたり、誰かを愛したり愛されたりしている。
そんな奴等と戦い、殺さなければならないと言う事を、コイツ等は理解しているのか?
俺でさえ、最初は盗賊を殺す事を戸惑ってたんだぜ?
…………もしかしてコイツ等、魔人族や他の亜人族を"人"として見ていないのか?
敵として認識しているとは言え、"人を殺す"と言う事を教えられてないのか?
だとしたらヤバいな。
いざ戦争になってコイツ等が駆り出された時、何時かは絶対、自分達がやった事に気づいて動揺するだろうし、それで一瞬でも隙を見せれば、あっという間にあの世行きだ。
「……………」
そう思うと、自然と表情が強張る。
伝えるべきなのだろうが……………それは今するべきなのか?それとも時期を待つべきか?
いや、そもそも"時期"って言ったって、何時なんだ?
「(いっそ、コイツ等をクルゼレイ皇国に連れていくか?)」
今のところ、女子達はマトモな考え方をしてそうだから、声を掛ければ考えてくれるとは思うんだが、問題は男子達だ。
兎に角俺を見下したがっている連中が、俺の言う事を聞いてくれるだろうか?
……………いや、恐らく聞いてくれないだろう。
たとえ女子達が賛成しても、男子達が反対しかねない。
それどころか、宰相に告げ口して話をややこしくしようとするかも知れない。
畜生、どうすりゃ良いんだよ…………
「はぁ…………」
内心の葛藤による苛立ちを含ませて、俺は深々と溜め息をついた。
「相棒、どうしたの?」
すると、我が頼れる相棒、ラリーが心配そうな表情で声を掛けてくれた。
「ああ、実はな…………」
そうして、俺は自分の考えを話した。
「……………と言う訳なんだ」
「そうか………」
俺が話を終えると、ラリーは神妙な表情を浮かべた。
「君の考えは尤もだよ、相棒。僕が君の立場だったら、間違いなく君と同じ事を考えてた」
ラリーはそう言って、キャイキャイはしゃいでいるF組女子達へと目を向けた。
「試しに、彼女等に声を掛けてみたらどうかな?男子が手を出そうとするなら、僕がソイツ等を捩じ伏せといてあげるから」
「………そうだな」
俺はそう言って、女子達に近づいた。
「なあ、ちょっと話があるんだが」
そう言うと、F組の面々が此方を向く。
「どうしたの?」
天野が聞いてきた。
「俺等、何日か此処に滞在した後、クルゼレイ皇国に戻るんだけどさ………その時にお前等、一緒に来る気は無いか?」
『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』
俺の誘いに、F組の面々は目を見開いた。
「クルゼレイ皇国に?私達が?」
「ああ、そうだ」
聞き返してくる赤崎に、俺は頷いた。
「お前等の話を聞く限り、情報が偏りすぎてる。恐らく、他国の事なんて座学の授業でしか知らないんじゃないのか?」
「そ、それは……確かに……」
赤崎が同意するような素振りを見せる。
コイツはお喋りではあるが、物分かりが良い奴でもあるからな、こう言う相手とは話しやすい。
「でも、神影君。クルゼレイ皇国って…………」
「ああ、分かってる。悪者を匿う国だって言われてるんだろ?」
「……………」
俺が言うと、天野は俯いた。
「確かに、クルゼレイ皇国には魔人族や他の亜人族が居る。だが、皆凄く良い奴等だった。だからお前等も、接し方さえちゃんとすれば受け入れてもらえる筈だ。現に俺等には、魔人族の友人が居るからな」
そう言うと、F組の面々は目を丸くした。
まあ、連中が驚くのも無理はない。
何せ、クラスメイトの1人が敵と友人関係にあるんだ。コレで驚かない方が、はっきり言っておかしいからな。
「まあ、嫌なら無理にとは言わねぇが……………どうだ?」
俺はそう言ってみる。
全員戸惑っているらしく、互いに顔を見合わせている。
その状態が続くと思われた、その時だった。
「私、行くわ」
赤崎が挙手した。
「座学の授業では、魔人族や他の亜人族は悪者だって言われたけど………アンタ、実際にクルゼレイ皇国に行ったのよね?」
「ああ」
付け加えれば、其所の城で世話になってるんだがな。
「それなら大丈夫ね。それに此方は、実際に魔人族と会った事なんて、1度も無いんだから」
赤崎がそう言った。
「あっ、じゃあ私も行く!」
「わ、私も!」
そうして、F組の女子達が次々と賛同する。
「俺は反対だな」
だが、その雰囲気に水を差すかのように、反対の声が上がった。
その意見に、俺達の視線が男子の1人に向けられる。
視線の先に居たのは、F組きっての不良である元浜だった。
「お前等、なんでソイツ等の言う事をホイホイ信じるんだ?片や無能で、片や訳の分かんねぇ奴なんだぜ?」
そう言って、俺とラリーを睨む元浜。
つーか元浜、お前さっき俺のステータス見たのに、未だ無能とかほざくのかよ。ある意味尊敬するぜ。
《相棒、マジでコイツ何なの?君の方が遥かに強い上に人間性だって出来ているのに無能呼ばわりして…………スッゲームカつくんだけど》
ラリーが僚機念話でそう言った。
ラリーの口調が乱れるとなれば、結構腹を立てているようだ。
《まあ、仕方ねぇよ。他の男子だって似たような考えだろうし》
《………君は気にしないのかい?こんな好き放題言われて》
《もう、コイツ等に何言われようがどうでも良いぜ………》
俺はそう言って、苦笑を浮かべる。
まあ、コレは俺等の能力を知らない連中からすれば、俺が勝手に笑ってるように見られる訳で……………
「おいキモオタ、テメェ何笑ってんだよ?」
「独り言ならぬ独り笑いってか?相変わらずキモいな、お前!」
それに目をつけて、元浜と中宮がそう言った。
そうして巻き起こる、男子からの嘲笑の嵐。
おいおい、お前等それで良いのか?お前等が大好きな三大美少女が憎悪全開の表情で睨んでるぜ?
てか、マジで天野と雪倉の表情が恐い。今の2人には、
「はぁ……呆れたね、こんなのが勇者として持て囃されてるなんて………世も末だよ」
隣では、ラリーが溜め息をつきながらそう言っている。
あ~あ、コイツの中での勇者の価値が一気に下がったぞ。
「ねぇ、相棒。取り敢えず帰らない?こんなくだらない連中、付き合ってるだけ時間の無駄だよ」
そう言うと、ラリーはF-15Cを展開し、視線で、俺にも機体を展開するように促してくる。
「ああ、そうだな」
そう言って、俺もF-15Cを展開しようとした時だった。
「おい、待てよ金髪野郎」
相変わらず柄の悪い口調で、元浜が待ったを掛けてきた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、随分と失礼な口聞いてくれるじゃねぇか。『こんなの』とか『くだらない連中』とか言いやがってよぉ……………テメェ、俺等が誰なのか知らねぇのか?」
元浜がそう言うと、ラリーはF-15Cを解除して元浜の方を向き、侮蔑の笑みを浮かべて言い放った。
「君等が誰なのかなんて、知りもしないし、興味も無いね…………まあ、取り敢えず君の事は、"喧嘩腰で相手を煽る事しか能が無い、勇者気取りの三下野郎"とでも覚えといてやるよ」
「ぶふっ!?」
ラリーの言葉に、俺は思わず吹き出してしまう。
「何だとテメェ!?」
すると、そんな俺等の態度に余程腹を立てたらしく、元浜が殴り掛かってきた。
「(おいおい。勇者ともあろう者が、こんな安っぽい挑発で腹立ててどうすんだよ?)」
内心溜め息をつきつつ、仕方なく迎え撃とうとする俺だが、ラリーがそれを制した。
「君がやるまでもないよ、相棒。僕が始末するから」
そう言うと、ラリーは俺の前に出て鋭い目で元浜を睨み付ける。
「お前程度、相棒が相手をするまでもない」
そう言うラリーの体を禍々しいオーラが包んだかと思うと、それは瞬く間に元浜へと移り、縁取りするようにして元浜を包むと、動きを止める。
「ッ!?な、何だよコレは!?」
そう言ってオーラから抜け出そうとする元浜だが、身動き1つ取れないようだ。
そのまま兎に角『拘束を解け』と喚く元浜。
「……………」
だが、ラリーはそれに答えない。
そして、元浜を数メートル程上昇させたかと思うと、そのまま腹打ちの要領で地面に叩きつけた。
元浜は地面にめり込み、ピクピクと痙攣していた。
「次にこうなりたい奴は……………前に出やがれ」
殺気全開の眼差しでF組を睨むラリー。
男子は勿論、女子も完全に怯えて腰を抜かしている。
「おい、ラリー。落ち着け。関係無い女子まで威嚇しちまってるぞ、お前」
俺はそう言って、ラリーの肩を軽くポンポンと叩く。
「………ああ、ゴメンね、相棒。ちょっと我を忘れてたよ」
ラリーはそう言って、元の穏やかな表情に戻した。
「え~っと…………まあ取り敢えずだ」
俺は、F組の面々に呼び掛ける。
「一先ず、クルゼレイ皇国の件は保留にしよう。でも、
俺はそう言って、今度こそF-15Cを展開する。
そして、ラリーも展開したのを確認すると、呆然とするF組の面々に背を向け、一旦離陸すると、反転して王都上空を飛び回り、ラリーの
因みに、損傷具合が一番酷かった王宮は放置して、ついでに誰も居ないのを見計らって、訓練場があった場所にサイドワインダーを2発ぶちこんでやった。
反省も後悔もしていない。
「……あっ………私、神影君に告白してない」
天野がそんな事を言っていたのは、既にルージュへ向けて飛んでいる俺には知る由も無い。