航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第61話~バトルの余波は王都に到達!(王宮の)被害は甚大無限大!~

神影とラリーによる手合わせ(ガチバトル)が始まった頃、此処はエリージュ王国の王都。

其所では、今日も今日とて、F組の面々が訓練を行っていた。

 

「………998!999!1000!」

 

木刀での素振りを終え、奏が軽く息をつく。

魔法剣士である奏は、どちらかと言えば魔法よりも剣の方が得意だ。そのため、訓練では専ら、素振りや剣術の練習に精を出している。

 

「奏、お疲れ様」

 

木刀を地面に置いて、そのまま腰を下ろす奏に沙那が近寄り、体力回復の魔法を掛ける。

 

「ふう………ありがとう、沙那」

 

奏がそう言うと、沙那は手をヒラヒラと振った。

 

「ううん、コレが私の仕事みたいなものだから」

 

当然だと言わんばかりの表情で、沙那が返した。

 

「奏も、そろそろ魔法の練習したらどう?何時も剣術ばかりじゃ偏っちゃうよ?せっかくの魔法剣士が、コレじゃ普通の剣士になっちゃうよ」

 

奏の隣に腰を下ろし、沙那がそう言った。

 

「ええ、分かってはいるんだけど………やっぱり、此方の方がやりやすくてね」

 

そう言って、木刀の柄を握る奏。

 

「それに、いざとなったら沙那が回復してくれるからね」

「もう、当てにして」

 

そう言いつつも、沙那は嬉しそうだった。

 

あれから、日々訓練を積んでいるF組の面々だが、やはり内容は普段と変わらず、迷宮での訓練や城での模擬戦だけ。

そうなれば、レベルの上がり具合がガルム隊より悪くなるのは必然であり、現在の最高レベルは、正義ので97だ。

パーティーランクがSSSである上に、既にレベルが200に達している神影やラリーとは、約2倍の差が出来ている。

勇者達とガルム隊の練度の差が、レベルではっきりと表れていた。

 

「神影君、何れだけ強くなってるのかな…………?」

 

一向に会える気配を見せない想い人を話題に出す沙那。

神影がF組を離脱してから長く経つが、彼に向ける想いが消える事は無かった。

それは、別の場所で魔法の練習をしている桜花も同じだ。

彼女は、寝る前に部屋の窓に向かっては、神影が帰ってくる事を祈っている。

その行動には、夜間飛行をする神影の姿を見られれば…………と言う、淡い期待も含まれているのだが。

 

「どうでしょうね………でも、騎士の1人を殴り飛ばしたと言うのなら、相当強くなってると思うわ」

 

沙那の呟きに、奏が答える。

 

「沙那や桜花が守る必要も、無くなってしまうかもしれないわね」

「ちょっと、奏!」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべて言う奏に、顔を真っ赤にした沙那が声を荒げた。

 

「フフッ………冗談だから、そう怒らないでよ」

 

そう言う奏だが、相変わらずニヤニヤしたままだ。

 

「その顔、反省してないよね?」

「さあ、どうかしらね?」

 

すっとぼけた様子で言う奏に、沙那は溜め息をついた。

 

「それもそうだけど………」

 

不意に、奏が話を切り出す。

 

「古代君、クルゼレイ皇国に行ったまま、元の世界に帰る時が来るまで、此処には戻らないつもりなのかしら……」

「そんな事無いよ」

 

奏の呟きを、沙那が即座に否定する。

 

「でも、クルゼレイ皇国に行ったと言う情報があって以降、新しい情報は全く入ってないのよ?なら、元の世界に帰れるようになるまで、クルゼレイ皇国に居るつもりなのかも………」

「そんなの有り得ないよ。絶対、絶対帰ってくるもん!」

 

奏の言葉を遮り、頑なに神影が戻ってくると言い張る沙那。

自分達が何時、元の世界に帰れるのかは分からない。そうとなれば、神影と何時再会出来るのかも分からないと言う事だ。

彼に想いを寄せる沙那からすれば、今の奏の言葉は、何が何でも信じたくないのだ。

 

因みに、神影がエリージュ王国を出てクルゼレイ皇国に渡った事は、『これ以上隠しても仕方無い』と言う涼子の意見もあったので、沙那と桜花に伝えられている。

それにより、エリージュ王国を何れだけ探しても意味は無いと言う、神影が未だエリージュ王国の何処かに居ると信じている2人からすれば、あまりにも残酷な現実を突きつけられ、2人がその場で泣き崩れたのは言うまでもない事だ。

 

「………ごめんなさい。もう、言わないわ」

 

沙那の心情を察して、奏はこれ以上言うを止めた。

 

「(一応引き籠りから立ち直ったとは言え、やはり未だ………)」

 

奏は、内心そう呟いた。

 

引き籠りから立ち直り、迷宮攻略にも参加している沙那だが、時折、物思いに耽っているような表情を見せる。

そう言う時は決まって、神影の事を考えているのだ。

 

それに加えて、神影に関する話題には敏感になり、迷宮を攻略している最中に、功達5人が神影の悪口を言った時には、怒り狂って掴み掛かろうとしていた程だ。

 

「(全く………せめて、顔ぐらいは見せに来てあげなさいよ、古代君……)」

 

自分と沙那の心情とは逆に、清々しさを見せる青空を見上げ、奏はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、此処はルージュと王都の中間にあたる平野。

 

「うぉぉぉおおおおおっ!!!」

「うらぁぁぁあああああっ!!!」

 

其所では、2人の青年の怒号が響き渡り、あちこちで衝撃波が起こっていた。

 

「らぁぁああああっ!!!」

 

怒号と共に、神影に肉薄したラリーが拳を突き出す。

 

「ッ!甘ぇ!」

 

だが、それに気づいた神影が、振り向き様に拳を突き出して相殺する。

爆音が響き、2人が居る場所が陥没する。

 

「…………ッ!」

 

ラリーは飛び退き、両手を前に突き出して魔法を放つ。

 

「"地獄炎(ヘル・フレイム)"!」

 

すると、両手から放たれた禍々しい色の炎が、神影に襲い掛かる。

神影が飛び退くと、ラリーが放った炎は、神影が立っていた場所を焼き尽くす。

 

「俺の技を避けるとはな………流石だぜ、相棒!」

「あれで簡単に当たるようじゃ、1番機は務まらねぇからなぁ!」

 

嬉しそうに言うラリーに、神影は不適な笑みを浮かべて返す。

そして、今度は神影が行動に出た。

 

勢い良く地面に向かって急降下し、拳を地面に叩きつける。

 

「"地殻津波(クラスト・ウェーブ)"!!」

 

轟音と共に地面が揺れると、地面が捲り上がり、まるで津波のように、ラリーに向かっていく。

 

「やるじゃねぇか………だが、それでやられるような俺じゃねぇぞッ!」

 

そう言うと、ラリーは自分の背後に夥しい数の魔法陣を出現させる。

それらの魔法陣から無数の魔力弾が放たれ、神影が起こした津波へと向かっていくと、着弾と同時に爆発し、その津波を粉微塵に吹き飛ばす。

そのような技は、万を軽く超える魔力を持つラリーだからこそ出来るものだった。

地面に着弾したものも少なくないため、爆発による煙が晴れると、其所はクレーターだらけになっていた。

そして、其所に無傷で立っている神影。

 

「へぇ~………相棒、魔耐が低いのによく耐えたじゃねぇか」

 

特殊能力『拡声』を使って、空中に停滞しているラリーは神影に話し掛ける。

 

「そりゃあ、飛んできたテメェの魔力弾を全部弾き飛ばしてやったからな………無傷で居て当然さ」

 

不適な笑みを浮かべて、神影は答えた。

そして、徐に拳を後ろに構え、勢い良く飛び上がった。

ラリーが居るのは、地面から約20メートル。其所まで一瞬とも呼べる速度で飛び上がった神影は、何の前触れも無く拳を突き出す。

 

「ぐっ!?」

 

避けられないと判断したラリーは、咄嗟に両腕を出して防ぐものの、『攻撃』では神影の方が勝っている。

ダメージを受け、物凄い速さで地面に叩きつけられる。

 

「どうするラリー!この辺で終わるか!?」

 

地面に降り立つと、神影はラリーが叩きつけられた事によって起こる砂埃に向かって呼び掛ける。

 

「誰が終わるかボケぇ!こんな不完全燃焼のままで、終われるかってんだよぉ!!」

 

砂埃の向こうからそんな声が聞こえた次の瞬間、紫色の禍々しいオーラを纏ったラリーが飛び出してきて、神影に拳を突き出す。

 

「ッ!」

 

それを片腕で受け止めた神影は、数メートル程後ろに飛び退く。

 

「お~、めっちゃ痛ぇ………物理戦では勝ってるとしても、中々効くモンだなぁ………」

 

若干涙目になって腕を振りながら、神影はそう言った。

 

「へへっ………俺だって、魔法だけしか攻撃手段が無いって訳じゃねぇからな。お前だって、物理攻撃しか出来ないってわけじゃねぇだろ?魔力だってそこそこ伸びてんだから」

「まあ、確かにな」

 

ラリーの言葉にそう答え、神影は再び構える。

 

「さあ、手合わせは未だ終わってねぇんだ………さあ、どっからでも掛かってこいや、ラリー!!」

「上等だ、相棒!!」

 

そうしてラリーは、地面に足をめり込ませると、轟音を撒き散らして砲弾の如く飛び出し、神影に強力な飛び蹴りを喰らわせる。

 

「…………ッ!」

 

神影はイナバウアーの要領で上体を反らし、ラリーの飛び蹴りを避ける。

 

「クソッ………なら、これならどうだ!」

 

魔法を前方に放って勢いを殺し、向きを変えたラリーは、両手からジェット噴射のように炎を出して回転し、その遠心力で威力を上げ、再び蹴りを繰り出す。

 

「くっ…………おらぁ!!」

 

それを神影は、軽くジャンプしながらの回し蹴りで相殺する。

勢いを完全に殺されたラリーが地面に足をつくと、神影は10メートル程度の高さまで飛び上がり、急降下しての踵落としを繰り出す。

魔力を使って威力を上げた踵落としは、飛び退いたラリーが居た地面を踏み砕いた。

それによる一瞬の隙をついて、ラリーが立て続けに魔力弾を放つが、ガルム隊トップクラスの俊敏性を持つ神影は、それらを紙一重で避けていく。

 

最早、戦闘機要素などまるで無いガチバトルを繰り広げる2人。

そして2人は徐々に、エリージュ王国の王都へと距離を詰めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び場所を移して、此処はエリージュ王国の王都。

午前の訓練を終えたF組の面々は、食堂で昼食を摂っていた。

 

「王宮のご飯も凄く美味しいけど………そろそろ、家のご飯が恋しくなってきたわね」

 

テーブルに並べられた料理を口に運ぶ手を止め、涼子はそう呟いた。

 

「そうだね~。お母さんが作ったお弁当、教室に置きっぱだもんね~」

 

相変わらず間延びした口調で、陽菜乃が言った。

 

「向こうでは私達、どうなってるのかな……?」

「さあねぇ~…………多分、『神隠しに遭った』とか言われてるんじゃないかな?」

 

沙紀の呟きに、春菜が答えた。

 

「コレ、元の世界では私達の存在は無かった事になってる…………とか無いよね?」

「ちょっと、涼子。そんな恐い事言わないでよ」

 

いきなり縁起でもない事を言い出した涼子に、暁葉がそう言った。

 

「それもそうだけど………古代君、今何処に居るのかな………?」

「クルゼレイ皇国でしょう?この前会った時に、そう言ってたじゃない」

 

不意に呟いた沙紀に、涼子が答えた。

 

「それはそうだけど………実は、私達が知らない間に、この国に帰ってきてたり、しないかなって…………」

「あ~………それ、ありそうだね。だって古代君、結構前に王都に来てたんでしょ?」

 

沙紀の言葉に、春菜が賛同した。

 

そんな、何時もと変わらぬ食事風景が続くかと思われた、その時だった。

 

「…………ん?」

 

不意に、奏が手を止める。

 

「奏さん、どうかしましたか?」

 

そんな奏を不思議に思い、桜花が訊ねる。沙那も手を止めて、奏を見ていた。

 

「何か、外が騒がしくない?」

「「え?」」

 

2人同時に聞き返し、沙那と桜花は耳を澄ませる。

 

「………ああ、確かにそうだね」

「何だか、皆さん慌てているような………」

 

そんな会話が交わされた時、食堂の扉が勢い良く開け放たれ、衛兵が数人転がり込んできた。

 

「ゆ、勇者の皆様!」

 

かなり慌てた様子で叫ぶ衛兵に、F組の面々の視線が集まる。

 

「お、お食事中に失礼します!先程、王都・ルージュ間にある平野で、強力なエネルギー反応を感知しました!現在、この王都に向かって急速接近中です!」

 

その言葉に、F組の面々は目を丸くする。

 

「数は2つで、双方共に、魔王に相当する程のエネルギーを持っています!」

『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』

 

その言葉に戦慄するF組の生徒達。

 

「おいおい、マジかよ…………いきなり魔王クラスの敵が登場ってか」

 

徐に立ち上がった航がそう言った。

 

「皆、直ぐ外に出るんだ!何が起きたかは分からないけど、魔人族の可能性が高い!」

 

続いて立ち上がった正義がそう言うと、F組の面々は先に立って走り出した衛兵達に続く。

そして、王宮を飛び出した時だった。

 

「ッ!」

先頭を走っていた衛兵が突然立ち止まり、後ろを向いて力の限り叫んだ。

 

「魔力弾が接近中!衝撃に備えてください!!」

 

衛兵がそう叫んだ次の瞬間には、禍々しい色の巨大な魔力弾が何処かに着弾し、轟音を轟かせた。

地面は揺れ、あちこちで人々の慌てふためく声が聞こえてくる。

 

「方向からすると、着弾地点は訓練場か………ッ!」

 

瞬時に着弾地点を割り出した正義が、先に走り出す。

 

「ちょっ、正義!?おい、待てよ!」

 

それに続いて航も走り出し、気づけばF組全員が、訓練場に来ていた。

 

「こ、コレは………」

「う、嘘………」

「有り得ねぇ………何がどうなったら、こんなスゲー威力の魔力弾を撃てるんだよ…………」

「つーか、そもそも誰だよ?こんな魔力弾撃ってきやがったのは」

 

訓練場に着いた生徒達から、そんな感想が漏れる。

 

着弾地点から黒煙を噴き上げている訓練場は、その中央に、巨大で深いクレーターが出来ており、壁は粗方吹き飛び、近くにある城の壁にも亀裂が入っていた。

 

そんな中、シロナが虚空に向かって耳をそばだてていた。

 

「夢弓先生、どうしました?」

 

女子生徒の1人が訊ねる。

 

「ええ、何処からか、男の人の声g…………きゃあ!?」

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』

 

シロナの言葉が言い終わる事は無かった。

先程のを上回るような轟音が響き渡り、強烈な衝撃波が襲い掛かってきたからだ。

生徒達は吹き飛ばされ、何人かは壁に叩きつけられて意識を失う。

 

「ぐうっ…………い、一体……何が…………え?」

 

ヨロヨロと起き上がろうとしたシロナは、視界に飛び込んできた光景に目を丸くした。

何故なら…………あたかも核爆弾が炸裂したかのようなキノコ雲が、空高く舞い上がっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それらの原因が神影とラリーにあると言う事は、今の彼女等には知る由も無い。


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