航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第5話~この国を出ようと思うんだ~

「………………知っている天井だ」

 

 先生や天野達の介入のお陰で中止となった、富永一味によるリンチ事件(俺命名)の後で気を失った俺だが、背中や頭、そして首から下にかけて感じる違和感で目が覚めた俺は、見覚えのある天井を視界に捉えてそう言った。

 起き上がると、窓から外の景色が見える。もう夜になっているようだ。

 

「お目覚めですか?」

 

 そんな落ち着き払った声に振り向くと、セレーネさんが立っていた。

 

「気分の方は如何ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 そう答えると、セレーネさんは安心したように微笑んだ。

 

「そうですか………それなら良かったです。昨日、酷く汚れて気を失っているミカゲ様が此方へ運ばれてきた際には、何事かと思いました」

「そうなんスか…………」

 

 こんな落ち着き払ったセレーネさんが慌てる姿か………見てみたい気がしなくもないな…………って、ちょっと待てよ?

 

「セレーネさん、さっき“昨日”って言いました?」

「はい、そう申し上げましたが……」

 

 マジかよ………つまり俺、1日ぐらい気を失ってたって事なのか?どんだけダメージ受けてたんだよ、昨日の俺…………

 

「カナデ様とシロナ様が此処へ運んできてベッドに寝かせ、サナ様やオウカ様が回復魔法を掛けたのですが…………一向にお目覚めにならなかったので、お二人共、必死に呼び掛けながら泣いておられました」

「ま、マジですか…………」

 

 心配してくれたのは素直に嬉しいが、まさか泣くとは思わなかったな…………

 

「それで、昨日の一件についてですが………」

 

 そう言われ、俺はセレーネさんの方に向き直った。

 

「勇者イサオ様及び他4名は、現在自室謹慎中です。『幾らミカゲ様が勇者ではないと言っても、それがあのような攻撃をしても良い理由にはならない』との事です」

「そうですか」

「宰相は渋っていましたが、シロナ様方が無理矢理納得させたとか」

 

 先生達スゲーな、国のトップ的存在を動かすとは。

 つーか、やっぱ宰相さん………いや、宰相はごねやがったか。

 俺が勇者じゃないと分かった日から、何と無く他の奴等と比べて態度が悪いと思ったら……

 

「ああ、そう言えば」

 

 突然、セレーネさんが何かを思い出したような表情を浮かべた。

 

「どうしました?」

「昨日、ミカゲ様にお客様がいらしていたのですが…………」

「お客さん………ですか?」

 

 そう言うと、セレーネさんはコクりと頷いた。

 

「ええ。確か名前は………ラリー・トヴァルカインと申していました」

「マジですか………」

 

 ラリーが俺に?何の用だろうか?

 

「セレーネさん、ラリーが今何処に居るか分かりますか?」

「はい。失礼ながら、ミカゲ様に起きた事について説明した後、未だお目覚めにならないのでお引き取り願った際、『王都にある宿に滞在しているから、起きたら来るように言ってほしい』と申していたので」

 

 そう言うと、セレーネさんは此処からラリーが泊まっている宿までの簡単な地図を作ってくれた。

 軽く礼を言って部屋を出ると、俺は王宮を出て例の宿に向かった。

 不思議な事に、王宮を出るまでの間、クラスメイトとは誰一人として会わなかった。

 流石に門番をしている衛兵には見つかったが、訳を話すと通してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処が、その部屋か………」

 

 宿に着くと、受付をしていたおばちゃんに事情を話し、ラリーが泊まっている部屋を教えてもらった。

 そして今、俺はその部屋の前に居る。

 

「さてと……」

 

 俺は小さく呟いて、ドアをノックする。

 

「はい」

「ラリーか?神影だ。セレーネさんから話を聞いたから来たぜ」

 

 そう言うと足音が聞こえ、それが止むと同時にドアが開き、ラリーがひょっこり顔を覗かせた。

 

「やあ、ミカゲ。来てくれたんだね。さあ、入って入って」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべて言うラリーに言われるがまま、俺は部屋に入った。

 部屋に入ると椅子を勧められ、俺はゆっくり腰掛けた。

 

「それでラリー、何たって俺を呼び出したんだ?」

 

 ラリーが向かい側の椅子に座ると、俺は早速疑問を投げ掛けた。

 

「ああ、この前のお礼がしたくてね」

 

 そう言うと、ラリーはテーブルの上にバスケットを置いた。その中には、フルーツが幾つか入っている。

 

「そんな、別に礼なんてしなくても良いよ。別に大した事した訳じゃないんだから」

 

 俺は両手をわちゃわちゃ振りながらそう言うのだが、ラリーは首を横に振った。

 

「いやいや、そんな事無いよ。何せ、あの時に君が止めてくれなかったら、僕は彼奴にタコ殴りにされていたんだからね」

「そんな大袈裟な」

 

 何をどうやったら、そんな流れに事が動くのさ………って、待てよ?

 

「そう言えばラリー、お前あの銀髪野郎から“没落魔術師”とか言われてたよな?もしかして、それと何か関係あるのか?」

「………………」

 

 その質問に暫く黙っていたラリーだったが、やがて小さく頷くと、ポツリポツリと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 曰く、ラリーは元々、魔族クラスの膨大な魔力を持っており、多種多様な魔法を使える事から、平民の身でありながら、王立騎士・魔術師士官学校の魔術科には、推薦入学・学費免除と言った、所謂特待生として入学し、学校や、何と隔離状態である筈の国王からも将来を有望視され、親衛隊への取り立ても確定された、優秀な魔術師だった。

 だが、そんなある日の事。宰相に頼まれて、ある魔法の実験を行っていた際、突如としてラリーの魔力が暴走。研究用の特殊な建物を跡形も無く吹き飛ばした上に、城の一部を破損させてしまったと言うのだ。

 その暴走による副作用か、ラリーは元々持っていた魔力の9割以上を失った挙げ句、研究用の建物を木っ端微塵にした上に城を壊した者として、長期間の謹慎処分を言い渡された。

 だが、ラリーは実験を行う前に色々と確認は済ませていたし、魔力が暴走する事なんて、過去に1度も無かったのだと言う。

 それらを交えて弁明したものの、聞き入れられずに謹慎処分を受ける羽目になってしまう。

 その後、学校に復帰したは良いものの、生徒達がラリーを見る目はすっかり変わっており、魔力も騎士・魔術師士官学校での歴代最低レベルに低くなっていた事から、“没落魔術師”と呼ばれ、蔑まれるようになったらしい。

 

 

「……………………と言う訳なんだ」

「そりゃ、何とも酷ぇ話だな………まぁ、何だ。コレでも食って元気出せよ」

 

 俺はそう言うと、バスケットに入っていたリンゴを渡す。

 

「ありがとう、ミカゲ」

 

 ラリーはそう言うと、皮を剥く事無くリンゴにかじりついた。

 俺も、バスケットから梨を取り出してかぶりつく。

 うん、美味い。

 

「ところでミカゲ、君も随分酷い目に遭わされたそうだね?」

「ん~?」

 

 もぐもぐと口を動かしながら、俺は答える。

 

「セレーネって言うメイドさんから聞いたよ。『魔力や魔耐が凄く低いのに、ファイアボールやウォーターボールとかの集中砲火を喰らってた』って」

 

 え?コイツなんで知って………って、あっ。そう言えばセレーネさん、コイツに話したって言ってたな………………と言う事は。

 

「ラリー、お前もしかして…………俺が、異世界から召喚された勇者の1人だって事…………」

「うん、知ってたよ。卒業式の前から、クラスメイトが話しているのを聞いたからね。まぁ、初めて会った時は気づかなかったけど、後になって考えてみたら…………ね」

 

 そう言って、ラリーは軽く笑った。

 

「そっか……………」

「それにしても、君のクラスメイトも酷い事するよね、5人で攻撃するなんてさ。しかも、君は魔方面には滅法弱いのを知っていながら魔法で攻撃するなんて……………連中、君に殺意でも抱いていたのかな?どちらにせよ、許せるものじゃないね」

 

 ラリーがそう言った。

 その表情は、明らかに不快感を表すように歪んでいる。

 

「まぁ、あんな目に遭ったのは昨日が初めてだけど、扱いが酷いのは今に始まった事じゃないから気にしてねぇよ。それにソイツ等は、暫くの謹慎処分を受けてるらしいからな」

 

 そう言って、俺はまた、梨をかじった。

 

「でもまぁ………」

「ん?」

 

 そう言葉を切り出すと、ラリーの視線が再び俺に向けられる。

 

「謹慎が解けた後、彼奴等は絶対また何かやってくるだろうし……………それに俺を気に入ってないのは、あの5人だけじゃないんだわ」

「ふむ………………つまり、その5人が居ない間、他の奴等が何かちょっかいを掛けてくる、と言う事かい?」

「そうなる可能性は高いな。おまけに、宰相まで俺をぞんざいに扱いやがるからな」

「…………何と言うか、僕と言いミカゲと言い、宰相と会った人ってロクな目に遭ってないよね」

 

 そう言うラリーに、同意だとばかりに相槌を打ってから、言葉を続けた。

 

「まあ、そう言う訳で、明日辺りにでも、俺はクラスを離れようと思ってるんだよ。これ以上、此処に留まる理由も無いからな」

 

 俺がそう言うと、ラリーは頷いた。

 

「それが良いね。君のクラスの男子全員が君を嫌っているなら、またちょっかいを掛けてくる奴が居るかもしれないし、極めつけには、あの宰相が居るからね。あの宰相、自分にとって都合が悪い存在なら容赦無く切り捨てそうだし」

 

 ラリーの言葉に頷きながら、俺は再び梨をかじった。

 そうして他愛も無い話をしている内に、バスケットに入っていたフルーツは全部食べてしまった。

 その際聞いたのだが、騎士・魔術師士官学校の生徒は、卒業後したら騎士科なら王国騎士団、魔術師科なら魔術師団に入隊する義務があるらしいのだが、ラリーはどちらからも強く拒否されたため、田舎に帰るつもりらしい。

 その際、機会があったら遊びに来いとの誘いを受け、俺はありがたく、その話を受けた。

 

「それじゃあな、ラリー。差し入れのフルーツ、ありがとな」

「此方こそ、夜遅いのに来てくれてありがとう。王都に居る最後の日に、凄く楽しい時間を過ごせたよ」

 

 そうして挨拶を交わし、俺はラリーの部屋を後にした。

 その後は王宮に戻り、さっきの衛兵に一言掛けて中に入れてもらうと、誰にも見つからないように注意しながら部屋へ戻り、眠りについた。

 さて、作戦の決行は明日だ。上手くいけば良いのだが…………………


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