航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第52話~他種族への認識。動く者達~

さてさて、城を出てミノタウロスのステーキを食べに行こうとしていた時に話し掛けてきた魔人族の男ーーロイク・アルバートーーの誘いを受けた俺とラリーは、彼の案内で、肉専門の料理店、"ブルーゼ"を訪れていた。

 

「まあ食ってくれや、俺の奢りだ」

席に座ると、ロイクは快活にそう言った。

 

かなりのお喋り好きなのか、ロイクはこの料理店に着くまでの間も、俺達に色々と思出話を聞かせてくれた。

冒険者になってから何をしたとか、どんな迷宮に潜ったとか、何処かで馬鹿をやらかして怒られたとか…………

 

 

 

「んで、1回魔族大陸に戻った事があるんだが、その時はな………」

「お、おう」

 

それから料理が運ばれてきても、俺達は相変わらず、ロイクの思出話を聞いていた。

「あっ、そう言えば」

 

不意に、ロイクが思い出話を止めた。

 

「「………?」」

 

そんなロイクに、俺とラリーは首を傾げる。

 

「ちょっと、お前等に聞きたい事があるんだけどな………」

「"聞きたい事"?それは?」

 

俺がそう聞き返すと、ロイクは俺等に顔を近づけてきた。

周りに聞かれたらマズい話なのだろうか?

 

「ぶっちゃけさ…………お前等、この世界の情勢についてどう思う?」

 

ロイクはいきなり、そんな事を聞いてきた。

 

「"情勢"と言うと?」

「ホラ、今ってさ………ヒューマン族と他種族って……………まあ、ヒューマン族が敵視してるだけなんだが、結構険悪な関係になってるだろ?」

「………ああ」

 

ロイクの言葉に、俺は頷く。

 

「それについてなんだが………2人が、ヒューマン族以外の種族についてどう思ってるのか聞きたくてさ」

「そうだなぁ………」

 

俺はそう言って、クルゼレイ皇国に来てから出会った他種族について考えた。

 

クルゼレイ皇国(此処)に来てから、俺達は様々な種族と出会ってきた。

エルフやドワーフのような亜人種や、獣人族。そして、ロイクのような魔人族…………彼等は皆、凄く良い奴等だった。未だエリージュ王国に居た時、ルージュで一緒に騒いでいたオッチャン達を思い出すような、そんな気の良い連中だった。

そんな奴等が敵なんて、誰が思えるだろうか?…………いや、誰も思わないだろう。

エリージュ王国に残ったF組の面々は人間主義を叩き込まれてると思うが、このクルゼレイ皇国での様子を見せると、恐らく皆、態度を一変させるだろう。

 

「僕は………」

 

そう考えていると、ラリーが口を開いた。

 

「僕は、エリージュ王国の士官学校出身なんだ…………だから、人間主義について、ずっと叩き込まれてきた」

 

ラリーは、未だ学生だった頃の事を話した。

やはりエリージュ王国の士官学校の生徒だったから、人間主義とか、アンチ人外を教え込まれてきたようだ。

 

「最初は僕も、エリージュ王国のやり方が正しいと思ってたよ。でも、座学の授業で人間主義思想を聞いている内に、何と無く違和感が出てきてね。それでこの国に来て、多くの他種族と会って、確信が持てたよ」

 

そう言うと、ラリーは少しの間を置いてから再び口を開いた。

 

「他種族だって、時に笑い、時に泣いて、時に喧嘩して、時に誰かを愛して、誰かに愛されて…………そんな、ヒューマン族と変わらない存在なんだってね」

「じゃあ、ラリー。お前は、魔人族とか他の種族が相手でも………?」

「ああ、ヒューマン族と同じように接するつもりだよ……君の事だって、もう、友達だと思ってる」

 

ラリーはそう言った。

ロイクを真っ直ぐ見つめている緑色の瞳には、嘘の色など全く無かった。

 

「君も同じだよね?相棒」

 

すると、ラリーは不意に此方を向いて、そう聞いてくる。

その質問に対する答えなんて、決まっている。

 

「ああ、勿論だよ。ラリー」

 

俺はそう返した。

 

「うん。相棒なら、そう言ってくれると思ってたよ」

 

満足そうに頷いて、ラリーはロイクに向き直った。

 

「コレが僕等の答えだけど………どうかな?」

「ああ、十分すぎる答えだぜ」

 

ロイクはそう言った。

 

「お前等みたいな考え方をする奴が、エリージュ側にも居たとはな………世の中、未だ捨てたモンじゃねぇぜ」

 

そう続けるロイクは、嬉しそうに微笑んでいた。

 

「実はさ………俺、特殊能力に"認識阻害"とか、"擬装"ってのがあってさ。昔に1回、それ使ってエリージュ王国に行ってみたんだよ」

 

ロイクが再び語り出し、俺とラリーは耳を傾ける。

 

「行ってみたら驚いたぜ。だって、ヒューマン族しか居ねぇんだぜ?んで、ちょっと仲良くなった奴と他種族について話してたら、銀髪の騎士みてぇな奴が居てさ」

 

…………あ、それ多分あの銀髪ナルシスト野郎じゃないかな?

 

「俺等の話を聞いて、ソイツが口挟んできたんだけどよ………ソイツ、何て言ったと思う?」

 

 

 

ーー貴様、魔人族や亜人族などに興味があるのか?あんな生き物の風上にも置けぬ連中に?………貴様、もしや姿を偽った、連中の手下ではないだろうな?ーー

 

 

 

 

「…………『もしそうなら、さっさと正体を現せ。穢らわしい耳を削ぎ落として、ヒューマン族らしい色に塗り替えてやる』って言ったんだよ。信じられなかったね」

 

吐き捨てるように言うロイク。

 

《………おい、ラリー。それってもしかして…………いや、もしかしなくても》

《ああ。十中八九彼奴だよ、相棒………彼奴、人間主義の教育を全部真に受けちゃってるからね》

 

僚機念話で、俺もラリーはそんな会話を交わした。

 

「おっと、すまねぇ。こんなシケた話、此処でするモンじゃねぇな」

 

そう言って、ロイクは料理を平らげていった。

俺もラリーと顔を見合わせると、ロイクと同じように料理を口に入れる。

そのステーキを食べていたラリーの顔は、それはそれは幸せそうなものだったと言っておこう。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、今日は本当に楽しかったぜ」

 

食べ終わり、料理店を出ると、ロイクはそう言った。

それなりの値段になったので、せめて自分達の食費ぐらいは出そうとしたのだが、『俺が誘ったんだから』と、ロイクに押しきられてしまった。

 

「何か……ホントにすまねぇな、ロイク。奢ってもらっちまって」

「良いって良いって。さっきも言ったが、俺が誘ったんだ。ミカゲ達が気にするモンじゃねぇさ」

 

手をヒラヒラ振りながら、ロイクは言う。

 

「んじゃ、今日は楽しかったよ。またこうやって、飯食いに行こうぜ!」

「おう!」

「またね、ロイク」

 

そうして俺達はロイクと別れ、城へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとアンタ達!私達に内緒で何外食してるのよ!?」

「ラリーさん達、ズルいですぅ………」

「それにミカゲ様、服から漂う匂いから察するに、肉料理を食べてきましたね?」

「至急、それに関しての説明を要求します」

「ミカゲ様、酷いです!私なんてミカゲ様のお隣で食べるのを楽しみにしておりましたのに!」

「「す、すんませんでした………(め、めんどくせぇ~~!!)」」

 

城に帰った後、こんな感じの軽いいざこざがあったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移って、此処は王都の外れにあるロイクの家。

自室に戻り、ベッドに腰掛けて今日の事を振り返っていたロイクは、外に何者かの気配を感じ、窓を開ける。すると、1羽の黒い小鳥が留まった。

 

《中々に楽しそうな表情をしているな、ロイクよ》

 

その小鳥から、落ち着き払った男性の声が聞こえた。

 

「ええ。面白い連中と会いましたので」

《そうか………して、例の少年達との接触は?》

「ええ、上手くいきました。凄く面白い連中でしたよ」

 

小鳥からの問いに、ロイクは頷いた。

 

《成る程な………それでロイクよ、お前から見た彼等は、どのような者だった?》

 

その鳥はそう問い掛ける。

 

「人柄的にも、好ましい連中でした。計り知れぬ実力を持っていながら、それを鼻にかけたりはせず、かといって下手にへりくだったりもしない………」

《所謂、自然体と言うものか》

「はい」

 

ロイクはそう言って、頷いた。

 

《彼等は、他種族についてどう言っていた?》

 

そう問いかける小鳥に、ロイクは笑みを浮かべ、ミカゲとラリーが言っていた事をそのまま伝えた。

 

《何と………本当に、そう言っていたのか?》

「ええ。あの2人の言葉に、嘘はありません。本心からの、言葉です」

《そうか………》

 

同じように言う小鳥だが、その声色は、嬉しそうな、安心したような、そんな感情が込められていた。

 

《そう言えば、ラリーと言う少年が居たと申したな?》

「…………?ええ」

 

不意にそんな事を訊ねる小鳥に、ロイクは頷いた。

 

《その者のフルネームは?》

「ラリー・トヴァルカインです」

《何と!》

 

その小鳥は、驚いたようにそう言った。

 

《そうか………彼奴の子が…………》

「…………?」

 

そんな小鳥に首を傾げるロイク。

 

《ああ、すまんなロイク。ちょっと、思う事があっただけだ》

 

小鳥はそう言った。

 

《それもそうだが、エリージュ王国で召喚されたと言う、異界の少年少女達の様子は?》

「使い魔を放って様子を見たところ、城か迷宮での訓練ぐらいしか行っていないようです」

 

ロイクが答えると、その小鳥は呆れたとばかりに溜め息をついた。

 

《何とまあ甘っちょろい訓練をしておるのだ。我々との戦争に利用しようとする割には、その程度の訓練しかさせておらぬとは………》

「全くです」

 

ロイクは相槌を打った。

 

《そもそも此度の戦争は、奴等が我々の魔鉱山の権益を奪おうとした事から始まったと言うのに、自分達で対処しきれなくなると、異界の者すら巻き込むようになるとは………》

「……………」

 

その小鳥がそう言うのを、ロイクは黙って聞いていた。

 

《………今度、勇者とやらの実力を見てみるか》

「………ッ!?そ、それはまさか………魔王様が出向くと!?」

 

目を見開いて言うロイクだが、"魔王様"と呼ばれた小鳥から聞こえたのは笑い声だった。

 

《いやいや、そんな訳無かろう》

 

その小鳥はそう言った。

 

《誰か良さそうな部下を送り込もうと思っている。勇者の実力をある程度調べたら、タイミングを見計らって戻ってくるように言っておこう》

「成る程」

 

その小鳥の言葉に、ロイクは頷いた。

彼と小鳥の会話は、一晩中続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに場所を移し、此処はエリージュ王国の王宮にある、F組の面々が暮らすスペース。

その一室に、F組担任の夢弓シロナは居た。

 

「…………」

 

黒いネグリジェに身を包んだ彼女は、窓枠に凭れて外を眺めていた。

神影との再会を果たした日から、彼女は神影に言われた事について思い悩んでいたのだ。

彼は、『この種族間戦争の原因は、エリージュ王国にある』と言っていた。

そして、宰相が怪しいとも…………

 

「………どうすれば良いの………?」

 

その大きな胸に手を当て、シロナは呟いた。

教え子の言う事を信じたいが、この国にも、異世界に召喚され、右も左も分からない自分達に衣食住を提供してもらっていると言う恩がある。

それがシロナや、ミカゲの言葉を受けて独自に調べようと動いている女子生徒達を複雑な思いにさせているのだ。

 

「はぁ……」

 

此処でシロナは、溜め息を1つ。

すると、ドアの外で声がした。

 

「此方が、勇者シロナ・ユメミ様のお部屋になります」

 

ドアの向こうから聞こえてきたのは、彼女の専属メイドの声だった。

 

「案内ありがとう。それと、彼女の在室の確認と、居た場合の取り次ぎも頼む」

 

それに続いて、聞き慣れない男性の声が聞こえる。

 

「(だ、誰なの…………?)」

 

聞き慣れない男性の声に戸惑い、シロナは上着を着込んだ。

それと同時に、メイドが部屋のドアをノックする。

 

「シロナ様、居られますか?」

「ええ」

 

シロナはドア越しにそう答え、ドアを開けた。

其所には、彼女の専属メイドと、城の衛兵の姿をした男性が居た。

 

「彼、私へのお客さんみたいね」

「………聞いておられたのですか?」

 

目を丸くして訊ねるメイドにそう答え、シロナは男の方を向いた。

 

「………入って」

 

そう言うと、シロナと男は部屋へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それで、貴方は一体誰なの?少なくとも私には、全くもって心当たりが無いけれど」

 

そう言って、シロナは警戒心を露にする。

 

「突然の来訪をお許しいただきたい」

 

その男はそう言った。

 

「実は私、古代神影の協力者をしている者でして」

「ッ!?こ、古代君の!?」

 

その男の言葉に、シロナは狼狽えた。

 

まさか、教え子にそのような存在が居たとは…………

 

「つきましては、貴女に此方の本を渡しに来たので」

 

そう言うと、男は1冊の本を手渡した。

おずおずと受け取ったシロナは、その本の表紙に視線を落とす。

 

「"クルゼレイ皇国から見た異種族戦争"?あの、この本は一体……?」

「そちらは、エリージュ王国の外の国から見た異種族との付き合いを簡単に纏めた本になります。クルゼレイ皇国側の主張もありますので、それを、エリージュ側の主張と比べてみてください」

「え、ええ………ありがとう」

 

そうして、その男性は部屋を出ていった。

 

後に残されたシロナはベッドに潜り、手に小さな光の球を作り出すと、それを読み始めるのであった。




今回、シャドウ1さんに協力いただき、シロナに本が渡りました。

コレで女性陣がどう動くか、ご注目ください。


実は、そう遠くない内にビッグイベントが…………っと、この先は言えない。

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