航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第50.5話~神影への認識・伝えられる現状~

神影達と別れたシロナ達と騎士団は、山を降りた所で馬車に乗り、エリージュ王国王都へと戻ってきた。

長らく馬車に揺られて戻ってきた頃には、午後3時になっていた。

 

「では、我々は宰相に報告してくるので、この辺りで失礼します」

 

そう言うと、ブルームは他の騎士達を連れて宰相の元へと行ってしまい、残されたメンバーは暫し互いを見合った後、各自の部屋で休む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら。皆、お帰りなさい」

 

部屋に戻る道中、一行は奏に遭遇した。

 

「ただいま、白銀さん。今日も訓練、お疲れ様」

 

一行を代表するかのように、シロナがそう答えた。

 

「そちらも、お疲れ様です。先生」

 

そう言って、奏は一行に目を向けて言った。

 

「それで、例の"化け物"とやらは、退治したのですか?」

『『『………………』』』

 

その質問に、女性陣は複雑な表情を浮かべ、男性陣は不快そうに表情を歪めた。

 

「………………?」

 

そんな彼女等の反応に、奏は首を傾げる。

 

「その、実はね……………」

 

シロナが言おうとした時だった。

 

「その化け物なら、あの野郎が掻っ払っていきやがったよ」

 

男性陣の中で、一際不快そうにしている秋彦が、シロナの言葉を遮って口を開いた。

 

「"あの野郎"?それは誰なの?」

「誰って決まってるだろ?古代だよ、古代の野郎だ」

「ッ!?」

 

不快そうに頭をガシガシ掻いた秋彦が放った返答に、奏は目を見開いた。

他国へ渡っていた神影が、今日、クラスメイトと接触したのだ。

 

「まあ、正確には、彼奴と一緒に居た金髪の奴なんだけどね」

 

慎也が秋彦の言葉を補足する。

 

「そ、そう………」

 

慎也の言葉に、奏はそう返した。

 

「それで?古代君は何処なの?一緒じゃないの?」

 

そう訊ねる奏だが、一行は首を横に振った。

 

「一緒に、王都に戻らないかって、聞いてみたんだけど……………その、断られちゃって…………」

 

沙紀がそう言った。

女性陣が、逸早く神影が戻ってくるのを望んでいる中で彼との接触に成功したのに連れ帰る事が出来なかったためか、沙紀は申し訳無さそうにしている。

 

「そう、それは残念ね……………」

 

そう言うと、奏は言葉を続けた。

 

「そう言えば、さっき化け物は古代君が掻っ払ったとか言ってたけど、具体的にはどうしたの?討伐したの?」

「ううん。ラリーさんが、討伐せずに連れていったわ」

 

奏の質問に、涼子が答えた。

 

「"連れていった"………?それは、どういう事?」

「それがね………」

 

そう言って、涼子は山岳地帯での出来事について話した。

化け物の正体が、自分達より遥かに年下の、白髪の可愛らしい少女だと言う事を。

そして、その少女を騎士達が殺そうとした事について、神影やラリーが激怒し、その場で暴力騒ぎを起こした事も…………

 

 

 

 

「…………と言う訳なの」

「…………………」

 

涼子の話に、奏は言葉を失っていた。

最近、神影絡みの話で言葉を失いがちになっている奏は、またしても問題を起こした神影に内心文句を言っていた。

 

「(全く、また問題を起こしたわね、古代君……………こちとら沙那や桜花の事で手一杯なんだから、もう問題を起こされるのは真っ平御免だって、この前言ったばかりでしょ、この馬鹿………)」

 

この場に神影本人が居ないため、どうしようもないと知っていながらも、奏は、彼を罵倒せずにはいられなかった。

 

「あっ、それでね?凄い事が分かったの!」

 

そうしていると、右手を上げた春菜がピョンピョン跳び跳ねながら言った。

 

「"凄い事"?」

「うん!」

 

そう言って、春菜は少しの間を空けてから言った。

 

「古代君、戦闘機が使えるんだって!」

「…………はい?」

 

あまりにも現実味の無い話に、奏はキョトンとした表情を浮かべて聞き返す。

 

「だから、古代の奴、戦闘機を使う能力を持ってるって事よ」

 

聞き返してきた奏に、今度は涼子が答えた。

 

「それに………ラリーさんも、戦闘機……使ってた…………」

「ええッ!?」

 

涼子に付け加える形で沙紀が言うと、奏が目を見開いた。

 

「ちょ、ちょっと待って?それってつまり、此方の世界の人が、戦闘機を使ってるって事よね?」

「う、うん………」

 

詰め寄って問い掛けた奏に、沙紀は頷いた。

 

あまりにもツッコミ所が多すぎる話に、最早奏は、頭の中での情報処理が追い付かなくなっていた。

 

転移させられた当時はステータスが誰よりも低く、男性陣や国からも蔑まれていた神影が、実は戦闘機を使う能力を持っており、その力を、現地人であるが故に、"戦闘機"と言う単語すら知らない筈のラリーもが持っている。

今の奏には、それを聞かされて驚かずにいられるような精神的余裕は無かった。

 

「それに古代君やラリーさん、怒り任せに騎士の人を殴り飛ばしたんだよ?こう、『ズドーン!』って」

 

そう言って、拳を突き出して当時の様子を語る春菜。

つまり、この時点で神影は、王国の騎士を圧倒する程の力を有している事になる。

「それで、古代君………ゴルトさんに、戦闘機の情報を渡せって言われてたけど、断ってた………」

「そう………でも、何故なのかしらね?」

 

奏がそう言うと、此処で漸く、秋彦が口を開いた。

 

「んなモン決まってんだろ」

 

その台詞に、一行の視線が彼に集中する。

 

「どうせ、自分の力を独り占めにしてぇんだよ彼奴は」

「…………それは、どういう事かしら?」

 

奏がそう訊ねる。

心なしか、かなり不快そうにしている。

だが、神影の事が気に入らない秋彦は止まらない。

 

「戦闘機だか何だか知らねぇけど、要は自分の力を教えて、俺等に強くなられるのが嫌なんだよ。F組の中で、戦闘機を使えるのは彼奴だけだからな。自分だけの能力だって思いたいだけなんだよ」

 

神影の悪口をスラスラ言う秋彦。

「勝手に出ていく上に、強力な力があるのに俺等に教えようともしねぇ、トンでもねぇ野郎だぜ」

「そうだね。戦闘機の情報を渡すのを断ってた時の彼奴の言い方は、人としてどうかと思うものだったよ、うん」

 

慎也は秋彦に続ける形でそう言うと、神影がゴルトに何を言ったのかを奏に伝えた。

 

「成る程、そんな事を言っていたのね………」

 

そう言って、奏は顎に手を当てて何かを考え始める。

奏が神影に対して好印象を抱いている事を知っている男性陣は、奏の神影に対する見方を変える(勿論、悪い方向に)チャンスだと思ったのか、神影とラリーが起こした暴力騒ぎなどの事も槍玉に上げ、神影の悪口を言い募る。

彼等の言う事全てが間違っている訳ではないが、こんなにもクラスメイトを悪く言う事を見過ごせなくなり、涼子が声を上げた。

 

「ちょっと、男子!幾ら何でも、そんな言い方は…………!」

 

神影への悪口を止めさせようとした涼子だが、秋彦が凄んだ。

 

「じゃあ赤崎、お前は古代がやった事が正しいって言うのか?ブルームさんや、他の騎士の人を殴り飛ばした上に謝りもしねぇ。おまけに、俺等に有利になるような能力があるのに、全然協力しようとしねぇ事が正しいって、そう言いてぇのかよ?」

「そ、そう言う訳じゃないけど、だからって!」

 

そう言う秋彦に怯みながら、尚も言い返そうとする涼子。

そうして、この場で2人の言い争いが起きそうになった、その時だった。

 

「2人共、止めなさい!!」

 

其処で初めて、シロナが怒鳴った。

一行はビクリと体を跳ねさせ、シロナへと視線を向ける。

 

「過ぎた事について言い争っても、意味は無いわ」

 

そう言われ、秋彦と涼子は顔を伏せる。

 

「それから、他の男子もよ」

 

そう言って、シロナは慎也や他2人の男子生徒へと目を向けた。

 

「確かに古代君の行動にも、やり過ぎだと思うところはあるわ。でもね、だからと言って、彼のイメージを下げようとするのはお門違いよ」

 

そう言われた他の男子達も、同様に顔を伏せる。

 

そもそも、今までずっと蔑まれ、ぞんざいに扱われてきた存在が、いきなり国に協力しろと言われて、首を縦に振るだろうか?

いや、振る訳が無い。

神影の場合なら尚更だ。

 

宰相からの扱いは散々で、クラスの男子からも不要な存在として扱われ、富永率いる5人組からは、魔力や魔耐が極端に低い事を知りながら魔法攻撃によるリンチを喰らっていたのだ。

それで協力など、する気も起きないだろう。

 

「兎に角、今日はもう部屋に戻りなさい。良いわね?」

 

そう言うと、シロナはさっさと行ってしまった。

 

残された生徒達だが、男子生徒はさっさと部屋に戻ってしまい、廊下には、奏と涼子、沙紀、春菜の4人が残された。

 

「貴女達は帰らないの?」

 

その場を動こうとしない3人を不思議に思い、声を掛ける奏。

涼子は、その質問に答える代わりにこう言った。

「ねえ、白銀さん………ちょっと、一緒に来てくれる?大事な話があるの」

「…………?え、ええ」

 

涼子達が醸し出す重い雰囲気に、奏は戸惑いながらも従った。

 

 

 

 

 

 

 

3人に連れてこられたのは、涼子の部屋だった。

 

窓際にあった椅子をベッドの前に持ってきた涼子は、その椅子に奏を座らせ、彼女と向き合う形で、沙紀と春菜が両サイドに来るようにベッドに腰掛けた。

 

「それで………大事な話と言うのは、一体何なの?」

 

3人がベッドに腰掛けると、奏が開口一番に疑問を口にする。

 

「うん………コレ、古代に言われた事なんだけどね?」

 

そうして涼子は別れ際に神影に言われた事を伝えた。

 

元々、ヒューマン族と他種族は共存関係にあった事。

この種族間戦争の発端が、エリージュ王国にある可能性が高いと言う事。

そして、宰相が怪しいと言う事を…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成る程、そんな事を言われたのね」

 

涼子の話を聞いた奏はそう言った。

 

「白銀さんは、どう思う?」

 

涼子がおずおず訊ねる。

奏は暫く、顎に手を当てた状態で沈黙する。

神影が言っていた事と、これまでのエリージュ王国での暮らしなどを照合しているのだ。

 

「…………」

 

暫しの沈黙を経て、奏は手を膝の上に置いた。

 

「取り敢えず、彼の言う事を信じるしかなさそうね」

「それって………エリージュ王国が怪しいって事を?」

 

そう聞き返す涼子に、奏は頷く。

 

「今のところ、国外について知っているのは古代君やラリーさんぐらいしか居ないわ。詳しい事は彼から聞かないと分からないけど、警戒しておいて損は無い筈」

 

そう言って、奏は徐に立ち上がった。

 

「兎に角、コレはクラス全員n……「それは駄目!」……ッ!?」

 

突然声を張り上げた涼子に、奏は目を見開いた。

 

「駄目って………どういう事なの?」

 

奏が怪訝そうな表情で聞き返す。

 

「古代に、言われたのよ………『この事は、女子の間だけでの秘密にしてほしい』って」

「………つまり、男子には言うなって事よね?」

 

奏の問いに、涼子は頷いた。

 

「多分だけど………」

 

不意に、おずおずと手を上げた沙紀が口を開いた。

 

「この事、男子に言っても……信じないと、思うの……それに、宰相さんとかに、告げ口すると、思う……古代君、それを考えて、私達だけでの秘密にするように、言ったんじゃないかな……?」

「成る程………言われてみれば、確かにその通りね……………」

 

そんな沙紀の意見に、奏は同意した。

彼女が言っていたように、男子が神影の言う事を信じるとは到底思えない。

敵視し、蔑み、見下してきた神影の言う事に、男子が耳を貸すだろうか?…………いや、貸さないだろう。

それどころか、場をややこしくするだけだとして、より一層、彼を邪魔に思うだろう。

 

「取り敢えず、コレは一応、女子全員だけに伝えておきましょう。古代君が戻ってきて、詳しい話を聞かせてくれたら万々歳だけど、それが無いなら、自分達で調べるしかないわ」

「そうね」

「わ、私も……」

「うん、了解!」

 

そうして4人は解散し、女子の部屋を訪れ、神影が言っていた事を話した。

コレが事態をどのように左右するかは、未だ、誰にも分からない。




思いっきり修正しました。

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