「…………と言う訳なのです」
「「「………………」」」
私は今、合流したゾーイやアドリアと共に、昨日ラリーを撃墜したフェンリアの娘ーーユリシア・フェリアーネーーの過去の話を聞いている。
どうやら彼女は、元々エリージュ王国のある村の孤児院で暮らしていたが、その村が魔物の群れに襲われると言う事件が発生。
機体の力を使って魔物を殲滅するものの、今度は、その力を怪しんだ国から王都に呼び出され、種族の検査を受けたところ、得られた結果はヒューマン族ではなく、人型戦闘機。
少なくとも人間ではないため、理不尽にも迫害される事になってしまった彼女は、エリージュ王国を飛び出し、居場所を求めて、此処に来たと言う。
因みに食料は、偶然知り合ったイリナさんが分けてくれていたらしい。
「「「…………」」」
彼女の話が終わると、私達は唖然とした。
私はずっと模型の形で封印されていたが、ゾーイやアドリアも、人の前に姿を表す事はあっても迫害されたりはしなかったと言う。
「(どうやら、エリージュ王国の王都はクズの巣窟らしいわね………)」
そう考えていた時だった。
「出てこい、化け物!貴様が其所に居るのは分かっているのだぞ!!」
『『ッ!?』』
突然、洞穴の外から若い男の怒号が響いてきた。
「な、何なのよいきなり………って、ユリシア!?」
ふとユリシアの方を向いた私は、驚きのあまりに目を見開いた。
「い、嫌………来ないで………何もしませんから」
其所には、頭を抱えて蹲っているユリシアの姿があった。
「お姉様」
すると、ゾーイが話し掛けてくる。
「この国では、ヒューマン族以外の種族を受け入れる態勢が取られているので、彼女を迫害するような者は居ない筈です。恐らく、エリージュ王国の者かと思われます」
「ええ………『恐らく』と言うより、ほぼ確実にその通りね」
私はそう返して、洞穴の外を睨む。
レーダーをONにすると、この洞穴の外に、幾つもの反応がある。
詳細を見ると、やはり全員ヒューマン族だ。
「取り敢えず、私が出るわ。ユリシアをお願い」
「了解しました」
「お気をつけて」
2人の言葉を受け、私は洞穴の外に出る。
洞穴の外には、エリージュ王国の国旗を持った騎士と、ミカゲやラリーと同い年ぐらいの男女が数人居た。
その中でも、リーダーの如く前に出ている銀髪の男は、私の姿を見た途端にキョトンとした表情を浮かべた。
「…………あれ?化け物ってこんなだったか?」
そう呟き、男は取り出した紙と私を交互に見る。
そして怪訝そうに首を傾げると、私の元へと歩み寄ってきた。
「失礼ですが、貴女は?」
「エメラリア・モルガネード………しがない冒険者よ」
そう名乗ってから、私は洞穴の前で陣取っている連中を睨み付ける。
「それにしても、何なの貴方達は?いきなり『化け物』とか叫ぶなんて………貴方達にとって、洞穴の中に居るのは皆"化け物"として認識されるのかしら?」
「い、いえ!そう言う訳では………」
私が睨むと、その銀髪の男は狼狽えながらそう言った。
「それで?いきなり人を化け物呼ばわりした失礼極まりない貴方は何者で、此処へは何をしに来たのかしら?」
そう訊ねると、銀髪の男は眉を一瞬ひくつかせたものの、改めて私を一瞬見た後、笑みを浮かべて名乗った。
「私は、エリージュ王国近衛軍所属、ブルーム・ド・デシールと申します。此処へ来た理由は…………」
そうして、ブルームと言う男は此処に来た理由を話し始めた。
どうやら、彼等はエリージュ王国で召喚された勇者の実戦訓練(人を殺す事への覚悟を付けさせる事)のため、エリージュ王国から逃げ出した"化け物"を討伐しに来たらしい。
その"化け物"と言うのは、彼の話の内容から察するにユリシアだ。
「奴は幼児の姿をしていながら、魔物の群れを単独で殲滅出来る程の力を有しています。それがヒューマン族だったら未だしも、出た結果は人型何たらとか言う訳の分からない種族名。ヒューマン族ではない以上、何時、我等がエリージュ王国に害をなす存在となるか分かりません」
「だから、今の内に芽を摘み取っておこうと言う事なのね?」
「そう言う事になります」
ミカゲやラリーからエリージュ王国の騎士とかの話しは聞いていたけど、つくづく見下げ果てたゴミ共ね。幼いながらに村を救った女の子を、ただ『ヒューマン族じゃない』と言う理由だけで化け物呼ばわりして、挙げ句の果てにはこうやって討伐しに来るなんて…………
「なので貴女も、早くお下がりください。あの化け物の相手は我々で引き受けますから」
そう言って、笑みを浮かべて手を差し伸べるブルーム。
その手を私が取るとでも思ってるのだろうけど……………………そうなる訳無いじゃない。
「嫌よ」
私は真っ向から拒絶し、ブルームの手を払い除けてやる。
「えっ…………?」
手を払い除けられた事に、ブルームは唖然とする。
後に居る子分の騎士や勇者達も、私の行動に驚いているようだ。
「聞こえなかった?『嫌だ』と言ったのよ。アンタ達にあの娘を殺させはしないわ」
そう言うと、ブルームは私を睨む。
「………それは、あの化け物を庇うと言う事になりますが?」
「ええ、そうよ。庇ってるのよ。あの娘に会わせなければならない人も居るからね。それに、何処の世界に同類が殺されるのを黙って見ている奴が居るのよ?」
「は?それはどういう……?」
戸惑うブルームを無視して、私は自分の機体を展開する。
「見ての通り、私も彼女と同じように、ヒューマン族じゃないのよ。アンタ達が討伐したがっている、人型戦闘機よ」
『『『『『『ッ!?』』』』』
そう言い放ってやると、全員が目を見開く。
「さあ、どうしたの?アンタ達が討伐したがっている"化け物"が目の前に立ってるのよ?何唖然としてるのよ?殺せるものなら殺してみなさいよ」
思いっきり挑発してやる。
「こ、この…………!」
すると、ブルームが最初に剣を抜く。だが、その剣は小刻みに震えていた。
「あら、震えてるようだけど………もしかして恐いの?言っておくけど、ラリーはもう、人を殺す覚悟は出来ているのよ?」
ここで私は、ラリーを引き合いに出す。
以前ラリーと話した時に、ブルームがラリーを毛嫌いしている事は聞いているのだ。
散々見下していたラリーに劣っていると言われれば、怒ると思うのだけど………いや、流石にそれは考えすぎかしら?子供じゃあるまいし……
「ッ!その名を口にするな!化け物が!」
あら、直ぐ怒り出したわ。案外単調な奴なのね…………でも、私よりレベルが低いのか、剣が遅く見える。こんなの、普通に避ければ…………
「…………おい、テメェ。ウチの僚機に何してやがる?」
「…………?」
『『『『『…………?』』』』』
すると、何処からか聞き慣れた声が聞こえる。
そして次の瞬間…………
「ごはぁっ!?」
私に剣を向けていたブルームが、何かに殴り飛ばされたかのように後ろへ数メートル程吹っ飛んだ。
皆、何事かと辺りを見回している。
「(ま、まさか……ミカゲ、なの…………?)」
私も辺りを見回しながら、内心でそう呟く。
すると、私の目の前に見慣れた後ろ姿が現れた。
比較的長めの黒髪を持ち、戦闘機を纏った少年…………予想通り、ミカゲだった。
「こ、古代君!?」
ミカゲを見た瞬間、銀髪の女性がミカゲの名を呼ぶ。
後ろに居る勇者達も、ミカゲを見て大層驚いているようだった。
「…………」
だが、ミカゲはそれに答えず、ただ黙って、騎士や勇者達を見ている。
「き、貴様ぁ!ブルーム様に何をするのだ!?」
すると、漸く我に返った騎士の1人がミカゲに怒鳴る。
「何をする、だぁ?…………それは此方の台詞だクソ野郎が!!!」
怒鳴られたミカゲは、その騎士を上回る程大きな声で怒鳴り返す。
怒鳴り返された騎士が怯むと、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「まあまあ、相棒。そう怒鳴るなよ。近くに居るから耳にガンガン響くじゃないか」
そんな、落ち着きつつも苦笑混じりな声が、私の左から聞こえる。
「ちょっと挑発されたぐらいで相手を殺そうとするなんて、沸点低すぎやしないかい?エリージュ王国騎士団も、地に堕ちたものだね」
そして、その声の主が居る方に目をやると、ミカゲと同じ機体を纏い、首筋辺りからゴムで縛って肩から垂らした金髪に加えて、エメラルドのように鮮やかな緑色の瞳を持つ少年が現れた。
ラリーだった。
「き、貴様は…………!」
ミカゲに殴り飛ばされたブルームが漸く復活し、ラリーを指差して狼狽える。
「やあ、ブルーム。久し振りだね」
ラリーはそう言うと、右腕の機関砲を肩に担いでトントンと軽く打ち付けた。
顔は笑っているが、目は笑っていない。それどころか、ドス黒いオーラに包まれている上に、ラリーの体から、バチバチと火花が散っているように見えた。
「それにしても君達、僕と相棒の大事な仲間に、随分酷い事をしようとしてくれたじゃないか。それは僕等への宣戦布告と受け取っても良いのかい?」
ラリーがそう言うと、彼を包んでいるドス黒いオーラが一層強まる。
「ふ、ふんっ!『宣戦布告と受け取って良いのか』だと?そんなもの言うまでもないな。貴様のような没落魔術師風情に、この俺が負けるとでも思ってるのか!」
ラリーが相手だと強気になれるのか、ブルームはそう言って剣を抜き、ラリーに斬りかかる。
「………典型的な小物野郎が」
そう言うと、ラリーは別の機体へと瞬時に切り替え、両腕の機関銃をしまって腰についている剣(ミカゲに『刀だ』と言われたので、以後は刀と言わせてもらうわ)の一方を抜いて振り上げる。
そして、この2つがぶつかる音が鳴…………らなかった。
何と、ブルームが持っていた剣の刀身が、柄から上の部分から綺麗な切り口を残して消えていたのだ。
そして、ジャキン!と音を立てて刀身が地面に突き刺さる。
「そ、そんな………俺の剣が、そんな訳も分からない剣に………」
「零戦の刀を舐めるな、銀髪ナルシスト野郎」
柄から上を斬り飛ばされた剣を見ながら地面にへたり込むブルームに、全く無傷な刀を腰に戻したラリーが言い放った。
「う、嘘……だろ…………?」
「ぶ、ブルーム様が…………あんな、いとも容易く………」
「それも、没落魔術師に……負け、た……」
ふ~ん、やはりラリーが言っていたのは本当だったのね………それにしても没落魔術師なんて、失礼な言い方ね。
コイツ等に今のラリーのステータスを見せてやりたいわ。
ラリーが地面にへたり込むブルームを無視していると、再びミカゲが口を開いた。
「気は済んだか?ラリー」
「ああ、結構スカッとしたよ」
ラリーは軽く笑って、そう答えた。
「にしてもラリーよ、この銀髪ナルシスト野郎を潰すのは俺にやらせてくれても良かったんじゃねぇのか?」
「それは無理だね。彼との因縁は僕の方が長いんだから」
「さいでっか」
2人はそんな会話を交わす。
「まあ、こんな茶番はさておき…………」
そう言って、ミカゲは騎士達に向き直った。
「さあ、テメェ等………コレが一体何の真似なのか、キッチリ説明してもらおうか?」
神影がそう言うと、彼の殺気にあてられた騎士達が怯えながら頷いた。
…………と言うかミカゲ、空気になってる貴方のクラスメイトは放っておいて良いのかしら?