「いやあ、昨日は心配をお掛けしました。ラリー・トヴァルカイン、復活です!」
『『おお~~っ!』』
翌朝、全員で食堂へとやって来た俺達は、朝食を置いたテーブルを囲んで、ラリー復活のお祝いをしていた。
食堂のおばちゃんに頼んでラリーの分を少し多めにしてもらい、5人用のテーブル席を取り、今のような感じで、ラリーの復活を祝っていたのだ。
「それにしても酷いじゃない。なんでラリー達の部屋に行かせてくれなかったのよ?」
朝食を食べ始めるや否や、エメルがブー垂れる。
「お姉様、1度ラリー様の部屋に行ったら絶対戻らないでしょう?」
「ゾーイ、それアンタにも言える事じゃない。ミカゲとラリーの部屋に行って、夜通し居座ってたの誰だと思ってんの?」
「………………」
盛大に言葉のブーメランを返され、ゾーイは顔を逸らした。
「ゾーイ。今回の貴女の行動は、自責の念に囚われていたミカゲ様を救う事になりました。それは称賛に値します」
不意に、アドリアがそんな事を言い出した。
「ですが、ミカゲ様を抱き締め、あまつさえ胸に顔を埋めると言う行為は、ミカゲ様を誘惑する行為とも受け取れます。不公平です。そのため、今夜は私がミカゲ様を抱き締めます」
「………………」
トンでもない事を平然と言うアドリアに、俺は言葉を失ってしまう。
つーかアドリア、お前、昨日の朝にネグリジェ姿で俺に跨がってたの忘れたのか?
「クククッ…………モテるねぇ、相棒」
「ラリー、復活早々ベッドに逆戻りさせてやろうか?」
「そ、それは勘弁だね…………」
からかってきたラリーに"満面の笑みで"言ってやると、ラリーは冷や汗を流しながらそう返した。
「まあ、それはそれとして………」
そう言って、俺は話題を変える。
「昨日のフェンリアの娘の話なんだが………」
俺が話を切り出すと、全員が神妙な表情を浮かべた。
「彼女、僕がエリージュ王国出身だって分かった瞬間、怯え出して、終いには攻撃してきたんだ…………」
「となると、彼女は元々エリージュ王国に住んでいて、何らかの理由で国に居場所を無くし、此方までやって来た………と言う事になるわね」
ラリーの話を聞いたエメルが、そのように推測した。
「それにしても、その娘に一体何があったんだ?ラリーがエリージュ王国の人間だって知るや否や攻撃してくるんだから、相当酷い目に遭わされたと推測出来るんだが………」
俺はそう呟くが、それに答えられる者は、当然ながら誰一人居ない。
「やっぱ、もう1度あの娘に会って、詳しく話を聞くしかないだろうな………」
「それなら、私達に任せてくれない?」
俺の呟きに重ねるかのように、エメルがそんな事を言い出した。
「私達は後ろからついてきていたから、少なくとも顔は割れていません。それに、エリージュ王国の人間でもありませんから、逃げられたり、攻撃されたりする事も無いと思います」
エメルに続く形でゾーイがそう言い、アドリアも頷く。
確かに、彼女の言う通りだ。
ラリーは言うまでもないが、俺も、フェンリアの娘に比較的近い場所に居た。
顔が割れている可能性も否定出来ない。
だが、エメル達は俺等よりも後ろからついてきていたから、ラリーから逃げる事に必死だった彼女が気づいているとは思えない。
同じ架空機だから、彼女も話を聞いてくれる筈だ。
「………分かった、それじゃ頼むよ」
「ええ」
「「お任せください」」
そうして、エメル達に任せる事になった。
「………で、もう行くのか?」
朝食を終えてから部屋で少し休み、今は午前9時30分。
エメル達は出発しようとしていた。
「ええ、『善は急げ』って言うもの。それに、夜まで長々と待ってられないわ」
そう言うエメルに、ゾーイとアドリアが同調した。
問題は、フェンリアの娘が昼間は何処に居るのかと言う事なのだが……
『山の上空からレーダーで探せば良いじゃない』
…………と言うエメルの一言で押しきられてしまった。
そうして3人は飛び立っていき、俺とラリーは呆然と、3人を見送っていた。
エメル達を見送った後、俺とラリーは一旦王都のギルドに行き、イリナさんに昨日の結果を報告した。
あの化け物のような轟音の主が小さな女の子だったと言う事を知ったイリナさんは、大層驚いていた。
「………それで、ラリーがその娘と話をしようとしたんですが、コイツがエリージュ国民だって知った瞬間怯え出して、終いには攻撃してきたんですよね……」
「そうなんですか………」
そう言うと、イリナさんは不意に、こんな事を訊ねてきた。
「あの轟音の主の正体は、小さな女の子なんですよね?」
「………?ええ、そうですが」
「その女の子の特徴を、聞かせてもらえますか?」
「あ、はい………ラリー」
「うん」
そうして、俺はラリーに、女の子の特徴を伝えるように促した。
「髪は白くて、結構長かったですね。背は……詳しくは分かりませんが、精々140ぐらい、かな………?」
ラリーはそう言った。
「彼女、結構おどおどした娘だったりとかは…………?」
「あ~、言われてみれば、そんな感じですね…………」
ラリーがそう答えると、イリナさんは心底驚いた様子で、目を見開いて口を両手で覆っていた。
「まさか………あの娘が…………!?」
「「…………?」」
そんな彼女に、俺とラリーは首を傾げていた。
「居ないわね………」
宿の前でミカゲ達と別れた私達は、3人バラバラになって、フェンリアの娘を見つけるために山の上空を飛び回っていた。
《ゾーイ、アドリア。そっちはどう?》
《見つかりませんね》
《此方も同じです。レーダーにも反応がありません》
僚機念話でゾーイとアドリアに聞いてみるものの、2人共未だ見つけていないらしい。
昼間は別の場所にでも居るのかしら………?
なんて考えながら飛んでいると、洞穴らしきものを見つけた。
「(もしかして、あの中に住んでいたり……しないわよね?)」
流石に無いとは思うけど、絶対に無いとは言いきれない。
私は一旦反転して洞穴から距離を取り、地表スレスレを速度を落としながら飛び、着陸する。
斜面に……それも、平地じゃない所に着陸するのは初めてだけど、案外上手くいくものね。
そして、私は洞穴へと近づき、中を覗いてみる。
当然ながら、洞穴の奥は昼間でも暗い。
私は、魔物が何時出てきても対処出来るよう、機体を纏ったままにして右腕の機関砲を構える。
そして、膝のライトを点けた瞬間…………
「ひゃあっ!?」
「ッ!?」
膝のライトが、洞穴の奥で座っている白髪で小柄な女の子を照らし、その娘が驚いて飛び上がった。
「だっ……誰なのですか………!?」
酷く怯えた表情で、女の子はそう問い掛けてくる。
機体を展開して両腕の機関砲を向けているが、ガクガク震えている。
私は彼女を警戒させないよう、機関砲を下げて機体を解除し、両手を上げた。
「驚かせてごめんさい。でも、私は決して怪しい者ではないわ」
「…………」
そう言うと、女の子は警戒した表情こそ変えないものの、両腕の機関砲を下げた。
取り敢えず、先ずは彼女の警戒心を解くのが先決ね…………
「私はエメラリア、冒険者をしている者よ」
一先ず名乗ると、懐からギルドカードを出して、彼女に見せる。
「この山の麓にある、ユダと言う町の上空を、夜な夜な轟音を立てて、この山へ向かって飛んでいく飛行物体があるから調査してほしいと頼まれてね、その調査をしているの」
私はそう言った。変に理由を作るより、正直に話してしまった方が後先楽だ。
「取り敢えず、貴女の名前を教えてもらえる?」
そして、私は彼女の名を訊ねる。
「わ、私は…………」
「…………成る程、そんな事があったんですね」
俺とラリーは、ギルドの奥にある一室で、イリナさんの話を聞いていた。
驚くべき事に、何とイリナさんは、フェンリアの娘と知り合いだったのだ。
「僕がエリージュ王国出身だって言った瞬間に怯え出したから、何事かと思ったけど、やっぱりエリージュ王国が原因か…………全く、何処までもふざけた事をしてくれる国だ…………ッ!」
話を聞いたラリーが、忌々しげに歯軋りした。
因みに、話の内容はこうだ。
先ず、フェンリアの娘の名前はユリシア・フェリアーネと言って、エリージュ王国の何処かで見つかった孤児(本人に両親の記憶が無いため、そのように判断された)らしい。
元々はエリージュ王国の村の1つにある孤児院で暮らしていたが、ある日、その村に魔物の群れが押し寄せてきたのだと言う。
運悪く逃げ遅れてしまった彼女は魔物に殺され…………るかと思いきや、其処で鎧のようなものを纏って魔物を瞬く間に殲滅、村を救った。
それで彼女が村人達から感謝されて終われば良かったのだが、世の中そう上手くはいかないものだ。
幼いながらに、何百もの魔物の群れをたった1人で殲滅させた、なんて事になれば、彼女の力について疑問を抱く者も居る。
試しに、彼女を王都に連れていって人間なのかを調べた結果、人間ではなく、人型戦闘機だった。
訳の分からない種族名に、彼女の調査を担当した人達は勿論混乱。
だが、少なくとも人間ではないため、理不尽にも、彼女はその日から迫害されるようになったのだと言う。
「…………けったくそ悪い話だぜ、畜生」
俺は改めてそう言った。
「因みに、そんな事が起こったのって何時ですか?」
試しに聞いてみる。
「去年ですね」
…………それ程昔の話って訳でもなかったな。
「それで、彼女は国を逃げ出して、あの山の洞穴で暮らすようになったんです」
イリナさんはそう言った。
「てか、それなら轟音の正体は最初から分かってたって事になるのではないですか?」
「あははは…………まあ、そうなるのでしょうね」
俺の言葉に、イリナさんは苦笑を浮かべながらそのように返した。
「兎に角、ヒューマン族以外は受け入れないつもりなんだね、あの国は………クソが」
そう吐き捨てると、ラリーは立ち上がって部屋を出ようとした。
「…………?ラリー、何処行くつもりなんだ?まさかとは思うが、王都に
「それは面白そうだけど………違うよ、相棒」
そう言うと、ラリーはドアノブを握る。
「エメル達を追う………彼女に会いに行くんだ」
「ッ!?」
無謀も良いところなラリーの発言に、俺は目を見開いた。
「お前、本気なのか?また攻撃されるぞ。昨日マイクロ波攻撃でやられたばっかだろ」
「ああ、分かってる………分かってるよ」
俺の言葉を背に受けながら、ラリーはそう言った。
「でも、行かなきゃいけないんだ………僕も、彼女と似たような思いをしてきたんだから」
「……………」
そう言うラリーの背中を俺は黙って見ていた。
そして、何時か、ラリーについての話を聞いた時を思い出す。
理由は違えど、コイツも学校で酷い目に遭わされてきたのだ。理不尽な扱いを受けてきたユリシアの気持ちも、よく分かるのだろう。
「…………そうかい」
俺はそう言うと立ち上がり、ラリーの後ろに立った。
「じゃあ、俺も一緒に行くよ。またマイクロ波攻撃喰らわせようとしてきたら、今度こそはしっかり援護しないとな」
「相棒……………」
ラリーが俺の方を向く。
「ホラ、ボサーッとしてる暇は無いぜ?あの娘に会うんだろ?」
「…………ッ!うん!」
そうして俺とラリーは、呆然としているイリナさんを部屋に残してギルドを飛び出すと、念のため、ラリーに不可視化&気配遮断の術式を施させ、未だラリーがF-35を使えないのもあり、ハリアーを展開すると、エメル達を追って、山の方へと飛んだ。