負傷したラリーと共に町に降り立った俺達は、大急ぎでラリーを宿の部屋へと運び込み、今までずっと貯め込んでいたポーションを使った。
ラリーの首や頭、頬に出来ていた傷は、ポーションをかけると直ぐに消えたので、一先ず安心だ。
「…………」
俺は今、ベッドで寝ているラリーを見ている。
別に、ラリーが死んだとか、意識不明の重体になっている訳ではないが、あの時、ラリーを援護してやれなかった事が悔やまれる。
「……ゴメンな、ラリー」
俺は、未だ眠っているラリーに謝った。
あの時、俺がしっかりしていれば、こうはならなかった。
マイクロ波攻撃の際にどんな変化があるのか、俺は知っている。
だが、俺は油断していた。
プレイヤー仕様としての兵装しか搭載してないだろうと勝手に思い込んで、敵キャラとしての兵装を持っている可能性を考えていなかった。
その結果、ラリーが撃墜されて、怪我を負ってしまった。
ポーションで傷を消す事は出来ても、その事実を消す事は出来ない。
せめて、フェンリアが機銃で攻撃してきた時点で、ラリーに撤退を指示していれば………
「(畜生、完全に1番機失格じゃねぇかよ………)」
内心で悪態をつき、俺は頭を抱える。
そんな暗い気分で居ると、ドアがノックされた。
「(…………ん?こんな時間に誰だ?)」
俺はドアの方へと向かい、開ける。
「夜分遅くに失礼します、ミカゲ様」
其所に居たのはゾーイだった。
「お、おう………」
朝みたいなネグリジェ姿ではなく、何時ものメイド服だった事に内心で安堵の溜め息をつきながら、俺は頷いた。
ゾーイを部屋に入れ、元々俺が座っていた椅子に座らせる。
「ラリー様のご様子は………?」
「ご覧の通り、未だ寝てるよ………まあ、呼吸も整ってるから、明日には目を覚ますと思う」
俺は、窓側に置いていたもう1脚の椅子をゾーイの前に運びながら、そう答えた。
「そうですか………それなら、良かったです」
そう言って、ゾーイは安堵の溜め息をついた。
どうやら、ラリーを心配して来たようだ。
てか、こう言うのはゾーイではなく、エメルの役目なんじゃないかと思うのは俺だけだろうか?
「お姉様も行こうとしていましたが、恐らく朝まで居座ると思ったので、アドリアに足止めを頼んで、私だけで来ました」
「あのぉ~、ナチュラルに俺の考え読まないでくれますかね?」
椅子に座って、俺はそう言った。
と言うか、このメイドさんマジで恐いんですけど………
「それは失礼しました」
クスッと微笑みながら、ゾーイはそう言った。
「それで………お前が此処に来たのって、ラリーの見舞いのためか?」
そう訊ねると、ゾーイは頷いた。
「ラリー様のお見舞いも、此処に来た目的の1つです」
「"目的の1つ"………って事は、他にも目的があるんだよな?」
「ええ」
他の目的を聞こうとした俺だが、それはゾーイの言葉に遮られた。
「貴方に用があります。ミカゲ様」
「俺に?」
つい、俺自身を指差して聞き直してしまう。
「そうです。貴方に、です」
そう言うと、ゾーイは一旦ラリーの方へと目を向けた後、視線を俺の方へと戻した。
「ミカゲ様………今回、ラリー様が攻撃を受けて怪我をされた事について、自分だけに責任があると感じてはいませんか?」
「ッ!?」
そんなゾーイの言葉に、俺は驚きのあまりに目を見開いた。
「その様子だと、図星のようですね」
俺の反応を見たゾーイがそう言う。
「…………気づいてたのか?」
「ええ。町に戻ってからのミカゲ様の様子を見ていれば、誰でも直ぐに分かります。それに、部屋に入ってから全く出てきませんでしたから……恐らく、ずっとラリー様に付き添っていたのでしょう?」
「……よく分かったな」
俺はそう答えた。
それにしても、まさか俺がそんなに分かりやすい奴だったとは………
「ミカゲ様」
「ん?」
不意に、ゾーイが話し掛けてくる。
「貴方の僚機として、1つだけ言わせてほしい事があります」
「…………?おう」
俺は頷いて、ゾーイの次の言葉を待つ。
「………………」
暫く沈黙するゾーイだったが、次の瞬間…………
「ん?ゾーイ、何して………んぐっ!?」
椅子ごと移動して俺の方へ近づいてくると、俺の後頭部に両手を回し、抱き締めてきたのだ。
俺の顔が、ゾーイの柔らかい胸に埋まる。
「~~ッ!?」
第三者から見れば役得な光景かもしれないが、抱き締められている俺からすれば、息が出来ないから困る。
ジタバタともがくものの、ゾーイは一層強く抱き締めてくる。
そして終いには、俺の頭を撫でてきた。
そんなゾーイの行動に、俺はもがくのを止める。
「1人だけで、抱え込まないでください」
不意に、ゾーイがそう言った。
「確かに、あの時ラリー様の近くに居なかったミカゲ様にも責任があるかもしれません。ですが、それは私やお姉様、アドリアにも言える事なのです」
俺を抱き締めて、ゾーイがそう言う。
「貴方1人で全てを背負う必要はありません。もし、ラリー様が負傷したのが全て自分の責任だと思っているのなら、それは間違いです。貴方1人だけでなく、メンバー全員の責任なのです」
「…………ッ」
そう言いながら、俺の頭を撫でるゾーイ。
自然と、涙が溢れてくる。
「……ゾーイの言う通りだよ、相棒」
「…………?」
不意に、聞き慣れた声が聞こえた。
聞き違える筈が無い。この世界に来てから、何だかんだで長い付き合いをしている、我が相棒の声だ。
ゾーイの胸から顔を離し、その声の主へと顔を向ける。
其所には、上体を起こしたラリーが微笑を浮かべて此方を見ていた。
「よう、相棒」
右手を軽く上げて、砕けた喋り方で話し掛けてくる。
「ラリー、お前………起きてたのか…………?」
涙を拭いながら、俺はそう問い掛ける。
「まあね。直ぐ傍で話し声が聞こえたら、嫌でも起きるさ」
軽く笑いながら言ったラリーは、俺を真っ直ぐ見据えて言葉を続けた。
「さっきの話の続きだけどね………ゾーイの言う通り、君だけの責任じゃないよ、相棒」
そう言うラリーの言葉を、俺は黙って聞く。
「僕にだって、責任はあるんだ…………昼頃、君からフェンリアについての話を聞いたよね?その時、君はフェンリアのスペックや武装について、色々と説明してくれた」
「………ああ」
ラリーの言葉に、俺は頷く。
「それで僕は、フェンリアの情報をある程度理解した。でも、いきなり攻撃されて冷静さを欠き、マイクロ波攻撃に対応しきれず、撃墜されてしまった………どんな時でも落ち着いて行動するべきだって、ちょくちょく言われていたのにね………」
自嘲するかのような笑みを浮かべながら、ラリーは言った。
「だからね、相棒」
そう言うと、ラリーは俺の手を握ってきた。
「コレはゾーイも言っていた事だけど…………君1人で悩まないで、もっと僕等を頼ってよ………僚機ってのは、ただ一緒に戦うだけの存在じゃないだろう?」
そう言って、ラリーは微笑みかけてきた。
「それに、一丁前に責任を1人で抱え込もうとするなんて…………僕より年下の癖に、生意気だぞ?」
からかうような笑みを浮かべて言うラリーに、自然と、顔に笑みが浮かぶのが分かる。
「でも………」
「ん?」
不意に聞こえたラリーの声に、俺は再び、ラリーに視線を向ける。
「其処まで僕の事を思ってくれていたのは、凄く嬉しいよ………学生時代は、こんなに僕の事を思ってくれる人は居なかったからね」
ラリーはそう言った。
コイツが学生だった頃は、勝手に期待されて、事故を起こして力を失ったら、手のひら返して蔑まれる………そんな酷い生活を送っていたと聞いた。
当時、コイツの事を心から思ってくれていたのは、多分、今は亡きラリーの両親ぐらいだったのだろう。
「だから………」
そう切り出して、ラリーは面映ゆそうに此方を見た。
「ありがとう、相棒」
「…………」
顔を若干赤くして、ラリーはそう言った。
「…………ああ」
何と無く気恥ずかしくなり、俺は顔を逸らしながら返事を返した。
「おや、相棒。顔が赤くなったね」
「五月蝿ぇやい。つーか、お前だって顔赤くしてただろうが」
「言われてみれば、確かに」
からかってきたラリーにそう返すと、ラリーは軽く笑いながらそう言った。
「どっちもどっち、ですね」
俺とラリーのやり取りを纏めるかのようにゾーイがそう言うと、誰からともなく笑い出した。
それから眠気が吹き飛んでしまった俺達は、夜通し色々と話していた。