航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第47話~1人で抱え込まないで~

負傷したラリーと共に町に降り立った俺達は、大急ぎでラリーを宿の部屋へと運び込み、今までずっと貯め込んでいたポーションを使った。

ラリーの首や頭、頬に出来ていた傷は、ポーションをかけると直ぐに消えたので、一先ず安心だ。

 

「…………」

 

俺は今、ベッドで寝ているラリーを見ている。

別に、ラリーが死んだとか、意識不明の重体になっている訳ではないが、あの時、ラリーを援護してやれなかった事が悔やまれる。

 

「……ゴメンな、ラリー」

 

俺は、未だ眠っているラリーに謝った。

あの時、俺がしっかりしていれば、こうはならなかった。

マイクロ波攻撃の際にどんな変化があるのか、俺は知っている。

だが、俺は油断していた。

プレイヤー仕様としての兵装しか搭載してないだろうと勝手に思い込んで、敵キャラとしての兵装を持っている可能性を考えていなかった。

その結果、ラリーが撃墜されて、怪我を負ってしまった。

ポーションで傷を消す事は出来ても、その事実を消す事は出来ない。

 

せめて、フェンリアが機銃で攻撃してきた時点で、ラリーに撤退を指示していれば………

 

「(畜生、完全に1番機失格じゃねぇかよ………)」

 

内心で悪態をつき、俺は頭を抱える。

 

そんな暗い気分で居ると、ドアがノックされた。

 

「(…………ん?こんな時間に誰だ?)」

俺はドアの方へと向かい、開ける。

 

「夜分遅くに失礼します、ミカゲ様」

 

其所に居たのはゾーイだった。

 

「お、おう………」

 

朝みたいなネグリジェ姿ではなく、何時ものメイド服だった事に内心で安堵の溜め息をつきながら、俺は頷いた。

 

ゾーイを部屋に入れ、元々俺が座っていた椅子に座らせる。

 

「ラリー様のご様子は………?」

「ご覧の通り、未だ寝てるよ………まあ、呼吸も整ってるから、明日には目を覚ますと思う」

 

俺は、窓側に置いていたもう1脚の椅子をゾーイの前に運びながら、そう答えた。

 

「そうですか………それなら、良かったです」

 

そう言って、ゾーイは安堵の溜め息をついた。

どうやら、ラリーを心配して来たようだ。

てか、こう言うのはゾーイではなく、エメルの役目なんじゃないかと思うのは俺だけだろうか?

 

「お姉様も行こうとしていましたが、恐らく朝まで居座ると思ったので、アドリアに足止めを頼んで、私だけで来ました」

「あのぉ~、ナチュラルに俺の考え読まないでくれますかね?」

 

椅子に座って、俺はそう言った。

と言うか、このメイドさんマジで恐いんですけど………

 

「それは失礼しました」

 

クスッと微笑みながら、ゾーイはそう言った。

 

「それで………お前が此処に来たのって、ラリーの見舞いのためか?」

 

そう訊ねると、ゾーイは頷いた。

 

「ラリー様のお見舞いも、此処に来た目的の1つです」

「"目的の1つ"………って事は、他にも目的があるんだよな?」

「ええ」

 

他の目的を聞こうとした俺だが、それはゾーイの言葉に遮られた。

 

「貴方に用があります。ミカゲ様」

「俺に?」

 

つい、俺自身を指差して聞き直してしまう。

 

「そうです。貴方に、です」

 

そう言うと、ゾーイは一旦ラリーの方へと目を向けた後、視線を俺の方へと戻した。

 

「ミカゲ様………今回、ラリー様が攻撃を受けて怪我をされた事について、自分だけに責任があると感じてはいませんか?」

「ッ!?」

 

そんなゾーイの言葉に、俺は驚きのあまりに目を見開いた。

 

「その様子だと、図星のようですね」

 

俺の反応を見たゾーイがそう言う。

 

「…………気づいてたのか?」

「ええ。町に戻ってからのミカゲ様の様子を見ていれば、誰でも直ぐに分かります。それに、部屋に入ってから全く出てきませんでしたから……恐らく、ずっとラリー様に付き添っていたのでしょう?」

「……よく分かったな」

 

俺はそう答えた。

それにしても、まさか俺がそんなに分かりやすい奴だったとは………

 

「ミカゲ様」

「ん?」

 

不意に、ゾーイが話し掛けてくる。

 

「貴方の僚機として、1つだけ言わせてほしい事があります」

「…………?おう」

 

俺は頷いて、ゾーイの次の言葉を待つ。

「………………」

 

暫く沈黙するゾーイだったが、次の瞬間…………

 

「ん?ゾーイ、何して………んぐっ!?」

 

椅子ごと移動して俺の方へ近づいてくると、俺の後頭部に両手を回し、抱き締めてきたのだ。

俺の顔が、ゾーイの柔らかい胸に埋まる。

 

「~~ッ!?」

 

第三者から見れば役得な光景かもしれないが、抱き締められている俺からすれば、息が出来ないから困る。

ジタバタともがくものの、ゾーイは一層強く抱き締めてくる。

そして終いには、俺の頭を撫でてきた。

 

そんなゾーイの行動に、俺はもがくのを止める。

 

「1人だけで、抱え込まないでください」

 

不意に、ゾーイがそう言った。

 

「確かに、あの時ラリー様の近くに居なかったミカゲ様にも責任があるかもしれません。ですが、それは私やお姉様、アドリアにも言える事なのです」

 

俺を抱き締めて、ゾーイがそう言う。

 

「貴方1人で全てを背負う必要はありません。もし、ラリー様が負傷したのが全て自分の責任だと思っているのなら、それは間違いです。貴方1人だけでなく、メンバー全員の責任なのです」

「…………ッ」

 

そう言いながら、俺の頭を撫でるゾーイ。

自然と、涙が溢れてくる。

 

「……ゾーイの言う通りだよ、相棒」

「…………?」

 

不意に、聞き慣れた声が聞こえた。

聞き違える筈が無い。この世界に来てから、何だかんだで長い付き合いをしている、我が相棒の声だ。

ゾーイの胸から顔を離し、その声の主へと顔を向ける。

 

其所には、上体を起こしたラリーが微笑を浮かべて此方を見ていた。

「よう、相棒」

 

右手を軽く上げて、砕けた喋り方で話し掛けてくる。

 

「ラリー、お前………起きてたのか…………?」

 

涙を拭いながら、俺はそう問い掛ける。

 

「まあね。直ぐ傍で話し声が聞こえたら、嫌でも起きるさ」

 

軽く笑いながら言ったラリーは、俺を真っ直ぐ見据えて言葉を続けた。

 

「さっきの話の続きだけどね………ゾーイの言う通り、君だけの責任じゃないよ、相棒」

 

そう言うラリーの言葉を、俺は黙って聞く。

 

「僕にだって、責任はあるんだ…………昼頃、君からフェンリアについての話を聞いたよね?その時、君はフェンリアのスペックや武装について、色々と説明してくれた」

「………ああ」

 

ラリーの言葉に、俺は頷く。

 

「それで僕は、フェンリアの情報をある程度理解した。でも、いきなり攻撃されて冷静さを欠き、マイクロ波攻撃に対応しきれず、撃墜されてしまった………どんな時でも落ち着いて行動するべきだって、ちょくちょく言われていたのにね………」

自嘲するかのような笑みを浮かべながら、ラリーは言った。

 

「だからね、相棒」

 

そう言うと、ラリーは俺の手を握ってきた。

 

「コレはゾーイも言っていた事だけど…………君1人で悩まないで、もっと僕等を頼ってよ………僚機ってのは、ただ一緒に戦うだけの存在じゃないだろう?」

 

そう言って、ラリーは微笑みかけてきた。

 

「それに、一丁前に責任を1人で抱え込もうとするなんて…………僕より年下の癖に、生意気だぞ?」

 

からかうような笑みを浮かべて言うラリーに、自然と、顔に笑みが浮かぶのが分かる。

 

「でも………」

「ん?」

 

不意に聞こえたラリーの声に、俺は再び、ラリーに視線を向ける。

 

「其処まで僕の事を思ってくれていたのは、凄く嬉しいよ………学生時代は、こんなに僕の事を思ってくれる人は居なかったからね」

 

ラリーはそう言った。

 

コイツが学生だった頃は、勝手に期待されて、事故を起こして力を失ったら、手のひら返して蔑まれる………そんな酷い生活を送っていたと聞いた。

当時、コイツの事を心から思ってくれていたのは、多分、今は亡きラリーの両親ぐらいだったのだろう。

 

「だから………」

 

そう切り出して、ラリーは面映ゆそうに此方を見た。

 

「ありがとう、相棒」

「…………」

 

顔を若干赤くして、ラリーはそう言った。

 

「…………ああ」

 

何と無く気恥ずかしくなり、俺は顔を逸らしながら返事を返した。

 

「おや、相棒。顔が赤くなったね」

「五月蝿ぇやい。つーか、お前だって顔赤くしてただろうが」

「言われてみれば、確かに」

 

からかってきたラリーにそう返すと、ラリーは軽く笑いながらそう言った。

 

「どっちもどっち、ですね」

 

俺とラリーのやり取りを纏めるかのようにゾーイがそう言うと、誰からともなく笑い出した。

それから眠気が吹き飛んでしまった俺達は、夜通し色々と話していた。


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