航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第41話~ミリタリー小説のテンプレ~

多くの思い出が詰まった町、ルージュを出発した俺達ガルム隊は、エリージュ王国の東に隣接する国、クルゼレイ皇国へと向かっていた。

ルージュの町で世話になったエスリアさんや、他の冒険者達との別れの寂しさを感じつつ、新たな活動場所であるクルゼレイ皇国への期待に胸が膨らむ……………筈なのだが、俺は今、非常に気まずい気分を味わっている。

その理由は……

 

「「…………」」

 

俺を挟んで飛んでいる、ゾーイとアドリアにあった。

元々、俺から見て左から順に、ゾーイ、ラリー、俺、エメル、そしてアドリアと言った配置で、"く"の字で飛んでいたのだが、何時の間にか、ラリーとゾーイ、エメルとアドリアの其々の配置が逆になっていたのだ。

その理由を、ラリーとエメルに僚機念話で聞いてみたのだが、『気づいたら場所が変わってた』と言う返事が帰ってきた。

まあ、詳しい配置は決めていなかったので、別に文句は無いのだが、ゾーイとアドリアがつーんとした表情を浮かべているため、かなり気まずい。

 

「え~っと、お二人さん?どうしてそんなに不機嫌なのかなぁ~?」

 

俺はそう言うが、2人はつーんとしたまま答えない。

おいおい、何か知らんがヤベェよ。コレであの時の再来とか、マジで勘弁だぞ?

どうしたものかと頭を悩ませていると、ゾーイが口を開いた。

 

「ミカゲ様、エスリアさんに抱きつかれてましたね」

「ん?」

 

ゾーイが口にしたのは、エスリアさんが俺に抱きついてきた事だ。

 

「まあ、そうだな。抱きつかれたな」

 

コレについては特に否定する必要も無いので、素直に頷く。

 

「お別れするとは言え、抱きつくなんて……」

 

今度はアドリアが口を開いた。それも、何処と無く不満げに…………

 

「お別れするってなったから、感極まっただけだろ。ああいうのって、別に珍しいモンじゃないんだぜ?」

 

一応、そのように言っておく。

 

「いえ、珍しいとか珍しくないとか、そう言う事を言っているのではなくてですね………」

「…………?」

 

ゾーイの言葉に、俺は首を傾げる。

はて、この2人が一体何を言いたいのか、さっぱり分からん。

そもそも、2人はなんで不機嫌そうにしていたんだ?

 

《相棒、鈍感なのも考えものだよ?》

 

すると、ラリーが僚機念話で話し掛けてきた。

 

《どういう事だ?》

《2人はね、エスリアさんが相棒に抱きついていたのが不服なんだよ》

《…………はい?》

 

ラリーが言おうとしている事が、いまいち分からない。

エスリアさんが俺に抱きついていたと言う事が、何故2人を不服にさせるんだ?

 

《要は嫉妬だよ、相棒》

《"嫉妬"?》

 

俺は聞き返した。

 

《そう、2人は相棒に抱きついたエスリアさんに嫉妬してるんだよ》

《………つまり、2人は俺に抱きつきたがってるって事か?》

《まあ、そう言う事になるだろうね》

 

成る程な………つーか、そんなモン言ってくれりゃ何時でもしてやるんだがなぁ………

 

《相棒…………今、『そんなの言ってくれたら何時でもしてやるのに』とか考えなかった?》

《ギクッ》

 

す、鋭いなコイツ………何故分かった?

 

《はぁ…………良いかい?こう言うのって、女の子の口からは言えないんだよ。だって、恥ずかしいからね。コレは男が、何も言わずに抱き締めてあげるべきなんだよ》

《は、はあ………》

 

そう言うものなのか?

 

《兎に角、機会を見つけて、2人を抱き締めてあげるように………良いね?》

《お、おう》

 

話を締め括るラリーに、俺はそう返事を返す。

 

「(女の子って、面倒だなぁ………)」

 

僚機念話を終え、内心そんな事を呟いた、その時だった。

 

「…………ん?」

 

ふと頭に思い浮かべたレーダーに、多数の地上物の反応が出た。

「(方向は………俺等の進行方向で10㎞先だな………)」

 

俺はアフターバーナーを噴かして少し前に出ると、バンクを振って4人に合図を送る。

 

《相棒、どうかしたの?》

 

真っ先にラリーが聞いてきた。

 

《俺等の進行方向上4㎞先に、多数の地上物の反応があるんだ………各機、レーダーで確認せよ》

 

俺が指示を出すと、大して間を空けずに返事が返される。全員、確認出来たようだ。

 

《それにしてもコレ、魔物の群れにしては密集しすぎだね。それに、前に進んでいる感じがしないし、何かを取り囲んでいるような配置だ》

 

ラリーがそう言った。

レーダーで改めて確認すると、確かにラリーの言う通り、魔物の群れにしては密集しすぎている上に、進んでいるようには見えない。

 

「(この状態………まさか!?)」

 

俺の脳裏に、ある仮説が浮かんだ。

 

 

ーー誰かが、盗賊か魔物に襲われているのでは?ーー

 

そう思い、俺は反応の詳細を見る。

 

「(………やっぱりな)」

 

俺の予感は見事に的中した。

頭の中に、オークやゴブリンと言った魔物や、馬車のシルエットが映し出されている。

 

《相棒。もしかしてだけど、その地上物の正体って………》

 

ラリーが不安そうに話し掛けてくる。

《ああ、多分お前が予想してるのと同じだと思うぜ?》

 

そう言うと、俺は少し間を空けてから続けた。

 

《馬車が数台と、魔物の群れだ。護衛っぽい騎士が戦ってるみたいだが…………ありゃ、数的に勝ち目は無いだろうな。放っておいたら全滅する》

《ッ!?》

 

俺がそう言うと、ラリーが息を呑むのが聞こえた。

 

「(それにしても、まさか異世界×ミリタリー系小説でのテンプレと出会す事になるとはな………)」

 

俺は、内心でそう呟いた。

このような異世界×ミリタリー系では、助けた集団の正体は、国の姫様とか、商人とかが主だ。

どちらかと言えば、前者のケースをよく見たものだ。

 

まあ、そうこう言ってると全滅しかねない。此処は一先ず…………

「(………助けるか)」

 

そう決めた俺は機体を変更し、A-10を展開した。

 

《相棒?》

 

俺が機体を変更したためか、ラリーが声を掛けてきた。

 

《取り敢えず、彼処で襲われてる連中を助ける。お前も今の内に、攻撃機(アタッカー)に変えとけ。戦闘機(ファイター)は対地戦には向かねぇぞ》

《了解》

 

そう言うと、ラリーも機体を変更して、俺と同じA-10を展開する。

 

《全機、高度を地上10メートルまで下げろ》

《うわっ、かなりの低空飛行ね》

俺が指示を出すと、エメルがそう返してきた。

 

《あまり上からだと、機銃で狙いにくいからな》

 

そう言って速度を上げつつ、高度を一気に下げる。

ラリー達も後に続き、高度を地上10メートルまで下げた。

 

A-10の主兵装である30㎜ガトリング砲ーーGAU-8 Avengerーーを構え、前方の魔物を睨み付ける。

 

そして…………

 

「ガルム1、Fox3!」

 

俺は、その引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれは……一体…………?」

 

クルゼレイ皇国所属、第2近衛騎士団団長である私、フィオラ・ハーナイマンの前では、信じられない光景が広がっていた。

何と、私達を追い詰めていた魔物の群れが、突如として現れた謎の飛行物体によって蹂躙されているのだ。

轟音と共に飛来したそれ等は、オレンジ色の光の粒を幾つも撃ち出しながら通り過ぎていく。

その粒が命中した魔物は、有り得ない事に一瞬で死んだ。

魔物が肉片に変わり、はたまた命中しなかった粒が地面に当たってピシピシと音を立てた次の瞬間には、くぐもった音が響く。

 

だが、その飛行物体は、それに驚く暇すら与えてくれない。

一旦通り過ぎた飛行物体は、反転して、再び魔物達に襲い掛かったのだ。

またしても光の粒を雨霰と降らせ、その後にくぐもった音を其処ら中に響かせる。

 

「フゴッ!?」

「ギャッ!」

 

光の粒の餌食となったオークやゴブリンが、次々と倒れていく。

オレンジ色の光の粒を降らせながら通り過ぎ、反転して再び、オレンジ色の光の粒を降らせる…………この繰り返しだ。

 

そんな、あまりにも単調な作業とも呼べる行為によって、私達が苦戦させられた魔物の群れは、謎の飛行物体が現れてから、5分も経たずに全滅した。

息絶えた魔物達の死体を前に唖然としていると、飛行物体の1つが私の目の前を横切る。

 

此処で初めて、私は、摩訶不思議なものを次々撃ち出した飛行物体の姿を捉える事が出来た。

其処でまた、私は唖然とした。

 

「(ひ、人ですって!?)」

 

影になって若干見えにくかったが、間違いなく人の姿が見えたのだ。

 

つまり、人が鎧のようなものを纏って空を飛んでいると言う事になる。

しかも、それが5人。

 

彼等が纏っているのは、恐らく魔道具の類いなのだろうが、あのような魔道具は今まで見た事が無い。

彼等は何者なのか?彼等が纏っている魔道具は何なのか?

 

そんな疑問が、次々と頭に浮かんでくる。

 

私は、副団長のサリー・コーリングを呼び、一旦私達と距離を取ってから地に降り立った彼等へと近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……任務完了(ミッションコンプリート)だな」

 

魔物の群れを掃討した俺達は、騎士団と思わしき集団からある程度の距離を取った場所で着陸した。

 

地面に降り立ち、一息ついていると、ラリーが並び立った。

 

「お疲れ様、相棒」

 

並び立ったラリーが、労いの言葉を掛けてくれた。

 

「おう。ラリーもお疲れさん」

 

俺もそう言って、ラリーを労う。

 

「2人共、相変わらずの蹂躙劇だったわね」

 

すると、エメルが話に入ってきた。

 

実を言うと、今回の作戦において、エメル達3人にはお休みしてもらったのだ。

ゾーイは戦闘機(ファイター)だから対地戦には不向きだし、エメルやアドリアの場合、特殊兵装が強力すぎて、今回のような状況では、かえって不利だと判断したからだ。

まあ、騎士団や馬車が居なくて、魔物の群れだけの状態だったら、普通にやらせてたんだけどな。

てか、エメルやアドリアだったら、MPBM1発で全て終わらせてしまいそうだ。

 

「…………ん?」

 

そうしていると、前方から2つの人影が近づいてくる。

 

「多分、僕等が助けた騎士団の人だろうね」

ラリーがそう言った。

近づいてくるにつれて、その2つの人影の正体が見えてくる。

ラリーが言ったように、騎士だった。

それも…………

「…………女騎士?」

 

近づいてくる2人の騎士は、何と両方女だった。

片方は金髪ロングヘアーで、気の強そうな人だ。

もう片方は青髪セミロングで、凛とした雰囲気の中に、何処と無くフランクさを感じられる人だった。

俺達の目の前で立ち止まる2人。そして、金髪の女騎士が1歩歩み出てきた。

 

「此度の、貴殿方の助太刀に感謝します」

 

金髪の女騎士は、気の強そうな雰囲気とは裏腹に、丁寧な口調で話し掛けてきた。

 

「私は、クルゼレイ皇国所属、第2近衛騎士団団長、フィオラ・ハーナイマンと申します。そして此方が………」

「副官のサリー・コーリングだ、よろしく」

 

フィオラさんに続けて、サリーさんがフランクな口調で名乗った。

 

「それで、貴殿方のお名前は…………?」

「ミカゲです、ミカゲ・コダイ」

 

名前を訊ねてきたフィオラさんに、俺は答えた。

 

「ミカゲ・コダイ?何とも珍しい名前だな」

「よく言われます」

 

物珍しそうな目で見ながら言うサリーさんに、話を合わせておく。

此処で、『異世界から召喚された者ですから』なんて馬鹿正直に答えたりはしない。

 

それから、ラリーやエメル達が名乗っていった。

「それにしても、あの魔物の群れを短時間で掃討するとは…………ん?」

 

俺達が魔物の群れを全滅させた事を話題にするフィオラさんだが、此処で他の騎士がやって来て、彼女に何やら耳打ちした。

 

「……そうか、分かった」

 

フィオラさんが答えると、その騎士は戻っていく。

何事かと首を傾げていると、フィオラさんがすまなさそうな表情で此方を見た。

 

「あの、ミカゲ殿。助けていただいた上に、このような事を頼むのは図々しい事なのですが、お願いが………」

 

そうして頼んできたのは、負傷者の手当ての手伝いだった。

俺達が来る前に、それなりの負傷者が出たため、1人でも多くの人員が必要との事だ。

 

特に断る理由も無いため、その頼みを引き受ける。

 

ダンジョン攻略で得たポーションを使おうとしたのだが、その必要は無かった。

ラリーが回復魔法で、殆んどの負傷者を治療すると言うチートぶりを発揮したからだ。

流石はラリー、馬鹿げた量の魔力や、全盛期は国から将来を有望視されていたと言うのは伊達じゃない。

 

「す、凄い………彼は、回復師の天職をお持ちなのですか?」

 

ラリーの魔法を見たフィオラさんが、目を輝かせながら聞いてくる。

 

「いえ、彼奴の天職は回復師ではないですよ」

「ええ。因みに、魔術師でもないですから」

 

俺の言葉に続けて、ラリーが答えた。

ラリーの言葉に、フィオラさんは一瞬沈黙したように見えた。

 

「そ、それなのに……あのような、回復魔法を………?」

 

ラリーが回復師でも魔術師でもないのに、負傷者の殆んどを治すような回復魔法を使えると言う事に、フィオラさんはかなり驚いているようだ。

 

「まあ、その……元々、魔力のステータス値がちょっと高かったので」

 

ラリーはそう言うと、さっさと話を切り上げてしまった。

 

と言うか、ラリーの魔力の多さって『ちょっと』で済むようなモンじゃねぇだろ。だって力失ってるのに魔力は5000だし。

多分コイツ、国の魔術師団を単独で圧倒出来るんじゃね?

だってラリーの奴、黒雲を殲滅した時、連中が根城にしていた山岳地帯の7割ぐらいを更地にしたからな。

あの魔法の威力は、今でも鮮明に覚えてる。

 

つくづくチート染みた能力を持つ相棒に内心苦笑を浮かべながら、俺は、これからどうするかを考えるのであった。


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