航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第40話~さらば、ルージュの町~

「クルゼレイ皇国か………」

 

ラリーが指差した地点を見て、俺はそう呟いた。

 

「うん。この国なら安心じゃないかな?エリージュ王国(此処)みたいな人間主義国じゃないから、色々な他種族に会えるし、もっと有力な情報が得られるかもしれないからね」

 

ラリーにそう言われ、俺は相槌を打った。

……………が、1つ問題がある。

 

「国境越える時って、どうすりゃ良いんだ?」

 

そう、コレである。

日本に居た頃に読んでいたネット小説では、主人公達は簡単に他国へと渡れていたが、コレは現実に起こっている事だ。ネット小説とは異なっているかもしれない。

 

「ああ、それなら心配無用だよ。普通に入っていけば良いさ。だって僕等、冒険者やってる訳だし」

 

…………どうやら、要らん心配だったようだ。

 

「そうか…………だったら心配ねぇな」

 

そうして、俺達はこの国を出るための準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………何か、スッゲー事になっちまってるな」

 

3日後、国を出る準備を済ませて宿から出た俺は、顔をひきつらせながらそう言った。

外では、町の人や他の冒険者達が待ち構えていたのだ。

どうやら、見送りに来てくれたらしい。

 

「何だかんだで、町の人達とは結構仲良くなってたからね、僕等」

 

続いて宿から出てきたラリーがそう言う。

 

エメルやゾーイ、アドリアの3人も、こんなにも人が集まっている事に驚いている。

 

 

「よお、来たようだな」

 

そう言って近づいてきたのは、普段酒場で飲んでいるオッチャン冒険者の1人だった。

 

「あの、コレって…………?」

「ああ、お前等の見送りさ」

 

オッチャン曰く、俺達がギルドに来て、この国を出る事をエスリアさんに話しているのを聞いていたオッチャン達が、町の人達に声を掛けてくれていたらしい。

「そうだったんですか………」

 

そう言って、俺は見送りに来てくれた人達を見渡し、再びオッチャンに向き直った。

 

「態々、ありがとうございます」

「気にすんなって坊主!俺達はもう、ダチじゃねぇか!いや、最早ダチを通り越して家族だな!」

 

そう言って、豪快に笑いながら肩をバンバン叩いてくるオッチャン。

異世界転移ものの小説では、オッチャンみたいな柄の悪い冒険者は、その殆んどが主人公の噛ませ犬のような役割となるのだが、現実のは違う。

皆、凄く気が良くて、俺達がランクを上げると、まるで自分の事のように喜んでくれる…………そんな、最高の人達だった。

 

「ミカゲ!お前と騒げてスゲー楽しかったぞ!」

「ああ!最後まで酒は飲めなかったが、また此処に来たら、その時は一緒に飲もうぜ!」

 

他のオッチャン冒険者達も、そうやって声を掛けてくれる。

 

「…………ッ!はい!」

 

そんなオッチャン達に、俺は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ラリーさん!私、ラリーさんみたいに立派な魔術師になります!」

「うん、頑張ってね」

 

オッチャン達との話を終えて他の面々の様子を見に行くと、ラリーが魔術師と思わしき女の子達と話をしていた。

 

「今まで、本当にありがとうございました!クルゼレイ皇国に行っても、お元気で!」

「ああ。君も元気でね」

そう言って、ラリーは女の子達一人一人と握手を交わす。

そして、彼女等はラリーの元を去った。

 

「よお、ラリー」

 

そんなラリーに、俺は声を掛ける。

それに気づいたラリーは、右手を軽く上げて近づいてきた。

 

「やあ、相棒。そっちの挨拶は終わったのかい?」

「ああ、ついさっきな」

 

ラリーの質問に、俺はそう答えた。

 

「それにしてもお前、何時の間にあんなにも魔術師の知り合いが出来たんだ?それも、皆して女の子の」

 

俺がそう言うと、ラリーは軽く笑った。

 

「まあ、この町には結構長い間滞在していたからね。同じ魔術師の友達だって、自然と出来るものさ」

 

ラリー曰く、依頼を受けたりダンジョンに行ったりしない日は町を彷徨いて、同じ魔術師の冒険者に魔法を教えたりしていたらしい。

成る程、時々出歩いているなと思ったら、そんな事をしていたのか。

 

「まあ、どういう訳か、この町で出来た魔術師の友達が、皆して女の子だったのが気になるんだけどね…………」

 

ラリーはそう続けた。

他にも、エメルやゾーイ、アドリアの3人が、女冒険者達と色々話をしていた。

時折、俺やラリーの方を向いては、顔を真っ赤にして逸らしていたのが気になった。

 

 

 

 

あれから暫くして、遂に出発の時が来てしまった。

俺達を取り囲んでいた町の人や他の冒険者達は、最後に色々と声を掛けて、道の両脇に移動していった。

全員が両脇に移動すると、俺達は其々の機体を展開する。

俺はサイファー仕様、ラリーならピクシー仕様のF-15Cを展開し、エメルはADFX-01/02、ゾーイはADF-01、アドリアはADA-01Bを展開した。

 

「お前等のそれを見るのも、今日で最後なんだな……………寂しくなるぜ」

 

俺に声を掛けてくれたオッチャンが、染々と言う。

 

「まあ、また色々なものを見せに来ますよ」

「それもそうだが、ちゃんと酒飲めるようになっとけよな!」

「りょ、了解ッス…………」

 

苦笑しながら答えると、オッチャンは町の人達の方に戻っていった。

 

「ミカゲさん」

 

すると、今度はエスリアさんが前に出てきた。

今思えば、この人には何度も世話になった。

ギルドで冒険者登録をするのもそうだが、俺等に合いそうな依頼を見繕ってくれたり、たまに面白い話を聞かせてくれたりしたものだ。

俺達のパーティーランクがSランクに上がった事で開かれた宴会でも、一緒になってドンチャン騒ぎをしたものだ。

「………もう、行ってしまうんですね………」

「はい」

 

寂しげに言うエスリアさんに、俺はそう返した。

 

「……たとえ、遠くに行ったとしても……ウッ………ミカゲさん、達なら………きっと上手く……グスッ……やれると……信じて、います……」

 

目尻に涙を溜め、嗚咽を漏らしながらも、エールを送ってくれるエスリアさん。

………………本当に、この人には感謝してもしきれないな。

 

「………ありがとうございます、エスリアさん」

 

俺はそう言って、エスリアさんの目尻に溜まった涙を優しく拭った。

すると、唐突にエスリアさんが抱きついてきた。

 

「……出来る事なら……このまま、ずっと………此処に居て……ほしかったです……」

 

そして、彼女の本音を吐露し始めた。

 

「もっと、お話したり…………皆で、騒いだり………したかったです………」

「……………」

 

俺は黙って、その後も色々な思いを口にするエスリアさんの話を聞いていた。

ある程度言うと、エスリアさんは話すのを止めたのだが、抱きついたまま一向に離れようとしない。

そんなに俺達の事を好いてくれていたのかと、つくづく思い知らされる。

俺も、彼女等とは離れたくない。

未だ話したい事だってあるし、もっと馬鹿騒ぎしたかった。

 

だが、もう行くって決めたんだ。此処で、やっぱり残るなんて選択肢に切り替える事なんて、出来ない。

 

「エスリアさん」

 

俺はそう言って、エスリアさんを優しく引き剥がした。

 

「別に、コレが一生の別れと言う訳ではありません。また、必ず此処に戻ってきます。だから、その時は、また色々話したり、皆で思いっきり騒いだりしましょう」

「ミカゲさん…………」

 

エスリアさんが、涙でグシャグシャになった顔を上げる。

そんなエスリアさんに、俺は微笑みかけた。

 

「大丈夫ですよ。絶対に、また此処に来ますから」

「………本当ですね?」

「はい」

「約束ですよ?」

「ええ、約束です」

 

そう言うと、エスリアさんは離れた。

 

「ずっと、待ってますからね」

 

目尻に大粒の涙を浮かべながらも、何時ものようなニパッとした笑顔でそう言うと、エスリアさんも道路の脇へと移動していった。

「さて…………」

 

そう呟いて、俺は他の面々の方を振り向く。

ラリー達は既に、何時でも発進出来る状態になっていた。

後は、俺だけのようだ。

 

「すまん、待たせたな」

 

短くそう言うと、俺は前を向く。

道の両脇には、見送りに来てくれた町の人々が居る。

 

この町での思い出が、一気に頭の中を駆け巡る。

「………………ッ」

 

俺は沸き上がる涙を堪えて、F-15Cのエンジンを始動させた。

フルブレーキの状態でエンジンに意識を向けると、甲高くも小さなエンジン音が、やがて大きなものになり、アフターバーナーが火を噴く。

それに伴い、別れの瞬間が近づいてくるのを感じる。

 

最後に俺は、集まってくれた人達を見渡す。

 

「…………ありがとう、皆」

 

そう小さく呟き、遂に浮かんだ涙を左手で拭った。

そして、後ろで控えているラリー達の方を向いて頷き、前を向いた。

 

「ガルム1、発進します!」

 

そうして、ブレーキを解除した俺は勢い良く飛び出し、町の人達からの別れの言葉やエールを浴びながら飛び立った。

それに続いて、ラリー、エメル、ゾーイ、アドリアの順に飛び立ち、俺に追従した。

 

ある程度の高度まで上昇すると、進路を東に取り、新たな活動場所となるクルゼレイ皇国へと向かう。

 

 

 

「遂に、お別れしちゃったね…………」

 

段々と小さくなっていくルージュの町を後ろに見ながら、ラリーが寂しそうに言った。

 

「ああ、そうだな…………」

 

俺もそう答える。

あの町は、何時しか俺にとって、第2の故郷のような場所になっていた。

見た目はヤクザみたいでも、実際は陽気で気の良いオッチャン冒険者や、他の冒険者達。

おっとりしていて可愛らしく、何時も癒される笑顔を向けてくれた、ギルド受付嬢のエスリアさん。

 

ルージュの町で、俺は多くの人と出会い、仲良くなった。

当然、シルヴィアさんやエレインさん、アルディアの3人や、黒雲に捕らえられていた、他の女性達の事も忘れてはいない。

他にも、王都で俺の世話をしてくれたセレーネさんもだ。

 

宰相は最悪で、貴族や他の上層部の奴等も最悪だったエリージュ王国だが、そんな国でも良い人と出会えた。

もし、彼等が窮地に陥るような事があったら、その時は、クルゼレイ皇国からでも、何処からでも直ぐに駆けつけて、彼等の助けになろうと強く思う。

 

それに、コレは一生の別れじゃない。

あのオッチャンも、『また何かあったら直ぐ帰ってこい』と言ってくれた。

ならば、お言葉に甘えて、何時か必ず、あの町に戻ろう。

そして皆で、またバカ騒ぎをしようじゃないか。

 

 

「……………その日まで、暫しのお別れだ」

 

もう見えなくなってしまったルージュの町に向けてそう言うと、俺は前を向いた。

そして、また何時もの"あれ"を呟くのだ。

 

 

「現在、高度3500フィート。進路、0-6-5。速度、450ノット……………」

 

 

 

 

 

目的地は、クルゼレイ皇国だ。




さあ、エリージュ王国を飛び出し、新たなステージへと向かう神影達。
其所で何が起こるのか?
そして、神影が居ないF組は、今後どうなっていくのか…………?



てか、何かエスリアさんがヒロインっぽくなってる件について…………

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