翌朝、俺達は早速行動を始めた。
先ずはラリーに頼んで、エメル達に透明化と気配遮断の魔法を掛けてもらった後、念のために洞穴の奥で待っているように伝え、ラリーと共にアパッチを展開し、縄で一纏めに縛ったコアン親子を吊り下げた状態でタロンの町に飛んでいく。
町に着くと、長官を呼び出して事情を説明し、コアン親子の後始末を頼んだ。
長官は半信半疑な様子だったものの、逮捕される事を恐れたのかヒステリックに喚き散らすコアン親子を見て、コイツ等が黒だと分かったのか、後始末を引き受けてくれた。
それから2人は聴取を受けたのだが、その時に、この親子がトンでもないクズだった事が判明。
税収の過度な引き上げ行い、それ等を自分達のプライベートのために使用。
その他、コイツ等が治めていると言う町の若い女の子に手を出したりと、叩けば汚職の数々が出るわ出るわ。
その聴取に立ち会った俺とラリーが表情をひきつらせ、あの場で殺しておけば良かったと思ったのは言うまでもないだろう。
その後、盗賊の討伐の事もあり、ギルドから臨時報酬が支払われる事を告げられた。
それから俺とラリーは、気の良さそうな人を捕まえて、3人分の衣類を貸してもらえるように頼んだ。
事情を話すとあっさり貸してくれたため、俺とラリーはその人に礼を言って森の奥地に戻ると、3人にその服を着せ、ラリーに魔法を解除させた後、3人を連れて、ルージュの町に向かう。
町に着くと、真っ直ぐ服屋に向かって3人の服を買う。
驚いた事に、3人が元々着ていた服が其所で売られていたため、それ等を下着含めて纏めて買った。
何故メイド服まで売られていたのかが気になったが、一先ず何も言わない事にした。
その後、未だ盗賊云々の報せは来ていないだろうから、一旦タロンの町に戻って、3人分の衣類を貸してくれた人に服を返した。
それらを済ませた頃には、もう昼になっていた。
「あ~、疲れた」
衣類を返した後、臨時報酬を受け取るために再びルージュの町に舞い戻ると、俺達は先ず、宿に戻っていた。
「お疲れ様、相棒」
ベッドに飛び込んだ俺に、ラリーがそんな言葉を掛けてくれた。
宿に戻ると、娘さんや女将さん達から、エメル達が戻らなかった事や、俺とラリーが飛び出していった事について質問攻めにされたが、取り敢えず『今度話す』とお茶を濁したのだ。
早く休みたかったからな。
「森の奥地から始まって、先ずはタロン。それから森の奥地に戻ってからのルージュ。そして、タロンに戻ってまたルージュ………今日1日で、結構飛び回ったよね、僕等」
「ああ」
ベッドに腰掛けて、ラリーが染々と言った。
俺もラリーの言葉に、軽く相槌を打つ。
「ところで相棒、彼女等とはどうなの?」
不意に、ラリーがそんな事を聞いてくる。
「"彼女等"って?」
「ファルケンとアドラーの事に決まってるじゃないか。僕が散策してる間、ずっと一緒に居たんだろ?」
軽く笑いながら、ラリーはそう言った。
「それで、彼女等と仲直りは出来たのかい?結構嫌われてたからね、君は」
「あ~、それなんだけどさぁ………」
そうして、俺は昨日の夜、ラリーが散策に行っている間の事について話した。
「………とまあ、こんな感じかな」
「成る程ね」
俺が話を終えると、ラリーは軽く頷いた後、こんな事を聞いてきた。
「それで?相棒は彼女等の事、どう思っているんだい?」
「どうって言われてもなぁ………」
いきなり言われても返事に困ると言うのが、今の考えなのだが………
「じゃあ、質問を変えようかな」
そう言って、ラリーは言葉を続けた。
「相棒。君はこの1週間の間、少なくとも2人から良い扱いは受けていなかった………寧ろ、ぞんざいに扱われていた………そうだよね?」
「まあ、そうだな」
ラリーの質問に、俺は頷いた。
「その事について2人が謝ってきた時、君はどう返事を返すつもりなんだい?許す?それとも拒絶する?」
そう言って、ラリーは俺に顔を近づけ、真っ直ぐ見つめてくる。
エメラルドのような緑色の瞳に、俺の顔が映る。
何時か、黒雲討伐云々の騒ぎが起こった時、盗賊相手とは言え、人を殺す事を戸惑っていた俺に見せた、あの、真っ直ぐな目だった。
相手が真剣に聞いてきてるんだ。俺も、真剣に答えねぇとな…………
まあ、出来れば女性陣には聞かれたくないな。これから、結構恥ずかしい事を言うんだから………
「コレは、あの2人には言わなかった事なんだがな……」
そう切り出して、俺は話し始めた。
「………今まで2人から受けてきた扱いについて、何も思ってないと言ったら嘘になる。俺にだって、ガルム隊1番機としての誇りはあったからな………それで、ファルケンに『1番機を降りろ』と言われた時は、かなりショックだったよ」
俺の話を、ラリーは黙って聞いている。
「でもな、だからと言って、何時までもうじうじ言って引き摺るってのは、少し違うんじゃないかって思ったんだ」
「…………」
「あの2人は、F組の男子共とは違った何かを感じる。それなら、何時か、分かり合える時が………認めてもらえる時が来るって、そう信じてたんだ」
だからと付け加え、俺は改めて、ラリーを真っ正面から見つめ返した。
「彼奴等が謝ってくると言うなら受け入れるつもりだし、仮に謝ってこなくても、1番機に相応しくなって、認めさせてやろうって…………そう、思ってるよ」
「…………」
俺がそう言うと、ラリーは暫く黙ったまま、俺を見つめていた。
俺も、ラリーから目を逸らさない。此所で逸らしたら、負けのような気がしたからだ。
「………そっか」
そう言って、ラリーはフッと微笑んだ。
「流石は僕の相棒だ。君なら、そんな感じの答えをくれるって、信じてたよ」
そう言うと、ラリーは徐に立ち上がった。
「ラリー?」
そう問い掛ける俺の方を見ると、ラリーは軽く微笑んで、ドアに右手の親指を向ける。
はて、ドアの向こうに何かあるのか?
首を傾げる俺を余所に、ラリーはドアに近づいていく。
そしてドアノブに手を触れると、一気にドアを開けた。
「「きゃあっ!?」」
すると、2人の美女が雪崩れ込んできた。
何と、ファルケンとアドラーだった。
「あら、ラリー。気づいてたのね」
雪崩れ込んできた2人の後ろには、エメルが立っている。
「………お前等、盗み聞きとは随分と悪趣味じゃねぇか」
俺がそう言うと、エメルはクスッと笑った。
「盗み聞きとは人聞き悪いわね。そろそろギルドに連絡が行った頃だろうから行こうって誘いに来たら、ちょっと聞こえただけよ」
「そ、そっか………ゴメン」
そう謝って、俺は1つの疑問を投げ掛けた。
「因みに、どの辺りから聞いてたんだ?」
「え~っと、確かねぇ………」
そう言うと、エメルは暫く考えた後、ニヤリと笑みを浮かべて此方を見た。
な、何かスッゲー嫌な予感がするんですけど…………
まあ、多分話の最後の一言二言程度で………
「『コレは、あの2人には言わなかった事なんだがな………』って辺りからね」
「一番聞かれたくない所が聞かれてたぁーッ!?」
部屋のドアが全開になっていると言うのも構わず、俺は両手両膝を床について叫んだ。
まさか、あの言葉を………自分でも言ってて恥ずかしいと思ったあの言葉を全部聞かれていたとは………不覚だぜ畜生!いっそ殺せ!一思いに殺しやがれぇ!
「ミカゲったら、中々カッコいい事言うじゃない。この娘達、胸に手を当てて顔真っ赤にしてたわよ?」
「「お、お姉様!?」」
1人嘆いている俺に、エメルがそんな事を言う。
ファルケンやアドラーが、エメルに向かって何やら喚いているが、そんなの耳に入らない。
結局、この騒ぎは旅館の女将さんに止められるまで続いた。
「それでは、此方が報酬となります」
さてさて、あの騒ぎを経て、此所は冒険者ギルド。
部屋に来たエメルが言っていたように、昨日の出来事についての報せはギルドに来ており、俺達がギルドに入ってくると、待ってましたと言わんばかりにギルド内に居た冒険者達が押し寄せてきたのだ。
やれ『またまた大活躍だったな!』とか、『流石はガルムだ!何でもかんでも即刻解決だぜ!』とか、兎に角褒めちぎられた。
凄く嬉しかったが、同時に面映ゆくもあった。
そして、漸く受付カウンターに辿り着き、俺達は、エスリアさんから今回の件についての臨時報酬を受け取った。
「それから、今回の活躍もありまして、Aランク冒険者パーティー"ガルム"の皆さんを、パーティーランク共に、Sランクへ昇格するものとします!」
エスリアさんがそう言うと、ギルド内に歓声や拍手が響き渡った。
「スゲー!遂にガルムがSランクになりやがった!」
「いやぁ~、何時になったら昇格するのかと思ってたが、遂になったかガルム!」
「私、他の冒険者がSランクに上がるの、初めて見たわ!」
「今日は私達にとっても、ガルムの人達にとっても、最高の記念日よ!」
歓声や拍手に混じって、そんな声が聞こえてくる。
「よぉ~し、話は聞いたぜ!今日はガルムのSランク昇格を祝って、宴会だぁぁぁああああっ!!」
相変わらず酒場に居たオッチャン冒険者がそう言うと、また歓声や拍手が巻き起こった。
俺達5人は、勝手に話がどんどん進んでいくと言う光景に、ただ唖然としていた。
そうして開かれた宴会は、ギルドが閉まる時間を過ぎても続いた。
夜中になっても続くドンチャン騒ぎに、流石に町の人が文句を言いに来たが、オッチャン冒険者達に宴会場となったギルドに引きずり込まれ、宴会のペースに呑まれていた。
『ミイラ取りがミイラになる』とは、正にこの事を言うんだろうな。
そして夜明け前。
ギルド内は、騒ぎ疲れて眠る冒険者や町の人達で床が埋め尽くされていた。
エスリアさんも、カウンターに突っ伏して寝ている。
椅子無いのに、よく眠れるものだ。
ラリーやエメルは、何と抱き合って眠っている。
からかうネタにするために、収納腕輪からスマホを取り出して、1枚パシャりと撮っておいた。
「ふう………」
ギルドの外に出た俺は、道の真ん中に立って大きく伸びをした。
もう直ぐ朝が訪れる。今日も、何時もと変わらぬ1日が始まるんだ。
そうしていると、何と無く空を飛びたい気分になり、F-15Cを展開した時だった。
頭に思い浮かべたレーダーに、2つの反応が出る。
其所に立っていたのは、ファルケンとアドラーだった。
「どちらへ、行かれるのですか?」
アドラーにそう聞かれ、俺は、さっきまで向いていた東を指差した。
「そう、ですか………」
アドラーはそう言うと、ファルケンと顔を見合わせて頷く。
そして再び此方を向くと、2人揃って口を開いた。
「「ミカゲ様」」
「お、おう」
いきなり"様"付けで呼ばれ、俺は少し戸惑いながらも答える。
「「お供させてください」」
「………ッ!」
そう言われ、俺は目を見開いた。
あの2人が、俺と一緒に行きたい、だと………?
俺が目を見開いて沈黙していると、2人は再び口を開いた。
「「貴方の4番機(5番機)として………ずっと貴方のお側で、飛ばせてください!」」
ファルケンとアドラーは、2人揃ってそう言った。
コレが何を意味しているのかを理解するのに、そんな時間は掛からなかった。
遂に俺は、2人に認められたのだ。
なら、それを断る理由は…………無い!
「ああ、良いぜ!」
俺がそう言うと、2人は其々の機体を展開する。
「ガルム4、ガルム5!俺に続け!!」
「「はい!」」
そうして、俺達はアフターバーナーを噴かして発進し、飛び立った。
俺の左後ろにファルケンが、右後ろにアドラーが追従する。
もう、この場面で謝罪なんて要らない。分かり合えたのなら、それで良い。
すると、まるで俺達が分かり合えたのを祝福するが如く、太陽が昇ってきた。
朝日に向かって、俺達は飛ぶ。
このフライトは、起きたラリーから念話が入るまで続いた。
「改めて、これからよろしくな、2人共」
追従する2人を見ながら、俺は小さく呟くのであった。