「…………遅ぇ!」
「それ、さっきも聞いたよ」
1時間が経過し、今は午後7時なのだが、3人は未だ帰ってこない。
ギルドに行っても3人は居らず、エスリアさんや他の冒険者達に聞いてみたものの、誰も見ていないと言うのだ。
それから宿に戻り、何度か僚機念話で通信を試みたものの、結果は同じ、無反応だ。
「流石にコレは異常だろ。全然帰ってくる気配は無いわ、僚機念話にも出んわ………異常すぎる」
「その通りだとは思うんだけど………如何せん、3人が今何処に居るのか分からないからなぁ………」
そう言って、俺とラリーは揃って溜め息をつく。
「取り敢えず、あの3人が行きそうな所を考えてみようぜ」
「あっ、それなら!」
考える間も無く、ラリーが挙手した。
「ん?何か心当たりでもあるのか?」
「うん」
俺が訊ねると、ラリーは頷いた。
「多分3人は、ルビーンかタロンに居るんじゃないかな?」
「ルビーンかタロンに?なんでまた?」
ラリーの意見に、俺はそう聞き返す。
「ルビーンもタロンも、僕と相棒が、あの3人と出会った場所だろ?ルビーンならエメルで、タロンならファルケンとアドラーって感じでさ」
「うん、そうだな」
ラリーが言うと、俺は頷く。
「多分、あの3人は其所で思出話でもしてて、そのまま時間を忘れて話し込んでるんじゃないかと思うんだ」
「そんなにも単純なものなのか………?」
つーか、時間を忘れるとか言っても、それで7時になっても戻ってこないとか、ドンだけ話に夢中になってんだよって話だがな。
まあ、一先ずあの3人が行ってそうな場所の目星はついたな。
「良し、それじゃあラリー。お前はルビーンに行って、3人が居ないか見てくれ。俺はタロンに行ってみるから」
「了解、相棒。任せて」
こうして話が纏まった俺達は、宿を出ると一旦別れた。
ラリーは、宿を出るや否やF-15Cを展開して飛んでいった。
それを見送った俺はF-14Dを展開すると、タロンへ向けて飛び立った。
「んっ………くっ!んぐっ……」
「どう、
「んぅ………だ、駄目です………思うように動けない上に、かなりキツく縛ってあるようで………」
「そう……分かった、もう十分よ。ありがとう」
あれから私達は、どうにかして縄を解く事が出来ないかと、色々と試していた。
自分の手で解くのは無理なので、縄の結び目にある輪を引っ掛けられそうな所を見つけて、解けないかと試したり、いっそ、多少の怪我を覚悟で、縄を切れるようなものを探したりした。
でも、何れも上手くはいかなかった。
そのため、最後の手段として、"3人の中の誰かが口で縄を解く"と言うやり方に出た。
ついさっきまで、ファルケンが私の縄を解こうと頑張ってくれていたけど、彼女自身も思うように動けない上に縄がキツめに縛られているのもあって、断念せざるを得ない。
結果的に、私達は誰かが気づいて助けに来てくれるのを待つしかなくなっていた。
「申し訳ありません、お姉様。私達が無力だったばかりに………」
ファルケンが、すまなさそうに言うと、アドラーもすまなさそうな表情を浮かべて顔を伏せてしまう。
「良いのよ。貴女達が気にする事ではないわ」
そう言って、私は微笑む。
出来るなら、2人の頭を撫でてやりたい。でも、手足が縛られている今では、それが出来ない。
「それはそうと、1つ聞きたい事があるの」
「「………?」」
私が話を切り出すと、2人が此方を向いた。
「貴女達が、あんなにもミカゲを嫌っていたのは何故なのか………それを教えてもらえるかしら?」
「「…………」」
そう訊ねると、やはり口を閉ざしてしまう。
でも、ミカゲに何かされたって訳じゃなさそうなのよね。そもそも、ミカゲがそんな酷い事をするような人とは思えない。それなら、どうして2人は……?
「あの、お姉様………」
2人がミカゲを嫌う理由の予想を立てていると、アドラーが恐る恐る話し掛けてきた。
私が振り向くと、アドラーが話そうとするのだが、それをファルケンが制した。
「お姉様、私がお話しします」
そうして、ファルケンが話を始めた。
結論から言うと、2人がミカゲを嫌う理由は、あまり大したものではなかった。
私が思ったよりも早いタイミングで目覚めていた2人は、エリージュ国内を旅している時に、ミカゲとラリーが、エリージュ王国でも有名な盗賊団、黒雲を壊滅させたと言う噂を耳にしたらしい。
並大抵の冒険者なら尽く返り討ちにされる程のレベルを持つメンバーが数十人も居て、難攻不落とも呼ばれた盗賊団を蹂躙したのだから、物凄い人なのだろうと勝手に期待していたらしい。
それで、いざ会ってみれば、正体は極々普通の一般少年。
決して、ひ弱でなよなよしてる訳ではないが、だからと言って、これと言えるような覇気も無く、自分が想像していた人物像と大きく異なっていたため、裏切られたような気分になったと言うのだ。
それで居ながら、私を3番機として従えて、自分は1番機の座についている。
それが調子に乗っているように見えて、気に入らなかったらしい。
「成る程、そう言う理由だったのね………」
話を聞き終えた私は、そう言った。
「今となっては、馬鹿な事をしたものだと思っています。彼は、何度も歩み寄ろうとしてくれました………なのに、私は……彼を、ぞんざいに扱っていました………」
徐々に俯いていくファルケンがそう言うと、アドラーも顔を伏せてしまった。
「ええ、そうね………ファルケン。正直な話、貴女がミカゲに『1番機を降りろ』と言った時は、本気で殺そうかと思ったわ」
「ッ!?」
私がそう言うと、ファルケンが顔を上げて私を見る。
「確かにあの時、私は彼より多くの敵を倒したわ。彼は殆んど敵を倒していなかったんだから、当時はミカゲを嫌ってた貴女が、あんな事を言うのも無理はないかもしれない。でもね、あの時に私が活躍出来たのは、ミカゲが指示をしてくれたからなの」
そう言った私が思い浮かべたのは、私達が"僚機念話"の能力を得て間も無い頃。
その時、私達はまた、ワイバーンの群れの討伐依頼を受けていた。
その数は、前と比べるとかなり増えて、20体。
当時、私やファルケン、アドラーは、ミカゲやラリーよりもレベルが低かったため、ミカゲは私達のレベルアップのため、戦闘には参加せずに、ワイバーンの群れが密集するタイミングや、狙いやすいものを念話で教えてくれた。
そのお陰で、私達は多くのワイバーンを倒してレベルを上げる事が出来た。
でも、代わりにミカゲはワイバーンを1体も倒しておらず、レベルだって、1つも上がっていなかった。
それがファルケンやアドラーには、サボっているように思えたのかもしれない。
「ミカゲはね、ガルム隊の誰よりも
「…そう、だったのですね……」
私の言葉に、ファルケンはそう言った。
「あの、お姉様………」
すると、今度はアドラーが話し掛けてくる。
「何?」
そう言うと、彼女は暫く言い淀んでいるような素振りを見せたが、やがて意を決したのか、口を開いた。
「もし、私達が彼の元に帰る事が出来て、私とファルケンで謝った時……彼は未だ、私達を………受け入れて、くれるでしょうか?」
「………」
そんなアドラーを暫く眺めていた私は、ゆっくりと頷いた。
「ええ。ミカゲは誠心誠意謝ってくる相手に、追い討ちを掛けるような真似はしないわ」
ファルケンとアドラーの2人に向かってそう言うと、私は、ある決意を固めた。
此所で、あの男達のオモチャになんかならない。
絶対に、ミカゲとラリーの元に帰るんだと。
次回辺りで蹂躙劇かな?
神影がどんな機体で暴れるのか、こうご期待。