航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第31話~に、逃げるんだぁ………~

さて、エメルの制止を振り切ってルージュの町の宿を飛び出した俺達は、F-15Cを纏って、王都に向かっていた。

 

「いやぁ~、久し振りの王都だなぁ。何かワクワクするぜ」

 

そう呟いていると、ラリーが直ぐ隣に近づいてきた。

「ワクワクするのは僕も同意だけど………相棒、本当に良かったのかい?あんなやり方で出てきて」

「ん?どういう意味だ?」

 

心配そうな表情で聞いてくるラリーに、俺はそう聞き返した。

 

「だってエメル、他にも何か言いたそうにしていたんだよ?なのに僕達は、それを無視して出てきたんだから」

 

そう言って、ラリーはすまなさそうに目を伏せる。

 

「………まあ、あのやり方が最善案なのかと聞かれたら、答えは"NO"だろうな」

「なら、どうして?」

 

俺が返事を返すと、ラリーが尚も聞いてくる。

 

「ホラ、この前に俺がファルケンやアドラーから色々言われてた時、エメルが庇ってくれた事があったろ?」

「………ああ、そうだね」

 

俺が話題に出したのは、ファルケンに『1番機を降りたらどうだ』と言われた日の事だ。

 

「あの時、エメルが2人に対してスッゲー怒ってくれたんだけど、そしたら今度は、エメルと2人の間でギクシャクしちまったからさ………俺が元々住んでた世界の物語でもあったように、敢えてギクシャクしてる者同士で居させて、何かしらの出来事を経て、仲直りしてくれたらなって、思ったんだよ………」

「相棒………」

 

俺が言うと、ラリーが何とも言えないような表情で言った。

 

「君の優しさには感服するけど、もう少し君自身の心配をした方が良いと思うよ?特に、ファルケンとアドラーとの関係を、ね」

「そ、それを言われると辛いな………」

 

俺がそう言うと、ラリーはクスクス笑った。

 

「さて、もう王都が見えてきたな………」

 

そう呟いた俺の目線の先には、エリージュ王国の王都が小さく見えていた。

 

「良し、ラリー。この辺りで降りよう。あまり近すぎるのも、良くないからな」

「了解だよ、相棒」

 

そう言って、俺達は高度を下げて着陸する。

暫くそのまま滑走し、完全に動きが止まると、機体を解除する。

 

「ふむ、王都まで1㎞って感じかな………」

 

豆粒のように小さく見える王都を見ながら、俺はそう呟いた。

 

「流石は異世界人だ。視力も、この世界の人間と比べると、大分良いんだね」

「どうやら、そうみたいだな」

 

隣に歩み寄ってきたラリーがそう言うと、俺は軽く頷いた。

 

「それじゃあ、認識阻害の術を掛けるよ」

 

そう言うと、ラリーは両手に光を纏わせ、それを俺に向ける。

すると、光が俺の周りに飛んできて、俺の体を包み込む。

一体何が起こるのかと、思わず身構える俺だったが、特に何も起こらなかった。

 

「コレで、君は他人からは別人で映るようになったよ」

 

ラリーは自慢げにそう言うが、俺の方は大した実感が湧かない。

 

「なあ、ラリー。とてもそんな風に感じないんだが?」

「当たり前だよ。他人にしか効果が無いんだから」

 

成る程、そう言う事か。なら納得だな。

それじゃ、後はギルドカードを収納腕輪にしまって、通行料の銀貨3枚を用意して………って、ちょっと待てよ?

 

「なあ、ラリー。ちょっと待ってくれ」

「ん?」

 

俺は、自分自身に認識阻害の術を掛けようとしていたラリーに声を掛ける。

「どうかしたのかい?」

「いや、今思ったんだが………お前、透明になる魔法って使える?気配を完全に遮断する魔法でも良いけど」

「う、うん。両方使えるけど………それが何?」

 

俺の質問に頷き、ラリーはコテンと首を傾げた。

 

「じゃあさ、最初からそれ使っとけば、別に認識阻害の術使って、態々通行料払って入る必要も無かったんじゃね?」

「…………~~~ッ!?」

 

どうやら、ラリーも今気づいたらしい。

暫く沈黙した後、俺が言った事の意味を理解したのか、ラリーは顔を真っ赤に染め上げた。

 

「そ、そうだった………こんな簡単な事、なんで、もっと早く気づかなかったんだよ、僕の馬鹿………」

 

地面に手をついて、軽くorz状態になるラリー。

だがな、ラリー。安心しろ。俺もコレには今気づいたから。

 

そのままいじけそうなラリーをどうにか宥め、透明化と気配遮断の魔法を掛けてもらう。

そのまま歩いていくと、王都へと通じる門が見えてくる。

大きな門の両サイドには、槍を持った門番が1人ずつ立っている。

 

ラリーに魔法を掛けてもらったとは言え、他人にしか効果が無いために実感が全く無い。そのため、ビクビクしながら、門番達の間を通過する。

結果、止められずに入れた。ラリーの魔法は、ちゃんと効いていたのだ!

 

「よっしゃ!成功だな、ラリー!」

「うん、やったね!」

 

そう言って、俺とラリーは拳を突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神影とラリーが王都へ向けて飛んでいる頃、ルージュの宿の一室では、3人の少女が座っていた。

 

「………何と言うか、まるで嵐のような人ね、ミカゲって」

「え、ええ」

「そう、ですね………」

 

窓の外を見ながら、3人はそんな事を言う。

 

「まあ、私も少し言いすぎたわ。ごめんなさい」

「そ、そんな!謝らないでください!」

「そうです!彼への態度が悪かった私達に問題があるんですから!」

 

ペコリと頭を下げて謝るエメルに、ファルケンとアドラーは、慌てながらそう言った。

 

「取り敢えず、ミカゲもあのように言ってくれたんだし………せっかくだから、皆が人間の姿を持った場所に行ってみない?2人が何処で人の姿になったのか知りたいし」

「ええ」

「私も、異存はありません」

 

そうして、3人は宿を出ると、先ずはエメルが人間の姿になった場所を教える事になり、ルビーンの町へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~……流石は王都だ、賑わってるな」

「そりゃそうさ。何と言っても"王都"だもの、此処が一番賑わってないとね」

 

さて、王都への侵入に成功した俺達は、そんな会話を交わしながら王都内を歩き回っていた。

ラリーの魔法によって、俺達の存在は誰からも認識されない。

そのため、俺達は通行人にぶつからないように、気を付けて歩かなければならない。

 

「………あっ」

 

出店の影に隠れて、人通りに合流するタイミングを窺っていると、突然、ラリーが何かを見つけたのか、俺の肩を叩いてきた。

 

「相棒、あれ見て」

 

そう言うと、ラリーはレンガ造りの壁に貼られている紙を指差した。

 

「………?」

 

俺は、ラリーの指差した方を向き、その貼り紙に書かれているものを視界に捉えた瞬間、目を見開いた。

その貼り紙に、俺の似顔絵と、『こんな顔の人を見かけたら教えてください』と言う文字、そして身体的特徴が書かれていたのだ。

 

「あ~あ………完全に尋ね人にされてるね、相棒」

「尋ね人?それ、お尋ね者の間違いじゃねぇのか?」

 

苦笑混じりに言うラリーに、俺は冗談で返した。

 

「………ん?」

 

すると、ラリーがまた何かを見つけたらしい。

俺の肩を叩いて、何処かを指差している。

 

「ねえ、相棒。あの銀髪の男を見て」

「ん?銀髪の男?」

 

ラリーの指差す先には、腰に短剣を携えた、銀髪で長身の男が、数人の騎士を子分のように引き連れて歩いていた。

 

「警備隊か何かじゃねぇのか?そんなに言う程珍しいモンでもねぇだろうよ」

「いや、それはそうなんだけど………あの男に見覚えは無い?ホラ、君と僕が初めて会った時の」

「………ああ、彼奴か」

 

ラリーに言われて、俺はあの日、ラリーを掴み上げていた、矢鱈と上から目線な銀髪ナルシスト野郎を思い出した。

 

「彼奴、名前何だっけ?」

「ブルームだよ、ブルーム・ド・デシール」

 

どうやら、ラリーは彼奴の名前をフルネームで覚えていたらしい。

スゲーなコイツ。俺なんて、今言われるまですっかり忘れてたよ。

 

「………あ、彼女は!ねぇ、相棒!」

「あ~もう、今度は何だ………って…………おいおい、マジかよ。こりゃ何の冗談だよ?」

 

ラリーが指差したのは、あの銀髪ナルシスト野郎(長いから以下"銀髪"と表記)とは反対側から来る、3人の美少女………俺が元々居た世界の学校で、"学園三大美少女"と呼ばれていた、天野沙那と雪倉桜花、そして白銀奏の姿だった。

やはり、未だ3人は俺を探す事を諦めていないらしく、道行く人々に俺の似顔絵を見せている。

 

「うわぁ~、見ててスッゲー罪悪感だよ…………」

 

俺は、そんな3人を見ながらそう呟いた。

 

「おお、サナ!オウカにカナデも!」

 

すると、あの銀髪が3人に気づき、満面の笑みで声を掛けた。

 

「いやはや、こんな所で会うとは奇遇だな!」

「そ、そうですね………」

 

矢鱈ハイテンションで言う銀髪に、天野は若干ひきつった笑みで返した。

 

「今日も、例の男を探しているのか?」

「ええ、そうよ。此方としては、何としても彼を見つけ出したいの」

 

白銀が淡々とした調子で答える。

 

「そうか、3人も大変だな………」

 

俺の事を覚えているのか、銀髪は一瞬不快そうな表情を浮かべたが、直ぐに表情を笑顔に戻した。

 

「ああ、そうだ。もう昼も近いんだし、食事でも一緒にどうだ?」

 

何と、一気に3人をナンパし始めたのだ。

 

「ホラ、何時か言ったろ?"彼奴、婚約者居るのに他の女の子にも手を出してる"ってね」

「成る程な、あの時お前が言ってた事の意味が、今になってよく分かったぜ」

 

ヤレヤレと言わんばかりの表情で言うラリーに、俺はそう返した。

つーか、3人の様子からすると…………あの銀髪、何度も3人にアプローチ掛けてそうだな…………

 

「いいえ、結構よ。私達は彼を探すので忙しいし、食事なら、後で其処らの店で適当に済ませるわ」

 

白銀がそう言うが、銀髪も諦めが悪く、中々引き下がらなかった。

 

「いや、それではいけない。君達のような美しい女の子が、"適当に済ませる"等と………」

 

白銀に断られたと言うのに、尚もしつこく食事に誘おうとする銀髪。

白銀が前に立って、どうにかして銀髪を追い払おうとしているが、相手も中々諦めが悪く、苦戦してるようだ。

 

「はぁ、マジで見てられねぇや………」

 

俺はそう呟きながら立ち上がり、ラリーの方を向いて言った。

 

「ラリー、悪いが待っててくれねぇか?ちょっくら、あの3人助けてくるわ」

「うん、良いよ。行ってらっしゃい、相棒」

 

そう言うラリーに見送られ、俺は銀髪に近づく。

「兎に角、私達は忙しいの。だから邪魔をしないでちょうだい」

「まあまあ、そう邪険にするこt……「もうその辺にしとけや、このアホ」……んがっ!?」

 

俺は軽くジャンプして銀髪の頭上にまで飛び上がると、銀髪の頭に踵落としを喰らわせてやった。

 

「えっ!?」

「ぶ、ブルーム様!?」

「ッ!?」

 

俺の踵落としを喰らった銀髪が地面に倒れると、その場に居た全員が驚く。

まあ、それも無理はない。何せ俺の姿はラリー以外には見えないから、他の人からすれば、『女の子を口説いていた銀髪の騎士が、勝手に情けない声を出して倒れた』だけにしか見えないからな。

 

『Good kill,buddy!』

 

念話で、ラリーからそんな言葉が飛んでくる。

ラリーが居る方に目を向けてみると、ラリーが非常に良い表情(カオ)で親指を立てていた。

 

「(つーか、コイツ何時の間にそんな流暢な英語使えるようになったんだよ?)」

 

内心そんな事を呟きつつ、俺も親指を立てて返した。

そして、ラリーの方に歩き出そうとした、その時だった。

 

「其所に居るのね?古代君」

 

突然、白銀がそんな事を言い出した。

 

『『『『えっ?』』』』

 

突然の発言に、天野や雪倉、銀髪と一緒に居た他の騎士達、そして、俺の声が重なる。

 

「奏、何言ってるの?神影君が居るって、どういう事なの?」

 

天野がそう訊ねる。

俺も、白銀が何故そんな事を言い出したのかが気になり、彼女の次の言葉を待つ。

 

「沙那、桜花。其所で倒れてる騎士の傍を見てみなさい」

 

そう言って、白銀がある場所を指差し、天野と雪倉も、白銀が指差す場所を見て目を見開く。

 

3人が見ているのは、何と俺の足元だった。

「(何だ?俺の足元に何が………あっ)」

 

足元に目線を落とした瞬間、俺は白銀に見抜かれた理由を悟った。

「(そうか、コレでバレたのか!)」

 

そう、俺の"影"である。

 

「其所で固まってると言う事は………」

 

や、ヤバいかも………

 

「やはり貴方なのね………古代君!」

 

はいバレました。ソッコーでバレちゃいました。つー訳で………

 

「逃げろぉぉぉおおおおおっ!!!」

 

俺は力の限り叫んで走り出した。

後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえるが、取り敢えず無視だ!

すまん、俺の名前を呼んだ人!

 

通行人は、何も無い空間から聞こえた声に驚き、パニック状態に陥っている。

それによって人の流れが止まった事を利用し、俺は人と人との間を上手くすり抜けてラリーの元に辿り着くと、そのまま王都の門へと走り、脱出に成功すると、加速力の高いF-15Eを展開して逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、ルージュの宿に帰ってから大変な事になるのだが、その時の俺達には知る由も無かった。


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