さて、先程まで両手サイズの模型だったモルガンが美少女に変身すると言う有り得ない状況に出会した俺とラリーは、口をあんぐりと開けて唖然としていた。
その美少女は銀髪ロングで、身長は目視で160ちょい。
白のブラウスの上から黒の上着を着て、ジャーマングレーのスカートを履いている。
「(幾ら此処が異世界とは言え、こんな事が起こるとは思わなかったな……)」
内心そんな事を呟いていた、その時だった。
「んっ………」
その女の子の瞼が揺れ動いたのだ。
それを見た俺とラリーは、思わず身構える。
別にいきなり攻撃されたりはしないだろうが、相手が目を覚ました時の反応が予測出来ない以上、こうなるのも仕方無いだろう。
そうしている内に、彼女の目がゆっくり開かれ、鮮やかな赤紫の瞳が俺を見る。
「「………」」
両者の間に沈黙が流れる。
「……違うわね」
俺を見ていた女の子はそう言うと、今度はラリーの方を向いた。
「…………」
「え、僕?」
視線を向けられたラリーが、自身を指で差しながらそんな事を言う。
「………」
そんなラリーを無視して、女の子はラリーに近づいていく。
そして、ラリーの目の前で立ち止まり、ジッと見つめる。
「えっ……え~っとぉ…………」
見ず知らずの美少女に凝視されて戸惑うラリーだが、心なしか、頬が若干赤くなっているようにも見えた。
まあ、彼奴の気持ちは分からなくもない。俺が彼奴の立場なら、間違いなく同じ反応をしてるだろうし。
「…………」
そんな事を考えている俺や、相変わらず戸惑っているラリーを余所に、女の子はラリーの周りを1周し、ラリーをジロジロ舐め回すように見る。
と言っても、実際に見てるのはラリーが纏っているイーグルの右の主翼だ。
モルガンの模型状態の時は、ラリーのイーグル同様右の主翼が赤く塗装されていたし、
そしてラリーの真正面に立つと、口を開いた。
「私の封印を解いたのは、貴方ね?」
「あ、ああ………そう、だけど………」
しどろもどろになりながら、ラリーはそう答えた。
「そう………」
小さく呟いた女の子は、暫くラリーを見つめていたが、やがて、こんな突拍子も無い事を言った。
「ねえ、勝負しない?1対1の
「ええっ!?」
いきなり勝負の話を持ち掛けられ、ラリーが目を見開く。
俺もそうだった。
「な、なんで!?」
「そんなの、貴方の纏ってるそれを見れば分かるでしょ?」
そう言って、女の子はラリーが纏っているイーグルの右の主翼を指差した。
「そのカラーリングは、私のも同じなのよ。なら、同じカラーリングを持つ者同士、どちらが上かを試してみたいじゃない?」
女の子はそう言うと、ラリーから2、3歩離れて目を瞑り、体を軽く反らした。
すると、彼女の体が目映い光を放ち、その光が消えると、彼女の体にADFX-01/02が装着されていた。
モルガンの特徴的な前進翼が腰から生えており、その下のパイロンにMPBMが、そして、戦略レーザーと思わしきライフルっぽい形の大型銃が、腰のホルスターらしき部分に取り付けられている。
肩には、アニメで見掛けるショルダーアーマーの如く、カナード翼が付けられている。
双発のエンジンが足に付いていたり、航空機関砲が右腕に付いているのは、最早お馴染みだ。
そして、内向き斜め双垂直尾翼も、しっかり再現されている。
「そう言えば、未だ名乗ってなかったわね。私はエメラリア。エメラリア・モルガネードよ」
そう名乗った女の子ーーエメラリアーーに、俺とラリーも名乗り、ついでに俺達が冒険者パーティーをやっている事を伝えた。
「成る程ね………なら、それなりに戦う術は持ってるんでしょ?」
「ま、まあ……一応ね」
確認するように言うエメラリアに、ラリーは頷いた。
「なら良いじゃない。別に死にはしないわよ」
「その自信は何処から………」
そう言うと、ラリーは俺の方に視線を向けてきた。恐らく助けを求めてるのだろうが、こう言う時に何を言えば良いのか分からん。
取り敢えず、胸の前で十字架を切っておく。
「(ミカゲぇぇぇえええええっ!!?)」
すまん、ラリー。コレばっかりはどうにもならんのだ。
「ホラ、ラリーだったわよね?はやくやりましょう」
「(ああ、僕死んだな………)」
ハイライトを失った目をしたラリーが町の外に引き摺られていくのを、俺は黙って見る事しか出来なかった。
「えー、コレより、ラリー・トヴァルカインとエメラリア・モルガネードによる空中模擬戦を始める」
さて、そんなこんながあって、此処はルビーンの町から数㎞離れた所にある平野。
此処で、2人の空中模擬戦をする事が決まった。
因みに、ルールは次の通りだ。
1、機体損傷率が50%になった時点で勝敗を決める(自己申告で、誤魔化すのは反則)。
2、両者共に、特殊兵装の使用は禁止。
3、町の上空に行ってはいけない。この平野の上空だけで戦う事。
4、レーダーに地上物の反応があったら、直ちに試合を中止する事。
5、魔法の使用は禁止。
「………結構限られるのね」
「まあな」
俺が提示したルールにそんなコメントを溢すエメラリアに、俺はそう返した。
まあ、ラリーの特殊兵装なら兎も角、エメラリアのは危なすぎる。
なるべく、実戦以外の使用は控えてほしかったのだ。
「このルールなら、僕でも何とか食いつけそう、かな………」
ラリーが若干、自信無さげに言った。
「まあ良いわ。この方がフェアだし………さあ、始めましょう!」
そう言って、エメラリアがスタート位置につく。
ラリーもスタート位置につき、エメラリアの隣に並び立った。
両者のエンジンが唸りを上げ、ノズルから凄まじいジェット音が聞こえる。
スタート係を任された俺は、そんな2人の様子を見てから、軽く手を振って開始間近を知らせる。
同時にジェット音も凄まじさを増し、最早何時もの声では絶対聞こえなくなるような轟音が、辺り一面に轟いている。
「(擬人化したオリジナル機体との勝負か………俺が最初に戦ってみたかったなぁ………)」
内心そんな事を呟きつつ、俺は2人に視線を送る。
そして………
「GO!!」
力の限りの声を出し、発進の合図を送る。
それと共に、2人は轟音を撒き散らしながら発進した。
さあ、模擬戦の始まりだ。
「(さあ、彼女はどう来るつもりだ………!?)」
轟音を撒き散らし、横に並んで滑走するエメラリアを横目に睨みながら、僕こと、ラリー・トヴァルカインは、そんな事を考えていた。
"航空傭兵"の天職を得てから初めて経験する空中戦に心臓が高鳴り、何もしていないのに、冷や汗が出るのを感じる。
そうしていると、僅かに向こうの方が早く離陸した。
上を取られた僕は素早く水平飛行に移り、地表スレスレを飛ぶ。
「それじゃあ、先手は貰うわ!Guns Guns Guns!」
そのコールと共に、エメラリアの右腕に装備されている航空機関砲が火を噴いた。
くぐもった音と共に、夥しい数の弾丸が僕に襲い掛かってくる。
「………ッ!」
右に急旋回して弾丸を避けるが、エメラリアは尚も、上から狙ってくる。
「さて、どうするか…………」
そう思っていると、何処からか警告音が聞こえてくる。
それに間髪入れず、"MISSILE ALERT"と言う文字が視界中央の上部に見えた。
「(此処でロックオンと来たか……!)」
瞬時にそう悟った僕は、機銃掃射を受けるのを覚悟して急上昇する。
「……!ぐっ………!」
その際、物凄いGが掛かるが、此処で気絶しては、ミカゲの2番機なんて務まらない。
悲鳴を上げる体に鞭打って上昇を続ける。
幸運にも、相手は僕が急に上昇した事に驚いていたため、機銃掃射を受けずに済んだ。
ミサイルのロックオンからも外れたらしく、警告音が消えている。
現在の高度を見ると、何時の間にか6000メートルを超えていた。
もうそろそろと思い、水平飛行に移る。
ふと後ろを見ると、エメラリアが猛然と追ってきている。
此処までずっと、彼女に有利なポジションを取られたままだ。
早めに立場を逆転させてやりたい。
すると、再び警告音が響いた。どうやらコレは、脳内で直接響いてきているらしい。
「喰らいなさい…………FOX2!」
終いにはミサイルが発射され、脳内で鳴り響いていた警告音が、けたたましさを増す。
「(クソッ!遂にやりやがったな!)」
内心口汚く吐き捨てる。
そうしている間にも、ミサイルはどんどん迫ってくる。
「(何か………何か対抗策は………ん?)」
何か対抗策は無いかと思考を巡らせていると、"FLR"と言う文字が見えた。
一瞬、特殊兵装の1つかと思ったが、そうでもない。
「"フレア"………確か、ミサイル回避用の
僕は小さく、そう呟いた。
コレについてのルールは決まっていなかったが………
「(もう、この際特殊兵装じゃないなら何でも良い!コレでミサイルを回避出来れば!)」
そう思った僕は、瞬時に考え付いた"ある作戦"を実行に移した。
意識を背中のエアーブレーキに強く向けて全開にし、一気に減速しながらバレルロール。さらに、そのタイミングで"FLR"に意識を向ける。
すると、『シュボボボッ!』とリズミカルな音を立てながら、光の粒が射出される。
すると、ミサイルは光の粒の1つに目標を変え、爆発した。
後ろで、エメラリアが驚いているのが見えるが、正直な話、僕も驚いている。
「(まさか、本当に回避出来るなんて………!)」
そう思った僕だが、今は戦闘中。模擬戦とは言え、気を抜いてはいられない。
反転して、エメラリアに肉薄する。
「ッ!」
それに気づいたエメラリアが右にブレイクするが、それは悪手だ。
僕もブレイクして、エメラリアの背後を取ったのだ。
「ッ!?しまっ………」
「お返しだ!Guns Guns Guns!」
エメラリアの反応を待たずして、僕は瞬時に構えた右腕の航空機関砲ーーM61A2ーーの引き金を引く。
くぐもった音と共に撃ち出された20㎜弾が、エメラリアの纏うADFX-01/02の装甲に叩き込まれていく。
「あぐぅうっ!」
苦痛に表情を歪め、エメラリアは弾丸を回避しようとする。
そして、右にブレイクするが、その際に、彼女の右足のエンジンノズルや垂直尾翼に、数発着弾したのだ。
損傷したノズルから黒煙を噴き出し、さらに垂直尾翼が吹き飛ばされ、エメラリアはバランスを失う。
そして終いには、足のノズルが小さな爆発を起こす。
「きゃああああっ!!!」
悲鳴を上げながら、エメラリアが錐揉み回転で落ちていく。
「ッ!マズい!」
僕はエンジンノズルに強く意識を向けると、アフターバーナーを全開にして加速する。
そのまま急降下し、未だに錐揉み回転で落下するエメラリアの横に並ぶ。
そして、エメラリアに少しずつ体を近づける。
「エメラリア!機体を立て直す事は出来るか!?」
そう言うと、エメラリアが僕の方に顔を向けた。
「無理よ!右のエンジンも垂直尾翼も壊れてるから、コントロール出来ない!」
「くっ!」
エメラリアからの返答に、僕は臍を噛んだ。
「(クソッ!僕は何て事を仕出かしたんだ!)」
せめて、垂直尾翼だけでも無事だったら…………!
「ラリー!もう良いわ、離れて!このままだと、貴方も地面と衝突する事になるわ!」
エメラリアはそう言うが、それだと彼女だけがそうなってしまう。
「そんな事は出来ない!」
僕はそう叫んだ。
「君をこんな状態にしたのは僕なんだ!なのに、君を放り出して自分だけ助かるなんて………そんなの絶対に出来ない!」
「ッ!」
僕がそう言うと、エメラリアが目を見開いた。
「大丈夫!絶対に助けるから!」
そう言うと、僕はエメラリアに当たるスレスレの位置を取る。
「(焦ったら駄目だ………此処で失敗したら、僕も彼女も終わりなんだから………ッ!)」
今の高度に注意しながら、タイミングを見計らう。
そして………
「ッ!今だ!」
僕は、エメラリアの体を抱き留めた。
こう言った決闘的な勝負ではよくある展開だと、今さら思った作者です。