「………知ってる天井だ」
翌日、用意された部屋で目を覚ました俺は、ソファーからゆっくり立ち上がって伸びをした。
隣を見れば、未だラリーがスヤスヤと寝息を立てている。
因みにラリーは、寝る時に髪を下ろすのだが………はっきり言うと、髪を下ろしたラリーは金髪ロングの美少女にしか見えない。一瞬、男装してるんじゃないかと思ったぐらいだ。
さて、そんなこんなしつつ部屋の時計を見ると、今は朝7時。ギルドはこの時間帯に開くそうだ。
「さてと………おい、ラリー。起きろ」
「んっ……ん~………?」
時刻を確認した俺は、ラリーを軽く揺さぶる。
「ああ……ミカゲか……おはよう」
「おう、おはよーさん」
眠そうに目を擦りながら起きたラリーに、俺はそう答えた。
「…………」
「おいコラ、二度寝すんな」
「みぎゃっ!?」
少しボーッとした後、再び寝そうになったラリーの頭に、少し強めのチョップを入れてやる。
「イテテ………チョップするなんて酷いじゃないか」
「二度寝するからだ。此処は一応借りてる部屋なんだから、そう言うのは家でやれ」
頭を押さえ、涙目で此方を睨むラリーにそう言ってやる。
「ミカゲの態度が矢鱈とデカい件について………」
そう呟きながら立ち上がると、ラリーは俺と同じように、軽く伸びをした。
「(つくづく、やる事が被ったりするよな、俺等……)」
そう思っていると、部屋のドアがノックされた。
「ミカゲさん、ラリーさん。起きてますか?」
声からすると………エスリアさんだな。
「はーい、起きてますよ~っと」
俺はそう答え、部屋のドアを開ける。
「おはようございます、ミカゲさん」
ドアを開けると、やはりエスリアさんが立っていた。
「昨夜は、良く眠れましたか?」
「まあ、そこそこ」
ソファーで寝たから良く眠れたとは言えないし、だからと言って全然寝れなかったとも言えないので、取り敢えず曖昧な返事を返しておく。
「あ、エスリアさん。おはようございます」
「はい。おはようございます、ラリーさん」
其処へ、ラリーが話に入ってきた。
もう髪を結んで、左肩から垂らしている。この後に向けて、準備万端のようだ。
それから俺達は、エスリアさんに連れられて受付の方に向かった。
報酬の件で話をしたいらしいが、その前に朝食を用意してくれるらしい。こりゃ楽しみだ!
………さて、それから起きた事を簡潔に言うと、俺等が姿を表した瞬間、ギルド内は大騒ぎになった。
朝早くからギルドに来ていた冒険者達が詰め寄ってきて、黒雲と戦った(と言うより蹂躙した)事について質問攻めにしてきたのだ。
お陰でギルド内の喧騒が外に伝わり、様子を見に来た野次馬達に、俺とラリーが黒雲を壊滅させた事が伝わって、騒ぎが一気に大きくなったのだ。
ギルド内に押し入ってきた町の人達に礼を言われ、俺とラリーは、その対応に追われた。
そのため、俺とラリーが朝食を食べれなくなったのは言うまでもないだろう。
騒ぎが収まると、漸く報酬とかの話に乗り出す事が出来た。
エスリアさんが言うには、今回、俺とラリーが受けた依頼は、かなり難易度の高いものだったのもあり、FランクからDランクへの飛び級昇格が決定したと言う。
幾ら難攻不落の連中を壊滅させたとは言え、大袈裟なのではないかと思ったのだが、『コレぐらいは当然』と押し切られた。
「………と、言う訳で、此方が今回の報酬です」
そう言って、エスリアさんがカウンターに、お金が入った袋を置いた。
一体何れだけ入っているのか、袋をカウンターに置いた瞬間からジャラジャラと音を立てている。
「報酬の、金貨50枚です」
「「………はい?」」
あまりの金額に、俺とラリーの間の抜けた声が重なる。
え、今この人何て言った?金貨50枚?いやいや、流石に多すぎじゃないですかね?
「因みに、コレはアルディアの方々の服代を抜いての金額です」
「それでコレ!?元の金額ドンだけあったのさ!?」
俺は堪らずツッコミを入れる。
「元の金額ですと、この金額に加えて金貨1枚と銀貨数枚ですね」
あ、エスリアさん最後だけ適当に言いやがった。
それからエスリアさんが言うには、ギルドの職員が3人のサイズを測り、俺達の報酬から引いたお金で3人の服を買いに行ったらしい。
エレインさんの服代も含まれていたのだが、シルヴィアさんが既に用意していたらしく、その分は返すと言っていたのだが、せっかく金貨の数がキリの良い数字だったので、アルディアの3人にやってくれと言っておいた。
まあ、せめて宿代か飯代くらいは払えるだろうしな。
それから、俺はもう1つ袋を貰い、俺とラリーで、金貨を25枚ずつ分けあった。
「23、24、25……っと…………ほい、お前の分」
ラリーの分の金貨を袋に入れて、ラリーに渡す。
「ありがとう………でも、良いのかい?全体的に君が一番活躍したのに」
「良いの良いの、こう言うのは一緒に戦った奴と仲良く折半するモンだからな。まあ、分けるのスッゲー面倒だけど」
そう答えて笑っていると、エスリアさんが提案してきた。
「あの………分けるのが面倒なら、パーティー登録をしては如何でしょう?そうすれば、態々報酬を受け取ってから人数分分ける必要も無くなりますし……」
「………あ、その手があったか」
手をポンと打ち付け、俺はそう呟いた。
「パーティーか……僕もやってみたいと思ってたんだよね」
ラリーが目を輝かせている。この時点で、登録するかどうかを話し合う必要は無さそうだ。
「やるか、パーティー登録」
「ああ!」
こうして、俺とラリーのパーティー登録が決まった。
受付でパーティー登録の申請をして登録費を払い、説明を受ける。
それから、パーティーのリーダーを誰にするかと言う話になったが、ラリーに推薦され、リーダーは俺になった。
「では、最後にパーティー名を決めてください」
「パーティー名か………」
パーティー名を決めるように言われた俺は、取り敢えずラリーに話を振る。
幾らリーダーになったとは言え、何でもかんでも1人で決めるのは良くないからな。
「ラリー、何か良い案は無いか?」
そう訊ねるが、ラリーは首を横に振る。
「パーティーを組んでみたいとは思ってたけど、流石にパーティー名までは考えてなかったからね。君に任せるよ」
パーティーの名前決めも、全部俺に任せるってか………
まあ実のところ、案が無い訳ではない。
どうせだから、エースコンバットで使っている部隊の名前を使ってみたい。
それに天職は"航空傭兵"だから、それでパッと浮かんだパーティー名は……
「……"ガルム"」
俺はポツリと、パーティー名の候補を呟いた。
「"ガルム"か………うん、良いんじゃないかな?中々カッコいいし」
………え、マジで?そんな簡単に納得しちまうのか?
「ラリー………お前、本当に良いのか?」
「…………?うん、そうだけど………何かマズいの?」
俺が訊ねると、ラリーはキョトンとした表情で聞き返してくる。
ちょっ、マジで止めろ。そんな純粋な目を此方に向けるんじゃない。
「…………あー、いや。何でもない。それにするか」
「うん!」
うわぁ~、スッゲー嬉しそうな表情してますよ。
「はい。それでは、パーティー名は"ガルム"で良いですね?」
「………あ、はい」
まあ良いか。
こうして、パーティー名は、めでたく"ガルム"に決定した。
「結局、朝御飯食べ損ねちゃったね」
「そうだな……まあ、今まで色んな冒険者が挑んでは返り討ちにされたって連中を壊滅させたんだ、ああなるのも仕方無いっちゃ仕方無い」
休んだ部屋に戻った俺とラリーは、運ばれてきた昼食を食べながらそんな事を話していた。
「それにしても、登録が終わってからエレインさんとシルヴィアさんが来たけど、あれには驚いたよね」
「ああ」
苦笑しながら言うラリーに、俺もそう返した。
パーティー登録を終え、昼食を用意してくれるとの事で部屋に移動しようとした俺達なのだが、着替えを済ませたエレインさんとシルヴィアさんに呼び止められ、礼を言われたのだ。
シルヴィアさんは、それはもう物凄い勢いで感謝の言葉をぶつけてきたよ。
俺もラリーも若干引いたぐらいだ。
それから、俺達に礼の品をくれるらしいのだが、其処で事件が起きた。
何とシルヴィアさんが、何をトチ狂ったのか『自分の体を差し出す』なんて言い出したのだ。
コレには俺もラリーも唖然呆然。
因みに理由を聞いてみたところ、『礼の品として渡せるものを、何も持っていないから』だそうだ。
そんな滅茶苦茶なお礼を受け取れる訳が無く、俺とラリーで説得して、どうにか思い止まらせる事に成功したのだ。
「『自分の体を差し出す』なんて、初めて言われたからビックリしたぜ」
「ああ、僕もだよ」
そう言い合いながら、俺とラリーは昼食を平らげていった。
「さて、これからどうしようか」
昼食を終え、空になった食器を返した俺達は、部屋に戻って今後の予定について話していた。
「取り敢えず、適当に宿を取って、其所でゆっくり休むってのはどうかな?昨日はソファーで寝たから、あまり疲れが取れてないんだ」
そう言って、ラリーは肩を軽く回しながら、首を左右に倒す。
何か、今にもパキパキと骨が鳴る音が聞こえてきそうだな。
「そうだな……まあ、俺もそうだし…………宿、取るか」
「うん」
予定も決まり、いざ行動に移そうとした、その時だった。
「ミカゲ、ラリー………未だ、居る?」
ドアがノックされ、そんな声が聞こえてきた。
「この声は………ソブリナだね」
そう言って、ラリーは立ち上がってドアの前に行き、ドアを開けた。
其所にはラリーが言ったように、ギルドの人が買ってきたのであろう服を着たソブリナが立っていた。エリスやニコルも居る。
ソブリナは袖だけが赤で残りが白と言うカラーリングの長袖のシャツに赤いスカートを履いており、ニコルはゴシック的な服を着て、黒のローブを身に付けている。回復師と言うより、魔術師の方がしっくりくるような服装だ。
最後にエリスだが、胸元が開いた袖無しのシャツに短めのスカートを履いている。
「おっ、良く似合ってるじゃねぇか」
俺はそう言って、3人の服を褒める。
「あ、ありがとう………でも、本当に良いの?服の代金まで払わせちゃって………」
「ああ、構いやしねぇよ。なるべく早く、ちゃんとした服を着せてやらなきゃいかんからな」
流石に、服だけ着て下は何も履いてない、なんて状態で何時までも居られたら、此方としても目に毒だからな………………彼女等としても恥ずかしいだろうし。
「………でも、私達……何も、お返し出来ない……ミカゲに、お金、使わせてるだけ………」
すまなさそうに言って、ニコルが俯いてしまう。
「だから言ってるだろ?"構いやしねぇ"って。俺がこう言ってるんだから、お前等が気にする必要はねぇの」
俺は手をヒラヒラ振りながら、溜め息混じりにそう言って、ニコルの頭を撫でた。
「んっ………ミカゲ、優しい……」
そう言って擦り寄ってくるニコル。
小柄なのも相まって可愛いのだが、腹に当たる超柔らかい感触で、俺の理性が色々な意味でヤバいんですけど…………
「本当に、ミカゲには助けられてばかりね」
ニコルを襲わないように理性をフル稼働させていると、今度はエリスがそう言う。
「ええ。何時か、必ずお礼をしないとね」
「そ、そっか………まあ、待ってるぜ」
エリスの言葉に賛同するソブリナにそう言って、俺はラリーと一緒に部屋を出ると、エスリアさんに一言声を掛け、宿の場所を聞いてからギルドを出て、宿へと向かった。
その際、何故かアルディアの3人もついてきたが、まあ気にしない事にした。