航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第150話~怒るラリーと、残った問題~

さてさて、ギムレーとの勝負に見事勝利した俺は、気絶したギムレーをお姫様抱っこした状態で、アパッチを展開して、のんびりとルージュへ戻っていた。

 

「それにしても、久し振りに暴れたな………」

 

メインローターの回転音がバリバリと鳴り響くのを聞きながら、俺はそう呟いた。

ギムレーとの空中戦(ドッグファイト)に夢中になるあまり、周囲の事は殆んど気にしなかったが………………せめて、2人で決めたルールは守れてたら良いな。

「(それにしても、夢中になると周りが見えなくなるってのは、ちょっとマズいよな…………………せめて、場所ぐらいは気にする程度の余裕は持っておかないと…………)」

 

腕の中で寝ているギムレーを見ながら、俺は内心そう呟いた。

 

「…………っと、そういやラリー達はどうしてるかな?」

 

ふと、ルージュに残してきたラリー達が気になり、僚機念話で通信を入れてみる。

 

《よう、ラリー》

《……………ああ、相棒か。どうしたんだい?》

 

少しの間を空けて、ラリーが返事を返してきたのだが…………………何と言うか、かなり不機嫌そうな声色だ。

もしかしてラリーは、俺やギムレーが勝手に飛び出していった事を怒っているのではないだろうか…………?

 

《え~っと、その………………ゴメンな?》

《………………?どうして、相棒が謝るんだい?》

 

そう予想した俺は謝るのだが、ラリーは聞き直してきた。

 

《え、いや。何か、さっき返事したお前、不機嫌そうだったからさ。勝手に飛び出した事、怒ってんのかなと思って………》

《…………ああ、そんな事?いやいや、この件に相棒は無関係だよ。誤解させてゴメン。君達には怒ってないから》

 

ラリーはそう言った。

多分、面と向かって話してたら、コイツは苦笑を浮かべながら、手をヒラヒラ振っていたと思う。

 

《そ、そうか………なら、良かったよ》

 

そう返した俺だが、其処で1つの疑問が生じる。

 

「(それならラリーは、なんであんなに不機嫌そうだったんだ?)」

 

彼奴と僚機念話で通信する事は何度もあったが、理由も無く不機嫌そうな返事を返してくる事は無かった。

だとすれば………………

 

「(ルージュで、何かあったのか…………?)」

 

そう思った俺は、訊ねてみる事にした。

 

《なあ、ラリー。1つ聞きたいんだが》

《何だい?式場の手配かい?》

 

そんな返答に、思わず空中でずっこけそうになる俺だったが、何とか持ち直す。

 

《いや、そう言うのじゃなくてさ…………お前、何かあったのか?さっきの返事、矢鱈と不機嫌そうだったからさ》

《……………………》

 

俺はそう訊ねるが、ラリーは、直ぐには返事をしなかった。

そして、暫くの沈黙の後にこう言った。

 

《町に来たら分かるよ……………悪いけど、その事については、これ以上言いたくないんだ。君に当たってしまいそうだからね》

《………………?お、おう》

 

またしても不機嫌そうな声色に戻った上に、何やら意味深な返答を返してきたラリーにそう答え、俺は通信を切った。

「はて、ルージュで何が起こったんだ?」

 

ルージュの人達は皆良い人達だから、くだらない事で仲違いなんてしないだろう。

それにラリーは、ちょっとやそっとの事では怒らない。そんなラリーを苛つかせるとしたら………………

 

「(…………王都の住人か、勇者でも来たのか?)」

 

そう思うと、何と無く不安になってくる。

別に王都住人や勇者なんて、正直言ってどうでも良いのだが………………取り敢えず、何が起こっているのかだけでも知っておきたい。

それにラリーも、『町に来たら分かる』と言っていたからな。

 

「それじゃ………………少し急ぐか」

 

俺は、ギムレーを起こさないように注意しつつ速度を上げ、ルージュへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………良し、到着」

 

あれから少しして、俺はルージュの上空にやって来た。

頭の中に思い浮かべたレーダーで町の様子を見ると、町の門付近で20ぐらいの反応があった。

そして町の中には、数えるのも億劫になる程多くの反応…………………恐らく、ルージュの住人達だろう。

「………………マジで何だコレ?」

 

それを見た俺は、思わずそんな事を呟く。

速度をさらに上げて町に近づき、門の真上でホバリングして見下ろす。

すると、禍々しいオーラを纏ったラリーや、そんなラリーに戸惑いながら何やら話し掛けているエメルやリーア、そしてマーキスさんの前に、さっき思い浮かべたレーダーにあった20ぐらいの反応の正体と思わしき中年の男女達が居た。

中年男女達が俺の姿を見て騒いでいる中、ラリーは俺を見上げて軽く手を振ってから、連中を睨み付け、怒鳴った。

 

「消え失せやがれ、このゴミ共が!その憎たらしい面、一生見せに来るんじゃねぇぞッ!!」

 

上から見ても分かる程に殺意を纏い、メインローターが回転する爆音の中でも聞こえるような声で叫ぶと、ラリーは中年男女達の足元を指差す。

すると、彼等の足元に巨大な魔法陣が現れ、次の瞬間には中年男女達を消し去った。

恐らく転移魔法だろうと予想して、俺は地面に降り立ってアパッチを解除し、ラリーに話し掛けた。

 

「よお、ラリー。随分荒れてるじゃねぇか」

「相棒…………」

 

俺が声を掛けると、ラリーは振り向いた。

その顔は怒りに染まっており、全身を禍々しいオーラが包み、蒼白い稲妻がバチバチと迸っていた。

 

「一体、何があったんだ?さっきの奴等は?」

「………………後で話すから、宿に来てくれるかな?」

 

それだけ言うと、ラリーは立ち去ってしまった。

 

「ちょ、ラリー!?待ちなさいよ!」

「ラリーさん!」

 

それを見たエメルとリーアが、慌てて追い掛けていく。

その様子を見て、俺は呆然としていた。

 

「(ラリーがあんなにもキレてるなんて………………転移させられた連中は、ラリーに何をしたんだ?)」

 

そんな疑問を感じつつ、俺は町へと足を踏み入れる。

 

「ただいま、マーキスさん」

 

その際、ボーッと突っ立っていたマーキスさんに声を掛けた。

 

「あ、ああ。ミカゲか…………お帰り」

 

急に声を掛けたからか、若干の戸惑いを見せつつ、マーキスさんは答えた。

 

「ラリーの奴、めっちゃキレてましたね」

「そりゃキレるだろ…………あんなクズ共」

「………………?」

 

憎悪を含ませた表情を浮かべるマーキスさんに首を傾げる俺だが、マーキスさんは、直ぐにその憎悪を引っ込めた。

 

「そ、それよりミカゲ……………なんでお前、ギムレーをお姫様抱っこしてんだ?」

「ああ、実はですね………………」

 

先程のおっかない表情を誤魔化すかのように話題を変えてきたマーキスさんに、俺はギムレーとの模擬戦の事を伝えた。

 

「成る程な………………取り敢えずギムレーは、部屋のベッドで寝かせてやんな」

「了解です」

 

そう言うと、俺は未だに立ち尽くしている住人達に挨拶しながら宿へと向かい、部屋に居たゾーイとアドリアに事情を話してギムレーをベッドに寝かせると、ラリーの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラリーの部屋に入ると、中ではただならぬ雰囲気が漂っていた。

俺やゾーイ、アドリアが泊まっているのと全く同じ部屋である筈なのに、此処だけ別世界に感じられる。

その原因は言うまでもなく、ラリーだ。

 

「態々ゴメンね、相棒」

 

ラリーは穏やかな口調でそう言うが、それでも怒りは隠しきれていない。

その証拠に、部屋の隅っこに居るエメルとリーアが冷や汗を流している。

 

「ラリー………………取り敢えず、俺やギムレーが出ている間に何があったのか、聞かせてくれるか?」

「……………ああ」

 

ラリーは頷くと、先ずは俺に椅子を勧めて座らせ、自分はベッドに腰掛けた。

 

「…………本当に、腹立たしい話だよ」

 

そう言ってから、ラリーは話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ず、ラリーに転移させられた中年男女達の正体だが、彼等は、ギムレーの体を借りて復活したばかりの俺やラリーが再起不能にした王国騎士団の連中の親らしいのだ。

それでラリー曰く、何処から情報が漏れたのか、彼等はラリーのオリジナル魔法の1つである"万物修復(オール・リパイア)"の話を聞いたらしく、その魔法を使って、息子達を治療するようラリーに頼みに来たのだ。

 

だが、ソイツ等は学生時代、ラリーに対して酷い扱いをしてきた連中である上に、宰相の命令で、俺の死体をゴミとして処分するために回収しに来た連中だ。

そんな奴等の治療など、ラリーがする訳も無い。

そのため、ラリーは今までに連中から受けた非道な扱いや死者()への冒涜などを理由に拒否したのだが、連中は中々しつこく、兎に角『息子(娘)を治療しろ!』と喚き散らすばかり。

終いには、俺の扱いがあまりにも酷い件について、『この世界を救う勇者として召喚された身でありながら勇者の称号すら持たなかった上に、摩訶不思議な魔道具を持っていながら国に協力しない者など、処分されて当然だ!』とか言い出すのが居たらしい。

 

「………………成る程、そんな事があったんだな」

 

俯いたままのラリーの話を聞き終えた俺は、椅子の背凭れに凭れ掛かった。

「本当、信じられないよ。相棒は、王都の連中を守るために、ロクに戦えない勇者や騎士団の代わりに傷つきながらも戦ったのに全く感謝しない。それどころか、勇者の称号が無いって、ただそれだけの理由でゴミ扱いするなんて……おまけに、『生きる価値も無い成り損ない勇者が、我々のような未来ある者のために戦って死ねたのだから、名誉な事だろう!』だってさ…………僕に言わせれば、彼奴等こそが本当のゴミだ。ヒューマン族の面汚しだよ。連中こそ、生きる価値も無い、ただのクズだ」

 

そう言うと、ラリーは顔を上げた。

その表情は、先程のように憎悪に染まっており、エメラルドグリーンの瞳は赤に変わり、頬や腕には魔神としての紋様が浮かび上がっていた。

 

「もう容赦しねぇ………………今までは、王都の上層部が変な事しない限りは、此方としても何もしないつもりだったけど………………次からは、手を出してきた王都住人は誰彼構わず殺してやる。王族だろうが貴族だろうが、他の重鎮だろうが構いやしねぇ。その場で虐殺だ」

 

そう言ったラリーの表情は………………………本気で恐かった。

コイツが本気で怒った時の顔なんて見慣れている筈の俺でさえゾッとするような、おぞましい表情を浮かべている。

まあ、コレについて俺は、住人側を擁護するつもりは無い。

少なくとも、連中の俺への扱いには腹が立ったからな。

まあ取り敢えず、王都住人がこれ以上変な手出しをしてこない事を祈るばかりだ。

彼奴等のために時間を無駄にするのは、此方としても真っ平御免なのでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話を終えた俺は、ラリー達の部屋を後にすると、自室には戻らず、ソブリナ達に渡す指輪を作ってもらった店に来ていた。

最近バタバタしまくりで受け取れていなかった、俺とエミリアの分の指輪を受け取るためだ。

店に着くと、店主さんから『遅すぎだぞ坊主!』って頭をシバかれた。

まあ、それについては完全に俺の落ち度なので、文句は言うまい。

 

さて、コレでやり残した事は………………

 

「ギムレーやグランさん、それからギャノンさんのTACネームだな」

 

そう。俺達ガルム隊メンバーには、其々の愛称や呼び名を兼ねたTACネームがあり、女性陣はそれで呼んでいるのだが、この3人には、未だTACネームが無いのだ。

 

「取り敢えず、3人のTACネームも、ちゃんと考えないとな………………」

 

王都住人にぶちギレたラリー、ソブリナ達に指輪を渡すタイミング、未だに決めていない3人のTACネーム………………よく考えたら、やらなきゃならない事が多すぎる。

 

まあ、無理に一纏めにして解決させようとしても、こんがらがるのがオチだ。

1つずつ解決させていくしかないだろうな。

 

「………………てか、王都住人については解決させようがねぇな。悪いのは、ノコノコやって来る彼奴等な訳だし」

 

そんな事を呟きつつ、俺は残された2つの問題をどうするかを考えるのだった。


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