これは、王都での用件を済ませた神影達ガルム隊とアリステラが、ルージュへ向けて飛び立った後の出来事である。
「古代君達、行っちゃったね…………」
「うん、そうだね…………」
メインローターが回転する爆音やジェットエンジンの轟音を響かせながら、彼方へと飛び去っていく神影達ガルム隊。
その後ろ姿を呆然とした様子で見送りながら、F組の女子生徒達はそんな言葉を交わした。
「魔人族と戦った時、助けに来てくれた時から思ってたけど……………やっぱり古代君、強くなってたね」
「ええ。遠堂君や御劔君の事なんて、生身で軽くあしらってたもの。最早彼奴、戦闘機使わなくてもクラスメイトを全員潰せそう」
「それに、あんな大砲を片手撃ちするなんて、私には無理だよ」
暁葉や涼子、春菜の3人がそう言う。
「それに………喋り方も、変わってたような気がする………」
F組図書委員を務めていた内気な少女、花岡沙紀がそう言った。
「確かに~、何か前と比べて、荒っぽくなったと言うか、何処かの軍人さんみたいな雰囲気だったよね~」
間延びした喋り方が特徴の少女、神崎陽菜乃が沙紀の言葉に賛同した。
その言葉を受け、彼女等は神影が自分達とは違った次元の存在になったと言う事を改めて感じた。
「確かに彼奴、私達の事を"温室育ちのクソガキ"とか言ってたわね……………ホント、どんな生活したらあんな事を平然と言えるようになるのよ?」
そう言って、涼子が肩を竦める。
「それに、古代君…………"仲間じゃない"って言ってた…………やっぱり私達の事、良く思ってないのかな…………?」
沙紀が不安げにそう言うと、涼子が頷いた。
「まあ、そう思われていても文句は言えないわね。古代が男子から嫌がらせ受けてるのに、何もしなかったのは事実なんだから」
涼子の言葉に、F組女性陣が表情を暗くする。
「それに私達って、ただ古代君を都合良く利用してただけだもんね………そこそこ仲良くしてた事を、理由にして………」
「うん………さっき謝ったけど、やっぱり、それだけでまた信頼してもらえるかって聞かれたら、そうでもないからね……………」
暁葉がしんみりした調子で言い、春菜が相槌を打った。
その言葉を受けて、雰囲気も暗くなるF組女性陣。
「皆、これ以上は止めましょう」
其処で、シロナが待ったを掛けた。
「何れだけ悔やんでも、過去を変える事は出来ないわ。でも、これからの行動次第で、信頼を取り戻す事は出来る」
シロナがそう言うと、女子生徒達はハッとした表情を浮かべた。
「取り敢えず、私達が今やるべき事は……………」
そう言いかけて、シロナは捨て置かれた請求内容が書かれた羊皮紙を手に取り、女子生徒達に見せた。
「古代君達に言われたように、コレに書かれているものを揃える事よ。金額はかなりのものだし、高位ポーションとなれば、迷宮で手に入れるなら深い所まで行かなければならないだろうから、正直言って、期限内に用意出来るかは分からない……………けど、やるしかないわ。皆はどうする?」
その質問を受けて、生徒達の間で暫く沈黙が流れる。
それが数分続いた後、女子生徒の1人が口を開いた。
「私、やるわ」
そう言ったのは、奏だった。
「元々、古代君達に依頼する事を決めたのは私だもの。なら、少なくとも私には、報酬を払う義務があるわ」
奏はそう言った。
「それなら、私もする!」
すると、今度は沙那が声を張り上げた。
「奏にだけ苦労させる訳にはいかないし……………私だって、神影君には何度も助けられてるんだから!」
「わ、私もやります!」
沙那が言うと、桜花も続いた。
それからは、まるで吊り橋効果のように、女子生徒達が次々と奏達に賛同した。
「さて……………それじゃあ皆、明日から忙しくなるわよ!」
『『『『『はい!』』』』』
すっかりやる気モードになった彼女等は、一先ず今回の事を王妃達に報告するため、城内に戻ろうとした。
だが、何処へ行っても、水を差す輩と言うものは居るもので……………
「ちょ、ちょっと待てよ!お前等、それ本気でやる気なのか!?」
男子生徒の1人が、彼女等の前に回り込んでそう言った。
「ええ、そうよ。何か問題でもあるの?」
奏がそう言うと、その男子生徒──榎本 四郎(えのもと しろう)──は言った。
「いや、問題大有りだろ!なんで彼奴の言う事をホイホイ信じるんだよ!?御劔や遠堂をブッ飛ばしたんだぜ!?」
そう言う四郎が指差した先では、功太が数人の男子生徒によって、瓦礫の山から引っ張り出されていた。
「あれは、遠堂君が勝手に突っ走っただけだし、正義だって勝手言いまくってたんだもの。こうなるのは当然よ」
「い、いや。でもだな…………」
それでも尚言い募ろうとする四郎だが、シロナがそれを制するかのように前に出た。
「榎本君、貴方が古代君にどんな感情を抱いているのかは知らないけど、場の雰囲気を乱すような事をするのは止めなさい。助けてもらったのだから、それに見合った報酬を払い、罪を犯したなら、しっかり償うのは当然の事よ」
シロナに説き伏せられ、四郎は言葉を失った。
「さあ、来なさい。一先ず王妃様に、今回の事を報告するわよ」
そう言うと、女性陣は城内へと入っていき、男性陣も、後ろから気まずそうについていった。
それからシロナ達は、衛兵の1人に事情を話し、王妃と話す場を設けるように頼んだ。
話を受けた衛兵は、シロナ達を其所に待たせて何処へと走り去った。
そして、城の魔術師から治療魔法を掛けてもらっている正義や四郎を見ながら待っていると、衛兵が戻ってきて、謁見の間に向かうように告げた。
そして、シロナ達が謁見の間に到着すると、其所にはエリージュ王国王妃、ロクサーヌ・フォン・エルダントと、先に戻っていたのか、娘のユミールも居た。
「突然呼び出してすみません、王妃様」
「いえいえ、シロナ殿。お気になさらず。それからサナ殿、カナデ殿、オウカ殿共々、お帰りなさい」
ロクサーヌは、柔らかな笑みを浮かべてそう言った。
「ありがとうございます。それと、心配をお掛けしました」
そう言って、シロナは深々と頭を下げた。
「頭を上げてください、シロナ殿……………それで、サナ殿やカナデ殿やオウカ殿共々行方不明になっていましたが、今までどちらへ?」
「そ、それが…………」
シロナは、自分達が水浴びを終えて戻る最中、盗賊に襲われた事を話した。
「……………それで、応戦しようとしたのですが……………恥ずかしながら、捕まってしまい…………」
「そうですか……………まあ何にせよ、無事で何よりですわ」
「ええ。古代君が助けてくれたので」
「成る程、そうでしたか……………えっ?」
「……………」
ロクサーヌとユミールは、目を丸くした。
「し、失礼ですがシロナ殿。貴女が言った人物は、もしや…………………ミカゲ・コダイ殿の事ですか?」
「はい、その通りです」
シロナが頷くと、2人は絶句した。
外で何が起こっていたのかを知らない2人は、神影が生き返っている事を知らなかったのだ。
「か、彼は先日、勇者シンヤ殿達によって殺されたと聞いているのですが………?」
「そうなのですが、どうやら他の人の体を借りて生き返ったそうで」
あまりにも非現実的な事に、2人は反応に困った。
「そ、そうですか………まあ何はともあれ…………復活されたと言うのは………大変、よろしい事で………」
何とかして、ロクサーヌは言葉を絞り出した。
「そ、それでシロナ殿。私に話があるそうですが…………」
この何とも言えない話についていけなくなったのか、ロクサーヌは本題に入らせようとした。
「はい、それがですね……………」
彼女の思惑を知ってか知らずか、いつになく真面目な表情を浮かべたシロナは、神影達から伝えられた報酬の内容を話した。
「………………………と言う訳で、3週間以内に金貨800枚と、高位ポーション36個を手に入れなければなりません」
「そうですか…………」
シロナ達から話を聞いたロクサーヌは、そう言って俯いた。
3週間以内に報酬が用意出来なかった場合、勇者達がガルムの奴隷になると言う事に、複雑な思いを抱いているのだ。
「あ、あの……………報酬を用意出来なければ、皆様を奴隷にすると言う話は、何とか出来ないのでしょうか…………?」
すると、ユミールが口を開いた。
「今の王都の状態もありますし…………それに何時、また魔人族の襲撃があるかも、分からないのですから………せめて、奴隷にするのは………」
ユミールはそう言うが、シロナは首を横に振った。
確かに、彼女の言う事も間違ってはいない。
先日のゲルブとセレーネの襲撃は、あくまでも勇者達の戦力評価を目的としたものだが、当然ながら、彼女等はそれを知らず、本当に魔人族が王都を滅ぼそうとしたと思い込んでいる。
そのため、何時あの時のような事が起こるか分からない今、高いステータスを持つ勇者達の存在は、何としても手放したくなかったのだ。
たとえ勇者達が、王都や他の町や村の住人達からの迫害の対象にされているとしても……………
「それは無理よ、ユミール。もう約束してしまったし、今ペナルティーを変えるように頼んだとしても、取り合ってくれるとは思えないわ」
「で、ですがミカゲ・コダイ殿は、皆様と同郷の方。なら、彼に掛け合えば良い筈です!それに今後の事を考えると、彼等ガルムを戦力として王都に呼び戻して………!」
「お止めなさい、ユミール」
尚も食い下がるユミールを、ロクサーヌが諌めた。
「し、しかしお母様…………」
「気持ちは分かるわ。でも、相手が出した報酬や、それを満たせなかった場合の罰則については、私達にとやかく言う権利は無いわ。このような結果を招いたのは、他の誰でもなく、私達なのだから」
「……………」
「それに、ミカゲ・コダイ殿やラリー殿が此処を出ていく原因を作ったのも私達。今更戦力として呼び戻すのは、虫が良すぎる話よ」
「…………はい」
ロクサーヌにそう言われ、ユミールは大人しく引き下がった。
「それで王妃様、古代君達への報酬を用意するため、明日から3週間分の外出許可をいただきたいのです」
「…………分かりました、外出を許可します」
ロクサーヌは頷いた。
そうして話が終わると、2人は謁見の間から出ていき、後にはF組勇者達が残された。
「(ふぅ……久し振りに引率者らしい事をしたけど………やはりブランクが原因かしらね………少し、疲れたわ…………)」
内心そう呟いてから、シロナは生徒達に向き直った。
「では皆、明日から行動を開始するので、先ずは幾つかのグループに分かれて役割分担をしましょう。1グループ3~5人に分かれて」
シロナが指示を出すと、女子生徒達は直ぐにグループを作り始める。
「…………………ん?」
だが、グループに分かれない者が居た。
男子だった。
「何をしているの?早くグループに分かれなさい」
シロナはそう言うが、男子は動こうとしない。
すると、正義が彼女の前に歩み出た。
「先生……………まさか、本気でするつもりですか?」
「ええ、そうよ」
正義の質問に、彼女は即答する。
「何よ正義、何か文句でもあるの?」
普段一緒に行動している沙那や桜花とグループを組んだ奏が、不快げに表情を歪めてそう言った。
「まあまあ、白銀さん、そんな喧嘩腰にならないで……………それで御劔君、何が不満なの?」
カナデを一旦宥めてから、シロナはそう訊ねた。
「古代のために其処までする必要は、無いと思います」
正義はそう言った。
「以前の魔人族との戦闘以来、この王都はエリージュ王国にある殆んどの町や村から見放されています。復興の資材や人員、義援金を要請しても拒否されているし、ポーションなどの物資も不足している……………それを知っていながら、金貨800枚もの大金やポーションを……………それも高位のものを36個も請求するなんて、正気の沙汰ではありません!」
「確かに、報酬額はかなりのものよ。でも、さっき支部長さんが言ったように、私達勇者や騎士団が束になっても敵わない相手だったのだから、危険度だって高くなる……………古代君達はレベルが高い上に戦闘機を使えるとしても、危険度が高いと言う事自体は変わらない。なら、報酬額が高くなるのは当然よ」
強い口調で言い放つ正義に、シロナはそう返した。
「なら、金貨800枚の内、賠償金である金貨300枚についてはどうなるんですか!?古代は確かに殺されましたが、生き返っているなら払う必要は無い筈です!それに、あの金髪の魔術師に呪われた富永達についてはどうするんですか!?賠償金も請求するなら、先ずは富永達の呪いを解くのが先決でsh…………「いや、それは無いわよ」…………?」
マシンガンの如く意見をぶつけようとする正義を遮るように、1人の女子生徒が口を開いた。
F組勇者達が声の主へと目を向けると、其所には涼子が立っていた。
「赤崎さん、それはどういう事だい?」
「どうもこうも無いわよ。富永達が古代を殺したのって、間違いなく彼奴等の勝手な都合でしょ?そんな奴等を助けて古代を責めるとか、アンタ馬鹿じゃないの?」
涼子からの辛辣な言葉が、正義にぶつけられる。
「なら赤崎さん。君は、富永達が永遠に苦しむ事を肯定するのかい?」
「ええ、そうよ。何なら、アンタ等男子も同じように苦しめば?古代が苦しめられた分、アンタ等もそれを味わうべきよ」
正義の質問にあっさり答えた涼子。
何の戸惑いも無い返答に、正義は一瞬面食らった。
「まあ、言い方はちょっと乱暴だけど……………赤崎さんの言う事も、間違ってる訳じゃないよね」
すると、1人の女子生徒がそう言った。
「確かにそうだよね。古代君、何も悪い事してないし」
「寧ろ、助けてくれたのに殺す時点でおかしいよ」
「それに、実際に殺した富永君達を擁護して古代君を責めるなんて、どう考えても間違ってるもんね」
「うんうん。普通は逆でしょ」
その女子生徒の言葉を皮切りに、次々とそんな声が上がり始めた。
「そもそも男子って~、なんで其処までして古代君の事を仲間外れにしてるんだっけ~?」
相変わらず間延びした口調で、陽菜乃がそう言った。
「それって確か……………古代君が、天野さん達三大美少女と仲が良いのが気に入らないから…………じゃなかったっけ?」
暁葉が答えた。
「でも~、そんなに天野さん達と仲良くなりたいなら~、そうなろうと努力すれば良かったんじゃないかな~?」
『『『『『……………』』』』』
「いや、別に俺は、古代を妬んでいる訳じゃないんだけどな…………」
正義が小さく呟いた。
「あら、そうなの?それじゃあ御劔、アンタは古代の何が気に入らないの?」
「それは…………」
涼子に詰め寄られ、正義は言葉を失う。
そんな時だった。
「そう言えば正義、アンタこの前こんな事言ってたわよね?『どうして沙那は、あんなただの戦闘機マニアな古代が好きなんだ?』って……………他にも、『協調性の無い奴など邪魔になるだけだ』とか、『特に目立つような取り柄も無い古代なんかが、沙那達に好かれる筈が無い』とか………………まさか、アンタが古代君を嫌う理由って、それ?」
「………………」
どうやら正解らしく、正義は否定の言葉を述べなかった。
「うわぁ…………」
「さ、流石にコレは、擁護出来ないよね…………いや、富永君達庇って古代君責めてる時点でアウトだけど」
「よく考えたら、あの時古代君を頼る事に真っ向から反対してたよね」
「おまけに、古代君が殺された事については大して悲しんでもなかったし、富永君達の方を擁護してるし……………」
「普通、逆でしょ。守るべき人が」
女子生徒から、そんな言葉が漏れ出した。
「はぁ………やっぱりそうなのね………」
奏はそう呟くと、俯いたまま正義に歩み寄った。
「か、奏………?」
いきなり近づきてきた奏に、正義は戸惑う。
「……………ッ!」
そして奏は、勢い良く顔を上げて正義を睨み付けた。
その両目には、涙が浮かんでいた。
「こんのぉ……………クソ野郎がぁぁぁぁああぁぁぁあああっ!!!」
「おぐぅあっ!?」
このだだっ広い謁見の間全体に響き渡るような声を張り上げながら奏が放った右ストレートが、正義の左の頬にめり込んだ。
不意打ちとも言うべき攻撃に、正義は踏ん張る事も出来ず吹っ飛ばされ、仰向けで床に叩きつけられた。
『『『『『『『『『『……………………』』』』』』』』』』
突拍子も無い奏の行動に、F組生徒全員が固まる。
その声を聞き付けてやって来た衛兵や、戻ってきたユミールやロクサーヌも、状況の把握が追い付かずに固まっている。
「アンタは…………アンタって奴はぁ!!」
そんな彼等の様子など気にも留めず、奏はそう言ってズカズカと足音を立てて正義に近づくと、ゆっくり起き上がろうとしていた正義に馬乗りになると、胸倉を掴み上げた。
「アンタなんかに、古代君の何が分かるって言うのよ!?アンタは古代君の何を見てきたの!?古代君の何を知ってるの!?ねえ、言ってみなさいよッ!!」
奏の声が、謁見の間全体に響き渡る。
「確かに古代君は戦闘機好きだし、部屋にお邪魔したら戦闘機のプラモだらけだったからビックリしたわよ!でも、それが何だって言うの!?何かアンタに不都合でもあるの!?」
奏が正義をガクガク揺らしながら言った。
「"目立つような取り柄も無い"!?ふざけんじゃないわよ!彼には立派な取り柄があるわよ!"人を色眼鏡見ない"って言う立派な取り柄が!アンタ等男子に出来なかった事が、彼には出来ていたのよッ!!だから沙那や桜花も古代君が好きになったし、私も信頼してたのよ!!」
掴んだ胸倉を大きく揺さぶり、正義の後頭部を床にガンガン叩きつけながら、奏は叫んだ。
「…………ハッ!お、おい奏!その辺にしとけって!」
漸く我に返った航が奏に駆け寄り、止めさせようとする。
「五月蝿い!引っ込んでろッ!!」
だが、スイッチが入った奏は止まらない。
航を怒鳴り付けて封殺した奏は拳を握り締めて正義を睨んだ。
「正義も他の男子も、耳かっぽじってよく聞きなさいよ!古代君はね、アンタ等なんかより何億倍も魅力的な人なのよ!人を色眼鏡で見ず、分け隔て無く接する事が出来る人なのよ!アンタ等みたいに人の表面しか見れない馬鹿とは違うのよ!!」
そして奏は、最後とばかりに拳を振り上げた。
「これ以上、古代君を……………私達を何度も救ってくれた恩人を!!私の大切な人を!!馬鹿にするなぁッ!!!」
そう言って、奏は正義の頬を殴り付けると、掴んでいた手を離す。
正義は、何度も強く揺さぶられた上に頭を強打したのもあり、気を失っていた。
それを見せられた男子生徒達は、目の前で繰り広げられた公開処刑で顔を青ざめさせていた。
「………………………」
奏は、そんな彼の事など目もくれず、謁見の間から立ち去った。恐らく、自室へと戻ったのだろう。
『『『『『『『『『『……………………』』』』』』』』』』
まるで台風のような出来事に、その場に居た者全員が言葉を失う。
そして暫くの沈黙の末、シロナが口を開いた。
「ま、まあ………そう言う訳だから」
シロナがそう言うと、生徒達は彼女へと視線を向ける。
咳払いを1つして、先程の出来事で呆けた表情を引き締めてから、シロナは口を開いた。
「何度も言うけど、明日から私達は、古代君達に渡す報酬を用意するために、行動を開始するわ」
先にそう言って、シロナは男性陣に目を向けた。
「男子。参加したくないなら無理強いはしないわ。でも参加しないなら、ずっと部屋に引き籠ってなさい。さっきあったように、協調性の無い人がしゃしゃり出てきても、邪魔になるだけよ」
そう吐き捨てて、シロナも謁見の間から立ち去った。
彼等の担任であるシロナも、教師である以前に1人の人間だ。当然ながら、彼女にも我慢の限界と言うものがある。
そのため、今回ばかりは、男子生徒達の味方をするつもりは微塵も無かったのだ。
それから女子生徒達も、ワラワラと歩き出し、謁見の間を後にすると、其々の部屋へと戻っていった。
F組女性陣が立ち去った後には、奏に思い切り殴られた事により、学校で多くのファンを作ってきたイケメンフェイスを無惨な姿に変えられて横たわっている正義と、未だ奏への恐怖に震える他の男子生徒達。
そして、騒ぎを聞いてやって来たは良いものの、自分達そっちのけで進んで勝手に話が終わってしまったためにどうすれば良いのか分からずオロオロしているロクサーヌとユミール、そして数人の衛兵や魔術師が残されていた。
この日をもって、F組勇者は、神影達ガルム隊への報酬を払うために動く者と、それに反対する者達に分かれた。
「あ~、もう!ムカついて仕方無いわ!何なのよ、あのクソ野郎!?あんな堕落したクズだったなんて、思いもしなかったわ!」
その頃、一足先に謁見の間を後にした奏は、自室へと戻っていた。
怒りに任せてドアを乱暴に閉め、その大きな音を廊下一帯に響かせた彼女は、普段なら決して言わないような暴言を吐きながら、靴を脱ぎ散らかしてベッドにダイブする。
「はぁ…………クソッ、ムカッ腹が立つわね………正義も他の男子も、皆して好き勝手ばかり言って………こんなにも胸糞悪い思いをさせられたのは初めてよ……………ッ!」
そう呟きながら、寝返りを打って仰向けになる奏。
明かりもつけず、カーテンも閉めきっているため、彼女の部屋は暗い。
隙間から僅かな光が入っているが、それでもだ。
彼女は、自らが寝転がるロイヤルサイズのベッドの天井を暫く眺め、呟いた。
「……………シャワーでも浴びて寝ましょう。今日は何も食べたくないわ。と言うか、今何か食べたら、直ぐ吐きそう」
奏はそう言うと、脱衣場に置いてある大きなバスケットに脱いだ服や下着を放り込み、シャワールームへと足を踏み入れた。
「そう言えば、私達って此処使ったら駄目だったわよね…………」
ふと、奏はそんな事を呟いた。
そう。彼女の言う通り、あの事件からF組勇者達は、王都住人達の前で醜態を晒した上に恩人を殺した事で殺到した王都住人達のクレームの中にあった、『裕福な生活をさせるな』と言う意見もあり、シャワーの使用を禁止されていたのだ。
コレが、彼女等が水浴びをするために、態々遠く離れた森の奥に行かなければならない理由である。
因みに、その日水浴びをするグループ以外の勇者達は、魔術師団員からの洗浄魔法だけで済まされている。
「まあ、良いわ。お湯自体は出るだろうから、この際ルールとか知ったこっちゃないわよ」
自棄を起こしたようにそう言うと、奏はレバーを操作して熱い湯を浴びる。
数週間ぶりに浴びた湯は、奏の荒ぶる心を徐々に落ち着かせた。
そして、久々に浴びるシャワーを楽しんだ奏は、怒りが収まってからシャワールームを出て、体を乾かしてネグリジェに着替えると、机にある1枚の羊皮紙に、『もう寝ます、夕食は要りません』と書き込み、ドアと床の隙間から外に出し、ベッドに潜り込んだ。
当然、今の彼女は眠気など感じていないので、ただベッドの中で物思いに耽るだけである。
「(今考えたら………あんなに怒った事なんて、無かったわね………)」
奏は、内心そう呟いた。
魔人族との戦いの時でも正義に怒ったが、その怒りは、あの時程強いものではなかった。
「(やっぱり、彼が馬鹿にされたから…………)」
奏が頭に浮かべたのは、1人の男子生徒だった。
1度はクラスを離れたものの、自分達のピンチを伝えると、何だかんだで助けにきた男子生徒、古代神影。
自分の好きなものには呆れる程真っ直ぐで、自分に向けられる恋情には、異常なまでに鈍感で…………
「(でも、優しくて…………私や沙那や桜花を……………"1人の女の子"として見てくれて…………)」
奏は心の中で、神影への感想を呟く。
すると奏は、ある事を思い出す。
「(そう言えば、私達……………古代君に、裸………見られたのよね…………)」
奏が思い出したのは、水浴びを終えて戻るところを盗賊に襲われ、捕らえられた時の事だ。
彼女等は、その豊満な胸の先端や、秘部、尻、その全てを神影に見られている。
「(それに、支部長さんの家に泊まった時も………あんな、恥ずかしい格好、見られて………)」
神影の前に、ベビードール姿で現れた自分の姿を思い出し、奏は顔を真っ赤に染め、掛け布団をこっぽり被った。
「(でも、何故かしら…………それ程、嫌じゃなかったわ…………)」
布団の中で、自分の豊満な胸に両手を添える。
「(それに、私………あの時………)」
──私の大切な人を!!馬鹿にするなぁッ!!!──
「(なんで私、あんな事を言ったの……………?彼は友達だけど、流石に、"大切な人"なんて………まるで、恋人みたいな事を………)」
そう考えるにつれて、先程のシャワーで落ち着いた筈の鼓動が、また少しずつ早鐘を打ち始めた。
そして奏は、無意識に名前を呟く。
「古代君……………」
そう呟くと、心臓が一際強く波打つのを感じ、奏は体をビクつかせた。
「(ッ!?な、何なの?コレは…………)」
内心そう問い掛けるものの、それに答えてくれる者は、当然ながら誰も居ない。
「はぁ………はぁ…………ッ!」
1秒、また1秒と時間が経つに連れて心臓の鼓動は早って体も火照り、奏は息を荒げる。
「(ど、どうしよう………心臓が……………凄く、ドキドキして…………止まらない………!それに、体も……熱くなってる………本当に、何なのよコレは…………!?)」
今まで多くの男性から向けられてきた卑猥な視線が原因で、内心で男を見下してきたために感じた事など1度も無かった感覚に、奏は戸惑う。
結局、その不思議な感覚の正体は分からないまま、奏は深夜まで寝付けなかった。
だが、その長時間でただ1つ分かった事は……………
……………その感覚の正体が分かるまで、神影とはマトモに話せそうにないと言う事だ。
実を言うと、その感覚を味わったのは奏だけではなく、シロナも味わっている上に、元より神影に好意を寄せていた沙那と桜花は、さらに神影への想いを募らせ、ベッドの中で身悶えていた事は余談である。
まさかの10000文字超え!
高校入学と同時にネット小説書き始めてから2年と少し、初の快挙ですよ!
……………まあ、『コレ、ただ1つの話に無理矢理捩じ込んだだけだろ』と言われれば否定は出来ないんですけどね。HAHAHA
さて、そろそろグランとギャノンのTACネーム付けたいな。アンケートも締め切ったし。