航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第136話~報酬払えないって、マジですか?~

さて、アリさんの家を出発した俺達は、ルージュ住人達と挨拶を交わしながら町を歩き、今、ギルドの前に居る。

「(さて、後は中に入るだけなんだが…………)」

 

内心そう呟き、俺は天野達の方へチラリと視線を向けた。

ラリーは天野達の正体を知ってるから、この4人を視界に捉えた瞬間、突っ掛かってきても不思議じゃないし、それによる冒険者達の反応も予測出来ない。

さて、どうしたものか……………

 

「あら、ミカゲじゃない。それに支部長さんも」

「……………?」

 

俺が悩んでいると、後ろから声を掛けられた。

振り向くと其所には、我が恋人である、ソブリナ、エリス、ニコルの3人が立っていた。

 

「おはよう、ミカゲ」

 

先に、ソブリナがそう言った。

 

「おう、ソブリナ。エリスとニコルもおはよう」

俺が挨拶を返すと、3人は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ミカゲ、おはよ…………」

 

そう言って、ニコルが俺に抱きついてきた。

 

「おう、ニコル。相変わらずそれ好きだな、お前は」

 

ニコルを抱き留めた俺は、腹部全体に柔らかな感触を感じながら、彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

「んっ…………」

 

ニコルは気持ち良さそうに目を細め、俺の胸に頬擦りする。

 

「むぅ、ニコルばっかり甘えて………私だって……」

「ちょっとミカゲ。ニコルだけじゃなくて、私達にも構いなさいよ」

 

そんなニコルに嫉妬してしまったらしく、ソブリナとエリスが両サイドから抱きついてきた。

 

「おっと…………ははっ、悪い悪い。ちゃんと2人の事も大事に思ってるから」

 

そう言って、俺は2人の頭も撫でてやった。

 

「やれやれ………………あの一件で、この4人にフラグ建てておきながらも見せつけてくれるねぇ、ミー君は」

 

アリさんが苦笑を浮かべてそう言った。

 

『『"あの一件"?』』

 

アリさんの言葉に、3人が反応した。

 

「ねえ、ミカゲ。"あの一件"って何なの?」

「ミカゲ……私達にも、教えて…………?」

 

エリスとニコルがそう言う中、ソブリナの視線は、ある人物へと向けられていた。

 

「………………」

「………?な、何ですか?」

 

ソブリナが視線を向けているのは、白銀だった。

 

「違ってたら失礼だけど……………貴女、この前此処に来て、ミカゲ達に何か依頼してなかった?」

「………ッ!」

 

ソブリナに訊ねられた白銀は、顔を青ざめさせた。

 

すると、それに気づいたエリスとニコルも、白銀に視線を向ける。

 

「ああ、そう言えば確かに、その銀髪の娘には見覚えがあるわね………」

「ん………ボロボロになって………門番さんと、ギルドに来てた………」

 

すると、3人の目が徐々に見開かれていく。

 

「ま、まさか…………………勇者!?」

 

ソブリナが声を張り上げると、その声を聞いた他の住人達が一斉に此方を向き、4人は体を強張らせる。

 

「ミカゲ!支部長さん!今直ぐソイツ等から離れて!!」

 

そう言って、ソブリナは俺を、エリスはアリさんを4人から引き離し、ニコルと共に俺とアリさんの前に出ると、ソブリナは拳を、エリスは剣を、そしてニコルは、何時でも魔法を撃てるように構えて、4人を睨み付ける。

すると、ソブリナの声を聞き付けた住人達が、俺等を取り囲むように集まってきた。

「ちょ、ちょっと。あの娘達ギルドの前で何してるのよ?」

「てか、今あの娘"勇者"って言ってたような…………?」

「いやいや、勇者がこの町に入れる訳無いじゃない」

「そうよ。だって王都の連中は、この町に入る事すら拒否されてるんだからね」

「いや、でも、よく見たらあの銀髪の娘、この前此処に来てた勇者の1人じゃないか!」

 

白銀を指差して、1人の男性が叫ぶ。

すると、先程まで俺等の近くに居た住人達は一斉に後退りして距離を取り始め、民衆の中に紛れていた冒険者が前に出て、何時でも白銀達を攻撃出来るように構える。

 

「………やっぱり、あんな事があったから、勇者は何処に行ってもこんな扱いなのね…………」

 

最早、マーキスさんの時のように言い返す気力も無いのか、白銀が達観したようにそう言った。

 

取り敢えず、この場に居る奴等を落ち着かせるのが先なのだが、どうしたものか………………

 

「騒々しいなあ……………一体何の騒ぎだい?」

 

どのようにして民衆を落ち着かせるかと頭を悩ませていると、ギルドのドアが開き、ラリーが気だるげに頭を掻きながら出てきた。

 

「おお、ラリー!ちょうど良いところに来てくれた!」

 

俺がそう言うと、ラリーが俺の方を向いた。

 

「やあ、相棒。コレは一体どうなって……………ッ!」

 

ラリーは、俺の後ろに居る4人に気づくと、先程までの優しげな笑顔から一転し、鬼の形相を浮かべて4人を睨み付けた。

 

「勇者共…………一体何しに来た!また相棒をゴミ扱いしに来やがったなら今直ぐ消えろ!また下手な事しようモンなら、あの騎士共みてぇに肉片にしてやるぞ!!」

「ああ、畜生!お前もかよ!取り敢えず落ち着けっての!ソブリナ達も!」

 

そうして、俺はアルディアの3人とラリーを、アリさんは他の冒険者や住人達を落ち着かせた。

その途中、騒ぎを聞き付けたガルム隊女性メンバーや、何故かエスリアも出てきたので、住人達に落ち着くよう説得してもらった。

 

結局、この説得には30分以上掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、何だかんだで皆を落ち着かせる事に成功した俺達は、支部長室に来ていた。

アルディアの3人やエスリアには1階で待機してもらっているので、今この支部長室に居るのは、俺等ガルム隊メンバーとアリさん、そして、天野達4人の、計13人だ。

 

俺は先ず、アリさんと出掛けてから起こった出来事を全て話した。

この4人が盗賊に捕まり、危うく穢されそうになっていた事を話したのだが、ラリー達は大して興味無さそうに聞いていた。

 

「……………とまあ、こう言う訳なんだよ」

 

そうして、俺は話を締め括った。

 

「成る程………さっき相棒は、"トラブルに巻き込まれた"って言ってたけど………あれは、彼女等を助けていたんだね」

「まあ、そんな感じだよ。ラリー」

 

納得したように頷きながら言うラリーに、俺はそう返した。

 

「それにしても、水浴びするために態々そんな遠い所にまで行かなければならないなんて…………勇者達も大変なのね」

エメルが、他人事のようにそう言った。

 

「まあ、敵の目の前で発情させられて醜態晒して、男共は魔物にヤられて、それから何処かの馬鹿が態々王都をパニックに陥れて、挙げ句の果てにミカゲを殺したんだから、そんな扱いもされるわな……」

「まあ、"勇者"って称号だけで持て囃されて調子に乗ってた彼女等には、良い薬になったと思うよ?」

 

壁に凭れ掛かったギャノンさんと、その隣に居るグランさんが口を開いた。

やはりあの一件があってから、勇者に対して情け容赦が一切ねぇな。

 

『『………………』』

 

完全に"どうでも良い連中"として見られている事に、4人は顔を伏せていた。

 

「ま、まあ取り敢えず」

 

この気まずい雰囲気を何とかするべく、俺は話題を変える事にした。

 

「皆、白銀からの依頼の報酬に関する話って、もう聞いてるんだよな?」

 

俺はそう訊ねた。

 

「はい。既に支部長様からお話を受けていますし、内容についても了承しています」

 

アドリアがそう言うと、全員が頷いた。

 

「良し………それじゃあ白銀、報酬の方はどうなってるんだ?…………いや、先ずアリさんから聞いてるか?」

 

上手く話題を変えられた事で気分が良くなった俺は、白銀に訊ねた。

コレで、上手い具合に話を進めれば……………

 

「……………………」

「……………あれ?」

 

だが、俺の予想に反して、白銀からの返事は返されなかった。

他の3人も、気まずそうに俯いている。

 

「え、えっと…………?」

 

予想外の展開にどうしたものかと戸惑っていると、アリさんが口を開いた。

 

「ああ、ミー君。その事について話があるんだけど、良いかな?ガルムの皆も」

「え?まあ、俺は別に良いですけど…………」

 

そう言って、俺は他のガルム隊メンバーに視線を向ける。

皆、若干の戸惑いを見せながらも頷いた。

 

そうして俺達は、室内に4人を残して廊下へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『"報酬を払えない"?』』』』

 

廊下に出てるや否や、ラリーに防音の結界を張らせたアリさんから話を聞いた俺等は、思わず声を揃えて聞き返した。

 

「うん、そうなんだよ」

 

アリさんは頷いた。

 

「まさか、あの女……………相棒の友人だからと言って、タダで依頼を受けさせる気だったんじゃないだろうな…………!?」

 

再び鬼の形相を浮かべ、ラリーがそう言った。

 

「おい、ラリー。少し落ち着け。別にアリさんは、そんなの一言も言ってないだろ?」

 

俺はラリーを宥めた。

 

「で、でも…………なんで、勇者の人達は………報酬を、払えないんでしょうか…………?」

 

相変わらずオドオドした様子で、リーアが呟いた。

 

「確かに、不思議だね…………今でこそ勇者の立場は落ちぶれてるけど、その前は凄く持て囃されてたんだから、国からお金ぐらい貰ってたと思うんだけど……………」

 

グランさんが、顎に手を当てて言う。

 

「ねえ、ミカゲ。その辺りはどうだったの?」

「ああ、週に幾らか貰ってたよ。俺の場合は最初の1、2週間で打ち切られたけど、他の連中は貰い続けてた筈だ」

 

エメルからの質問に、俺はそう答えた。

 

「……ミカゲ様への冷遇は、そんなに早い段階から始まっていたのですね………」

「まあな」

 

悲しそうに言うゾーイに、俺は苦笑混じりに頷いた。

 

「でもよぉ、そんな前から金貰ってたってんなら、王都に残ってる勇者全員からかき集めれば、何とか払えるんじゃねぇのか?ポーションの方は取り敢えず置いとくとして」

 

ギャノンさんが疑問を口にする。

 

「ああ、実はその事なんだけどねぇ………」

 

それからアリさんは、話を再開した。

 

どうやら、王都復興に向けての資材や人員、そして、それらを動かすために必要な"お金"が全く集まらなかったらしく、勇者や騎士団、魔術師団のメンバーのポケットマネーから出さなければならなくなったらしい。

そのため、今の彼女等は、報酬を支払えない状態に陥ったと言う事らしい。

 

「………まあ、そう言うのは分からないでもないが………」

「報酬の事、忘れちゃってたのかな…………?」

 

グランさんとギャノンさんがそう言った。

 

「所持金の殆んどを義援金に充ててしまうのでしたら、恐らく忘れていたのではないかと」

 

アドリアがそう言った。

 

「はぁ………やはりあの依頼、拒否させるべきだったかな………?」

 

ラリーはそう呟き、俺の方を向いた。

 

「相棒、どうする?連中は報酬を払えないみたいだけど」

「……………」

 

俺は悩んだ。

 

請求額はかなりのものだし、俺だって最初は難色を示したが、コレは依頼。何1つとして報酬が無ければ、それはただのボランティアだ。

 

まあ、それなら黒雲の事はどうなるんだと言う話になるが…………まあ、あれはギルドの方から払われたので問題無いだろう。

 

「………取り敢えず期限を設けて、それまでに払わせよう。ポーションの方はどうにかなるとして、せめて報酬金だけでもな」

「もし、払えなかったら?」

「彼奴等を何かの仕事に従事させて、その報酬から払わせれば良いさ」

 

ラリーからの質問に、俺はそう答えた。

 

「成る程………まあ、奴隷に落とす手段もあるけどね。幾ら相手が勇者でも規則は規則だから」

「お前ホントに勇者が嫌いなんだな」

 

黒い笑みを浮かべて言うラリーに、俺は苦笑するしかなかった。

 

「でも、"報酬を払えない事への危機感を持ってもらう"と言う意味では、それを言うのも効果はあると思うよ?」

 

アリさんが、ラリーの意見に賛成の意を示した。

 

「そうか………それじゃあ、そうするか」

 

俺がそう言うと、残りの皆が頷いた。

 

そして、ラリーに防音の結界を解除させて部屋に入った俺達は、報酬を用意するための期間として、3週間の猶予を与える事と、それを達成出来なかった場合、勇者全員を奴隷に落とす事を伝えた。

その知らせを受けた4人は、まるで余命3日を宣告された末期がんの患者のような表情を浮かべていたが、コレばっかりは突き放すしかない。

 

まあ、このまま王都に送り返して放置するのも目覚めが悪いので、せめてものアドバイスとして、『迷宮に行って金目のものを持ち帰って売ったり、冒険者になって依頼を受けれたりすれば良い』とだけ言っておいた。

後は、王都に居る連中と話し合うように言っておいた。

 

それで一先ず話を纏めた俺達は、1階にやって来た。

どんな話をしてきたのかと詰め寄ってきた冒険者達には、簡単な内容だけ伝えておいた。

そしてギルドを出ると、俺はブラックホークを展開して4人とアリさんをコンテナに乗せ、何時ものF-15Cではなくアパッチを展開したラリーや、他のメンバーに護衛を頼み、王都へと向かうのであった。




祝!統計150話目に到達!(第136話だけどね…………)


それと唐突ですが、黒雲討伐の件で登場した銀髪シスター(クレア)の名前を、勝手ながら変更させていただきます。
その理由は、クルゼレイ皇国宰相のクレアと被ってしまうからです。

『今は登場していないので変える必要無いだろ』と思う方も居るでしょうが、ご理解ください。

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