航空傭兵の異世界無双物語(更新停止中)   作:弐式水戦

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第131話~4人の女神は歓喜に泣き、機械仕掛けの女神は自責に泣く~

「あ………あれだけの、盗賊が………」

「全滅…………」

 

神影が纏うAC-130の25㎜ガトリング砲と40㎜機関砲による掃射攻撃が終わり、辛うじて生き残っていたロバート含む20人の男達が全員死に絶えたのを見た沙那と桜花が、視界一杯に広がる、正に地獄とも呼ぶべき光景を目の当たりにしてそう呟いた。

 

そして自分達の目の前には、女になって復活した想い人(神影)が背を向けて立っている。

 

「……………良し」

"気配察知"を使って、殺し損ねた者が居ない事を確認した神影は短く呟くと、ずっと構え続けていた40㎜機関砲と25㎜ガトリング砲を下ろし、纏っていた機体を解除する。

巨大な翼やキャノン砲が光を放って消え、その後には、服が所々破けたり、髪が焦げたり、腕や足に切り傷を作ったりしている神影が残された。

 

「ミー君、終わったかい?」

 

立ち上がったアリステラが、その背中に問い掛けた。

 

「ええ、盗賊全員の死亡を確認しました」

 

そう返すと、神影はアリステラ達の方へと振り向いた。

 

「もう、安全です」

 

そう言って、神影は小さく微笑む。

それは、何十人もの盗賊を殺したとは思えないような、柔らかな微笑みだった。

 

「そうか……………まあ、ご苦労様」

 

アリステラは頷き、神影を労った。

 

「いえいえ、アリさんもお疲れッス」

 

神影も労いの言葉を返すと沙那達の方を向いた。

 

「よぉ、お前等。災難だったな」

 

沙那達の前に膝をつき、神影はそう言った。

 

「え、えっと…………」

 

急に声を掛けられた沙那達は、自分達が今、裸である事すら忘れて戸惑いを見せる。

そんな彼女等に、神影は収納腕輪から彼女等の収納腕輪を取り出して前に置くと、直ぐ立ち上がって彼女等に背を向けた。

 

『『…………………?』』

 

そんな神影の行動に、沙那達は首を傾げる。

それを見た神影は小さく溜め息をつくと、背を向けたまま口を開いた。

「取り敢えず、服着てくれ。今の俺、体は女だが中身は男だからな。何時までも裸で居られると、スッゲー気まずいんだよ」

『『……………ッ!?きゃあっ!』』

 

神影の言葉の意味を理解した4人は、一瞬で顔を真っ赤に染め、胸や秘部を手で覆い隠して縮こまるのだった。

 

「あははは……………」

 

それを見たアリステラは、ただ苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙那達が服を着ている間、神影とアリステラの2人は、倒壊した建物の瓦礫を片付け、盗賊達の死体を1ヶ所に集めていた。

 

「………………………」

 

目の前に積み上がった死体の山を見て、神影は何とも言えないような表情を浮かべる。

 

「俺、こんなに殺したんですね…………」

「そうだね…………まあ、私が殺したのも含まれているけど」

 

神影が小さく言うと、アリステラは頷いた。

 

「後悔…………してるかい?」

アリステラが訊ねると、神影は首を横に振った。

 

「"後悔"と言いますか……………まあ、人を殺して良い気分にはなりませんが、コイツ等が初めてって訳でもありませんからね、人を殺すってのは……………それに俺、こんな連中生かすつもりなんて最初(ハナ)っから無かった訳ですし」

 

神影はそう言うと、その死体の山に地獄炎(ヘル・フレイム)を放ち、一瞬にして消し炭にした。

 

「そうか…………………やっぱりミー君、黒雲の一件の頃と比べると、格段に成長したよね」

「そうですか?」

 

アリステラの言葉に、神影が聞き返す。

 

「うん、凄く成長したと思うよ」

 

アリステラは頷いた。

 

「だってミー君、黒雲の時は人殺しを戸惑っていたんだろう?」

「………………ああ、確かにそうでしたね」

 

そう言う神影が思い出すのは、ラリーと共に冒険者登録をした日、ギルドに駆け込んできたシルヴィアが、黒雲に拐われた友人や村の女性達の救出を依頼してきた事だった。

 

「君が元々住んでいた世界の物語で、主人公が盗賊を殺す展開はあったんだよね?」

「ええ。ありましたし、俺もそんな作品を、幾つも読みました」

「でも、いざ自分がやらなければならなくなると……………みたいな感じだったよね?」

「……………………」

 

アリステラにそう言われた神影は、ばつが悪そうな表情を浮かべて頬を掻き、頷いた。

 

「でも君は、その葛藤に打ち勝って黒雲を討伐した。そして、この世界に住む以上、()()()()()も受け入れる覚悟を決めたんだよね?」

 

アリステラの問いに、神影は頷いた。

 

「そして今に至る………………コレも、十分な成長だと思うよ。私は」

「アリさん…………」

 

神影は、アリステラの方へと視線を向けた。

彼女も神影の方を見て、コクりと頷いた。

 

「え~っと…………………今、良いかしら?」

 

すると、後ろから声を掛けられる。

2人が振り向くと、其所には着替えを終えた沙那達4人が立っていた。

 

「ああ、着替え終わったんだね」

 

4人に向き直り、アリステラは言った。

 

「それでは、感動の再会と洒落込もうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神影達は、かき集めた建物の瓦礫を燃やし、その炎の周りに座った。

それから沙那達4人は、目の前に居る女性が本当に古代神影なのかを確かめるため、簡単な質問をしていた。

 

その内容は、4人の名前や通っていた学校名、当時のクラス、神影本人の名前や生年月日だった。

 

神影は、何れの質問も悩む事無く答え、それは全て正解だった。

 

「………と、言う事は…………貴女は本当に……古代君、なのね…………?」

 

シロナがおずおず訊ねる。

 

「ええ。正真正銘、古代神影本人ですよ」

「……………ッ!」

 

神影が笑みを浮かべて頷くと、シロナの両目から大粒の涙が溢れた。

 

「………ッ……ッ!」

 

姿が変わったとは言え、自分の生徒が生きていた。

シロナにとって、これ程嬉しい事は無かった。

 

沙那や桜花も、目の前に居るのが自分達の想い人である事を改めて認識し、神影に抱きついて泣き叫ぶ。

 

「お、おいおい。そんなに泣くなって………」

 

2人に勢い良く抱きつかれた拍子に後ろに倒れそうになるのを何とか持ち直した神影は、苦笑混じりにそう言う。

 

「……………ん?」

 

すると、背中に軽い衝撃を受けると共に、服を掴まれる感触と、柔らかなものが押し付けられる感触を同時に感じる。

 

「……………白銀?」

「………良かった…………本、当に……良かった……!」

 

服を掴む力を強め、奏は嗚咽混じりにそう言った。

 

「古代君……………古代君……!うっ……ううぅ……………」

「…………………」

 

神影の背中に顔を押し付け、奏は肩を震わせる。

「………ただいま」

「ッ!うあああぁぁぁぁぁ……………ッ!」

 

神影の言葉を受け、奏は火がついたように泣き始めた。

 

「……………………」

 

本来、彼女等に先日の依頼の請求書を渡すのが目的だったアリステラだが、流石にこの場面で渡すのは野暮だと悟り、少なくとも落ち着くまで、彼女等の好きにさせる事に決めた。

 

それから暫くの間、エリージュ王国南西の森林地帯の出口にある平野には、4人の女が泣き叫ぶ声が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を移して、此処はルージュ。

住人達が皆眠りにつき、この町は真っ暗闇に包まれていた。

明かりがあるとすれば、精々ソブリナ達が神影に告白した広場の街灯程度だ。

 

「…………………」

 

メイド服に身を包み、ウエストより下までの長さを持つ濃いピンク色の髪を揺らして、その少女、ゾーイ・ファルケンことゾーイは、部屋を抜け出して、そんな真っ暗な町中を1人寂しく歩いていた。

 

「私は、何をしているのでしょう…………?」

 

そう呟き、ゾーイは深い溜め息をつく。

 

「ミカゲ様は、ただ純粋に私の事を心配してくれていただけなのに………私は……そんなミカゲ様に、あんな事を……………」

 

歩きながらそう呟いた彼女が思い浮かべるのは、数日前の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、ゾーイ。最近のお前、何かおかしいぞ。時々上の空になってるし…………」

「そのような事はございません。私は何時も通りです」

 

ミカゲの復活パーティー以降、何処と無くゾーイの様子がおかしい事に気づいており、それについて訊ねてくる神影を、ゾーイは突っぱねていた。

 

「いやいや、何時も通りな訳無いだろ?前みたいに甘えてこないし、何か上の空だし……………なあ、何を悩んでるんだ?」

「…………何でもありません」

「いや、でもな……………」

「……………ッ!ああ、もう!」

 

食い下がる神影に、ゾーイは苛立ち気味に頭を掻きむしって神影の方を向いた。

 

「さっきから何でもないと言っているではありませんか!幾らミカゲ様と言えど、しつこいです!いい加減にしてくださいッ!!」

 

神影の方を向くや否や、彼女は感情任せに怒鳴り散らした。

 

「ッ……………」

 

神影は、ショックを受けたような表情を浮かべた。

 

「………ッ!?あ、いや……その…………」

 

ハッと我に返ったゾーイは、自分がやった事に気づいて狼狽える。

 

「も、申し訳ありません、ミカゲ様………えっと、その…………べ、別に私、こんな事を言うつもりじゃ、なくて………」

「…………………」

 

そう言うゾーイだが、神影は依然として言葉を失っている。

 

「…………すまん、しつこかったな……もう、聞かない」

 

不意に、神影は努めて笑みを浮かべてそう言った。

 

それから気まずくなったゾーイは、尚更神影を避けるようになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は、ただ…………私を、心配してくれた、だけなのに……………」

 

ソブリナ達と共に、神影に告白した広場に来たゾーイは、ベンチに腰掛けてそう呟き、溢れてくる涙を拭う。

 

ゾーイがこんなにも悩む原因になったのは、王都での魔人族との戦いの日にまで遡る。

 

魔人族幹部の1人、ゲルブからの攻撃を受けそうになったゾーイは、神影が庇った事によって攻撃を受けずに済んだ。

だが、彼女の身代わりになった神影は、元々ダメージが蓄積していたのもあり、その時の被弾が止めとなって墜落し、大怪我を負った。

 

直ぐに回復させようとしたゾーイだが、それを阻むかのように、富永功やその取り巻き、そして元浜秋彦と組んで神影を殺す計画を実行した中宮慎也が、数体の泥人形を作り出し、再び住人達をパニックに陥れる。

 

冷静さを失っている住人達は、神影が重傷を負っている事など構いもせずに再出撃を急かし、御劔正義までも、回復出来ていない神影を再び向かわせようとする。

それにラリーは猛反対するものの、神影はそれを受け入れて出撃していった。

その結果、泥人形を全滅させる事には成功したものの、疲労している事につけ込んだ功達が裏切り、神影に魔力弾の集中砲火を浴びせて撃墜、終いには慎也が土の槍を作り出して神影を串刺しにし、殺害したのだ。

 

「あの時、私がしっかりしていれば………あんな事には…………ッ!」

 

神影を殺したF組勇者や、神影の状態など構わず再出撃さけた住人達や正義への怒り。

そして、ゲルブからの攻撃を受けそうになった結果、神影が庇って被弾、撃墜される原因を作った自分への不甲斐なさが、ゾーイの心を苛んでいた。

 

それから宿に戻ったゾーイは、眠っているアドリアを起こさないように注意しながら、自分のベッドに入った。

 

「ミカゲ様………私は……………」

 

そう小さく呟き、ゾーイは目を瞑った。

 

その両目から溢れた涙が、窓から入ってくる月明かりに照らされて光っていた。


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