此処は、エリージュ王国とクルゼレイ皇国を隔てる山岳地帯。
其所に根城を構えている彼等--黒雲--のメンバーは浮き足立っていた。
理由は簡単。今夜に“宴会”が開かれるからだ。
「へへへっ、美味ぇ食料も良い女も大量に掻っ払ってきたんだ。こりゃあ、夜が待ちきれねぇなぁ」
“宴会”の用意をしながら、1人の男が言った。
「ああ、女達の踊り後は、“お楽しみ”の時間だからな」
「どっちかと言えば、踊りや食いモンよりそっちがメインだよな」
「そりゃ違ぇねぇや!ギャハハハハッ!」
聳え立つ砦の内では、男達が、そんな下劣極まりない会話を楽しそうに交わしていた。
彼等の視線の先にあるのは、複数ある洞穴の内、一番左(一番奥)にあるもの。この奥に作られた牢屋に、村から拐ってきた女やダンジョン帰りの女性冒険者を閉じ込めているのだ。
「にしてもよぉ、まさか村の女達に加えて、あのエレインを捕まえられるとは思わなかったな」
「ああ。この前に親方が、『召喚士を連れていけ』って言ってた理由が分かったぜ」
「あの清楚なシスターがどんな顔して乱れるのか、楽しみで仕方無いぜ」
「だな。あの体を好きなように出来るなんて、今でも信じられねぇぜ」
「気の弱い女やシスター、それから気の強い女冒険者共………くぅ~~ッ!選り取り見取りで誰から犯すか決められねぇや!」
そう言って、男達はまた、下品な笑い声を響かせるのであった。
その頃、此処は洞穴の奥にある牢屋。
その中に、総勢20人の若い女達が閉じ込められていた。
元々着ていた服は、牢屋に入れられる前に全員剥ぎ取られ、今は薄汚れたボロ布を体に巻きつけるだけと言う姿だ。
ボロ布が足らなかったのか、全裸で居る事を余儀無くされる者も数人居る。
そんな彼女等が、見張りをしている者の良い見物になるのは言うまでもないだろう。
「クククッ……………いやぁ~、この仕事はホントに最高だぜ。宴会始まる前に、こんなにもエロい女共を見放題なんだからなぁ。娼館でもこんなのは出来ねぇから役得だぜ」
見張りをしている1人の男がそう言って、下舐めずりをしながら女達を見る。
女達は、ある者は怯え、またある者は男をキッと睨み付ける。
「アンタ達なんかに、絶対犯させてやらないんだから!」
閉じ込められた1人──紫色の髪に蒼い瞳の女性冒険者──が立ち上がって声を張り上げるが、見張りの男の余裕そうな笑みは崩れない。
「ほぉ、お前中々言うじゃねぇか。そう言うのは嫌いじゃないぜ……………だがなぁ、俺等は少なくとも、お前等の倍は居る。その上、全員レベルもそれなりに高いって自負してるんだぜ?それに対してお前等の場合は…………一体何人が戦えるのかねぇ?今までに何人もの冒険者共をぶち殺してきた俺達と、な!」
「くっ…………!」
下品な笑い声を洞窟内に響かせる男に、その女性冒険者は悔しそうに歯軋りした。
「ソブリナ、落ち着いて」
“ソブリナ”と呼ばれた、その女性冒険者を、彼女の仲間と思わしき女性が宥める。
「エリス!?でも、彼奴………ッ!」
「此処で騒ぎを起こしても意味は無いわ。今は大人しくしていましょう」
「………エリスの、言う通り………一先ず、落ち着く…………」
「ニコルまで………」
赤い髪と瞳を持つエリスに加えて、ブロンド髪に緑色の瞳を持ち、小柄な体型に似合わない大きな胸の少女──ニコル──にそう言われ、ソブリナは渋々座った。
そんな中で、桃色の長髪を持つエレインは、残してきた友人、シルヴィアを思って、牢屋の隅で祈っていた。
彼女が無事である事と、助けが来る事を………………
「現在、高度3000フィート。進路、0-7-0。速度、350ノット………」
目の前に表示されている数値を読み上げながら、俺は周囲を見回して、例の山岳地帯を探す。
「ラリー、この方角で合ってるんだよな?」
数値を一通り読み終えた俺は、直ぐ横を飛んでいるラリーに言う。
「うん、合ってるよ。クルゼレイ皇国は、エリージュ王国の東に隣接しているからね。例の山岳地帯だって、其所にある筈さ」
「そっか、了解」
そう言って、俺は前方に視線を戻そうとしたのだが、今度はラリーが話し掛けてきた。
「それでミカゲ、今回はどんな作戦で行くんだい?夜襲を掛ける?それとも、到着次第一気に攻めて叩き潰す?」
「2つ目の作戦の内容、言い方がスッゲー暴力的だな…………」
作戦の内容を聞いてくるラリーに、俺は苦笑混じりにそう言った。
まあ実際に言えば、夜襲を掛けるのは避けたい。
夜に攻めるとなると、当然ながら女達が外に出ている状態となり、そんな中で、機関砲や他の対地兵装をブッ放す訳だ。下手をしたら誤射する可能性がある。
そう言った“最悪の場合”を考慮すると、やはり今から攻めて潰す方が良いだろうな。
「取り敢えず作戦だが、到着次第速攻で潰す。夜になったら女達が出てるだろうから、誤射する可能性も捨てきれない」
「成る程ね………了解。着いてからの指示は任せるよ、ミカゲ」
そう言って微笑むラリーに、俺は頷いておく。
「(そういや、未だハリアーの兵装を見てなかったな………)」
今になって大事な事に気づいた俺は、ラリーに今直ぐ兵装の確認をしておくように指示を出す。
それから俺もハリアーの機体ステータスを確認する。
--AV-8B HarrierⅡ plus--
タイプ:攻撃機(アタッカー)
操縦者:古代 神影
機体損傷率:0%
使用可能武装:Gun pod(GAU-12U イコライザー25㎜)、サイドワインダー、RKTL、4AGM、長距離空対艦ミサイル(LASM)
ふむふむ、思いっきりエースコンバット・インフィニティでの武装だな。コレがアサルトホライゾンだったら、『4目標マルチロックオン空対空ミサイル』こと、『4AAM』が使えたんだけどなぁ………
まぁ、それでも結構強力な兵装積んでるし、そもそもタイプが攻撃機だから、こうなるのも仕方無いか。
「良し、兵装の確認はこんなモンかな………ラリー、確認は終わったか?」
「うん、ついさっき終わったよ」
確認を終えてラリーに話し掛けると、どうやら向こうも終わったらしく、そんな返事を返してくる。
「兵装については分かったか?」
そう聞くと、ラリーは親指を立てて言った。
「バッチリだよ。何せ君の能力をコピーしてる時、兵装の名前や用途とかも全部叩き込まれたからね」
「ま、マジですか………」
コイツ、結構色々と脳内に叩き込まれたんだな。つか、そんなに叩き込まれたのにアレで済んだのか、逆に凄いな…………
「おっ!そうこうしてる内に見えてきたよ、ミカゲ!」
そう言って、ラリーは遥か前方を指差す。目を凝らすと、山がうっすら見えてきた。
脳内にイメージしたレーダーにも、山らしき景色が映っている。
「彼処に、黒雲って連中が居るんだな………」
段々鮮明に見えてくる山を睨みながら、俺はそんな事を呟く。
「未だ、人を殺すのが怖いかい?」
そう聞いてくるラリーに、俺は首を横に振った。
「もう決めたんだ。此処まで来ておいて、『やっぱ怖い』とか言って引き返せるかよ」
俺がそう言うと、ラリーは力強く頷いた。
「うん、そうだね」
そう言って、ラリーは山へと視線を移す。
俺は目を閉じて、1回大きく深呼吸をすると、気分を落ち着かせる。
そして、目をカッと見開いて言った。
「良し………行くぞ!」
「ああ!」
そうして、俺達は速度を上げて、奴等のアジト目掛けて突進していった。
「ふう、用意も大分出来てきたな………」
神影達が迫ってきているのも知らず、砦内では宴会の準備が着々と進められていた。
黒雲のメンバーが座るためのゴザが敷き詰められ、女達を踊らせるための舞台の用意も、8割程終わっている。
「さぁ~、そろそろだなぁ」
「ああ。早く気の強い女共を俺のでヒイヒイ言わせてやりたいぜ!」
「俺はオドオドしてた女にしようかな。どんな声でよがるのか、楽しみだぜ」
「それもそうだが、躍りの方も忘れんなよ?」
「そうだぜ?何たって、あの巨乳が揺れまくるんだからな!」
「エロい姿見られて恥ずかしがる連中も、また見物だぜ!」
相変わらず下劣な会話を交わす男達。だが、彼等の“楽しみ”は、始まる前から終わっていたのだ。何故なら………………
「目標の砦を確認…………LASM,launched(LASM、発射)!」
彼等を葬り去るための“矢”が放たれたのだから……………
異変に気づいたのは、メンバーの1人だった。
「………?おい、何か音が聞こえねぇか?」
「音だぁ?」
1人の言葉に反応したもう1人が、上空に向かって聞き耳を立てる。
「そういや、何か近づいてきてるな」
「だろ?一体何が………」
その男が最後まで話す事は無かった。
神影が放ったLASMの直撃を受けて破壊された砦が爆発して大きな破片となり、砦を固定していた岩と共に吹っ飛んできたのだ。
その時点で、数人が吹っ飛ばされたり、破片や岩の下敷きになったりしている。
「うおっ!?何だいきなり!?」
「に、逃げろ!下敷きになっちまうぞ!」
「ちょ、おい!?押すなよ!痛いじゃねぇか!」
黒雲のメンバーは、パニックを起こして逃げ惑う。洞穴の中で見張りをしていた男達も、外の騒ぎを聞き付けて続々出てくると、目の前の光景に気が動転し、パニックを起こして逃げ惑う。
そんな彼等に、オレンジ色の光の粒が容赦無く襲い掛かる。
「ぐあっ!?」
「な、何だあr………ぎゃっ!?」
「イテェ!イテェよぉ!」
「お、俺の腕が………」
「うわっ!?コイツ頭が………」
周囲を崖で囲まれた平地を逃げ回る男達が、絶え間無く襲い掛かるオレンジ色の光の粒の餌食となっていく。
オレンジ色の光の粒が飛んでこなくなったと思ったら、今度は幾つもの矢らしきものが火を噴きながら飛んでくる。
無誘導で飛来した“それ等”は、地面に着弾すると同時に爆発し、ゴザを焼き払い、砦の破片や岩の下敷きになった男や、既に息絶えた男達や、隅に固まって震える男達を、まるでゴミを扱うかの如く吹き飛ばす。
立て続けに起こる爆発が止むと、体を木っ端微塵にされ、または腕や足などを吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた男達の呻き声が微かに聞こえる。
地獄絵図と呼ぶに相応しい光景になった黒雲のアジトの真ん中に、神影とラリーは降り立つ。
右腕に装備した、先程男達を葬り去ったオレンジ色の光の粒を放ったガンポッド--GAU-12U イコライザー25㎜--を構えて辺りを警戒する。
「い、一体何がどうなってやがる!?」
「ん?」
突然、何処からかヒステリックな声が響き、神影はその声の主の方を向く。
其所には、洞穴の1つから出てきたのであろう1人の男が腰を抜かしていた。
そのまま撃ち殺そうとするラリーを手で制した神影は、ゆっくりと、その男に歩み寄っていった。
「………お前が黒雲って連中の親玉か?」
彼の額にガンポッドの銃口を押し付け、神影が訊ねる。
「あ、ああ!そうだよ!テメェは何なんだよ!?」
「しがない冒険者だ」
そう言って、神影はガンポッドのトリガーに指を掛ける。
「ある人から、此処に囚われてるって言う女達の救出を頼まれてな。詳しく話を聞いてみたら………お前等、拉致ってきた女の人達を裸で踊らせた後で乱暴して、挙げ句奴隷として売っ払おうとしてるそうじゃねぇか」
「それの何が悪いってんだよ!?女は黙って男に奉仕しときゃ良いんだよ!」
滅茶苦茶な事を言う黒雲のリーダーに、神影は怒りを通り越して呆れていた。
同時に、先程まで“盗賊を殺す事”に、若干の戸惑いと恐れを感じていた自分を馬鹿らしく思っていた。
「(はぁ……トンでもねぇ大馬鹿野郎だなコイツ…………なんで、こんな奴等を殺す事を戸惑ってたんだよ俺は………アホらしいったらありゃしねぇ)」
そう思った神影は、何も言わずに引き金を引いた。耳をつんざくような音が峡谷内に響き渡る。
掃射を受けた黒雲のリーダーの頭は一瞬にして砕け散るが、それでも神影の掃射攻撃は止まない。
仰向けに倒れた黒雲のリーダーの体にも機銃弾を撃ち込んだのだ。
絶え間無く放たれる機銃弾は、男の体を食い破り、一瞬にして肉片に変えたのだ。
それを見た神影は漸く掃射攻撃を止め、トリガーから指を離す。
そして、男の肉片に一目だけくれてやると、踵を返してラリーの方へと歩いていく。
「ミカゲ………」
複雑な眼差しを向けるラリーに、神影は訊ねた。
「悪いな、ラリー。見苦しいモン見せて」
“見苦しいモン”と言うのは、既に死んだ者に、さらに攻撃をした事を意味しているのだろうが、ラリーは首を横に振った。
「そっか………」
そう小さく呟き、神影は空を仰ぐ。
地上で広がる惨劇とは裏腹に、清々しい青空だ。
「…………取り敢えず、俺は捕らえられた人を解放してくる」
「うん、分かったよ………死体の処理は任せて。僕が焼き払っておくから」
そう言うラリーに頷き、神影は脳内にレーダーを思い浮かべて囚われている女性達の居場所を割り出し、一番奥の洞穴へと入っていった。
書いてて思った。
対地戦の描写って難しい………